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5話 カデンツァの人々
聖二達が去った後も、アンヌ・ポルクスが開催するヨーロの夜会は数時間をかけて行われた。
その内容は主に不老、不死に関する内容。
オリジンヴァンパイアの羽の他にも、魔法石の欠片による延命、魔法生物に自己の意思を移す、など。
凡そこの時代においても”あまり”よろしくないとされる魔法技術の数々。
だが夜会に参加する生徒達はそんなことは気にもせず、アンヌが提唱する不老不死の実現法を必死に書き留めていた。
(今日も上々、と言いたいけれど。)
アンヌはその様子を見て思案する。
その視線は入口の方に向いていた。
(コダマちゃんを逃がしてしまったのは残念。
それにあの"魔物使い"の娘も。
いったい何が不満と言うのかしら。)
アンヌにはその理由が分からなかった。
不老不死さえ実現すれば魔法を研鑽する時間は大幅に増える。
魔法使いにとってこれほど得難い技術はないだろうに。
アンヌがそんな事を考えてると、ふにゃっ!?という緊張感に欠ける声が響く。
何事かと思って一部の生徒が声の方を振り向くとそこには一人の少女が転んでいた。
「ふ、ふえぇ……此処ほんと暗いよぉ……」
その少し顔立ちが幼げな少女は涙目で抗議する。
その様子を見てひとりの男性生徒が声をかける。
「だ、大丈夫かい、ランランちゃん。」
生徒は少女に手を差し伸べる。
男の顔は少しばかり赤くなっていた。
「………う、うん。ありがとぉ……」
少女は生徒の手を取り立ち上がる。
その様子を見てアンヌは溜息を吐く。
(相変わらずいい性格をしているわ、我が妹は。
でもだからこそ。)
内心の苦言とは別にアンヌは穏やかに笑っていた。
(……は、シスコンめ。)
その様子を家の外から見ていた女は内心で吐き捨てた。
女の恰好は魔法使いに相応しくない青緑の鎧であった。
だがそれもその筈。彼女は魔法使いとして此処にいるのではない。
(おっと、そろそろ時間ですねぇ。)
女は夜会のことなどどうでもいいとばかりに、洞窟の入口に歩いて行く。
洞窟を抜け、学院の区画も抜け、別の区画へと向かう。
その歩いた先には一つの建物。
他の建物より少し年季が入っている、要は古い建物。
女は鼻歌を歌いながらその建物の裏に回る。
「何をしてらっしゃるのですか?」
だがそこで女に声がかかる。
女は仕方なくといった感じでその声の主に顔を向ける。
「こ、これはシャルライト先生。
ご無沙汰していますぅ……」
「えぇ、今日も忙しそうですね。
さすがはオリジンヴァンパイアを捕縛したメイク警備隊長。」
私は内心で唾を吐きながらシャルライトと話していた。
長い豪奢な金髪を持つ美人。
おそらくあの学院でもっとも人気のある教師だろう。
エルカサス学院長の懐刀とも言われているこの女はカデンツァ内でも高い影響力を持つ。
面倒な相手に捕まった。
「そうなんですよぉ。
なにせあの吸血鬼が暴れていないか気がかりでしてぇ。」
「あら、そうなのですね。
お仕事お疲れ様です。
ですがその心配は及びませんわ。」
シャルライトは微笑みながら言う。
その内心を読み取ることは出来ない。
「あの吸血鬼はわたくしの管轄となりました。
ですからメイク警備隊長は何も心配する事はありません。」
「……は?」
なんだそれは?
「知ってのとおりわたくしの黄金の牢獄はあらゆる邪悪なものを閉じ込める魔法。
ですからメイク警備隊長が心配されるようなことは何もないのですよ。」
あいかわらず優雅に微笑みながら。
この女は私の最大の功績を。
「……へ、へぇぇ。そうなのですねぇ。
で、でもいくらシャルライト先生であっても、そんな……」
「いいえ、これは議会の決定です。
学院長が多忙なメイク警備隊長のために掛け合ってくれたのかしら?
さすがは学院長ですわ。」
ぶちり。
内心で腸が煮えくり返るのをなんとか堪え、笑顔で。
「……そ、そうなのですねぇ。
そ、それは有難いことです、わぁ。
で、では失礼します、ねぇ……」
なんとかその場を後にした。
(……おのれエルカサス・フォト!
にっくきシャルライト・エレイン!
あれを捕まえたのは私なのにぃ!
ちくしょう!ちくしょう!)
もはや老齢であるカデンツァ評議会議長、バーパイア・カデンツァ。
エルカサスはあの老いぼれが死んだ後、その座に収まるつもりか?
とにかく議会が承認した以上、あの吸血鬼の身柄はエルカサスのものとなった。
このままではアンヌ・ポルクスと組んでいたことも無駄になる。
(……このままでは、済ましませんよぉ。
女狐どもが……)
メイクが去った後、シャルライトはメイクが入ろうとしていた建物の中にいた。
そこは魔導研究所と呼ばれるこのカデンツァの研究機関。
此処に入れる職員は数少なく、シャルライトもその一人であった。
そしてもう一人。
こつんこつんという音が響き暗闇の中から一人の男が現れる。
「……シャルナーか。
どうやらネズミがうろついていたようだが。」
黒髪のやや背が低めの不愛想な男はぶっきらぼうに言う。
「シャルナーではないでしょう。
わたくしはシャルライト・エレイン。
それくらいの公私はつけて欲しいものですね、ハイド・サンドドル。」
「あちらさんは今は気絶しているぞ。
あんたの檻のせいでな。
出力が大き過ぎやしないか?」
「逃げられてしまう訳にはいかないでしょう?
気絶したところでどうせすぐ復活するのです。
問題はないでしょう。」
「………」
「……なんか此処の夜ってやたら暗くないか?」
「暗い?どういう意味だよ?
夜は暗いもんだろ。」
あの不気味な夜会からの帰り道。
ふとなんてことのない話題を出したつもりだったんだが。
「あ、いや、下層……じゃなかった。
俺が住んでた場所は夜でももう少し明るかったっていうか……」
「そうなのか?聖二って結構都会から来てたり?
でも此処より都会ってイムヌスしかないか。はははっ。」
ガライが笑い飛ばす。
……結構際どい台詞だったか?
まぁ未来から来たなんて発想は出て来ないだろう。
「そういやあの二人、結構仲良くなったと思わねぇか?」
「あん?」
あの二人というのは前で歩いてる詩織とコダマの事だろう。
「そ、それでねそれでね。
ゴブ吉君ってばすっごい心配性なんだよ。
何度も忘れ物がないか聞いてくるんだから。」
「そういえば私の村にも喋るペンギンが沢山いたわね。
いつから魔物って人語を喋るようになったのかしら?」
「え?魔物さんは人語を喋るのが普通じゃないの?」
「え、えぇ。
お父さんからそんな話を聞いたのよ。」
いつもしどろもどろで話してる詩織がハキハキと喋っている。
寧ろコダマの方が推されているようにすら見える。
聞いている限りは魔物の話らしいが、盛り上がる共通の話題があったのかもしれない。
「……おや、君は。」
「ん?」
見るからに顔立ちも身なりも良い男。
キリング・アスレイ。同級生の中でもトップの成績で入学試験を突破したという。
「あら、こんばんは。」
「こんばんは、コダマ君。
それに詩織君だったかな?」
「……え?
あ、は、はい……」
詩織が一気に萎縮して少し後ろに下がってしまう形になる。
しかし同級生なのに上から目線だな。
悪い奴ではないんだろうが。
「おや、怖がらせてしまったかな。
君たちは夜会の帰りかな?」
「さぁ、どうかしら。
貴方は今からお出かけ?」
「あぁ。学院長から呼ばれていてね。」
……学院長か。
この学院で協力者を募ることを考えればその筆頭と言える存在。
だがこの男は入学から2ヶ月弱でもう学院長から目をかけられているのか。
「そう。成績トップも大変ね。
まぁ私には関係ないけど。」
「さてどうかな。
次の実地試験、最大のライバルは君だと私は思ってるよ。」
なんかバチバチと火花が散ってる気もするが見ないことにする。
キリングは見るからにプライドが高そうだが、コダマにもそういうものがあるのだろうか?
とりあえず俺にはない。それ以前の問題だ。
「では失礼。」
キリングは何人かの女生徒を連れて去る。
ガライはその様子を羨望するように見ていた。
「……はっ。羨ましいね。
持って生まれたものがある奴は。」
「はは、俺にも何度も経験があるよ。」
何とは言わないが。
「来てくれて感謝します、キリング・アスレイ。
貴方の御父上からも貴方のことはよく伺っています。」
教員塔と呼ばれるカデンツァの教師陣が集まる宮殿。
その最上階に学院長エルカサス・フォトの学院長室はある。
「まだまだ私など父の足元にも及びません。
ですが魔法使いとしての才なら私は父をも超えると自負しております。」
「ふふ、頼もしいですね。
今度の実地試験、愉しみにしていますよ。
さすがにわたくしが直接試験を担当する訳にはいきませんが。」
そしてここからが本題とばかり。
「わたくしは貴方を買っています。
ゆくゆくはこのカデンツァにてシャルライトに並ぶ、
わたくしの側近として押し上げていきたいと考えております。
もちろん今の段階で公言は出来ませんが。」
「……それは光栄ですが、私はアスレイ家の跡取り候補。
お言葉は嬉しいのですが……」
「まぁそうね。
ただ考えて欲しいのですよ。
イムヌスでは魔法使いは大成できない。
あの神楽魔姫がいる限り。」
「………」
カデンツァは魔法使いの都。
だが所詮は人の集まりだ。
イムヌスとなんら変わらない、いいやそれ以上の陰謀の数々がその内部にはうずくまっている。
その”ほぼ”全てを。
「……ふぅ。」
魔法使いの少女、哀音は"空中"から見ていた。
正確には哀音が空中に飛ばした幻体だが。
(断片的には聞けるけど、やっぱりこの魔法じゃこれが限界っぽい……)
情報収集魔法は6つくらいあるが、時の放浪者となった現在、まともに使用可能なのは一つのみ。
このカデンツァに張られている結界を逆利用することで人々の会話を吸い取れる魔法。
真那様のオリジナル魔法の一つ、ホーレンソウ。
(正直みんな怪しいけど、誰に協力を求めるのが一番いいのか。)
そこは聖二の意見も聞きながら検討するつもりではいる。
あんまり学院生活に夢中になってなければいいけど。
(いずれにせよ、次の実地試験。)
学院内での名声を高めるならそこは一つの好機。
それに備えた準備を私は進めることにした。
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