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26話 天使との食事



「夜会でこのような催しを行うから、
 こういう事になるのです。」
「へぇ。申し訳ありませんね。」
「まったく、お騒がせものですねぇ。」
フラットの夜会が終わってからはや1時間。
シャルライトとメイクが、主催のラークに苦言を呈していた。
決勝戦で発生した巨大な竜巻。
それは夜会の外からでも分かるほど目立つ自然現象だった。
目撃した人々がカデンツァ警備隊に連絡。
どんどん騒ぎになっていき、魔法学院の関係ということで教師シャルライトもこの場にいる。
「こういった自然現象は稀ですが、過去なかった訳ではないようです。
 今は生徒に怪我人が出なかったことを喜びましょう。」
「そうですな。仰る通りで。」
更には学院長エルカサスまでがこの場にいた。
魔法学院の生徒はまだ正式なカデンツァの民ではない。
卒業したらカデンツァの民になる者もいるだろうが、故郷に帰る者もいるだろう。
地方の人間ならまだしも、イムヌスから来た貴族が大怪我もしくは死亡なんて事になればその責任は免れない。
「貴族といえばキリング・アスレイも担架で運ばれたと聞きましたが。
 それは本当ですか?」
「え、えぇ。まぁそれはそうなのですが……」
詰問する人間がシャルライトからエルカサスに代わり、さすがのラークも罰が悪いようだ。
この様子ではしばらくはこの夜会を続ける事は出来ないだろう。
しばらく、で済む問題なのかは分からないが。
(それはそれで少し、寂しい気もするな。)
俺は内心そう思う。
あれに参加した奴等はみんな愉しそうに思えたからだ。
あのハイド・サンドドルも、また。


夜中の0時が回ったころ。
魔導研究所の最奥。
ハイド・サンドドルこと天使ハイナーはまたこの場に呼ばれていた。
更にはシャルナー、ラナーの2人の中位天使。そして。
「今回は随分な騒ぎでしたが。
 あの竜巻は貴方が原因なのですか?
 中位天使ハイナー。」
「俺ではない。
 あれは自然現象で決着がついたのではなかったか?」
学院長エルカサスもこの場にいた。
「偶々あんな自然現象があの場で起こったとでも?
 私がそのような戯言を信じるとでも思ったのですか?
 如何に天使様といえどやっていい事と悪い事がある。」
「まぁまぁ、そう怒らないで頂戴。
 私の方できっちり叱っておきますので。」
先程はハイナーを責めていたシャルナーが割って入る。
残ったもう一人のラナーは興味なさそうに欠伸をしていた。
「怒ってない訳ではないですが、
 あんなものが本当に偶然だったのか私は知りたいのよ。
 あの竜巻を目撃したのはラーク先生と夜会に参加していた生徒たちのみ。
 だからこそこうして聞いている。」
「ふぇぇ。いつまでやってるのぉ。
 もう飽きたよー……」
同じやり取りの繰り返しにラナーは文句を言う。
「不本意ながら同意だ。
 俺が普段は生徒として行動することを決めたのは貴様だろう、エルカサス。
 その俺が偶々、例の竜巻を目撃した。
 ただそれだけの話だ。
 文句を言われる筋合いはない。」
ハイナーもラナーに便乗する。
だがハイナーの言に対してはシャルナーが割って入った。
「それは少しばかり職務怠慢ね。
 私達は中位天使。神の、高位天使様の使いとしてこの場にいるのです。
 竜巻の1つや2つも対処できないのは中位天使として恥ずかしくはなくて?」
「そんな真似をすれば、最悪俺たちが天使であることが露呈する。」
「まぁ、それもそうね、
 貴方の言にも一理ある。」
エルカサスはさすがに時間の無駄と思ったか、ハイナーの言い分を認めた。
「私が疑っているのはあれが魔法で作られた竜巻ではないのか。
 私達の”計画”に問題が生じていないか。
 それだけよ。」
「魔法で作られたか否かの判断ができない程、愚鈍じゃない。」
「……まぁ、いいわ。
 だったら今日はここまでにしましょう。」
エルカサスが退出する。
残るのは天使達だけとなった。
ラナーはまた欠伸をする。
「ふぇぇぇ。眠いよぉぉ。
 ハイナーはよく私に文句つける癖に、自分は騒ぎを起こしてぇ。
 ほんっと迷惑だと思うんだ。
 そうですよねーシャルナーお姉さまぁ。」
「まぁ、その話はもう終わりにしましょう。
 さすがに退廃の悪魔がこの場にいれば、私達とて気づく。
 これは不幸な事故だったと、そう判断するほかないでしょう。」
「………」
結局のところ、エルカサスや天使達が危惧していたのはそこだった。
竜巻を簡単に生み出せる存在自体はいる。
天使がいるのだから、悪魔もいるのではないか、と。
「仮にそうだとしたら、それは俺のせいじゃない。
 この計画の進行に問題がある。」
「まぁ、確かにその可能性はあるわね。
 私達は彼等を”釣ろうと”しているのですから。」
シャルナーは優雅に微笑んだ。


竜巻騒動からはや3日。
俺はとある場所を訪れていた。
「一応は誤魔化せたはずだ。
 まったく、何度も何度もこの件で絡まれた。」
「そりゃ苦労をかけたな。」
カデンツァの区画の一つ。
まぁいわば食事をする場。
そこに俺とハイド・サンドドルはいた。
勿論食事をするため等ではない。
「じゃあそちらで。」
「かしこまりました。」
食事自体は注文するが。
「それで貴様の仲間とやらも今この場にいるのか?」
「あぁ、俺のすぐ後ろにいるぜ。」
哀音が俺の後ろで待機している。
リオンは天使の端末となっていた事が影響するかも、という事で今回は席を外してもらっている。
「妙なものだ。
 ただまぁあれほどの竜巻を発生させられるんだ。
 それ位のことは出来るのかもな。」
あの夜会の決勝戦。
俺はこの男ハイド・サンドドルと話の場を設けることを提案した。
あのまま放っておく訳にもいかなかっただろうし、それに。

「お前となら、分かり合える部分があると俺は思ってる。」

それは単なる本音だ。
かつてガルクエルという高位天使にこの男は仕え。
そこで起きた悲劇に今もなお苦悩している。
天使は何度か見たが、こんな天使は今までいなかった。
話せる相手だと、そう思ったことは嘘じゃない。
「なら単刀直入に聞こう。
 貴様は何者だ?
 何故この学院に貴様はいる?
 目的はなんだ?」
「それはちょっと質問が多すぎやしないか?
 俺だってお前のことは知りたいんだぜ。」
天使がこのカデンツァにいる理由。
俺とこの男がこの場で話しているのは、それを知りたいからだ。
哀音の情報収集魔法では天使である事すら分からなかった。
「それは俺の一存では話せない。
 だが貴様の目的によっては許可を得ることが出来るかもしれん。」
「だったら俺たちの方から目的を話す。
 俺たちが何者かはあんた達の目的を聞いてから答える。
 それが平等だろ。」
「……分かった。」
時の放浪者。未来から来た。
天使といえどそんなことは簡単には信じられないだろう。
このあたりが妥当なところに思えた。
「俺たちがこの学院にいる理由はたった一つ。
 この都の滅びを回避したいからだ。」
「滅び、だと?
 どういうことだ?」
俺たちは醜悪の悪魔ダルバックの件について説明する。
勿論、過去の周回とかそんな話をした訳じゃない。
だが魔導研究所の方で奴等の魔力を確認できた。
俺の知り合いには予言魔法を使える奴がいて、俺たちはその一族の魔法使いだ。
俺はその末端としてこの都の調査をしている。
などと哀音やリオンと考えた設定を、ハイドに説明した。
「嘘くさいな。」
「俺もそう思う。」
これでも結構考えたんだがな。
未来から来たよりは真実味があると思う。
「だがあの魔導研究所に奴等が転移して来る。
 それはない可能性ではない。」
「それは、どうしてだ?」
今度は俺の方が質問する形になった。
ハイドは少し逡巡した後、口を開く。
「あそこは強力な魔道具や、幽閉した魔物で溢れている。
 そのなかには奴等が転移するための触媒になるものもあるかもしれない。
 そうでなくとも……」
そこで言葉が止まる。
この天使、あまり化かし合いは得意ではないようだ。
おそらくいま話そうとしたことはこいつらの目的と関係するのだろう。
「……まぁとにかく。
 貴様の言う七罪魔が現れる可能性は決してゼロではない。
 とはいえ奴等の手先でも潜伏してない限りは難しいとは思うがな。」
「天使なら悪魔の類の潜伏は分かるんじゃないのか?
 あんた以外にも最低二人はいるんだろ?」
シャルナーとかラナーとか言ってた筈だ。
おそらくそれは仲間の天使の名前だろう。
「探知が得意な奴はいるが、少なくとも悪魔の存在は確認していない。
 捕まってる吸血鬼がいるくらいだ。
 とはいえ奴等に屈した人間がいないとまでは言い切れないな。」
「奴等に洗脳されている可能性もあると思う。」
アンヌ・ポルクスの件もある。
本人達が知らないだけで奴等に利用されてる可能性もある。
「……確かに七罪魔には支配能力を持つ輩もいたが。
 まるで見て来たかのように言うな。」
「これでも予言の一族なもんでな。」
便利な設定である。
「まぁ貴様、貴様ら?の目的は分かった。
 予言の一族というのは胡散臭いがまぁいないとも断言できないだろう。
 それで、貴様は俺に何を望む?」
この情報収集だけでも無意味ではない。
だが可能であるならば。
「魔導研究所とやらに入りたい。
 もしかしたら奴等が現れるための媒介があるのかも。」
「……それは俺の一存では難しい。
 許可が下りるとも思えない。
 だが。」
ハイナーはぼそりと言う。
「”偶々”警備が手薄だった、という事はあるかもしれないな。」
「………」
その言葉を反芻する。
ハイドは頼んでいた食事を食べ終わり、席を立つ。
「まぁせっかくの予言一族の進言だ。
 忠告は素直に受け取っておこう。
 その媒介とやらも、”明後日の夕方”に探してみる。
 他の奴等が信じるとは思えないが。」
「そうか。
 まぁそれだけでもいい。
 注意だけでもしてくれれば。」
そうして俺はハイドと別れた。

明後日の夕方。
おそらくあの男が警備網を動かせる日。
つまりは、そういうことだ。
(……強制認知の札を手放す準備をしておけば、いけるか?)
(完璧とはいかないと思うけど、たぶん。)
哀音やリオンはあの研究所には近づけないと言う。
だが俺は極めて半端で曖昧な状態にある。
認識の有無の中間点であれば俺ならいけるかもしれない。
(とはいえ俺一人で殴り込み、か。
 他の天使に見つかったらアウト、だよなぁ。)
いつもながら前途多難だ。


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