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6話 実地試験
実地試験。
このカデンツァ魔法学院において1年に数回行われる野外試験。
「おう集まったなお前ら。
今回の試験を担当するラーク・ハインヌだ。
そして審査員長は……」
「わたくしシャルライト・エレインが務めます。
魔法使いの卵のみなさん。
皆さんの可能性をわたくしに見せてくださいね。」
シャルライトという女教師は穏やかに微笑みながら俺たちにエールを送った。
……と思われる。
何故なら。
「うおおおお。シャルライトせんせーい!!」
「俺の活躍見ててくださーいっ!」
「あぁ、まさか1度目の試験であのシャルライト・エレイン女史に、
私達の試験を見て貰えるなんて、ぐふっ、鼻血が……」
生徒の多くが無駄に感動に震えているからだ。よく分からんが。
まぁ確かに美人だとは思うが。
ラークという男教師の方は呆れたように。
「おいおい試験を担当するのは俺だぜ、まったく。
さて今回の試験内容は至ってシンプルだ。
3人1組でチームを組み、そのチーム同士の魔法戦。
だが真っ向からの対人戦闘は危険だからな。
今回はこんなものを用意して貰った。」
ラークは30cm程の球みたいなものを浮かべる。
「これは魔法で編まれた魔法そのもの。
俗に言う魔法球だな。
各チームにこいつを配る。
で、他チームの魔法球を破壊すればそのチームに1ポイント。
制限時間までにもっとも多くのポイントを手に入れたチームが今回の最優秀チームだ。
どうだ?シンプルだろ。」
だがこれは魔法使いの試験。
試験に持ち運べる武器はロッドのみ。
魔法球の破壊も魔法で破壊した場合のみにポイントが入るルール。
当然魔法球を壊されたチームはそれ以降は参加できず、かつマイナス1ポイント。
そういったルールが説明された。
(ま、俺は事前に聞いてたんだけどな。)
哀音から今回の実地試験の内容は聞いている。
つまり対策を取る時間があったということだ。
今回の試験で最優秀チームに認定される、そのために。
(シャルライト・エレイン。
学院長エルカサスの懐刀。
あの女が見てる前で俺たちの有用性を示せれば。)
学院長に近づくことが出来る。
そうでなくとも学院内ひいてはこのカデンツァ内の名声を高めることが出来る。
ここで足踏みする訳にはいかない。
「が、頑張ろう、聖二君……」
「まぁ気負わず行こうぜ。
少なくとも最下位は免れたいもんだなぁ。」
俺のチームは俺、ガライ、詩織の3人。
有望株はやはりトップ3の各々が率いるチームだろう。
キリング・アスレイ。コダマ・オラトリオ。そして。
(……レラインか。)
男二人に囲まれた赤髪の女を見る。
服装は全然違うが、奴の使用魔法は……
(生成魔法、か。)
俺の時代にいたサウザンドのレラインと同じ。
同一人物である筈はないが……
「まぁ最優秀はやはりキリングさんのチームだろうな。」
「だよね。
それにびりっけつも決まってるようなもんだし。」
俺たちにいくらかの視線が向けられる。
その視線は蔑み、嘲りの類のものだ。
「う、うぅ……」
詩織が居心地悪そうに視線を下に向ける。
ガライも苦笑いだ。
俺たちがここまで蔑まれてるのには理由がある。
数十分ほど前。
「俺は火Lv1、雷Lv1だ。」
俺は皆の前でそう宣告した。
それを聞いた生徒達はひそひそと。
(なんだあいつ。
Lv1止まりだったのかよ。)
(でもあいつはまだマシな方だろ。なんせ。)
「み、水Lv1、です……」
「地Lv1だ。
はは、悪いな俺のような底辺がこの学院にいて。」
俺の前にそう宣告した詩織とガライ。
そう、今回は事前に自身の使用できる属性魔法をレベルも含めて2つ”まで”宣告することになっていた。
俺たち以外でLv1を宣告した奴はいない。
使用できる属性魔法が1つの奴も。
唯一の例外が。
「私の魔法は、生成魔法……
生成魔法にはレベルは、ない……」
生成魔法を宣告したレライン。
生成魔法はまだ属性の分類もレベル認定も済んでいない扱いらしく、単に生成魔法という区分になっているようだ。
だが通常の属性魔法よりもレアな魔法と言われてるらしく、レラインは蔑みどころか寧ろ尊敬の眼差しを集めていた。
実地試験の試験会場は学院が擁する森。
そこまで広い訳ではないがそれでも森。人が出歩くには不適切な場所だ。
「はーっ、動きにくい。
さっさとこんな試験終わらせたいよ!」
「まぁそうも行かないだろ。
脱落したらマイナス1ポイントだ。
マイナス1ポイントで終わったチームは特別試験が課されてしまうからな。」
「そうならないためにもさっさと最弱チームを落とさねぇとな。」
男2人、女1人のチームが慣れない足取りで森を進む。
言わずもがな彼等が狙っていたのはこの試験における共通認識。
最弱チームとされる聖二、ガライ、詩織のチームだった。
どのチームを倒しても1ポイントが加算されるならわざわざトップ3を擁するような強いチームを狙う理由はない。
彼等に限らず、殆どのチームがそういう認識だった。
「で、あの辺りで間違いないのよね。」
「あぁ。あのどんくさそうな女が慌てて逃げていくのを確かに目撃したぜ。
なんとか試験終了まで隠れて0ポイントで終わらせようって腹だろうが。」
リーダーらしき男が杖を構える。
「そうはいかねぇよ。
おとなしく俺たちのポイントになりな。」
人影が見える森の奥に向かって魔法を……
「タンブル!」
「うぉっ!?」
撃とうとした瞬間、バランスを崩して転んだ。
否。
「スライド。」
「きゃあっっ!!」
吠えていた女も突然しりもちをつく。
「なっ!
ど、どうなって……」
残った男が警戒するが、目の前に水しぶきが舞った。
「うわっぷ!」
男の視界が霞む。
そして。
「サンダーオール。」
「ぐわあああああっっっ!!!」
水がかかってる状態での雷魔法。
効果はばつぐんだ。
「ち、ちくしょう、せこい手を使いやがって……」
最初に転んだ男が立ち上がろうとするが。
パリィン!!
何かが割れる音。
「あっ!?」
それは自分達の魔法球が割れる音だった。
「アックスチーム!脱落!!」
生徒達に配布されていた魔法通信機よりチーム脱落を知らせる報が入る。
いつの間にやら生徒達の死角にいた聖二がファイアで魔法球を破壊したのだ。
「て、てめぇら、どういうことだ!?
スライドは氷魔法じゃねぇか!」
立ち上がった男生徒は聖二の胸倉を掴む。
聖二が宣告したのは火と雷、ガライが地、詩織が水。
氷属性魔法に指定されているスライドが使われる道理はない。
「なに言ってんだお前。
宣告しろと言われたのは2つ"まで"の属性だぜ。」
聖二はニヤリと笑う。
俺は前日の哀音との話し合いを思い出す。
「……成程、宣告しないといけないのは2つの属性魔法まで。
だったら……」
「3つ目の属性魔法は切り札として隠すことが出来る。
つまりこの試験は最初から属性が複数使える者が有利なルール。」
情報は武器だ。
現状、俺たちは各生徒の情報をまだ共有していない。
つまり切り札を温存することが出来るというわけだ。
「貴方が使えるようになった魔法はいまどれくらい?
”この”世界の魔法には慣れた?」
「……あぁ。まぁLv1魔法まではどうにか。」
哀音曰く。
俺たちがいた魔天獄、すなわちイムヌスは魔法を無意識に使うことが出来る環境だったらしい。
どうもそれはイムヌスの遥か下に眠っている魔法石が要因とかなんとか。
それによって俺たちは特に知識がなくても割と自由に魔法が使えていたらしいのだが。
「……今はもう違う。
ちゃんと魔法の術式を正しく理解していないと、
Lv1の魔法すら使えない。」
「……ったくここまで使えるようになるだけでも苦労したぜ。
それでもLv2の魔法はまだあまりおぼつかないものも多い。」
だったら。
「宣告は火Lv1、雷Lv1にする。」
Lv1を宣告した以上、Lv2以上の火属性魔法、雷属性魔法を使用すれば失格となる。
ただまともに扱えないLvの宣告など相手を警戒させるだけで百害あって一利なし。
ならばいっそのことLv1を宣告して侮らせた方がいい。
「隠すのは氷属性?それはどうして?」
「決まってるだろ。
これは魔法使い同士の戦いだぜ。」
魔法使いは運動能力に優れていない。
ならばこの試験においてもっとも有用な魔法は。
「スライド。相手を転倒させる魔法。
それにガライのタンブルを加えれば二人までを転倒させられる。
詩織の水魔法だって攻撃に使うよりも陽動に使った方が有用だ。」
あくまでこの試験の勝利条件は魔法球を破壊すること。
1発の魔法で破壊できる魔法球を破壊するなら、Lv2の魔法など詠唱に時間がかかる分、不適切とも言える。
(それに氷属性魔法はレベルを宣告していない。
つまりLv2の”あれ”が使える。)
敢えて低レベルの魔法を宣告することで侮った莫迦を吊り、ポイントを稼ぐ。
それが俺たちがこの試験攻略のために考えた作戦だ。
もちろん上位チームはこんな見え透いた罠には掛かって来ないだろう。
だがこのルールなら雑魚を倒した方がポイントが稼げる。
「やったな、聖二!」
「す、すごいよ、聖二君……っ!」
「あぁ、この調子でバンバン嵌めて行こうぜ。」
先程の視線を考えれば3チーム位はこの方法で嵌めれると予想できる。
まぁ問題はその後だけどな……
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