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34話 その感情は
その村は、全滅していた。
まだ生き残っていたのは人間の友人であった少年だけ。
「……ハイ、ド……」
「……これは、何が起こった?」
俺は少年に事情を聴く。
カデンツァの魔法使い達が、僕の友達を連れて行ったと。
直接連れて行ったのは青緑の鎧の女、だったと言う。
「……お前は、俺にどうして欲しい?
言ってくれ。」
少年の命は風前の灯だった。
けど本当は彼が何を願うかなんて分かっていた。
「……お願い、だ、ハイド。
彼女を……助けて……」
「……あぁ、分かった。
ならば、共に行こう……」
俺は少年の手を握る。
共に、行く。
借りるぞ、お前の身体を。
「アッシュ……」
そうして俺は友と一つになった。
「……ハァ、ハァ、ハァ……
俺は……」
気絶、していたのか?
爆発音と怪物の咆哮が耳に響く。
あのあと何が起こったのかは明白だろう。
解放された2体の七罪魔がこの都を破壊している。
封座聖二の語った未来は真実だった。
この魔導研究所も間もなく完全に倒壊するだろう。
だが。
「……ぐぅっ。
傷、が……」
俺の腹には大きな穴が開いていた。
誰が見ても致命傷。
天使の回復能力を持ってしてもこれは。
「……いいや、まだだ。
頼む、もってくれ……」
回復能力が機能しない。
いくら致命傷であっても機能しないなんて事はありえない。
だったら他の理由は。
(……ウルイエルの、魂胆か。
要するに、奴は俺たちを斬り捨てた、ということだろう……)
俺たち3体は奴による調整を受けた改造天使。
結局のところ奴の実験台でしかなかった、という訳だ。
別にそんなことは知っている。奴の本性など。
それでも俺があんな奴の下にいたのは何故だったのか。
(……ずっと、分からなかった……
彼女が、ガルクエルがいなくなってから……
俺は何がしたかったのか……)
俺の身体が崩れていく。
今ならアッシュの身体から離れれば、俺は生還できるかもしれない。
中位天使は、端末として使用している人間と共に散れば天使もろとも消える。
だが俺は致命傷であってもまだ死んではいない。
とはいえ身体から離れたところで、天使の方までダメージがいっている。
今からウルイエルに懇願すれば生存は可能かもしれない。
(……はっ、論外だ……)
あんな詐欺野郎に生存を願う位ならば。
俺はアッシュと共に散る結末を選ぶ。
選択にすらなっていなかった。
(どこ、だ……どこに、いる……)
もはや足の踏み場もない、崩れ落ちていく研究所の中では彼女を見つけることなど……
天使の翼は既に折れている。歩いて、探すしかない。
だが……
「……か、はっ……
く、くくくく……」
愚かなものだ。
自分が何を求めていたのかも分からず、ウルイエルなんぞの玩具のまま散る。
「……すまない、アッシュ……」
お前の望みを、叶えることが出来なかった。
その懺悔だけは、俺の本音だったのかもしれない。
……いいや。十分だ。
たとえ、僅かな時間であっても……
「……え?」
声が聞こえた。
莫迦な、アッシュはもう死んでいるはず。
だからこそ俺はあいつの身体を端末にしたのだ。
「……そうか。お前に会えてあいつは喜んだのか……」
薄れた視界に僅かに。
彼女の姿があった。
本当の意味で、望みを叶えることなど出来なかったが。
「……あぁ。俺はいま……」
何を考えているのか。
何故、彼女は人間たちと接してきたのか。
どうして俺もまた、人間たちと接してきたのか。
友を端末にしてまで、俺は何を……
「……あぁ分からない。
でもお前たちも同じなのかもしれないな。
だがこの感情は、悪くない……」
それが何と呼ばれる感情なのかも俺には分からないまま。
俺の身体は、友と共に散っていった。
ハイド・サンドドルの身体が崩れていく。
光となり散っていく。
それは天使の端末となった者の代償だろうか。
「……間に合わなかったか。」
そこには何も残らない。
崩壊した魔導研究所。その残骸以外は。
「でも大丈夫。」
それでも残るものもある。
「その想いは私が引き継ぐ。
”次”の世界で。」
まだ、終わらない。
終わることは、許されない。
「……なんとか。」
生還、だけは出来たか。
私は冷や汗をかきながら抱えている二人を見る。
聖二の方は気絶しているだけだ。特に問題はない。
哀音の方は……正直かなり危険だった。
抱えたまま激しく逃げ回れば生命の危険があった。
ゆえに少しばかり禁じ手を使った。
「……この翼がまだ役立つ時が来るとはな。
残してくれたザフキエルには感謝するべきかもしれないな。」
天使の翼を一部粉状にして無理矢理飲ませた。
元々は高位天使の端末となっていた私だ。多少の効果はあっただろう。
というか多少の効果が出てなければ、今頃死んでいる。
変な後遺症が出ないといいが。
(……また少しずつ、この世界から認識されなくなってるはずだ。
とはいえ、まだ……)
一度認識されれば、完全に認識されなくなるまでには時間を要する。
スイッチのオンオフみたいに単純な構造ではない。
……そもそもどうして私や哀音が急に認識されるようになったのか、まだ分かっていないが。
(あの魔導研究所のなんらかの機構だった、と考えるのが妥当か。
聖二が起きたら確認が必要だな。)
そしてもう一つ。
私はもう一人の生還した人物に声をかける。
「お前も無事だったようだな。
中位天使シャルナー。」
人物、ではないかもしれないが。
金髪の天使は翼を1枚欠き、ボロボロになりながらもそこにいた。
「……当然、でしょう。
私は次期高位天使、なのだから……」
「フ、そうか。」
憎まれ口を叩く元気は残っていたようだ。
当初の優雅さは既にない。
こっちの方が素なのかもしれない。
(……正直、一人じゃ危なかった。)
気絶している聖二や哀音を回収しながらの、奴等からの逃亡。
いつもなら哀音がテレポートして難を逃れていたが、その哀音が重症である以上、飛んで逃げる以外の選択はなかった。
だが出鱈目に暴れるダルバックはまだしも、グリモアの方はさすがに容赦がない。
この場の一番の危険要素が私や中位天使シャルナーであることは認識していたのだろう。
かなりの頻度で攻撃を仕掛けて来た。
それでも、こうして無事逃げられたのは。
「お前のおかげだな。
感謝する。」
「……まぁ、お互い様ね。
私も貴方がいなければ逃げ切れたかどうか。」
互いの奮闘を賞賛する。
だがいつまでも此処にいる訳にはいかないだろう。
「もう行くのか?」
「えぇ。この結末を高位天使様にお伝えしないといけない。
まぁ、既にご存じかもしれないけれど。」
任務の失敗。
中位天使2体の死亡。
七罪魔の呼び出しも阻止できなかった。
残った彼女の未来は明るくはないだろう。
「……次期、高位天使の道もこれで一気に遠のいたわね。
まぁそれ以前に、今回の件が許されるのかも、分からないけれど……」
でも、と。
「……七罪魔の言うことなど信用には値しない。
でももしこの結末にウルイエル様の思惑があったのだとすれば……」
ウルイエルの魂胆。
グリモアが流していた言葉。
その裏背景など私達には知る術はないが。
「……必ず、その責任を負わせる。
たとえそれが副天使長様であろうとも。」
「そうか。まぁ応援くらいはしよう。」
「余計なお世話ね。」
シャルナーは最後に悪態を残して飛び去って行った。
まぁ片翼だから少しばかりふらついていたが。
(……さて。)
聖二と哀音が目を覚ましたら今回の整理だが。
ただ一つ言えることは。
(天使たちは、周回者ではなかった。
そしておそらくはエルカサス学院長とやらも。)
エルカサスは死んだ。
彼女が周回者であったのなら、少なくとも”次”で状況をひっくり返されることはなくなるが。
(……そう、都合よくはいかないだろうな。)
エルカサスは周回者ではないと考えた方がいいだろう。
彼女は七罪魔を呼び出そうとはしていたが、その対象は醜悪の悪魔ではなかった。
つまり私達の件とは無関係。
(魔導研究所の内部を把握していたのが、彼女達だけだとするならば。)
他のカデンツァの上層部に天使や七罪魔の件を伏していたのであれば。
(周回者は上層部の中にいる。
その前提はなくなる。
つまり全ては振り出しに戻ったわけだ。)
だったら。
私達に敵対する周回者とはいったい何者なのか。
そしてそもそもなんのために。
その人物はこんなことを繰り返しているのか。
……………はっ。
あぁ、いけないいけない。少し眠ってしまっていたようだ。
やぁ割と久しぶりかな。今回はどうだったかな?
僕の感想としては、結構”惜しい”ところまで行ってたと思うんだけどね。”お互い”。
え、なんでそうなるのか分からないって?
”あいつ”のことはさておき、君たち自身のことも分からないのはさすがにどうなのかなぁ?
まぁいいだろう。少しだけ整理してあげよう。感謝するんだね。
さてさすがに君たちももう分かってると思うが。
ダルバックの奴を召喚しているのはグリモアの奴だ。
目的は自分の身体の確保と、ダルバックの燃料補給といったところか。多分だけどね。
が、別にグリモアの本体があのカデンツァにいた訳じゃない。
あいつは自分の一部、要するにページを分けて各地に忍ばせることが出来る。
さすがに1ページ毎だと能力は相当落ちる。意思も残らない程度には。ただ。
数ページ程度もあれば、奴の意思が現れ、近くにいる人間に憑依して操る。
操った人間の力を利用し、ダルバックの肉塊なり吸血鬼なりを召喚媒介にすればダルバックを転移させることが出来る。
同時に自分自身の本体も転移させているかもね。
まぁ奴等のことについていま言えるのはそれぐらいかな?
次はあの封座聖二たちについてだけど。
今回ははっきり言おう。
封座聖二はよくやった。素直に賞賛しよう。
中位天使1体の篭絡。そしてこの時代でトップ5には入るであろう魔法使いの撃破。
そのあと気絶したのは問題だけど、まぁそれを差し引いても十分すぎる成果だ。80点を進呈しよう。
ただ問題は残り2人だね。せっかく自分達の力を全快で使える絶好のチャンスだったというのに。
天衣魔縫の方は様子見が過ぎたね。
中位天使シャルナーと戦うことなんて目的でもなんでもないだろ。
いろいろやれることがあった筈だ。
まぁでもあの男がいなければ今回で終わってたことを考えれば、差し引きプラマイゼロといったところか。
哀音の方は完全に駄目だね。マイナス80点だ。いくらなんでも戦闘下手すぎる。
いやそれはまだいいんだよ。おまえテレポート使えるだろ?さっさと研究所の中に入れよ。
勿論そんな便利な魔法じゃないことは知っている。テレポートは予めマーキングが必要だ。普通はね。
ただ哀音の魔力量なら話は別だ。魔力の消費が莫大にはなるがマーキングなしのテレポートは可能だ。
実際魔力を半分以上残したまま墜落した。完全な判断ミスだよ。出し惜しみは悪だ。
結局、中位天使ラナーだけを中に入れてしまった。
あいつさえいなければグリモアは身体を手に入れることが出来なかった。
そうなってれば天使たちとの同盟すら夢ではなかった。戦犯にも程がある。
そう。今回は勝機があったんだ。けど逃してしまった。
二度と同じ機会は訪れない。
何故かって?アンヌ・ポルクスの件を考えれば分かるだろう?
今回の機軸はハイド・サンドドル。中位天使ハイナーにあった。
でもあいつがいなくなったらどうする?どうやって話を進めるんだ?
つまりはそういうことだ。
数少ない勝ちの機会を逃してしまったんだよ。これからどうすることやら。
さて、もう残りは少ない。
お互い打てる手段も、考えられる真実も、大して残ってないだろ?
そして時間切れが迫っている。
おそらくもう長くは持たない筈だ。
最初に言っただろ。無限に周回は出来ないって。
具体的にどういうことだって?
それは次回のお愉しみ♪
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