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21話 聖二の特訓



「ハイド・サンドドル先輩と知り合う方法はないかって?」
「あぁ。何かいいアイディアはないか?」
魔法学院のことは魔法学院の人間に聞いた方がいい。
俺は学院の唯一の情報源であるガライに相談をしていた。
「つーか、なんでハイド先輩?
 もっと有名どころはいなくね?
 あの人、周りとの付き合いはあんまなさそうだし。」
「あ、あぁ。
 まぁなんとなくっていうか……」
少なくとも魔導研究所に入る権限をあの男は持っている。
残りはぶっちゃけ勘だ。
俺の相談にガライはうーんと悩む恰好になる。
「せ、聖二君って、この学院の偉い人を目指してたんだ……?」
「あ、あぁそうだな。
 いろいろと話を聞いているうちに、な。」
「そ、そうなんだ……
 なんだか意外……って、ご、ごめんっ。変な意味じゃ……」
話に入ってきた詩織が途端に謝罪を始める。
いやまぁ確かに俺は偉い奴を目指すってタイプじゃないからその認識は合ってるが。
「わりぃ、さすがに思いつかねぇわ。
 なんせハイド先輩については情報が殆どねぇからな。
 すっごく優秀な生徒って事は確からしいんだけど。」
「……そうか。
 まぁそうだよな。
 悪い、無理を言った。」

「ほう。聖二君はあのハイド先輩に興味があるのかね?」

俺たちの会話に一人の男が割り込む。
キリング・アスレイ。1年のエースである男子生徒だ。
以前の周回では実地試験でやり合った相手でもある。
……だがそれは俺にとっての話であり、今回の世界で俺との接点はまだない筈だが。
「キ、キリングさん。
 なんでそんな落ちこぼれの奴等と話すんですか!?」
キリングの取り巻きの一人が口を挟もうとするが。
「話したいからだ。
 それが学友というものだろう?」
キリングは爽やかにそう返した。
取り巻きは悔しそうに押し黙る。
なんとも微笑ましいことだ。
「すまない見苦しいところを見せた。
 それで君はあのハイド先輩に興味があるのかね?」
「あ、あぁ。
 なんかいい方法はないかなって探ってるところなんだ。」
「ほほう?」
キリングは何故か嬉しそうな顔をし、自分の席から何かの紙を持ってきた。
「……フラットの夜会?」
「あぁそうだ。
 ラーク先生が主催する夜会なのだがね。
 此処にハイド先輩も参加される予定だ。」
「そうか、助かる!」
「だが。」
キリングはニヤリと笑う。
「この夜会で行われるのはトーナメント形式の魔法戦闘戦だ。
 そして前年度では先輩は自身が参加された夜会では全て優勝をもぎ取っている。」
「と、トーナメント戦?魔法戦闘戦?」
以前アンヌ・ポルクスが開催する夜会には行ったが、全然違うじゃねぇか。
「なんだか、ラーク先生っぽい夜会だね……」
「それは確かに言えてるな!」
単にあの熱血先生の趣味じゃねぇだろうな。
いずれにせよその夜会に参加するってことはそういう事らしい。
「で、どうする?
 君も参加するかね?」
「君もって、あんた……」
やたらキリングが嬉しそうにしてたのは参加者を増やしたかったからか?
1年でキリング以外にそのフラットの夜会とやらに参加する奴はいないようだ。
まぁ実地試験の様子を見るに殆どは戦闘者としては素人だったし、そんなもんに参加したがる奴はそうそういないだろう。
「……なんだか野郎尽くしの夜会になりそうだな。」
「ふふ、いいではないか。
 頂点というものは男なら一度は憧れるものだろう?」
キリングはまるで子供のようにはしゃいでいた。
頂点とか言われても、俺がそんな器でないことはとうの昔に痛感してるんだが。
「けどありがとな。
 俺も参加してみるよ。」
「そう来なくてはな。」
……魔法戦闘戦か。
まぁ武器なしなら殴り合いも許可されてるらしいが。
またこいつ素手で戦う気じゃないだろうな?
(……インファイト。
 あの男がいたら参加してたのだろうか?)
前の周回でレライン絡みの件で共に協力した男。
あの男はアンヌ・ポルクスと戦った後の世界では入学して来なかった。
元々入学する予定ではなかったと言っていたし、アンヌ・ポルクスの介入がなければこの学院に入学して来ることもないのだろう。
(ほんと、変な感じっていうか、なんていうか……)
向こうは俺のことなど知らないのに、俺の方だけが一方的に知っている。
それは少なからず寂しく思える。
けれどこれからずっとこんな戦いが続いていくんだ。
(痛みは、耐えられる。)
それが心の痛みであっても。
俺はまだ、何一つ成していないのだから。


「それでその夜会とやらで勝つために、
 少しでも力をつけておきたいと。」
「あぁ。
 そのために俺に特訓をつけて欲しい。
 頼む。」
俺は天衣魔縫ことリオンに事情を説明していた。
実地試験の時は魔物との戦闘経験すらない輩が殆どだった。
それも集団戦であり、スライド等の小手先の魔法が通じる戦いだった。
だが1vs1のトーナメント形式というのであれば、そんな手段では勝ち抜けない。
1回戦で負けるような相手にハイド・サンドドルはなんの興味も示さないだろう。
「……知ってのとおり、俺個人の力は凡夫極まりない。
 個人戦で少しでも戦える力が欲しいんだ。」
「……分かった。
 力を貸そう。」
リオンはそう言って構える。
武器はない。素手の構えだ。
俺は強制認知の札をその場に置く。
これがなければ俺はカデンツァの連中に認識されない。
そして時の放浪者同士であれば、リオンも全開で俺と戦うことが出来る。
とはいえ。
「さすがに加減はさせて貰う。
 こう見えても私も連盟の一人だった男だ。」
「あぁ。」
俺も戦闘の構えに入る。
俺自身はロッドを使用したハンデ。
だがそれでも。
「それでも、魔法学院の生徒とやらよりは、
 私の方が上だろう。」
リオンから闘気が放たれる。
それだけで俺の身体は身震いする。
……は、我ながらさすがの小物ぶりだ。
(魔法戦闘戦は、如何に魔法攻撃を相手に与えられるかが勝敗を決する。)
要するに詠唱しきる事が出来るかどうか。
集団戦なら詠唱中の魔法使いを前衛職がカバーする。それが基本だが。
(1vs1なら単純に詠唱が早い方が勝つ。
 そして俺の詠唱速度は学院の1年の中でも平均レベル、もしくはそれ以下だ。)
つまり魔法のみを使用した戦いにおいては、俺は話にもならないということ。
1年で参加するのは俺とキリングのみ。
残りは2年以上だ。俺より詠唱が遅い奴はまずいないだろう。
(つまり基本は。)
俺はボクシングスタイルでリオンに迫る。
相手に詠唱をさせないための攻めの姿勢。
その状態で魔法の詠唱を行う技術が今の俺には必要だ。
「サンダー。」
そんな俺をリオンの電撃が襲う。
目の前に立たれたところで関係ないと言わんばかりに。
俺はなんとか態勢を立て直そうとするが。
「ぐっ!?」
そこにリオンの殴打が入る。
胸への直撃。
そして。
「プラズマ。」
「ぐああああぁぁっっ!!」
俺はたまらず倒れてしまう。
対するリオンは涼しい顔だった。
「そのレベルの牽制なら簡単に詠唱できる。
 Lv1魔法なら詠唱に時間は要さない。
 1vs1の魔法戦闘に慣れた人間なら、この程度は基本技能と思え。」
「……は、成程。」
俺は立ち上がり、再度構える。
「連続で行くぞ。
 時間がないんだろう?」
「あぁ。勿論だ。」
そうして俺とリオンの戦いは夜近くまで行われた。
無論、基本は俺がぼこられるだけなので戦いとは言えないものなのだが。
しかし肝心の夜会の前に筋肉痛とかになりそうだ。
時の放浪者にそんなものがあるのかは分からないが。


「Zzzzzz……」
「こら、そこの生徒!起きろ!」
「せ、聖二君……」
「なんかあいつ、最近毎日寝てるな。
 よっぽどすげぇ特訓してんのか……」
案の定、疲れが溜まっており授業中は殆ど休憩時間だった。
ガライと詩織は俺の事情を知ってるので、先生にフォローしてくれてるが。
いろいろと申し訳ない……


「フレイム!」
「……っ!?
 成程、ようやく少しはマシになったな。」
数日後。
俺はようやくリオンに一撃を入れることが出来た。
まぁすぐに魔法の連打で押し返されたが。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「付け焼き刃ではあるが、初日に比べれば多少はものになった。
 この学院で言うと、そうだな……」
リオンは一息おくと。
「おそらく2年レベルならお前に勝てる奴は殆どいないだろう。」
2年の授業を一度見に行ってくれてたらしい。
キリングは2年に混ざっても上位だろうし、そもそも夜会には自信がある奴しか来ないだろうから、それでようやくってレベルだろうが。
(……さて夜会は明後日だ。
 明日はさすがにゆっくり休養するか。)
時の放浪者にも疲れは存在する。
まったく我ながらよく分からない存在になったもんだ。


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