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17話 守りたかったもの



「……お、姉ちゃん、起きて。」
「ぅ……」
私は目を覚ます。
視界に映るのは、一面の闇と妹の心配する顔。
……そうか、私は。
「はぁ、また手酷くやられたわね……」
この集落でも私達姉妹は受け入れられることはなかった。
当然だ。
呪い憑きを受け入れる場所などある訳がない。
「……また次を、次を探しましょう。
 大丈夫よ、必ずあるわ。
 私達を受け入れてくれる場所が。」
「お、お姉ちゃん、でも……」
妹の心配を余所に私は立ち上がる。
立ち止まる事は出来ない。
私は決めたのだ。
「ふぇ?」
「……大丈夫よ、大丈夫。」
私は妹の頭に手を置いて愛しく撫でる。
自らに、言い聞かせるように。


「……なんで貴方が此処にいるのかしら?
 コダマちゃん。」
コダマはうーんと唸りながらアンヌの問いに答える。
「まぁ、なんとなく?
 元々先生のことは信用してなかったのと、
 聖二の行動がちょっとおかしいと思ったから。」
「……なんとなく、ねぇ。
 いま深夜なんだけど、なんとなくにしてはお人好しが過ぎないかしら?」
「そうかもね。けれど……」
風の刃によって、氷の壁が砕ける。
だが今度は。
「……っ!?
 足元狙って来るのは分かってるのよ!」
アンヌの周辺の床が凍る。
おそらくは足元を狙って。
だがそうなる前に氷の方を切り裂いた。
「故郷の村の習慣ってやつかな。
 見て見ぬふりをするのはやっぱり薄情じゃない?」
「そう。お優しいことで。
 侵入してきたのはそっちだって言うのにねっ!!」
風の刃が俺やコダマを襲う。
その場にいるアンヌは本体ではない。
コダマは氷の壁を張って食い止めているがいずれはジリ貧になる。
「……何故かしらね。
 この家はもともと嫌な感じがしてたというか。
 何か匂うって思ってたから探ってた。
 まぁそんなところ?」
「なぁに偉そうなこと言ってるのかしら、学生風情が。
 学生はおとなしく青春を謳歌してなさいってねっ!」
ならばこの場で俺がやるべきことは何か。
アンヌの本体を探し出しこの魔法を止めなければ。
だがそれはつまり。
「私を囮にするのが気が引ける?
 でも貴方にあれの相手が出来るの?」
「……いや、出来ない。
 頼まれて、くれないか?」
「だからさっきからやってるでしょっ!」
コダマが氷の刃を飛ばす。
かなり氷属性魔法を使い慣れてる印象だ。
この学院の教師相手に互角の攻防をしてるように見える。
まぁ魔法使いの観点で見ると違うのかもしれないが。
だがアンヌの表情は明らかに俺相手のときと違い、余裕がない。
「……すまない。
 此処は任せたっ!」
一度知り合っただけのクラスメイトに任せるのは気が引けるが、もはや一刻の猶予もない。
アンヌの本体はこの家のどこかに必ずいる。
だが俺は先ほどまでこの家の中を調べていたのだ。
まともに考えて人間一人を見失うとは思えない。
(……だったらこの家には。
 2階か地下がある筈。)
そこにアンヌ本体が潜伏しており、あの風の分身体を操っている。
そう考えるほかない。
だが隠し階段やらを調べている暇はない。
だったら一か八か。
(まだまともに使いこなせちゃいないが、やるしかない。)
実地試験の時には使わなかったあの魔法を。
俺は魔法術式を組む。
この学院に来た頃には到底組めなかった術式。
イムヌスにいた頃には苦もなく使用していた魔法。
(……ただまぁ、理解して使うのもそれはそれで面白いものだな。)
かつて俺はふとした事から覇帝の力を得た。
だが所詮は他人からの貰い物。
俺はあの力に使われてるに過ぎなかった。
だが今回は違う。
自分で積み上げて来た力には確かな自信を持てる。
凡俗の俺にはこれでいい。
「カチンコチンっ!」
俺の周辺を凍らせる。
と言えば聞こえはいいが、実際は床の一部が凍ったり凍らなかったり、と。
中途半端に天井が凍ったりと、その魔法の品質の低さはコダマの魔法と比べれば明らか。
だが今回は。
「その品質の低さが都合がいいっ!」
品質の低い氷。
非常に壊れやすい脆いものだった。
「砕けやがれっ!」
俺は無理矢理、足で床の氷を踏み砕きにかかった。
絵面的には非常にださい形になるが、そんな事はどうでもいい。

ぱき ぱき

「……よし、そこだっ!」
カチンコチンの魔力が解ける。
いとも容易く俺のカチンコチンは解除される。
だが”位置”は把握した。
「ダブルソードっ!」
俺は先ほどまで踏み砕こうとしていた床に向けて攻撃を放つ。
何度も、何度も。
「くっ!?」
あせったのか、アンヌの風の刃が俺に向かう。
その刃は俺の身体の一部を切り裂いていた。
だがこの程度ならまだ死にはしない。
は、それなりに死にそうな目にあったこと位あるんだよ。
「あら、隙ありよ、アンヌ先生。」
その間にコダマの氷がアンヌ周辺の床に浸食する。
床ばかりを狙うあたり、コダマもあたりをつけていたのかもしれない。
……まだまだ俺も観察力が足りないな。
「これでっ!!」
再度ダブルソードを床に向かって放つ。
ついにその床は砕かれた。
俺は躊躇なく砕かれた床の下に飛び込む。
そしてその瞬間。
「あら?」
コダマと対峙していたアンヌは姿を消していた。
つまり。
(あの分身体を出しながら、他の魔法を出せないってことか!)
魔法が使えない魔法使いなど一方的に倒されるのみ。
だったらこの地下にいるのが。
「本物のアンヌ・ポルクス。
 ようやく生身の身体をさらけ出したな!」
「……はぁ、参ったわねこれは。」
暗い地下で漆黒の魔法使いは溜め息を吐く。
だが油断はしない。
奴の詠唱の前に俺は一撃を加える。
「ダブルソードっ!」
俺はアンヌの身体に斬撃を放つのだった。
人体を斬り裂く確かな感触。
血しぶきを上げ、たまらずアンヌは倒れ伏す。
本体の耐久力は一般人と大差ないレベルだったようだ。
「……さすがに、やっただろ。」
こちらのダメージも小さくはない。
俺は肩で息をしながら、剣を支えに立っていた。


「……えぇ、構いませんよ。
 さぁ、来なさい。」
「……え?」
老婆の言葉に私は絶句する。
「何をしているのですか?
 早くしなさい。」
「……本当に、宜しいのですか?」
私の言葉に老婆は溜め息を吐く。
その顔はしかめっ面ではあったが。
「宜しいもなにもない。
 そのためのカデンツァ。
 そのための魔法使いの楽園。
 それが私が、私達が、誓ったもの。
 それだけの話よ。」
老婆は、その老齢の魔法使いは私達の方を向くことなく、静かに歩く。
その背中は小さかったが、とても大きく見えた。
私と妹はその背を追う。
この場所で新しく始めるために。
そして、そう。
……忌まわしき、呪いを解くために。


「……ん……」
「……あぁ、目が覚めたのか。」
どうやら命は無事だったようだ。
急所は避けたつもりだったが、如何せん俺の腕じゃ自信がなかったからな。
「……貴方。」
「さすがに軽い拘束はさせて貰ってるぞ。
 魔導書の方もな。」
拘束だけじゃ心許ない。
魔導書を奪っても魔法は使えるだろうが、さすがに無駄な抵抗と分かるだろう。
「どういうつもりかしら?
 貴方の、いいえ、貴方達の目的はなんなのかしら?」
「達、と括ってるが、コダマは無関係だ。
 これは俺が俺の目的のためにやってることだ。」
コダマの方は、まぁ、本当におせっかいという奴なのかもしれない。
よくは知らないが。
「俺が知りたいのは一つだけだ。
 あの肉塊はどこから手に入れた?
 あんたは七罪魔の手先じゃないのか?」
「……七罪魔?
 なんでそんな単語が出て来るのかしら?」
「……やっぱりか。」
だとしたら。

ぎゅるりりりりりりり

その瞬間。
高速で何かが俺の横を抜けていく。
そしてそれは。
「が、はっ!!?」
……アンヌ・ポルクスの胸を貫いた。
俺は瞬時に後ろを振り向く。
先程の肉塊が突如動き出したのかと考えて。
だが。

「あ、あぁぁあぁ、お、姉ちゃん……」

そこにいたのは一人の少女。
アンヌ・ポルクスの妹と名乗っていた……
だがその様相はあまりに歪だった。
片方の眼で涙を流しながら、もう片方の瞳は赤く濁く染まっていた。
気のせいか、瞳孔がいくつもあるように見えた。
そして。
「その、触手は……っ!」
その娘の片腕は人のものではなく。
”違うもの”に変質を遂げていた。
そして娘の傍らには一冊の魔導書らしきものが不気味に光っていた。


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