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7話 試験の勝者
「どうですかい、シャルライト先生。
今年の生徒は?」
教師の一人、赤毛の筋肉質の男ラーク・ハインヌは豪奢な金髪の女シャルライト・エレインに声をかける。
今回の試験担当であるラークの役割はこの試験で死亡者を出さないこと。
魔法球には半径数メートル程の範囲の人間に対し、魔法の効果を弱める機能がついている。
が、それも対人戦闘が激しくなれば万一があるかもしれない。
そのため魔法球に備わってるもう一つの機能、半径数メートルの視界共有が役に立つ。
それがこの試験の要となるラークのオリジナル魔法、ライトサーチだ。
「貴方の魔法はなかなか優れていますね、ラーク先生。
これは古から伝わる天使様の魔法を参考に?」
「いいや、古い文献にあった掌握の悪魔の魔法を俺流に模倣してみた。
精度も上がって来たから今回の試験に導入してみた感じですね。」
「そうですか……」
何故か少しむっとした顔になる。
珍しい顔だな。美人がそんな顔したらますます惚れる男が出てきそうだ。
「俺の魔法のことより生徒はどうですかい。
残り4チームまで絞られましたが。」
大方の予想通り、キリングチーム、レラインチーム、コダマチームは数ポイントを取得し今も生き残っている。
「……このチームは?」
やはり事前に知らなかったのだろう。
シャルライト先生は訝しげに残った1チームを指さす。
「聖二・ガライ・詩織のチームですね。
純粋な魔法使いとしての実力は上位3名に劣るでしょうが、油断できない実力の持ち主、まぁいわゆるダークホースってやつですかね。
自分達の魔法の特性をよく理解した戦い方だ。
特に聖二の機転がかなり印象的ですね。」
他の先生方はまだ認知していないが、この聖二という生徒はおそらく対人戦闘経験がある。
彼は俺の担当する魔法戦闘Tを履修しているが、明らかに初心者の動きではなかった。
「俺個人としてはこいつは推しですね。
シャルライト先生はどうお思いで。」
「努力は認めますが、エルカサス学院長が求めるような人材ではありません。
所詮は凡俗の悪知恵、というのは少々言葉が過ぎるかしら?
ましてやあのキリング・アスレイとは比較にもならないでしょう。」
「はは、まぁそいつと比べたらさすがにねぇ。」
上位3人の中でも彼の実力は別格と言っていい。
あのイムヌスが誇る名門の一つ、キリング家の跡取り候補。
他にも優秀な兄弟姉妹はいるだろうが、魔法使いとしての実力は一族の中でもトップと聞く。
それほどの人物がこのカデンツァ魔法学院に入学したとなれば、学院長も贔屓にして当然だろう。
「さて残り時間も30分。
このまま上位チーム同士はぶつからない展開も予想できましたが。」
「そんなゲーム展開にはならないでしょう。
このまま進むとラーク先生の推しとキリング・アスレイがぶつかります。
頑張りましたがここまでですね。」
試験も最終局面。
たったいまレラインチームとコダマチームの交戦が始まった。
キリング・アスレイがそこに乱入することも予想できたが。
(女同士の戦いに割り込むのは野暮ってことかね。
男ってもんをよく分かってやがる。)
さぁ聖二チームはどこまでこの男と張り合えるか。
無策ってことはないだろう。見せてもらおうか。
「……さてここまでは上手く対処できたが。」
今回のルールを考えれば状態異常に嵌めてその間に魔法球を壊すのが常套手段だ。
戦闘経験のない連中はそれに気付くことも出来なかったようだが。
だがそれもここまでだろう。
「せ、聖二君……
来たよ、あの人が……」
「あぁ……」
魔力探知を任せてる詩織の報告を聞いて僅かながらの緊張が走る。
この試験会場で教師陣を除けばもっとも高い魔力の持ち主。
「……まさか俺たちがあのキリング・アスレイとやる事になるとは。
これもお前のおかげだぜ聖二。」
「……ガライ、お前まさか。」
なんとなく感じるものがあったのでそれとなく聞いてみる。
過去に面識があるように思えたのだ。
「まぁ、同じイムヌス出身の貴族だからな……まぁ、一応。」
「そうか……」
森に隠れているがおそらく此処で隠れながら戦う事は出来ない。
何故ならキリング・アスレイの宣告は火Lv3、魔Lv2。
わざわざLv3を宣告したのだ。その火力に自信があるのだろう。
森ごと燃やして来る可能性がある。
(火属性魔法ならミストイメージ、スモーク辺りが異常系。
スモークは無視できると考えればクールウィンドウ辺りを装備……いや。)
おそらくキリング・アスレイは火力を担当する。
となると異常系に注意すべきは残り2人か。
キリングの後ろに控える三つ編みの眼鏡の女、ミズキ・エレインが氷Lv2、地Lv2。
この前の夜もキリング・アスレイのすぐ後ろで従者のように振舞っていた女。
属性魔法的に足元を対策した方が……いやカチンコチンで一気に動けなくされる恐れも……
「おい聖二。二人しかいねぇぞ。」
「……っ!?」
キリングとミズキ。もう一人がいない。
となれば。
「パラライズ!」
女の声が俺たちの背後から響く。
「……っっ……!
だ、大丈夫っ!」
背後からの奇襲。
だがそれはさすがに素直すぎる。
詩織には麻痺防止のペンダントを装備させている。
「ウォ、ウォーターっ!」
詩織のウォーターが奇襲してきた女の足元に炸裂する。
「あっ!?」
ウォーターは相手を転倒させる魔法ではないが、使いようによっては別だ。
背後の地面は予め微妙に凍らせてある。
そこに足元を水で圧されたら……
「あぅっ!?」
転げ落ちる。
「よし、後は任せた!」
「う、うんっ!」
詩織が手元の縄を引くと奇襲女は枝からぶら下がる恰好になる。
魔法使い同士の戦闘?
禁止されたのは剣とかの武器だけだ。
地形を利用しない手はない。
そして詩織はこの手のものが得意だったようだ。
「ふ、ふぅ……
なんとか私も、役に立ててるのかなぁ……」
「あぁ、大助かりだぜ。」
「よ、良かった……えへへ。」
この試験で一番活躍してるのは何を隠そう彼女だ。
昔から森の魔物とこういった遊びをしていたらしい。おとなしいゴブリンか何かか?
性格とは裏腹にお転婆だったようだ。
「よしこれで3vs2、次は……」
「ま、まずいぞ聖二!」
ガライの慌て声が聞こえる。
森を囲む炎の壁。
おそらくこれはクリムゾンウェーブだ。
野郎、こっちはLv2の魔法もまだおぼつかないってのに。
「成程、戦い慣れているな。
だが私は上に立つものとして王道で行かせてもらうっ!」
キリングが正面から迫る。
いや魔法使いが正面から攻めてくるとはどういうつもりで……
「……いや、違うっ!」
あの構えは。
「はぁぁぁぁっっ!!」
右ストレートだった。
「ぐぅっ!?」
なんとか両腕で受けるが咄嗟の防御で右腕が痺れる。
嘘だろ、魔法使い同士の戦闘で素手で挑んで来るなんて!
禁止されたのは武器の使用だけだ。
素手で戦ってはいけないというルールは確かにないが……
「さぁ、やり合おうか!
男同士のタイマンだ!」
「いやこれは何の試験だっ!?」
さすがにこれは予想の斜め上。
炎のリングに囲まれ、俺とキリングの格闘戦が始まるなど。
「くそっ!?」
ここまで接近された以上やるしかない。
俺がいま装備してるのは火の指輪。
格闘戦に持ち込まれたのでは何の役にも立たない。
そしてキリングが装備してるのは……
(力のネックレスにレッドキャップ!
嘘だろ、魔法使いの試験でそれを装備するなんて!)
「え、援護するぞ、聖二っ!」
ガライがキリングに向かって魔法を放とうとするが……
「いいや違うっ!もう一人だ!警戒しろっ!」
「タンブル!」
ガライにミズキ・エレインの魔法が迫る。
だがガライの装備品は押さえ止めだ。
「タンブルっ!」
負けじとガライもタンブルを放つ。
だが転ばない。
向こうも対策済みか。
「どうやら純粋な魔法戦の始まりですね。
キリング様の邪魔はさせません。」
「……純粋な魔法戦だって……?
俺にそんなもんが出来る訳ないだろう……っ!」
ガライは脇目も振らずに逃走した。
「なっ!?
魔法使いとしてのプライドはないのかっ!」
「ありませーんっ!!」
ミズキの挑発を無視してガライはそのまま逃げる。
さすがだぜガライ。
俺でもお前の状況になったらそうする。
(悪いがこっちはプライドなんてない。
そんなもんに固執する少年期は終わってんだよ。)
キリングにボコられながらも俺はなんとか倒れずに踏ん張る。
そして。
「……むっ!?」
俺はキリングの足元を引っ掛けようとする。
足払い。
俺に格闘の才はないが今日のためにこれだけは特訓した。
今回の戦術は全て相手を転ばせることに特化している。
魔法の訓練は一朝一夕ではどうにもならないが、こっち方面なら訓練だって慣れたものだ。
「その程度で私は転ばんっ!」
キリングは一切怯まずに俺に右ストレートを打ち込んでくる。
どうやらそんな小手先が通じる相手ではなかったらしい。
(くそ、覚えたての足払いじゃ駄目か!
ていうか魔法球はどこだ?
どこにも見当たらないぞ。)
向こうもどこかに隠しているのか?
く、このままだと俺が殴られすぎて終了時間前に気絶する……
それだけは、防がなければ……
「……うぅ、うぅぅ……」
聖二君とガライ君が戦ってる中、私は燃える森の中を走っていた。
本当はヒールウォーターで回復させてあげたいけど……
「いいか、いざ戦闘になったときお前は戦闘に参加するな。
この戦いは魔法球さえ壊されなければ勝ちなんだ。
なに、頑丈さには多少は自信がある。」
聖二君はそう言っていた。
魔法球は地面の中に埋めてある。
勿論それだけじゃ魔力探知で見つかってしまう。
だから水の泡で包むことで魔力が漏れるのを防いでいる。
(……でも、魔力探知が優れてる人なら……)
「成程、魔法球はそこか。」
「えっ!?」
……背後にいたのは炎の人型。
どこかで見覚えがある。
ついさきほど聖二君と戦っていた……
「そう、これが私のオリジナル魔法、クリムゾンイメージ。
いわば火で作り上げた分身体。
火Lv3を宣告したのはこのためだ。」
「う、ウォーターっ!」
「魔法構成が甘い。
フレイムっ!」
「きゃああっっ!!」
そして魔法球を埋めてある穴に向かって。
「なかなか愉しい戦いだった。
だがここまでだ!」
火炎球を叩きこんだ。
そして。
「聖二チーム!脱落!!」
試験は終了した。
「キリングチーム!脱落!!」
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