SS TOPに戻る 前へ 次へ


22話 男たちの戦い



フラットの夜会。
学院の教師ラーク・ハインヌが開催してる夜会、だが。
「……なんっじゃ、こりゃ。」
厳つい野郎共が集まり、準備体操をしたり筋トレをしたり筋肉を披露したりと。
とても魔法使いの集団とは思えない。
アンヌ・ポルクスの夜会とは何もかもが違う、汗臭い空間だった。
「うむ、来たな聖二君!」
「あ、あぁ……」
キリングと再会する。
なんかすごい場違いなところに来た感が否めないが。
「見てのとおりこの夜会は己の培ってきた力を披露するための場だ。
 みな今日のために鍛錬を重ねて来た猛者たち。
 君もきっと血がにじむような想いで此処に来たのだろう?」
いやそんな想いはない。
今更ながら帰りたくなって来た。
「あぁちなみに聖二君の参加申請はしっかり私が提出しておいた。
 お互い良い戦いが出来るように頑張ろう!」
逃げ場はないらしい。

数十分後、主催のラーク・ハインヌが現れる。
如何にも筋肉のおっさんといった感じだ。
とりあえず魔法使いには見えない。
「よく来たなお前ら!
 じゃあ早速だがこの夜会の主催である俺から開催の挨拶だ!
 優勝目指して奮闘しろぉぉ!!
 以上だぁぁぁ!!」
「うおおおぉおぉおおぉおぉおおおぉっっ!!」
一瞬で終わった挨拶に対し、野郎共は雄叫びで返す。
なんだこれ?
隣のキリングも例に漏れず吠えていた。
こいつが貴族のボンボンだと思ってた頃が懐かしい。
「どうした聖二君!?
 気合が足りないぞ!」
「う、うむ。
 お、おぉぉぉおぉおぉ……」
俺は何をやらされているんだ?
「さぁこれが今回の対戦表だ!
 参加者は全部で11人!
 1年が2人!2年が6人!3年が3人だ!
 1年の2人はまぁそう気負うな。
 勝てなくて当然。だが勝ちにいけぇぇ!!」
どっちだよ。
とにもかくにも発表されたトーナメント表を拝見する。
人数の都合上、5人は無条件で2回戦進出。
3年や2年上位がその5人となっている。
そして俺は。
「初戦からかよ!?」
既に相手の野郎は上半身の服を脱いでスタンバイしている。
「第1試合から出番とは幸先が良いな。
 君の実力、見せてもらうよ聖二君。」
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「どうした?」
「上って脱がないといけないの?」
「特にそんな決まりはないが、半分近くは脱いでるようだな。
 私は貴族の仕来たり上それは出来ないが。」
貴族でなかったら脱ぐつもりだったのだろうか?

そして俺はリングに上がる。
だからこれは何の戦いなんだよ。
(……なんて突っ込んでる場合じゃない。
 1回戦で負ける訳にはいかないからな。)
肝心のハイド・サンドドルは2回戦の第4試合から始まる。
盛り上がりのためにトリにしているのだろう。その最初の対戦相手も同じ3年だ。
(必然と1年の俺たちが3年に当たるのは準決勝からになる。
 結構配慮されてるなこのトーナメント表。
 ただ……)
トリということは第1試合の俺は決勝までいかないと奴と戦えない。
「さぁ始めるぜ!
 第1試合に出て来るのは1年坊の封座聖二!
 そして2年のパワード・サンクスだぁ!」
その名前は絶対本名じゃないだろ。
相手はガタイの良い格闘家って感じの男だ。もう突っ込まんぞ。
「試合開始だぁっ!
 気張れよお前らぁ!」
魔法球の爆発と共に試合が始まった。
「行くぜぇっ!1年坊!」
相手のパワードが俺に向かって突進してくる。
ボクシングスタイルを装ってるがぶっちゃけ雰囲気だけだろう。
別に格闘家ってわけじゃない。
俺は距離を均等におきながら魔法詠唱を小声でしていた。
「……パラライズ。」
「ぐぉっ!?」
男の身体が痺れ……なかった。
ち、麻痺耐性の装飾品をつけていやがったか。
しかしそれなら。
「……スライド。」
「うぉっ!?」
巨体の男が突如転びそうになる。
だが。
「おぉぉおぉぉおぉおっっ!!」
「は、嘘だろ!?」
無理矢理身体を回転させ、踏みとどまった。
どうみても魔法使いの動きではない。
来る場所間違えてるんじゃないのか?
「無駄だ、そんな小細工は!
 俺には魔法使いとしての才がない。
 だが故郷を救うため、俺は魔法使いとして大成するんだ。
 1回戦で負ける訳にはいかねぇ!」
「……大成したいなら他に行く場所あるんじゃねぇか?」
「イムヌスか?
 無理だ、俺の腕ではあそこでのし上がることは出来ねぇ。
 だからこそ此処では負けられねぇ!」
俺の腕ではのし上がれない、か。
確かにガタイは良いし、動きも悪くない。
だが俺程度で戦えている。
つまりはそういうことだ。武闘だけで上位を狙える程じゃない。
「悪いが勝たせてもらう。
 これでもそれなりに器用貧乏なものでな。」
「いいぜ、やれるもんならやってみなぁ!」
相手のパワードは魔法詠唱をまったくしていない。
完全に武闘だけで決着をつけるつもりなのだろう。
だがここはどれだけ体育会系でも魔法使いの戦いの場だ。
「はああぁぁぁっっ!!」
パワードの正拳突きが俺に迫る。
俺は寸でのところでその一撃を躱し。
「……スライド。」
その”拳を”転ばせた。
「な……っ!?」
転んだ拳は明後日の方向に向かっていく。
隙は十分な程に出来た。
俺はLv2の魔法詠唱を終えていた。
「フレイム!」
「ぐあぁっ!?」
炎の直撃。
魔法耐性が低かったのか、パワードはたまらず膝をついた。
「そこまでだ!
 勝者は封座聖二!」
ラークが試合終了の宣言をする。
「ふぅ……」
まずは1回戦の勝利。
「素晴らしい。やるな聖二君。」
「あぁ、お前も頑張れよ。」
ちらりとハイド・サンドドルの方を見る。
試合は見てくれてたようだがまだまだ無関心の風だ。
(いいぜ。残り2つだ。)

そして試合は続く。
俺は2回戦も有利に状況を進め、勝利した。
口では簡単に言えるが、前までの俺なら負けていたであろう実力者だった。
だがリオンと特訓してた俺にとっては、想定内の動きと行動パターン。
我ながら師に恵まれたもんだぜ。
(……強くなる、か。
 久々だな。そう実感できるのは。)
なおキリングも1回戦、2回戦を勝利。
すげぇな、今年の1年はと周りから感嘆の声が上がっていた。
この時点で2年は全滅。
そして2回戦第4試合、ハイド・サンドドルの出番が来た。

「………」
ハイドは無言でリングに上がる。
その恰好は以前俺が会ったときとなんら変わらない。
要するに普段着だ。
「……来たぜ。」
「チャンピオンだ。さすがに貫禄が違うな……」
ざわざわと周囲に緊張が走る。
相手の3年の男が構える。
「俺は前回、決勝でお前に負けた。
 言い訳のしようがない、完璧な敗北だった。
 だがあの時と同じとは思わないでもらおう。
 優勝は、俺がいただく。」
その気迫はここまで迫る程だが、ハイドは涼しい顔で対峙してるように見えた。
「試合開始だぁっ!
 3年の実力を見せろお前ら!」
試合が始まる。
それは高レベルの攻防戦だった。
どちらも無駄がない動きのように見えた。
だが。
「……成程、確かに以前よりは強い。
 だが。」
ハイドは一瞬で男の背後に回り込み。
「セクリッド。」
「ぐあぁぁぁっっ!!」
背中に魔法の一撃。
そして次の瞬間には男は宙に飛び、リングの外に落ちた。
「うぉぉぉっ!つ、つえぇ!」
「……勝てる気が、しねぇ。
 今回も優勝は決まりか!?」
終わってみれば試合内容は終始ハイドが優勢。
本人はダメージどころか疲労も一切見えない。
率直に言って格が違った。
(……ていうか、強すぎじゃね?)
本当に人間かどうかが疑わしかった。

そして準決勝。
俺の対戦相手は3年。
今までのようには行かないだろう。
ハイド・サンドドルに負けた3年も、俺の今までの相手より明らかに格上だった。
「1年でここまで来るとは大したものだ。
 心から敬意を表する。
 だが悪いがここまでだ。
 俺には勝てん。」
「だろうな。」
それは殆ど本音だった。
だが。
(……あの人の魔法属性は水と風。
 オリジナル魔法はない、と思う。)
(分かった。)
哀音の声が俺に届く。
2回戦の3年の試合。俺は哀音に解析をお願いしていた。
リオンに鍛えられたとはいえ、俺が実力で勝てるのは2年まで。
同条件なら俺は3年には勝てない。そう踏んだ。
才能がないと分かっているからこそ、事前準備は反則だろうと使わせてもらう。
「さぁいよいよ準決だ!
 ここまで快進撃を続けた1年の封座聖二!
 それに対峙するは3年の磯貝有馬!
 1年からこの夜会で着々と力を磨き続けた努力の男だ!」
(努力の男、か。)
才能で劣る場合、努力で補うしかないとはよく言われる。
だが才能のある人間だって努力をする。
当たり前の話だ。
だったら才能のない人間はどうすれば、才能のある人間に勝つことが出来るのか。
(そんな方法は”ない”。
 それが才能の差だ。)
だから勝たなくてもいい。
ここは殺し合いの場ではないし、それに。
「試合開始だぁっ!」
俺にとっては名誉を得る場ですらない。
単なる目的のための通過点だ。


SS TOPに戻る 前へ 次へ