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35話 閉ざされた勝機



5周目。
俺は入学一番にハイド・サンドドルを探した。
魔導研究所から七罪魔は出現する。
あそこに入るためにはあの男に協力してもらう以外ない。
そうでなくても、あの男は俺と通じるものがあると思った。
もっと早い段階で全面的に協力し合うことが出来れば、もしかしたらと。
だが。
「休学、中……?」
「はい。彼なら3年になってからいろいろと実家の都合で……」
は、実家の都合?
天使の実家ってどこだよ。
ハイド・サンドドルとか名乗ってたがイムヌスのサンドドル家と繋がりがあるのかすら怪しい。
というか多分ないだろう。
シャルライト・エレインもそうだがエレイン家もイムヌスでは有名な一族。
つまり天使たちは有名な一族の苗字を使っているだけだ。
直接繋がりがある訳じゃない。
(……だったら、なんだ?
 休学?どうして?どこかにはいるのか?)
俺は前の周の最後にリオンと話した内容を思い出す。


「アンヌ・ポルクス同様、ハイド・サンドドルの方も行方不明になる?」
「あぁそうだ。
 周回者が私達のことを把握しているのであれば、その可能性は十分にある。」
リオンは危惧していたが、相手は天使だ。
もし相手が俺たちと同じ周回者だとしたら、そんな自由に動けるものか?
天使をどうやって拉致するって言うんだ?
それとも敵の周回者はそれだけの実力の持ち主だとでもいうのか?


結局、リオンの言った通りになった。
ハイドの明確な知り合いは残り2人の天使しかいない。
勿論その2人にもあたってはみたが。
「さすがだよ、ランランちゃん。
 実地試験1位!おめでとう!」
「ど、どうかな?
 俺と、出来れば、デートとか……」
「ふ、ふぇぇぇ。
 そ、そういうのは困っちゃうよぉ……」
ランラン・ポルクスの方は男連中にいつも囲まれていて近づくことが叶わず。
哀音の情報収集魔法で一人の時を狙おうと思っても。
「くそっ!?」
気付けば魔導研究所など、カデンツァの上層部の施設に入られている。
表向きは生徒だから一番知り合える可能性があるというのに。(学年が違う問題はあるが)
そして姉のアンヌ・ポルクスは今回の世界でも相変わらず行方不明扱いだ。
そもそも妹が天使になってるってことは、どういうことになるんだ?
リオン曰く人間の端末、とか言ってたけど。
姉の方はそのことを知っていたのだろうか?
(……まぁ考えても意味ないか。
 アンヌ・ポルクスはもういないんだからな。)
だとすると残るはもう1体の天使の表向きの姿、シャルライト・エレイン。
あの女とかもっと近寄る手段がないぞ。表向き教師だし。
相手にされる気がしない。
(……俺たちしか知らない事実を仄めかせれば、どうにか。)
退廃の悪魔の件を俺たちは知っている。
そんな話から始めて……
(難しいが、やるしかない……)
俺は哀音とも協力し、シャルライトの動向を探った。
なんとか俺とシャルライトの1対1の状況を作りはしたが。
「あら、貴方は新入生の……
 ごめんなさいね。まだわたくし把握できておらず……」
「い、いえ。
 ですが私めはシャルライト先生にお話しが……」
そんな話から始めたが。
「……もう行ってもいいかしら?
 悪いのだけど。」
「い、いえ……」
あからさまに鬱陶しがられていた。
あぁくそ、もう切り込むしかない。
「……俺は、退廃の悪魔の件を知っています。
 ちょっと、話しませんか……?」
「あらなんのことかしら?」
だがこの女は面の皮が厚かった。
話を仄めかそうと思っても、どういうことかしら?もう行っていい?と言われるばかりで。
「ご、ごめんなさい。
 俺の、勘違いだったみたいで……」
「そうね。
 もっとちゃんとお勉強しなさい。
 周りの迷惑になってしまうわ。」
最後は若干嫌味まで言われて別れるのだった。
完全に失敗。
取り付く島もないとはこのことか。
だがそれだけに飽き足らず。
「済まないが一緒に来てもらおう。
 封座聖二君。」
「へ?」
その夜。
俺はカデンツァのよく分からない場所に連行され、そして。
「しばらくは此処で過ごしてもらう。」
「………」
がしゃぁん
「………」
鉄格子に囲まれた部屋。
要するに。
(牢屋じゃねぇかぁっっっ!!)
俺はカデンツァ内部の秘を知ったということで、投獄された。
しかもその場所は哀音たちがまた時の呪縛のなんたらで出入りできない場所らしく。
1カ月を過ぎた頃になんとかリオンが隙をつき、その区画を脱出。
その後はカデンツァの魔法使い達から追われる羽目になり、七罪魔どころの話ではなかった。
完全な失敗である。


6周目。
教師シャルライトは駄目。
エルカサス学院長なんてもっと駄目だろう。そもそも接点すらほぼない。
ランラン・ポルクスについては、一応無理矢理話そうとしたが。
「ふええぇぇえぇぇっっ!!
 怖いぃぃぃいぃいぃいいぃっっ!!」
……速攻で逃げられた。
そんなに俺は切羽詰まっていた顔をしていたのだろうか?
「もうこうなったら正面突破だあっ!
 俺一人で魔導研究所に乗り込むっ!」
「いや、無理だろう。」
リオンに冷静な突っ込みを入れられつつ、時間だけが無駄に過ぎていき。
「……聖二君、どうしちゃったのかな……?」
「詩織。
 男には決断しないといけない時があるんだ。
 あれはズバリ、恋の悩みだな。」
「恋ねぇ。」
同級生にはいろいろ残念な男のレッテルを貼られ。
「聖二チームは最下位の罰として特別試験を受けてもらう。」
「……聖二、詩織。
 俺たち、どこまでも一緒だよな……?」
「うぅ、全然テストが終わらないよぉ……」
すっかり準備が疎かになった実地試験では最下位チームの汚名を受け、と。
(……最低の、周だった……)
もしかしたら俺たちが動かなければ、と少しだけ思ったが。
タイミングが1周目より少しずれはしたものの、結局いつもどおり大量の触手がカデンツァ内に出現。
魔法使いの都が人類の世界地図から消えた。
「ちっく、しょおおっっ!!」
俺は地面を叩く。
成す術が、ない。
打てる手が、ない。
勿論その間も周回者が誰か、哀音やリオンが独自に調査を進めていたが。
結局のところ魔法頼りでは重要施設の情報を得ることが出来ず、難航していた。
(……そもそも本当に周回者なんているのか?
 まだ七罪魔どもが周回してると言われた方が納得できる。)
まぁもしそうだったなら。
本気でどうしようもないんだが。


「……オマエラさぁ。
 最近はすげー沈んでるけど、また戻るんの?」
巨大な怪鳥の悪魔、時渡の悪魔ルドーワが心配したように聞く。
悪魔に心配され出したらいよいよおしまいだな。
「……あぁ、勿論だ。
 頼む。」
「ふぇふぇふぇ、飽きねぇなぁ。
 まぁ僕ちんは別に構わないんだけど。」
けれど、と。
「”次の”世界。
 なんだか妙な感じがするんだ。
 今までいなかった奴がいるような。」
そんな訳の分からないことを言われても困る。
これ以上、もう抱えきれないんだ。
俺たちは目の前の悲劇を防ぐことしか頭にないんだから。
「ま、気をつけろって話よ。
 オマエラが次の世界に行けるのはオマエラの意思がそこにあるからだ。
 肉体の有無なんて大して重要じゃねぇ。
 けれど。」
悪魔は笑う。
「その意思まで”取られ”ちまったら、戻せるものも何もない。
 そうなったら僕ちんでもどうにもならないのさ。」
言っている意味がよく分からない。
だが俺に代わってリオンがルドーワに言葉を返した。
「……意思そのものを奪う程の存在が、いるということか?
 あの世界に。」
「さぁ?
 具体的なところは分からないけれど。
 ただそういう”力”があったとしても。
 僕ちんは驚かない。
 世界とは、存在とは、無限に広がるんだ。
 いずれは未知の力を持つ存在が生まれる可能性だって出てくる。
 当然の理屈だろォ。」
そして俺たちは次の世界に挑む。
どれだけ絶望的な状況であっても。
心が折れかかっていたとしても。
俺は、もう過去は振り向かない。
未来だけを、見据えて。見据えることがたとえ出来なくても。



「るんるんるん♪
 らんらんらん♪」
素足の女が踊りながら歩く。
お世辞にもその踊りは上手くはない。
これが踊り子のステージであれば見向きもされなかっただろう。
だが彼女の場合は。
「ふむ。
 やはりこの世界は変わらないのだ。
 これだけ歩いても”人間”がいない。」
観客自体がいないのだが。
誰一人、その場にいることが出来ない。
それどころか、踊り子のステージすら、ない。
「ただ、もしかしたらって事もあるかもしれないのだ。
 マイフレンドの時のような感動を、また味わえるかもしれない。」
彼女は踊りながら歩く。
愉しそうに、愉快そうに。

死体の山を囲みながら。
”枯れ果てた”大地を彼女は踊る。

「踊る、踊る、踊り続ける♪
 やれ楽しい。はて愉快。
 でも誰も感想を言ってくれないのだ。
 まぁ仕方ない、この世界には小動物しかいないから。」
彼女はこの世界でこう呼ばれていた。
神楽魔姫と。
「魔法使いの都カデンツァ。
 マイフレンドが戻って来るまでの間に。
 フレンドリストを更新出来たら、嬉しいな♪」
その女はやって来る。
時の放浪者たちの舞台に。




……あぁ、やれやれ。まったく。
前から兆しはあったとはいえ。
とうとう奴がやって来た。
残る猶予はあと何周か。

急げよ、僕の舞台の役者ども。
だが一つだけ忠告してやろう。
え?聞こえてない?知ってるよそんなことは。
それでも言うだけは言う。あるだろう、そういうの。

今回はいわば"イレギュラー"だ。
この周回は捨てろ。
君たちの意思がもぎ取られる前に。
そんな呆気ないフィナーレなど僕は認めない。
滑稽に、無様に、生き延びて見せろ。


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