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15話 交わらぬ決着



少女は。
あるとき、気が付いたら一人でした。
とても、とても、寒かったのです。
死ぬほど。
実際死にかけました。
お腹も。
身体も。
心も。
全てが寒い。
どうして自分がこんな目に?
少女が思ったのはそんなことでした。
でも。
少女は運が良かったのです。
ある身なりの良さそうな男。
この世界で貴族と呼ばれる身分の男です。
男は少女を自分の家に連れて行きました。
少女はその家で食事にありつくことが出来ました。
少なくともお腹は寒くなくなりました。
でもそれだけです。
それ以外の全ては寒い。
その男は少女の寒さを取り除いてはくれませんでした。
なので殺しました。
さぁ次です。
今日も寒い。
寒い。
身体が、心が、寒い。


「ダブルソード!」
アンヌの目前まで迫った俺は二連撃を放つ。
俺が持つ技能の中で最強の剣技。
その剣は確かにアンヌの身体を斬り裂いた。
と、思いきや。
「斬れて……いない?」
まるで風でも斬ったような感触。
否。
本当に、それは風であった。
「……まさか、これがあんたのオリジナル魔法!?」
キリング・アスレイのクリムゾンイメージ。
炎の分身体を作る魔法。
それに似通った魔法が、他の属性で存在していても不思議ではない。
「ご名答。
 風魔法は便利よ〜。いろいろ応用が利くし。
 まぁ基礎魔法しか使えない素人ちゃん達には扱いきれない魔法ではあるけど。」
「……そんな真っ黒な服を着てるから、
 闇属性魔法の使い手かと思ったぜ。」
再びアンヌ・ポルクスがその姿を現す。
だがその姿は風で生み出された幻影の類。
……成程。魔法使いが堂々と姿を現すほど抜けちゃいないってか。
「特にこの魔法は退廃の悪魔の伝説を参考にして生み出した魔法。
 伝説によると退廃の悪魔は五感全てを操れるみたいだけど。
 それと比較すると私のは所詮、視覚しか誤魔化せない下位互換。
 まだまだ改善が必要って感じね。」
言われてみればあのアンヌ・ポルクスの姿から人の気配は感じない。
もっと注意深く観察すべきだったな。
更に追加でもう二人のアンヌ・ポルクスが現れる。
ち、増殖まで出来るのかよ。
「さぁ、今度はこっちから反撃させて貰おうかしら!」
3人のアンヌが俺に向かって愚直な突進をしてくる。
だがあれの本質は風だ。
つまり。
「ぐわあああああっっっ!!」
一度に巻き起こった3つの暴風が俺の身体を斬り裂いた。
しかもそれはその場に留まり続け、俺は身動きがとれなくなった。
まずい。このままでは。
そう思った矢先。
「……え?」
アンヌ・ポルクスの疑問声と共にその暴風は突如、凍り付いた。
(……魔力で編み出された風なら、
 魔力で凍らせることだって出来る。)
それは哀音が放った魔法の効果だった。
哀音は先ほどから離れた場所で待機している。
俺やインファイトのサポートをするために。
(……でも、今のだけでも結構な干渉と見なされるみたい。
 次にサポートできるまで、数分はかかる。)
「いや、十分だ。」
アンヌ・ポルクスの姿は消えた。
否、最初から本体などこの場にはいないのだ。
だとしたら奴はまだあの家の中にいる。
俺は黒装飾の家のドアから……ではなく窓を破壊して突入した。
ドアから素直に入るなんて罠にかかってくださいと言っているようなもの。
「ぐわああああっっ!!!」
……電撃。
残念。窓の方にも罠があったようだ。
気を取り直して俺は窓から家の中に侵入する。


(……聖二が家に突入した。
 けどあまり良くない。
 家の中には私は入れない。)
哀音は一人戦場から少しだけ離れた位置で状況を観察していた。
彼女にとってサポート可能な位置ではあるが。
(……あのインファイトって人。
 あっちのサポートをする?
 でも……)
まったく知らない人間のサポートを出来るほど、哀音は器用ではなかった。
そもそも彼女は魔法使いとしてはとてつもなく高いレベルにある一方、戦闘勘はゼロに近い。
哀音の戦闘時におけるもっとも効率良い運用方法は、遠距離からのLv4魔法爆撃。
彼女本人が襲われることがないよう、近接戦闘に優れた戦士を護衛につける事さえ出来ればほぼ万能な運用スタイル。
だが哀音のLv4魔法は純粋な破壊力だけに特化した、広範囲破壊魔法グランドフレア。
威力は絶大だが、敵も味方もいる状況では放つことが出来ない。
そして敵も味方も等しく死に追いやる魔法を撃つことは、彼女の望むところではなかった。
とどめに彼女の身体能力は貧弱そのものであり、そこら辺の子供にも劣る。
性格、魔法能力、身体能力が見事にかみ合っていない。
ゆえに哀音が出来ることは明らかに味方が危険な状況となったとき、その危険を排除すること。
それ位が関の山だった。
(……せめて時の呪縛さえ、なければ……)
更に今の哀音は時の呪縛により能力まで大きく劣化している。
結論からいうと、時間をおきながらLv3魔法相当を放つのが限界。
現状、Lv4魔法は使用できない。出来たとしても結局この場では使えないのだが。
(けれど……)
対アンヌ・ポルクスにおいてはその分析で間違いないが。
対レラインにおいては話は別である。
何故ならば。
「はぁああぁぁぁっっ!!」
インファイトの剣技がアイアンゴーレムに直撃する。
だが鉄人形は微動だにしていない。
それどころか。
「グォオオオォオオォオッッッ!!」
直撃の瞬間、その巨体の脚でインファイトを蹴り上げる。
「うぉっ!?」
インファイトは一撃を食らい空中に放り出されながらも、なんとか無事に着地を決める。
だがダメージは着実に蓄積されているだろう。
インファイトとレラインの戦いは終始この攻防の繰り返しであった。
「……ば、馬鹿じゃないの?
 私のアイアンゴーレムは普通のものより、強いんだから……
 そんなしょぼい攻撃、効かないよ……」
レラインの言も出まかせではなく、このアイアンゴーレムは通常のものよりも1.5倍ほどの大きさであった。
ゆえにその巨体を生かし、物理攻撃への対処もやりやすくなっている。
剣をメインに戦うインファイトにとって、相性最悪の相手。
(……でもあの人、魔法は使わないの……?
 あぁ、でも一人じゃ……)
1vs1では魔法の詠唱をしてる間に直撃を受ける。
インファイトは自らが無防備にならないよう、アイアンゴーレムに斬りかかる以外の術はない。
(……だったら。)
哀音が聖二のサポートをしてから2,3分が既に経過していた。
彼女は時の呪縛が一時的に解けているのを感覚的に感じた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
愚直な正面突撃しか出来ない自分に歯がゆさを感じる。
自分には兄上ほどの剣の才能がなかった。
周りと比べて自慢できることなどこの体格のみ。
そのおかげでこれだけの攻撃を受けてもまだ立っていられる。
(だが、それでも……)
まだ、倒れることは出来ない。
自分は、彼女に、仮初の妹に、まだ聞くべきことを聞いていない。
「……この勝負は、私の負けのようだな。
 いや、やはり私の妹は素晴らしく優秀だった。」
「……は?」
レラインは意表を突かれたかのように呆気にとられていた。
そういうところは今でも愛しく思える。
「それだけの力があれば、兄上たちにも勝てるかもしれない。
 本気でそう思える。」
「………」
押し黙る。
話の意図が分からないとばかりに。
「……勝てるも何も、そりゃそうでしょ。
 あいつらは、もう”殺した”んだから……」
「……そうか。」
もう予想がついていた事だ。
どうやったかは知らない。
けれど。
「……それは勝負の、戦いの果てに、か?」
それが兄上たちも納得した死であったのなら。
なにかの事故であったのなら。
そんなありもしない希望に私はまだ縋っていた。
「あぁ、もう、もう、うるさいっ!
 さっきから何が言いたいの?
 そんな危険なこと、やるわけないでしょ!!
 今だって、そう……
 アンヌが全然助けてくれないから、私がこんな場所に……っ!
 どうして、こんなことにっっ!!」
支離滅裂にまくし立てる。
まるで被害者のように少女は恐怖していた。
何に。
(……お前は何に、そんなに怯えているのか。)
私には、分からなかった。
でもだからこそ、なのかもしれない。
お前は私達の、家族の愛情が分からなかった。
けど私達も、それは同じだったのだ。
相互理解に達することはついに出来なかった。
「……さらばだ。妹よ。」
私は走る。
今までにない全力で、いいや全力”以上”で。
その"命"を振り絞り。
アイアンゴーレムではなく、レラインに向かって。
「ア、アイアンゴーレムっっ!!!」
当然それは叶わない。
だがそうだとしても。
もう誤魔化しはしない。
「グォオオオォオオォオッッッ!!」
「……っっ!?」
その瞬間。
アイアンゴーレムは、その巨体は炎で燃やし尽くされていた。
理由はまったく分からない。
”誰もいない場所”から炎が放たれてるように脇目に見えたが、私にはその超常現象の意味は分からない。
そんなものには私は目もくれず。
その一撃だけを、全てを賭けて、振り絞った。
「聖爆剣っっっっっっっ!!!」
命を。
私にとっての光を、正しさを。
その全力を超えた一撃を。
妹であったものに、全力で放つ。
「……あ?
 あ、え、あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁっっっ!!!」
血しぶきが舞う。
だがそれはレラインだけのものではなく。
「……この一撃だけなら、兄上、私はあなたに、あなたたちに……」
届いたのだろうか?
剣の才も、魔法の才もない、私でも。
攻撃を加えた私の身体からも、血しぶきが舞う。
全力以上を、命を振り絞った代償。
私の意識は、奈落の底に落ちていった。

その瞬間、どさりと二人の身体が地に堕ちていた。
一切、その身体が交わることはなく。


少女は。
やがて沢山の兄と姉が出来ました。
それでもなお。
その心と身体は寒いままでした。
だから、せめてもの抵抗として。
その温かさを奪えないかと。
いろいろ試してみましたが。
いろいろ殺してみましたが。
何も少女の寒さを癒してはくれませんでした。
そして今この瞬間。
少女はこれまでにない圧倒的な寒さに狂いそうになりました。
ですが、それもまぁ当然でしょう。
身体からいろんなものが零れているのですから。
温かさなどどこにもある筈がありません。

「……全員、死ね……死ね……寒い、寒い、寒い。
 誰か、助けて、助けて、たす……」

その声を聞き届ける者はもういません。
いるはずもありません。


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