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20話 3人の天使



カデンツァ魔法学院は3年制だ。
1年から3年まで同じ宮殿に集まり、基本的にはその宮殿内で各々が選択した授業を受ける。
実地試験等は宮殿の外で行われるが、概ねは同じ場所に生徒が集まっている。
1学年20人前後であるため、全員が集まっても生徒の数は60人弱程度だ。
よって学年の違う者が集まる機会が少なくない。
1年は将来を踏まえて2年や3年の有力な生徒に接触する者もいる。
(……とはいえ、だ。)
逆に同じ学年の連中が全員集まる機会は、この学院ではそれほど多くない。
授業は一部の必須のものを除き、どれを受講するかは自由だからだ。
要するに2年や3年がどこどこの場所にいる、と決まってる訳ではないため、特定の誰かを捕まえるのは難しい。
(2年や3年の有力な奴には魔導研究所に入る権限を持っている生徒もいると聞く。
 まぁ誰がそうなのかは正直分からないんだが。)
だが有望な生徒が誰かは分かる。
2年や3年の過去年の総合成績はランキング形式で張り紙がされているからだ。
(さて2年の有望株は、と。)
なにか騒がしい。
どうも人が集まってるようだ。
あれは……2年の奴等か?
ちなみに生徒はロッドの色で何年かが分かる。
「す、すっごいね、ランランちゃん。
 また1位だなんて!」
「僕に何か奢らしてよ!
 い、いや、変な意味じゃないんだ。」
「ふ、ふぇ……
 あ、ありがとぉ。」
複数の男子生徒と一人の女子生徒が集まっている。
特に絡まれて困ってる、という風ではなさそうだが。
だがあの女子生徒は。
(……アンヌ・ポルクスの妹。
 名前はランラン・ポルクス、だったか?)
魔女の家で会った時には上級生には見えなかったが2年生だったらしい。
ああ見えて学業・実地ともに成績は優秀。2年でもトップ層の生徒のようだ。
俺たち1年で言えばコダマとかレラインとかの周りにグループが出来るみたいな感じだと思うが。
「……フン、相変わらずあの女。
 調子に乗って。」
「男を手玉に取る悪女って感じよね。
 ほんとむかつく。」
同じ2年らしき女子生徒が陰口を叩く。
ランランに集まる生徒連中をもう一度見てみるとそれは全て男子生徒。
なるほど、男子生徒からは好かれてるが女子生徒からは嫌われるタイプって感じか。
(言われてみればレラインとかもそんな感じだったな。
 コダマは同性に好かれてるって感じだったが。)
ちなみにキリング・アスレイは男女関係なく人が集まっている感じだ。
まぁそういうのってあるよなぁ。
しばらく2年の連中を観察する。
あんまり眺めてるといちゃもんをつけられそうなのでそろそろ……
(……ん?)
いまのランランの表情。
一人の男子生徒がランランの肩に手を置いたとき。
明らかな難色を示した。いやいきなり異性に手なんて触れられればそう思う女はいるだろうが。
だがなんというか。
(……あの視線は、なんていうか。
 不快、嫌悪、もっと言えば……)
下層ではよく見た視線。
相手のことを人間とすら思ってないというか、塵でも見るかのような。
(……いや、考えすぎだろ。さすがに。)
俺は頃合いと思いその場から離れた。


(……さて次は3年だが。)
結論から言うと2年の有力者とは会えなかった。
ランラン・ポルクスも有力者ではあるかもしれないが、あの様子では会話も出来そうにない。
とりあえずという事で今度は3年の生徒を当たっている訳だが。
3年ともなると後々の進路とかも決めないといけないらしく、2年以上に特定の誰かを見つけるのは難しい。
この学院はいくつもの宮殿や建物があり、3年はあちこちに出入りしている奴も多いからだ。
(そもそも会ったところで俺なんかが相手にされるかって話だが。)
それでもどんな奴かは把握しておきたい。
具体的にどう協力して貰うかは哀音の奴とも相談して……
「……おっと、失礼しました。」
「あぁ……」
考え込み過ぎてたか歩いてた生徒とぶつかりそうになる。
俺は軽く謝罪したが、あのロッドの色は……
……3年っ!
「あ、あの……」
「……なんだ?」
俺は脊髄反射で声をかけてみる。
「お、俺は1年の聖二って言います。
 あの、3年の先輩にお話しを伺いたいなって……」
「……そういうのは他に適任がいる。
 他をあたれ。」
その男子生徒は有望な生徒の名前を俺に教え、行ってしまった。
「……く、さすがに駄目か。」
無計画で3年と知り合える位ならみんなそうしている。
「あーそこの君。
 あの先輩は無理だって。
 同学年に友人の一人もいないらしいし。」
俺が打ちひしがれてるように見えたのか、知らない生徒が声をかけてくる。
「……そうなのか?
 つまり3年生のなかでも下の方ってことか。」
「あーいや、成績自体は超優秀って話だけど。
 ほら君だって知ってるだろ。ハイド・サンドドル先輩。
 今の段階であの魔導研究所に先生込みとはいえ入る事が許されてるっていう……」
(ハイド・サンドドル!?)
今の不愛想な男がか?
しかも魔導研究所に入る権限がある?
「でも本人があんな感じでさ。
 なんていうか自分の世界に閉じこもっているっていうか取り付く島もない感じじゃん?
 3年の先輩に唾つけたいんだったら、他を当たった方がいいと思うねー俺は。」
(……そうなのか?)
確かに不愛想な男ではあったが。
他の有力な先輩についても教えてくれたし、少なくとも嫌な感じは見受けなかった。
口は少し悪いかもしれないが、まぁそれは俺が言えた義理ではない。
(ハイド・サンドドルか……)
サンドドルと聞くといろいろ思い出す事もあるが。
とにもかくにも、その顔と名前は憶えておこう。


日も暮れて来ており、生徒の数も減って来た。
今日はこの辺りで帰るかと考えていると。
(……あの教師は。)
金髪の美人教師、シャルライト・エレインの姿が見えた。
一緒にいるのは他の教師ではなく、生徒のようだ。
それ以外の生徒も彼女を見て、羨望の眼差しを向けている。
前の周回の実地試験の時も感じたことだが、学年関係なく人気のようだ。
(学院長エルカサスの懐刀か。
 とはいえさすがにあれと付き合えるとは思えない。)
今の俺は特に目立つ訳でもない1年生徒。
話したところで相手にされないのは目に見えているだろう。
ラークっていう教師はたまに声をかけてくれるんだが。
(個人的にもあのタイプの女はあまり得意じゃない。
 如何せん俺は地が悪いからなぁ。)
優等生、才色兼備みたいなタイプは基本的に合わないのだ。
まぁそんな好みを言っている場合ではないのだが。
(けどなんだろうな、あの女。)
確かにあの女は常に穏やかな微笑みを生徒に向けている。
けど俺にはそれが、なんだか。
造り物めいたものに見えたのだ。


魔導研究所の最奥。
聖二はこの研究所に入る権限がある生徒とまとめて称したが。
当然フロア毎に権限は分けられており、いくら優秀な生徒といえど最奥に入る権限などない。
否、生徒に限らず最奥に入る事が許されているのはカデンツァ全体を通しても数える程だ。
だがこの男ハイド・サンドドルは生徒の身分であるにも関わらず、この最奥に足を踏み入れている。
その理由は言うまでもなく。
「……あ?」
ハイドが思わず声を出す。
その理由は目の前の光景にあった。
「ふ、えぇぇぇええぇ。
 ま、また人間なんかに触られたぁ。
 き、ききき、気持ち悪いいぃぃ。もうやだぁぁぁぁ。」
ひたすらに泣きじゃくる少女、ランラン・ポルクスと。
「あらまったく困った子ね、ラナー。
 でももう少しだけ我慢して頂戴。
 貴方が卒業するまでには終わる計画だから。」
それを子供でもあやすように抱きしめている女、シャルライト・エレイン。
「うぅぅぅ。お姉様ぁぁぁ。ぷ、うぅぅぅぅ……」
「ちゅ……うぅぅぅぅぅ……」
二人の女はいつの間にかキスをしていた。
ハイドは難色を顔に出しながらも声をかける。
「……おい貴様ら。
 これは一体どういう意味だ?」
「うぅぅぅぅ。ふぇぇぇぇ。」
「あら、どういう意味とは何がかしら?
 ハイナー。」
果てているランランを余所にシャルライトが反応する。
「貴様らの趣味は、まぁこの際いい。
 その死体はなんだ、と聞いているんだ。」
ハイドは視線を”そちら”に向ける。
そこには一人の男子生徒のばらばら死体。
そう、先ほどランランの肩に手をかけた男だった。
「えぇ、まったく。
 ラナーったらまたやってしまったみたいね。
 困った子だわ。」
「ふぇぇ、ごめんなさぁぁい……」
ハイドはその様子を見て苦虫をかみ潰したかのような顔で詰問する。
「シャルナー。
 貴様がそんな甘い態度をとるから、その馬鹿女は何度も人間を殺す。
 それもとてつもなくくだらない理由で。」
「まぁいいではないですか。
 死んだのは2年の中でも最下層の生徒。
 わたくし達の任務を遂行するにあたり、有用な協力者になる事はないでしょう。」
「そういう問題ではないだろう。」
「そういう問題でしょう。
 といいますか……」
「……っっ!?」
ハイドが突如姿勢を崩す。
いつの間にかシャルライトことシャルナーの背中からは白い翼が生えていた。
ならばシャルナーの何らかの力にハイドは屈したのか?
「貴方は私に指示をする立場にはありません。
 5階級の貴方は私に従う身です。
 前から思っていましたが、少しは立場というものを弁えなさい。」
「……ぐ……」
天使は自分より上の階級の天使に従わなければならない。
それは天使にとっての絶対法則の一つである。
ハイドは両手を床につけながらも恭順の姿勢をとる。
顔だけは上げることなく。
(……何故、俺は未だこんな場所にいる。
 こんな地の底に……)
その顔は憤怒と諦観に染まっていた。


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