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33話 ウルイエルの思惑
「お前こそが、周回者。
奴等を何度でも呼び出し、私達の前に立ちはだかる存在か?」
「………え、なに?」
目の前の天使は何言ってんのこいつという顔で、軽く引いていた。
……そんな顔をされると若干ショックではあるな。
「周回者については知らないのか?
貴様は七罪魔を呼び出そうとしている本人なのだろう?」
「だから何かしら周回、者、って。
確かに呼び出す計画を立ててるわね。
せめてあと2,3年以内には。」
……2,3年?
まさか……
「……お前が呼び出す七罪魔は、もしかして醜悪の悪魔ではなく?」
「え、醜悪?
何の話をしてるのかしら。
まったく、少しは話ができる男と思えば。」
とんだ妄想癖だわと目の前の天使は呆れたように言う。
……成程。どうやら完全な勘違いだったらしい。
他の天使が単独で動いている可能性。まぁその可能性も考え難い。
やり方の方針で揉めること位はあるだろうが、基本的に下位中位の天使は高位天使の刺客だ。
単独で完全に異なることを考えることはまずない。
ハイドとやらについても、その範疇だ。
聖二を招いたのも、醜悪の悪魔が都を滅ぼす、その情報を気にしただけに過ぎないだろう。
せいぜいが聖二を招いて良いか、良くないか、やり方の方針の違いで揉めていただけだ。
となると残るは学院長エルカサス、とやらだが。
「……エルカサス?
ちょっと、どうしたのよ?」
「……?」
目の前の天使が少し慌てたように誰かと話している。
いや、連絡がつかないのか?
(……そういえばあの研究所の中の気配もおかしい。
聖二は、どうなった?)
哀音の方もあのままではまずい。
だが目の前の天使の相手をしない訳には……
「……どうやら不足の事態があったそうね。お互い。
違う?」
「……そうだな。」
私の顔を見てその心情を察したか。
さすがに高位天使候補。状況判断力も悪くない。
(だがこの天使だけを魔導研究所に入れる訳にはいかないな。)
中の状況は最優先で確認したい。
それにこの天使だけが中に入ってしまえば聖二が殺されてしまう。
哀音には悪いが、そちらを優先するほかなかった。
「あの中を確認したい。だが。」
「私を野放しにはできない?
懸命ね。
私も貴方ほどの危険要素を放っておくことは出来ないわ。」
会話でお互いの方針を確認する。
つまりは、一時休戦。
情報に誤解があった以上、本当にまだ戦う必要があるのか検討すべき。
勿論あの研究所の状況を確認したら、またすぐ戦いになる可能性は高いが。
「では急ごう。
中位天使……では被るか。
中にもいるだろうし。」
「シャルナーよ。
別に構わないわ。
実力者に呼ばれる分には。」
「……成程。
では私のことはリオンと呼んでくれ。
急ごう。」
「……おい起きろ。
聖二。」
気絶してる聖二の身体を揺らすが起きる気配はない。
だがこの様子だと聖二が学院長エルカサスとやらに勝利したらしい。
相手はこの魔法学院のリーダーだった筈だが。
「……まったく、どうやったやら。
だがおかげで挟み撃ちになることだけは免れたが。」
何故ならあちらの二人の天使は。
「貴方のせいで全て台無しよ、ハイナー。
どう責任をとってくれるのかしら?」
「放っておけば醜悪の悪魔が此処に君臨する可能性があった。
致し方ない措置だろう。」
当然ながら揉めている。
戦闘になる、ということはなさそうだが。
そもそも天使は天使同士の私闘が基本的に出来ない、のだったか?
やがてシャルナーの方が折れたか、溜め息を吐く。
「……まぁいいわ。今更ね。
エルカサスが死んだ以上、計画は全てパー。
後始末をして撤退するほかないでしょう。」
「………」
後始末。
その言葉を聞いて、身構えずにはいられなかったが。
「貴方たちのことはもうどうでもいいわよ、リオン。
目撃者一族郎党皆殺し、なんて悪魔じゃあるまいし。
ただ……」
シャルナーは別の方向を向く。
その視線の先は……
(……光?)
あの光は私の虚空閃を防いだもの。
黄金の檻、とか言ったか?
たしかシャルナーは”本命”に使っていると。
(檻、ということは本来の用途は。)
何者かを閉じ込めている?
七罪魔、な訳はない。
となると残る候補は。
「やめろ、シャルナー。
それはこの身体の持ち主との約束を違えることになる。」
シャルナーがかざした手をハイナーという天使が止める。
なんだ?まだ何か揉めているのか?
だがシャルナーも譲る気はないらしく。
「出過ぎよ、ハイナー。
立場というものを弁えなさいと言った筈だけど。」
「弁えている。
そのうえでこれだけは譲れん。」
あまりいい雰囲気ではなさそうだ。
だが奴等の諍いよりも、今は最優先で確認しないといけないことがある。
「揉めているところ済まないが、私は醜悪の悪魔の召喚媒介を探す。
すまないが手伝って……」
と言おうとしたとき。
ふと頭によぎった思考。
……もう一体の天使は何処に行った?
何故そのことを誰も気にしていない?
嫌な予感が脳内から離れない。
そして一瞬。
ささっ
(……ネズミ?)
やたら顔の大きい、ネズミみたいな魔物。
確かボールマウスという魔物だ。
絶滅危惧種で私達の時代では既に絶滅した、と記憶しているが。
(いやそんな魔物のことなどどうでもいい。
それよりもう1体の天使のことを……)
どさり
「……っ!?」
何かが落ちる音。
私は音の方角を確認するが。
「……あの羽は?」
吸血鬼?
そういえばこの魔導研究所には確かオリジンヴァンパイアを……
「シャルナー!
止めろと言っている!」
「駄目よ。
利用価値がなくなった以上、邪悪な存在は排除するわ。
これ以上聞き分けがないなら……」
……そういえば黄金の檻の光が消えている。
シャルナーが解除したのか?
となると幽閉していたのは……
「……転移しなさい……」
ぞくり
怖気が全身に走った。
知っている。この音。いいや、この声。
その瞬間、突如現れた魔法陣が先程の吸血鬼を……
「……っっ!?
まずい!
今すぐ黄金の檻を元に戻せ!」
「……え?」
「……なに?」
二人の天使が戸惑う。
そういう、ことだったか!
わざわざ”別の”召喚媒介を用意する必要などなかったんだ!
だがシャルナーが即座に私の言うことに従う訳はなく。
「……理解が早い。ですが、手遅れです……」
「ぐ、ぎゃは、ぎゃはははははははははっっ!!!」
顕現する。
巨大な気配が。その醜悪な巨体が。
私にとって忘れることの出来ない。
「……くっ!?」
だが今は忘れろ。
相手は七罪魔2体。
今まともに戦えるのは私とシャルナーのみ。勝機はない。
やるべきことは聖二と哀音を連れてこの都を去ることのみ。
そう判断して私は聖二を運び、この場を離脱しようと……
「……あぁ成程。
これがウルイエルの魂胆ですか……」
(……?)
気になる言葉。
ウルイエル?何故それが奴等の口から出る?
その場には顕現された何本もの触手に塗れた怪物、醜悪の悪魔ダルバックに。
そして。
「……ラナー?
取り込まれたと言うの?」
シャルナーの言葉。
……成程、既に奴等の支配下に墜ちていたようだ。
ラナーと呼ばれた少女天使。
その身体の主導権はいま掌握の悪魔グリモアが握っている。
いいや、そもそもがあの身体は端末だろう。
となると天使の方は……
「……適合率、62%。
悪くはない、が。
天使の端末が私に適する訳ではないらしい。
引き続き、検証が必要……」
天使だった身体を通して、グリモアが言葉を流す。
本当に流しているだけだろう。
奴は、燃料と見なした存在と会話などする気はない。
だが一つだけ気になる。
ウルイエルの魂胆とはいったいどういう意味か。
「……どういう事だ?
ウルイエルがどうしたと言う?」
もう一人の天使、ハイナーがグリモアに問う。
莫迦な、答える訳が……
「……何も知らない?
成程。それが今の奴の手口らしい。
月詠夜夜子の件で考えでも変わったか?
ガルガンを問い詰めたいが、どうせ惚けるのみ。
いずれにせよこの場の天使は捨て駒。
燃料として適切かは分かりませんが……」
「ぐだぐだぐだぐだぐだうるせぇぇぇ!
もう暴れるからなぁ、我は!
我慢ならねぇえぇぇえええぇえええぇえっっ!!」
グリモアが機械のように言葉を羅列し、ダルバックはただ咆哮する。
その咆哮だけでも、天使たちの足を後退させるには十分だった。
シャルナーは半ば怯えながらも結論を下す。
「ハイナー!撤退よ!
ラナーはもう死んだ!
掌握と醜悪の2体を相手に私達では勝ち目はありません!
今すぐ……」
その瞬間。
巨大な触手の大群がその部屋を食い潰した。
「さてそろそろ終わりの頃か。」
カデンツァより遥か上空。
その上空には人には認識できない天使の宮殿が存在している。
そのうちの一つにて。
白髪の天使が優雅にお茶を嗜んでいた。
「哀しいことだ。
だが”今の”私にとって天使は同胞ではないのだ。
悪く思わないでくれたまえ。」
高位天使ウルイエル。
それがこの白髪の天使の名である。
「ガルクエル。
彼女は私達の間でも変わり者の天使だった。
下界の生物ごときにいちいち干渉し、ましてやそれを守るために死すなどと。
まぁだからこそ彼女の部下を、私の部下になるように仕向けたのだが。」
少しばかり興味があった。
”改造”を施したのはごく最近の、200年くらい前のことだが。
「更にはシャルナー、ラナー。
独自で思考し、行動できる中位天使。
月詠夜夜子の真似ごと、と言ってしまえばそれまでかもしれないが。」
彼等3体は普通の中位天使ではない。
「まぁラナーについては情緒が壊れたがね。
能力は上がったがあれなら普通の中位天使の方が役に立つ。」
ウルイエルの調整を受けた改造天使。
だがその行為は。
「彼等が問題を起こした場合、その文句は私に来るということ。
正直もう”実験”は十分なのだよ。
ゆえに。」
”今回の件”を利用した。
既に連中の物語となっているこの一件を。
「始末は掌握の悪魔が勝手にしてくれる。
特にシャルナーは天使長に渡してしまったからな。
黄金の檻は有用な能力だ。
”後々のこと”を考えたら邪魔でしかない。」
彼は既に神への忠誠など持っていない。
ゆえに、天使長への敬意もない。
ましてや中位天使ごときの結末など。
「潮時だ。
さらばだ、私の作品たちよ。
私のために死んでくれたまえ。」
ウルイエルは黙祷でも捧げるように向かいの席にお茶を3杯注いだ。
その行為に意味はない。
彼は天使たちの安寧など求めていない。
では何故そんなことをしているのか?
「……やってみたのはいいが、特に面白くもなんともないな。
片づけておきたまえ。」
「はっ。」
どこからともなく降りて来た下位の天使がお茶を片付ける。
そう、その行為に意味はない。
たったいま思いついた気まぐれでしかない。
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