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24話 羨望と嫉妬
俺には目的がある。
決して退くことの出来ない目的が。
雫を悪夢の運命から救うために。
この都の破滅を回避するために。
そのためであれば。
(……安いもんだ。
俺の心なんて。)
「その程度でお前は、多くの人間を背負う気か?」
そうだ。
俺は救うと、そう決めたんだ。
「とどのつまりそれだけの話。
まずは成し続けるだけの意志があるか、それだけだ。
手段云々はその後の話。」
意思。
覚悟。
あんたに比べればそれはちっぽけなものかもしれない。
「それはまっとうな人間の精神で、
保てるような状態ではないだろう。
お前に向くとは到底思えないな。」
分かってるさ。
俺に向いてないことくらい。
きっと俺はこれからも何度も何度も挫けそうになるだろう。
「だが俺も向きもしない事を続けている。
俺のような救えん破綻者が、
お前達を守るなどという、身の丈に合わないことをな。」
それでも関係ない。
俺に向いてるか、向いてないかなんて。
もう、関係ないんだ。
(……それでも。)
それでも羨望を抱かずにはいられない。
自らの意思を貫き通す。
キリングの姿を見ることで、俺はかつて見た眩しさを思い出していた。
悔しいという思いが俺の中にある。
俺はきっとその輝きに憧れ続けるのだろう。
(手段なんて選んではいられない。
俺にはそんなものを悠長に選べるほど、力はないんだ。)
そして自分は。
その輝きを享受することは決してできない。
もうその生き方を選んでしまった。
時の放浪者などと呼ばれる存在となり。
本当の意味で引き返す道はもうない。
「どうだ封座聖二?
私たちは手を取り合えるだろう。」
俺一人で歩けるような道じゃない。
あんたは一人で、これからも歩いていけるんだろうけど。
それは俺には出来ないことだ。
3人もいてようやくやっと。
その程度が俺という人間。
でも、それでいい。
羨望を抱き続けていいんだ。
悔しいと思ってもいいんだ。
そんな事は問題にならないんだ。
(……あんたも、本当は同じだ。)
俺とは悩むところが違うだけ。
意思を貫徹する。
成程、それは素晴らしいことかもしれない。
でもあんたはそんな事を思っちゃいない。
一度たりとて自分自身を認めたことなんてない。
そう、今ならそう思える。
(あぁ、なんだ。)
簡単なことだった。
ただ、受け入れる。
自分の弱さを。
あんたの弱さを。
そう、それだけで。
(今はこんなにも近くに見えるよ。
あんたのことが。)
そしてそんな俺だからこそ。
見えるものだってあるのだから。
「な、なんだ!?
この竜巻は!魔法なのか!?」
「おまえら離れろぉ!
おい、聞いてるのかおまえらぁ!」
哀音によって放たれた巨大な竜巻。
その竜巻はリングを大きく囲み、観客はパニックに陥っていた。
俺とハイド・サンドドルは竜巻の中でその負荷に圧されていた。
「……ぐっ!?
なんだ、これは……?」
この状況なら何をしたところで周りに気づかれることはない。
膝をつくハイドに俺は近寄る。
予め風耐性のアクセサリをつけていたとはいえ、俺だって長くは持たない。
それでもなんとかハイドの目の前に立つことが出来た。
「さあ、ここでなら隠し事をする必要もないぜ。」
「……貴様。
この竜巻は貴様が引き起こしたのか?
……いいや。」
既に察したようだ。
俺の身体もまた竜巻の負荷を受けていると。
「あぁそうだ。
俺の力なんて微々たるものだ。
俺たちの中で俺の力は間違いなく最弱。
けどだからこそ分かることがある。」
「……なに?」
「あんたがまっとうな人間じゃないことはもう分かっている。
キリングとの戦いで見せた天使の力。
おそらくあんたは天使の端末となった人間。
もしくは天使自身の意思か?」
かつてリオンがザフキエルという天使と一緒になっていたように。
目の前の男の意思がどちらのものかまでは分からないが。
「天使の生態なんて俺は知らないが。
まぁそんな事は今はいい。
あんたにも何らかの目的があるんだろう。
けど。」
その目的のためにこの夜会に毎回出ているのか?
俺には違うように思えたんだ。
何故ならば。
「あんた、この連中に対して羨望の念を抱いているだろう?
少なくともキリングに対してはそうだったよな。」
「……っ!?」
動揺。
この男の事なんて俺は知らないのに、俺には手に取るようにその心情を理解できた。
俺自身が、そうだから。
果たさないといけない目的があると分かっていても、その本心を偽ることが出来ないから。
こいつはキリングより遥かに強い。
当然だ。天使なんだから。
人間より遥かに大きな力を持っていることは間違いなく。
それに真っ向から打ち勝てるのは兄貴や刹那のような圧倒的な強者のみだ。
だがそれはあくまで、元から持っていた、”ただの”力に過ぎない。
「俺があんたに勝てないのは単なる種族差だ。
けどこれは俺の推測だが。
あんた達の中ではどうなんだろうな?」
更に深く入る。
目の前の男の心に。
「……貴様。
どこまで知っている?
シャルナーやラナーの事も把握しているのか?」
知らない名前。
それはおそらく他の天使の名前だろう。
表層は落ち着いてる風に見えるが、その動揺は明らかだった。
「別になにも。
ただあんたが自分が果たしたい目的のために。
やりたくもない事をやっているんだと思ってな。
今の俺が、そんな感じだから。」
「………」
この夜会で決勝まで勝ち進み、この男と対峙する。そのために。
本当は選びたい手段を、選ばずにここまで来た。
そしてこれから何度もそういう選択があるだろう。
だがそれは選択に見えて、本当は選択になどなっていないのだ。
「ただ目的を叶えるため。
そのために、自分の幸せを、幸福を捨てる。
そう、見えたから、まぁなんていうか。」
俺はポリポリと頭を掻く。
「共感、とは違うかもしれないが。
どこかで通じるものがあると思ってな。
だからこうして、話してみたくなったんだ。」
話が支離滅裂なのは分かっている。
いったい何を言ってるんだと相手は思っているだろう。
だがこれは今の俺たちには必要な事のように思えた。
ならば俺は迷いながらも、続ける。
「あんたには他にも天使の仲間がいるらしいが。
そいつらとはどうなんだ?
あんたとそいつらは信じあえる仲間なのか?」
「………」
俺の真意を見抜こうとしているのか。
単にまだ動揺しているのか。
だが目の前の男はついにその心の内を晒した。
「貴様はどうなのだ?
この竜巻は貴様の仲間のものなのだろう?
貴様だけでは準決勝で敗退していた。」
「あぁ、その通りだよ。
だからまぁ、本当はまだまだ劣等感があるのかもしれない。
それはこれからも、ずっと続くものなのかも。
けど、少しずつその差を埋めていくことは出来るかもしれない。
そんな風には思えるかな。」
どうせ俺の言葉は竜巻の外にいる哀音には聞こえていない。
この場にはいないリオンも同様だ。
だからか、俺は内情も知らない相手に対し、本音を漏らしていた。
知らないからこそ、かもしれないが。
「……妙な男だ。
本当に、おかしな人間だ。
いや、貴様も既にまっとうではないのかもな。」
「……どうだろうな。」
前と大して変わっていない気もするし。
いろいろと吹っ切ることが出来た気もする。
ただそれもまた、単なる気のせいなのだろう。
「……少し思い出した事がある。
今の今までずっと忘れていた、彼女のことを。」
男は零し始めた。
自らの心情を。
「俺には過去の風景が単なる過去でしかなく。
ただそこにあっただけのものでしかない。
……あぁこんな言葉では分かりにくいか?
色がない、とでも言うべきか。
全てのものに色がない。
あの時から、全ての色は失われてしまった。」
それはこの男だからか?
それとも天使だからか?
俺には分からない。
だからただ耳を傾けて、黙って聞くだけだ。
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