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43話 シャルディス
「周回者?
いったい何の話をしてるのかしら。」
俺の宣言に対し、コダマは普段のように返す。
「この状況でそれはないだろ?」
「知らないわよ。
私は此処に逃げて来ただけだし。」
「あんな暴れてる連中がいるのに、
いまにも倒壊しそうなこの場所にか?
何か用があったんだろ?この場所に。」
そう、たとえばそれは。
俺が話しかける前にずっと見ていたもの。
「あの檻の中の人物、とか?」
「………」
かつて俺が最初にこの魔導研究所に入ったとき。
強い黄金の光が何かを囲んでいた。
囲んでいたものは人の娘。いや。
確かにその娘には羽が生えていた。
そう、その羽は。
「吸血鬼の羽。
おそらくは此処に捕まったオリジンヴァンパイア。
ハイドの奴も気にかけてた。」
「……ハイド。」
その名をコダマは呟く。
俺はその様子を見てやはりハイドのことも知っているのだと思った。
「ハイドは俺が最初に魔導研究所に入った周の後、ずっと行方不明だ。
だがあんたにハイドをどうこうする力があるとは思えない。
だったら考えられることは一つ。」
ハイドも、コダマも、その吸血鬼を気にかけてた。
だったら導かれる答えはいくつもないだろう。
「あんたはハイドに協力を持ちかけた。
違うか?」
俺が言ってることはあくまで状況証拠から見る推測でしかない。
探偵漫画じゃないんだ。都合のいい証拠なんて何も転がってはいない。
この場にいる時点でコダマが周回者であることは半ば確定した。
だが俺たちの本当の目的は周回者を突き止めることなんかじゃない。
全ては、悲劇を回避するため。
この都の悲劇も。雫の悲劇も。
奴等を、止めるなり倒すなりしない限りは。
俺たちの戦いは終わらない。
「……はぁ。分かったわよ。」
コダマは観念したかのように両手を上げながら溜め息を吐いた。
認めた、というポーズだろう。
「そうね。
確かに私は前の周回を知っている。
奴等を呼ぶ手助けにも、結果的にはなっていたかもしれない。
でもそれはあくまで結果論よ。」
「結果論?」
コダマは今までのようにサバサバと話していた。
まるでこの場がまだ平和な学院であるかのように。
もう、この世界も終わっているのにもかかわらず。
「たとえばアンヌ先生の件、だっけ?
私があそこにいたのは、あの人が本当に奴等を呼び出してるのか確認したかったから。」
「確認?
どういうことだ?
それはつまりアンヌ・ポルクスの家に奴の肉塊があったのは……」
「そう、それはたぶん奴等の手口。
もしくは単なる偶然?
それは分からないけれど。
でもあの場所自体には私は用はなかった。
奴等が暴れてからこの都が崩壊するまでに時間はあるけど。
けどタイムラグの短さを考えれば、奴らが暴れる場所と目的の場所は同じ方が望ましい。」
「……目的の場所。
それがこの場所、魔導研究所ってことか。」
「えぇ。」
じゃあ俺たちにばれそうになったから魔導研究所に標的を変えたのではなく。
最初から目的はこの場所だった、ということか。
「貴方の言ったとおり、私はアンヌ先生と面識があった。
だから私もこの夜会に入ります〜風を装って、
アンヌ先生からあの魔導書のページを回収することにした。」
アンヌ・ポルクスが持っていた魔導書に含まれていた、異質なページ。
おそらくは奴等の一部、か何か。
俺たちがアンヌ・ポルクスと戦った次の周から、それをコダマは回収していた。
だから舞台は魔女の家から、魔導研究所へと移ったというわけか。
「毎周持ってるからいちいち回収するのは手間だったけど。
あれにはいろいろ使い道があったから周回ごとに違う使いかたをしてみたわ。
ただいつの間にかなくなってたこともあったわね。
そう都合よくは行かなかった。
その結果、無駄周にしてしまったこともある。」
奴等の情報。
ていうか普通に話してくれるな。
案外、話してみたかっただけかもしれない。
何故なら。
「……あんたは、一人だったんだな。」
「どうしてそう思うの?」
「さぁな、なんとなくだ。」
「ふーん。」
コダマは肯定も否定もしなかった。
けれどおそらくはあたっているだろう。
同じ立場の人間に一度話してみたかった。
そういう心理は俺にも理解できる。
だが。
「詩織に標的を変えたのは何故だ?
お前らは仲良くしてたじゃないか。」
「……別に詩織をあんな目に合わせたかった訳じゃない。
奴等が、狙いだしただけよ。」
ずっと普通に話していたコダマが、それに関しては顔を背けるように話す。
どういうことだ?
詩織の件にコダマは関係ないのか?
(いや、おかしな話じゃない。
コダマ一人で都合よく周りを扇動できた訳じゃないんだ。)
周回者は絶対的な存在なんかじゃない。
結局のところ俺たちと同じだ。
ただ、その目的は……
「……分からない、分からないんだ。
あんたは何をしたかったんだ?」
彼女がこの都の破壊とか。
詩織の不幸とか。
そんなものを望む人間には思えなかった。
「もう検討ついてるんじゃないの?
ハイドの話もしたってことは。」
「………」
ハイドの話。
じゃあまさか、いいや、やはりといったところか。
「私の目的はそこの子。
アリン・ペルシェを助け、共に過去の、月詠夜夜子様の元へ還ること。
それだけよ。」
「……還る?」
月詠夜夜子。
かつて初代聖女からその名前は聞いたことがある。
確か、それは。
「……吸血鬼を作り出した女。
過去の、矛盾曲。
吸血鬼の娘と、”共に”還る。
……じゃあ、お前は。」
人間ではなく。
そもそも村から来たという話も。
「……”コダマのこと”は知っている。
あの子はこの学院に入学する”予定”だった。」
知っている。
入学する予定。
「シャルディス。
シャルディス・ブラッドを探すのだ。
そうすれば、お前の苦労も終わる。」
俺は神楽魔姫の言葉を思いだす。
ブラッド。血。吸血。吸血鬼?
……いや、まさか。
「……あんたの本名はコダマ・オラトリオじゃなく。
シャルディス・ブラッドって名前なのか?」
「……あぁ、そんなことまで知ってたんだ。
というかもしかして。
神楽魔姫に直接会ったの?」
「あぁ。」
「……そう。
それは本当にご愁傷様。」
その言葉には同意する。
だが、それを認めたということは。
「あんたはコダマ・オラトリオを騙り、この学院に入学した。
元々入学する予定だったコダマ・オラトリオの代わりに。
けどあんたはコダマではなく。
シャルディス・ブラッドという名前の吸血鬼。
おそらくはオリジンヴァンパイア。」
「元、だけどね。
今の私には吸血鬼の力は殆どない。
でもそれでも私のやることは変わらない。」
その表情は、なんだろうか。
決意も、執着も、憎悪も、感じ取れない。
あえて適切な言葉を出すとしたならば。
「……平穏。」
そう。
彼女は彼女の平穏の世界に。
還りたかった、だけ?
「矛盾、している。
平穏の世界に帰るために、破滅の世界を作りだすなんて。」
「そうね。
私もそう思うわ。
でも、便乗するほかなかった。
もともと奴等はこの都を狙っていたみたいだったし。
そういう意味では罪悪感は多少は薄れた。」
だが分からない。
その吸血鬼の娘、アリン・ペルシェ?とやらを助けるために。
どうして奴等を呼び出す必要がある?
「悪いけどそれは話せない。
だって私はまだ負けた訳じゃないから。」
ここまで普段の学友のように接していたコダマは。
……いいやシャルディスが敵意と共に返す。
「だってそうでしょう?
これでようやく条件が対等になっただけ。
私は貴方が周回者であることなんてとっくに分かっていた。」
……成程な。
今までは潔く話していたように見えたが。
それは本当に、話してみたかったから話してみた。
それだけのことだったのかもしれない。
「私個人としては貴方のことは嫌いじゃない。
学院の友達にだって好きな人はいた。
詩織のことだって、本当に申し訳ないと思ってる。
けれど。」
けれど、それは。
「私にとってこの戦いを辞める理由にはならない。
それがどれだけ罪深いことでも成し遂げる。
ただ、それだけ。」
「……そうかよ。」
結局は、それしかないらしい。
もしかしたら、とも思ってたが。
だが可能な限りの説得はする。
俺にとっての望みは目の前の女を打ち倒すことなんかじゃないから。
「だったら戦う必要なんてないだろう。
その娘をどう助ける?ことが必要なのかは分からないが。
それは俺にとって受け入れられないようなことじゃない。
共に協力することが出来るはずだ。
そうだろう?」
「……貴方は、分かっていない。
私達は、奴の、遊ぶ者のゲームの配役に過ぎないのよ。」
「……なに?」
遊ぶ者。
そいつは、たしか。
「これは、もうそういうゲームなのよ。
少なくとも奴にとってはね。
勝った方が望みを得る。
それがこのゲームの勝利者への報酬。
だから、協力なんて形をとることは出来ない。」
「……遊ぶ者が、お前に周回能力を与えているのか?」
「まぁそうなるわね。」
「お前と遊ぶ者がどんな約束をしているのか知らないが。
奴が約束なんて守ると?」
「意外と守るらしいわよ。
少なくとも夜子様はそう仰ってた。
ゲームのルールには忠実なんだって。
私もそれは感じるところがある。」
だったら。
「やる価値は十分ある。
貴方にここより更に過去に戻る手段なんてないでしょう?
だったら貴方と協力する意味はない。」
「……そうかよ。」
交渉は、決裂のようだ。
確かに俺にこの女の望むものを与えることは出来ない。
「戦うしか、ないってことか。」
「そうよ。まぁ直接戦うなんてことやる意味はないけど。
それでいいならとっくにそうしてる。」
俺を殺すことはこいつにとっての勝利条件じゃない。
おそらくあのアリンとかいう吸血鬼を助けることこそが勝利条件。
そういう風に”設定されている”。
「……ただ、おそらくもう長くはない。
次が、きっと最後のチャンスでしょう。」
「……どういうことだ?」
今後も、この繰り返しは続く。
そう思っていたが。
「このゲームはね。
”条件つき”で続いているのよ。
でももうその条件も破綻する。
何故ならば。」
シャルディスは不快感を露わにしてその名を呼んだ。
「神楽魔姫が戻って来る。
完全な状態で。」
「……神楽魔姫。」
その名前はもちろん知っているが。
「このゲームは、あいつが今”この世界にいない”から成り立っている。
戻って来たら全て終わり。
既に半分くらいなら戻れるみたいだし。
いまはどこかで見物してるのか、まぁ知らないけど。」
「どういう、ことなんだ?」
まるで話が分からない。
確かに奴は出鱈目な存在だった。
だがそれと俺たちの戦いとなんの関係があるんだ?
「……どうしよっかな。
別に教えてあげても害はないと思うし、それに。」
少しだけ今度は安堵したような表情で。
「……私だけが、あれを知ってるとか。
正直もうしんどくて仕方ないのよ。
だから、教えてあげる。」
それが、本音なのかもしれない。
ただいずれにせよ。
「……さすがに、場所を変えないか?」
忘れがちだがこの魔導研究所は既に倒壊直前である。
「……そうね。」
そしてその話は始まる。
全ての始まり。
俺たちがこの世界に”現れる前”の話。
そう。
0周目の世界の話を。
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