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38話 恐怖の対面



「……お、姉ちゃん、起きて。」
「ぅ……」
お姉ちゃんは目を覚ます。
「はぁ、また手酷くやられたわね……」
お姉ちゃんのボロボロの姿を見て胸が痛む。
私の視界にはいつもそんなお姉ちゃんの姿しか映っていない。
「……また次を、次を探しましょう。
 大丈夫よ、必ずあるわ。
 私達を受け入れてくれる場所が。」
「お、お姉ちゃん、でも……」
私の心配を余所にお姉ちゃんは立ち上がり。
そしてニコリと笑い私の頭を撫でる。
「ふぇ?」
「……大丈夫よ、大丈夫。」
あぁ、違う。
そんな顔をしないで欲しい。
私のために、私の呪いのために。
どうしてこんな。
こんな、優しい人がこんな目に合うの?
どうして?
どうして?
どうして?


「……っ……どうして?
 なんで、どうして……」
「……ラナー?」
先程まで叫んでいたラナーが急に沈黙する。
「……どうして、どうしてお前たちは……ッッ!
 お前らがいるからぁぁっっ!!」
「……は?」
と思いきや。
今度は急に怒りの形相で。
大剣を振り回し、私に襲い掛かって来た。
「ぐっ!?」
「……許さない、許さない、許さない……っ!?」
なんとか護身用の短剣で抑えるが、近接戦闘は分が悪い。
そもそもラナーにいったい何が起きたのか。
私は叫ぶ。
「……いったい何をしたぁっ!?
 神楽魔姫ぃぃっっ!!」
奴は既に私達から1キロ近く離れた場所にいる。
だがその声は何故か私に響いた。
「踊る、踊る♪
 踊ればいい。
 ただそれだけなのだ。
 ”片方だけ”躍らせずに囲んでしまうのは不公平だろう?」
「はぁ!?」
奴の言葉の意味はまるで分からない。
時の放浪者がどうのという話についても、まるで真意が分からない。
……あれは、奴はいったい何なのだ?


シャルナーとラナーが同士討ちを始めてる間にも、神楽魔姫は踊りながら前へ進む。
既に夏奴と呼ばれた全裸の女も彼女の近くにはいない。
その間に遭遇した周りの人々は、また次から次へと倒れ伏していく。
そうして彼女が辿り着いた先は……?
「ふむ、きっと此処なのだ。
 ……おや?」
そこはカデンツァ魔法学院。
だがそこに学生たちはいない。
既に避難は済んでいる。
「うむ、少し戯れすぎたかもしれない。
 鬼ごっこを開催してもいいが、その前に。」
魔姫はぐるりと首を150度は回転させ、上空を見た。
「そんなに隠れていなくてもいいのだ。
 仲良くお話しよう♪」
誰もいない虚空に話し始めた。
「……っ!?」
それに反応したのは。
情報収集魔法を使用していた哀音だった。
(……なんで?
 いま私に話しかけて来た?)
哀音は狼狽する。
ありえない、と。
でもそれでも。
あれが真実、真那様の同類だとすれば?
ありえないことではないのかも、と。
「あぁ、分かった!」
ポンと魔姫は手を叩く。
「お前はとてもシャイなのだ!
 じゃあ魔姫の方から会いに行こう。」


ぞくり、と。
私の身体に悪寒が走る。
(……会いに行く?)
此処にあの人が来る、ということ?
冗談じゃない。
そう思っていた矢先。
「おい。いま何が起きてるんだ?」
びくり。
……て、誰かと思ったら。
「な、なんだ貴方か……
 こ、怖かった……」
「は?」


哀音はぱっと見でおとなしいように見えるが。
今の俺にはそうは思わない。
ただ自分の意見を前に出すのが苦手なだけで、特別弱気な人間じゃない。(人形らしいが)
そのこいつが今日は本当にビクビクしてるように見えた。
「……やっぱり、何かあったのか?
 急に緊急避難警報なんて言われたんだが。」
醜悪の悪魔が現れた最初の周でさえ、ここまでの態度はとっていなかった。(慣れただけかもしれんが)
余程のことが、いま起きているのかもしれない。
「……神楽魔姫が、このカデンツァに来てる……」
「神楽魔姫?」
あぁ確かエルカサス学院長の実妹でこの時代の最強の魔法使い、だったな。
だがそんな奴がいま来ているのだとしたら。
「……だったらチャンスなんじゃないか?
 だって神楽魔姫って奴はこの時代の連盟の一人なんだろ?
 そいつと話すことが出来れば覇帝に今の状況が伝わるかもしれない。」
覇帝さえ出撃すれば相手が七罪魔だろうと勝利できる。
この世界には今いないとリオンは言っていたが、連盟なら連絡手段を持っているかもしれない。
だが哀音は首をフルフルと横に振った。
「……私が、間違えていた。
 神楽魔姫が、これほどの存在なんて……
 真那様は、おとなしい100年前の最強の魔法使いとしか言ってなかったから……」
哀音の声色からは確かな恐怖を感じる。
心底、そいつを恐れているように見えた。
「……あれと会話とか、交渉するとか。
 そんなの、有り得ない……
 その間に、私達は、”持っていかれる”……っ。」
「……それは、どういう?」
その真意を聞こうとした瞬間。
俺の身体に怖気が走った。
(……は?
 え、なんだ、これ……?)
急に身体がガクンとなり、床に手をつく形になる。
呼吸も激しくなり、謎の疲労感が俺を襲う。

「あぁ、ようやく見つけたのだ。
 お前たちが時の放浪者だろう?」

そしてその女はなんの前触れもなく俺たちの前に現れた。
「……っっ!?」
素足に青いドレス。
水色の長めの髪。
見た目の印象だけでいうのであれば、真那に近くも見えた。
特徴的といえば特徴的な女だ。
だがそれだけなら特別目を引く程ではない。(変人はそれなりに見慣れている)
だが。
「……あ、ぐ……!?」
……その眼だけが直視できない。
漆黒?純白?
あるいはどちらでもない?
どうしてそう感じたのかは分からない。
だがそれは決して覗いてはならないもののように感じた。
(……それに、なんだ?
 この感じ。
 何かを奪われているような……)
……生気?
いや、これは魔力か?
「……あれ?今日は少し”多め”だな?
 あぁなるほど。そっちのお前が沢山持ってるのだ。
 悪いとは思っている。
 ただ。」
……目の前に現れたこの異様な女。
こいつが俺たちの魔力を奪っているのか?
脇目に見てみれば哀音も顔色を悪くしながら呼吸を激しくしていた。
だがそれでもまだ立ってはいた。
……というか。
(……哀音を、認識できている……?)
七罪魔ですら認識できていなかったのに。
どういう、ことだ?
「ただ、これが魔姫なのだ。
 自分を偽ったフレンド関係など偽物だと思っている。
 ゆえにいつでも本音の、ありのままの魔姫でいたいのだ。
 分かってくれると嬉しい。」
そいつは一人で何か訳の分からないことを言っている。
だがそれでも。
俺は俺のやるべき事を見据えてなんとか足を地につけ、立ち上がった。
「……あんたが、神楽魔姫。
 それで、合ってるんだよな……」
「うむ、そう呼ばれている。
 で、お前はなんだ?
 時の放浪者、ということで合っているのか?」
神楽魔姫は少し悩んでいるように見えたが。
この女の心情など俺に理解できるとは思えない。
なんとか俺のペースに少しでも持ち込まなくては。
「……あんたが、連盟の一人だというなら。
 頼む。お願いがあるんだ。
 なんとか覇帝と、連絡を取って、くれないか……?
 この都はあと1カ月以上先、七罪魔に、滅ぼされる……
 俺は、それを、止めたいんだ……っ!!」
なんとかそこまでを喋る。
俺は既に息絶え絶えだった。
なんで喋ってるだけで俺はこんなにも疲弊しているんだ……?
そして神楽魔姫の反応は……
「いや、でも違うな。
 こんなのではないのだ。
 マイフレンドとは、何もかもが違う。
 となると時の放浪者であるかどうかは、別に関係なかったのだ?」
「……は?」
……なんの話をしてやがるんだ、こいつは?
俺は困惑するが、奴は話を続ける。
……というか、一人で喋ってるだけか?
俺の話に答えてるようには思えなかった。
「やっぱりあっちの小動物を見つけた方が早いかもしれないのだ。
 うん、そうしよう。」
訳の分からない話を続けたかと思いきや、目の前の女はくるりと後ろを向く。
そして何事もなかったように、そのまま歩き始めた。
……いいや、歩いているのか、これは?
足のステップが歩いているというよりは、これは。
(……いや、そんな事はいまどうでもいいから!)
このまま帰す訳には行かない。
俺はなんとか神楽魔姫に追いつこうとする。
だが身体が鉛のように重く、まるで前に進まない。
「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
だが、それでも。
俺は諦める訳にはいかない。
既に今回で7周目。
これ以上、手をこまねいていたら、何故か。
……もう、取り返しがつかなくなる。
そんな気がしたから、何故か。
「ほう?
 魔姫を追って来る小動物。
 ちょっと珍しい。」
「……え?」
とっくに俺の視界から消えていた奴はいつのまにかまた戻って来た。
同時に俺の身体は更に重くなり、地面に沈みそうになる。
だがそれでもなんとか気合で立ち上がる。
……これ、俺、死ぬんじゃないか?
そんな予感を無視して。
「……周回、者。
 この世界は、繰り返している……っ!
 でも、そのたびに、この都は、奴等が滅ぼす……!
 雫のことだって、いつも、どうやっても……」
出て来る言葉は完全に支離滅裂だった。
自分でも説明になっていないのは分かっている。
だが既に頭に血が上っていない。
もう何もかも限界だった。
「周回?
 あぁなるほど、そっちの話か。
 どうして早く言ってくれなかったのだ。」
神楽魔姫はポンと手を叩く。
そして俺に近づいてくる。
その影響か、ついに立つことが出来なくなり、俺は……

「シャルディス。
 シャルディス・ブラッドを探すのだ。
 そうすれば、お前の旅も終わる。」

奴はその言葉を俺の脳内に残し。
俺はそのまま気を失った。

「そうすれば魔姫はマイフレンドに再会できる。
 残り、たぶん3回くらい?
 あぁ待ち遠しいのだ。」


そして神楽魔姫は。
このカデンツァに大量の死だけを残し、あっさりと去っていった。
その目的も、理由も、何一つ分からないまま。


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