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8話 悪意の具現



「……どういう事ですか、ラーク先生。」
「どういう事と仰られましても。」
試験経過を見守っていた教師シャルライトが同じ教師のラークに問い詰める。
その声色は普段の優雅な様子と違い、僅かながら怒りの成分を含んでいる。
「こんな決着を認めるのですか、という事です。
 キリングチームの魔法球を破壊したのは試験施設内の魔物ではないですか。」
「そうですな。
 ですが野良の魔物に破壊されてしまったのは、キリングチームの落ち度です。
 魔法使いというもの、不測の事態を予期し、その対処を考えるのは当然。
 そのための実地試験ですからな。」
「これは未来の優秀な魔法使いを見定めるための試験です。」
「シャルライト先生。
 この試験の担当は俺です。
 評価をつけるのは先生ですがね。」
「………」


「……引き分け、か。」
爪の甘い部分はあったが、単純にキリング・アスレイが強かった。
魔物が魔法球を壊したのでは、俺たちのポイントにはならないだろう。
だがそれでも俺たちの魔法球が試験時間内まで破壊されなければ、と考えたのだが。
「ご、ごめん聖二君。
 守りきることが、出来なかった……」
「いいや、まさか疑似的な分身まで作れるなんて、俺の調査不足だった。
 そもそもお前がいなければ引き分けにすらもっていけなかった。」
詩織は謝ってるが、元々が彼女の”能力”におんぶに抱っこの作戦だった。
彼女の田舎ではゴブリン等の弱い魔物と仲良くしていたと言う。
ないとは言い切れないと哀音からの意見もあり、試してみたら当たりだった。
(……率直に表現すると、魔物使いの能力、といったところか。)
それがどのランクの魔物まで適用可能かは分からなかったが、この試験施設内の弱い魔物には通じた。
俺たちがキリングチームと戦ってる間に、相手の魔法球を魔物に探索させ、破壊してもらう作戦。
まぁ魔法使いの試験としては落第なやり方なんだろうけどな。
(だが実力の劣る俺たちが勝利するにはこの作戦しかなかった。)
相手がもっと慢心してくれればやりようはあったが、さすが同学年のトップチーム。
さすがにそんな甘い相手ではなかった。
「……やられたな。
 これも君の作戦通りということかな、聖二君。」
ボコボコにされて這いつくばってる俺にキリングが手を差し伸べる。
俺はおとなしくその手を取った。
「さて、どうだろうな。
 単なるやぶれかぶれの策だったかもな。
 結局のところ、俺たちの負けだ。」
「食えない男だな。
 だが自分の脇の甘さを実感できた。
 それを教えてくれた君には感謝するよ。」
「そりゃどうも。」
自分の失敗を認め、次に生かす。
ただでさえ実力のある奴にこれをやられたら、俺みたいな凡人は追いすがる事すら出来ない。
まぁ、でもそんなもんだ。
今更そんなことに悲観したりはしない。
「も、申し訳ありませんキリング様。
 私があの男を追ったりしなければ……」
「いいや、止めなかった私のミスだ。
 君が気に病むことはない、ミズキ。」
一方で追いかけまわされてたガライはどうなったかというと。
「た、助けてくれ、聖二……」
見事に氷漬けにされていたガライがいた。
俺は苦笑いをしつつも、なんとなく悪くない気分だった。
そして。

「レラインチーム!脱落!!」

もう一つの戦いも終わったようだ。
今回の試験の最優秀チームはコダマチームで終わった。
2位がキリングチーム、そして3位が俺たち。
序盤で短絡的な連中を引き寄せてポイントを稼ぐ作戦が功を奏した。
「あら、なかなかやるじゃない。
 聖二と詩織も。」
「1位にそんなことを言われてもな……」
「コ、コダマさんこそ1位おめでとうございますっ!」
「あの、俺のこと忘れてないですか……?」
コダマと団欒しつつ、今回の試験は幕を閉じる。
しかし3位か。
俺なりに努力はしたつもりだったが、まぁ哀音には嫌味を言われそうな結果ではある。
同級生にも勝てないのに、どうやって学院長まで辿り着くのか、とか。
前途多難だ。


教員塔と呼ばれるカデンツァの教師陣が集まる宮殿。
その最上階に学院長エルカサス・フォトの学院長室はある。
「貴方には失望しました。
 キリング・アスレイ。」
エルカサスはキリング・アスレイを呼び出していた。
その傍には教師シャルライトの姿もある。
「はい。学院長の仰る通り。
 私めはまだまだ未熟。
 学院長のご期待に沿える事は出来ないようです。」
「諦めが早いわね。
 もしあの試験が実践でも、貴方は同じことを言えるのかしら。」
「………」
キリングは押し黙る。
「……学院長。
 あれはあの試験のルールに大いに問題がありました。
 神聖なる魔法使いの試験会場に魔物がいる場所を選ぶなどと……」
シャルライトがフォローを入れる。
だがエルカサスは一顧だにせず。
「いいえ、ラーク先生の方針は正しい。
 ”私達の”相手は魔物の親玉よ。
 魔物がいることを考慮できなかった時点でこれは貴方の失態です。」
「仰る通りです。」
キリングはエルカサスの言葉を受け入れる。
ただ、と。
「”都合よく”魔物が貴方の魔法球を壊した。
 それは少々引っかかるわね。
 森ということは退廃の悪魔の手先?
 私達の”計画”が漏れているのか、それとも……」
「……学院長?」
キリングがエルカサスの言葉に反応するが、エルカサスは一蹴する。
「貴方には関係のない話よ。
 まだ貴方はこの件に立ち入る程の資格を有していない。
 次はないと思いなさい。」
「はい、その時は容赦なく落として頂ければ。」
キリングは深々と頭を下げその場を退出する。


「……3位?」
「悪かったな。」
寮の俺の部屋にて待ち構えてた哀音に試験の結果を報告する。
案の定、不満気な顔はされたが。
「……貴方にしてはよくやった方だと、思う。」
「嫌味かよ。仕方ないだろ。
 魔法で分身作れるような奴がいるなんて思わなかったんだよ。」
「七罪魔なら簡単に作れる。」
「いや何と比較してんだよ。
 人間同士の戦いだぞ。」
さすがに俺も反論する。
「……此処は魔法使いの楽園カデンツァ。
 オリジナル魔法を使える人だって何人かいる。
 けど……」
哀音は一つ気になった事があると。
「……その詩織って子、魔物を操ったの?」
「あ、あぁ。
 まぁ詩織は、協力して貰った、て事らしいけど。
 魔物の言葉が分かるらしくて……」
「……そんな魔法は、私は知らない。
 その子の使用属性は、水Lv2だけ?」
「……あぁ。詩織はそう言ってたけど。」
哀音は少し考える素振りをして。
「……その子、気をつけた方がいいかも。
 森の魔物を従えるなんて、それこそ退廃の悪魔くらい。
 その関係者の可能性が、あるかも。」
「……そうか。」
そんな訳がないと反論できるほど俺は詩織の事を知っている訳ではない。
勿論ガライの事だってそうだ。
真那の知識を有している哀音がそう言うなら、その可能性はあるのだろう。
だが。
(……やな感じだな。)
下層では人のことを疑うなんて当たり前のことだった。
だが今の俺はどうだ?
哀音の方が今の状況を客観的に捉えているように見えた。
(……俺は今の生活を、楽しいと思い始めているのかもしれない。)
だがそんな事は許されない。
俺たちには退路なんてないし、あってはいけないんだ。
だけど……

こんこん、と。

入口からノックの音。
「よう、聖二。
 なんだよしけた顔してるな。」
「お、お邪魔だった、かな……?」
そこにいたのはガライと詩織だった。
「別にそんな事はないが、こんな時間にどうしたんだ?」
「おう、ラーク先生が俺たちの表彰を祝って、
 今夜奢ってくれるんだってさ。
 聖二も一緒にどうだよ?」
「お、俺は……」
チラリと部屋の中の哀音を見る。
視線は攻めているようにも見えたが、コクリと頷いた。
行っていいと解釈していいのかそれは?
「……そうだな。
 ただ飯くれるんだったら行かない理由はないな。」
「はは、そう言うと思ってたぜ。
 じゃあ7時30分にこちらに集合だな。」
「あぁ……」
「じゃ、じゃあ、また後でね……」
ドアが閉められる。
ガライは見るからに浮かれているが、詩織もどことなく愉しそうだった。
純粋に自分達が表彰されたことが嬉しいのか、単純にみんなで遊びに行くのが楽しいのか。
(教師がいるなら情報収集も出来る。
 行くことは間違った選択ではない筈だ……)
ただ利益に基づいて行動する俺が、とても矮小な人間に思えてしまう。
それが誤った感傷だと分かっていても。


(ははっ、シャルライトの奴、試験の結果が上手くいかなかったみたい。
 ざまぁみろって感じですねぇ。)
カデンツァ警備隊長メイクは、暗い通りを愉し気に見回りしていた。
見回り自体は警備隊の日課である。
(私の邪魔をするからこういう事になるんですよぉ。
 ……ん?)
目の前で誰かが倒れている。
警備隊としては無視できず、声をかけようと近寄るが。
「……え?」
倒れていた人の身体らしきものはいきなり"崩れ落ちた"
その形状をどう形容したらいいのか。
それはぐにゃぐにゃと嫌な音を立てて大きくなっていく。
「……ス、スライムの親玉、ですかぁ!?
 なんでこんなものがカデンツァの敷地に……」

ぐぱぁっっ

(……え?)
よく分からない音。
それは私の背後からだった。
そして。
(な、なんだこれは……
 あ、あああぁぁあああぁあああああぁぁああああっっっ!!!)

その断末魔はカデンツァ中には”響かなかった”
何故ならメイクは既に”それ”によって包まれていたから。
ぐしゃぐしゃと嫌な音を立てながら、それは何かを囁く。
「……く、ぎゃは、ぎゃはははははは……」
否、笑い声を上げる。
とても聞き取り辛い、不快な嗤い声。
そしてそれは。
「……く、げへへへへへへへ、ぐひゃひゃひゃひゃひゃ……」
「けけっ、けけけけけけ。ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ……」
一つではなく。
無数の”それ”が悍ましく嗤い続ける。
メイクだったものは既にその残骸すら残っていなかった。


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