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18話 塵と消ゆる



……寒い、痛い、苦しい。

いつも思う。
どうして私ばかりこんな酷い目に合うのか。
理不尽だ。おかしい。どうかしている。

そう、理不尽。
いつでも、どんな時でも。
何をされていても、何をしていても。
”あの光景”が頭に、心に、身体に、叩きこまれている。

「……ても感激……ベスト……なろう!」
「……いが……いぞ。」

ずるり。ずるり。
私と同じ、多くの<エキストラ>が、無駄なゴミが瀕死に喘いでいるとき。
”あいつら”だけがその中心で、頭のネジが全部外れたような話をしている。
ただただ、気味が悪く、全身の血液が凍りつくほど寒いやり取り。
……いいや、そんな曖昧なものなんかじゃない。
本当に私は飲み込まれていたのだ。

「……嫌だ……嫌だ……私は、まだ死にたくない……」

だから離れる。
あんなものから離れないといけない。
それ以外の記憶が。
想い出が。
私の中には、何も、見つからない。

ずるずると、私は引きずるように身体を動かす。
誰に斬られたんだっけ?分からない。
分からないが、どうでもいい。
此処を離れる。離れないと。
私には分かるのだ。
きっとまた、私は理解不能な理不尽に巻き込まれていると。
だから、早く。

ぎゅるるるるるるりりりりりっっ

けれど。
気味の悪いものが私の身体に巻き付く。
そして。

「いやああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁっっっ!!!」

信じられない速度で私の身体を引きずり込む。
逃がしてはくれない。
あぁ、きっと私は、本当に。
世界一、可哀想な、女の子なんだ。


「その、触手は……っ!」
アンヌ・ポルクスの妹の片腕の変質。
忘れるはずもない。
その変質した触手は醜悪の悪魔ダルバックの一部。
だがそれとは別に。
(……あの魔導書。
 アンヌ・ポルクスの分身体が持っていた……)
だが違和感があった。
あの魔導書のページの束の中には明らかに”違うもの”があったのだ。
その異質な何かは。
「……天使が憑いている。
 ”この状態”では、これ以上は使用不可……」
言葉らしき音を紡ぐ。
それは辛うじて聞き取れた程度のもので、非常に聞き取りにくく、不快なものを感じた。

ぎゅるるるるるるりりりりりっっ

「……っっ!?」
女から伸びた触手が一瞬で更に伸びて、超高速で家の窓を割る。
その衝撃で窓どころか家の一部すらも粉砕する。
そしてその触手は。

「いやああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁっっっ!!!」

外から何かを引きずり込んでいた。
それは人の、小柄な女の、身体?
「……レライン?」
血だらけだったから一瞬、誰だか分からなかったが。
触手は二重にも三重にもレラインの身体に巻き付き。
「あぁあぁあぁ、ああぁぁあああぁああぁぁぁぁあ……っっ!!」
レラインの断末魔と共に、ばきばきと骨が砕ける音が響く。
いうまでもなく、それはレラインの身体を砕いている音だろう。
それと同時にどさりと人の身体が倒れる。
倒れた身体はアンヌ・ポルクスの妹のもの。
(……まさか?)
俺は悪寒と共にこの場を離脱する。
レラインの身体だったものの右目がぎょろりと開く。
その右の瞳は赤く濁く染まっていた。
「……適合率、38%。
 なんて品質の低い、燃料。
 ……だが、まぁいい。
 30%以上なら”半分”は持ってこれる……」
レラインだったものが口を開く。
だがその声質は既にレラインものではない。
「……触媒は十分。
 転移しなさい……」
そしてその場は黒い魔力で覆われた。


「……くそっ!?」
黒いものが俺を追って来る。
厳密には俺を追っている訳ではないだろう。
それはおそらく先程の魔導書を中心に……
「うおおおおおおっっっ!!」
俺は魔女の家を脱出する。
外には倒れてる男が一人。
「……インファイトか!?
 おい、起きろ!
 まずいぞ!」
考えてみればコダマの姿も消えている。
……まさか、あの黒いものに巻き込まれて……?
「くそ、早く起きろ!
 死ぬぞ!」
黒いものは既に俺たちを追っていない。
そもそもが魔力の発動の余波だろう。
つまり、その中心にはその魔力の元凶がいるということ。
何が出て来たのかなど、今更確認するまでもない。
「……む、君は聖二!?
 これは、いったい……?」
「いいから逃げろ!
 このままだと死ぬぞ!」
一瞬、家の方を振り向くとそこには案の定。
何度も何度も俺たちの希望を砕いて来た巨大な触手の山がうなり声を上げていた。

「く、げは、ぎゃは、ぎゃははははははははははははははっっっ!!!」

そのおぞましいおたけびは周囲を無造作に破壊していく。
既に魔女の家は粉々に消し飛んでいた。
そして間もなく洞窟も崩れ去るだろう。
その後は……
「くそっっ!?」
俺は一目散に洞窟の入口に逃げ出す。
インファイトも状況を理解できずとも、その危険性は理解したのだろう。俺と共に逃げていた。
「……こっちっ!」
洞窟の途中で哀音の姿があった。
俺はその手を取る。
「……二人、移動は出来るかっ!?」
「出来るだけ、やってみる……っ!」
「……君はいったい誰と話して……っ!?」
戸惑うインファイトを余所に俺たちの姿はその場から消失する。
次の瞬間、その場を巨大な触手が通り過ぎる。
「……え?
 な、なんですかあれはああああっっっ!?」
その触手は通り道にいたメイクの身体を粉砕し、洞窟を超えてもまだまだ伸びていく。
そしてそれは四方八方に膨張を続け、全てを破壊していく。
(……また、止められなかった……)
カデンツァの端に転移してきた俺たちは、その破壊の様相をただ眺めている事しか出来ない。
同じく転移したインファイトも呆然とその様子を見ていた。
こいつからすれば当たり前の反応だろう。
此処からでも見える巨大な触手が山のように広がり都を破壊していく。
いったい俺は何度、この光景を見て。そして、これから。
(あと何度、見ていくことになるんだろう……)


……けれど。
奴等が現れる場所は分かった。
場所さえ分かれば今度はもっと準備を万全にして挑むことが出来る。
(……今度こそ。)
俺は……


「……は?」
そうして迎えた”次”の周。
俺は信じられない言葉を聞いた。
「……ヨーロの夜会?」
「あぁ、ほら、えっとアンヌ先生が主催っていう……」
ガライは何を言ってるのかという顔で。
「アンヌ先生?
 知らねぇな、あ、もしかして新任の先生とかか?」
「……え?」


「……は、いない?」
俺は哀音の話を聞いて愕然とした。
哀音は同じ話を繰り返す。
「……あの場所に魔女の家は、ない。
 いや、ある事はあるけど無人の家。
 かつてアンヌ・ポルクスという魔女がいたという情報はあるんだけど……」
けれど、と。
「……貴方が入学する少し前に、
 イムヌスに出張するときに、行方不明になった、って……」
……なんだそれは。
俺たちは奴等が現れる場所を特定することが出来た。
インファイトや、コダマなどの同級生の力も借りて。
だがそれも。
結局は……
(……何故だ?どういうことなんだ?)
俺たちは本当に。
この戦いを終わらせることが出来るのか……?
「……でも、妹のランラン・ポルクスは、
 肉親がいなくなって引き取られた、って……」
……妹?
あぁ確かアンヌ・ポルクスの……


「うぅ、ふぇぇぇ……此処、暗くて怖いよぉ。」
暗い暗い建物の中。
そこは魔導研究所と呼ばれるこのカデンツァの研究機関。
その少女は一人、泣きべそをかきながらおぼつかない足取りで歩く。
「こ、こら、君っ!?
 此処は立ち入り禁止だぞ!」
「ひぃっ!?」
警備と思われる男が少女に注意する。
「ほら、こっちに来なさい。」
男は入口に少女を連れて行こうと少女の手に触れて……
「……ふぇ?いやあぁぁぁぁぁっっ!!」

ボトン

……男の腕が落ちた。
「……え?」
男は何が起きたのか分からないという顔で呆然としていた。
そこにあったのは。
「……ひか、り?」
男がその光の剣を認識した直後、男の首と身体は別れていた。


「うぅ、ふぇぇ。触られたぁ、人間にぃ。
 汚かったよぉぉ。」
少女は地べたで崩れ去っている男には目もくれず泣きじゃくる。
「……あらあら。
 まったく、貴方は相変わらずそそっかしいんだから。」
足音と共に響くは美しい女の声。
豪奢な金髪と美貌。
カデンツァの教師の一人、シャルライト・エレイン。
「あ、シャルナーお姉様ぁ。
 ふぇぇぇ。
 気持ち悪かったですぅ。」
「いけない子ね、ランラン・ポルクス。
 あぁまぁこの場ではいいでしょう。
 ラナー、あまり人間を無闇に殺してはいけません。
 この都の人々は私達にとって有用な協力者。
 そして。」
シャルライトは笑う。
優雅に、けれど人外の笑みで。
「あのお方。
 天使長ミリエル様の命を遂行するための舞台。
 ゆえに一つの染みも許されないのです。」
笑う女と、泣く少女の背中には純白の翼。
天使の翼があった。




くくくくく。
はははははははははは。
さてさて、どうだったかな、今回の周回は?
少しばかり規模が小さすぎたかな?
それは失敬。

いろいろと不可解な事はあるだろう。
理解が及ばない事もあるかもしれない。
けれどそれもゲームのうちなのさ。
とはいえ、あのモブもさすがに気づく頃合いだろうけどね。
自分達とは違う、周回者が存在することに。

え、なんの話かって?
そう思った奴等は頭悪いな。脳みそついてるのかい?
前回言っただろう?
僕には協力者が存在すると。
だったら同じ場所を何度も使うようなヘマをする訳がないよね?
当たり前の話じゃないか。
ゲームはリセットすれば何度でもやり直せる。
諦めなければいつかは必ずクリアできる。
けどそれは、相手が前の周回を利用しない場合だけだ。
僕がそんな甘いゲームを用意するとでも思っていたのかい?
本気でそう思っていたならお笑い草だ。
まぁモブのレベルじゃ所詮はこの程度か。

さて、次で4周目になるのかな?
3周目はもう時間を無駄に過ごしてしまって終わりだろうしね。
モタモタしてるもんだなぁ。
このゲームが無限に続くとでも思ってるのかな?
”あいつ”の望みが叶ったらこのゲームは終わり。
少しはモブでもやれるってところを見せて欲しいよね。
まぁ無理な話か。
せいぜい次も僕を愉しませるがいい。
最期くらいは華々しく散って僕を爆笑させてくれよ。


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