SS TOPに戻る
前へ
次へ
45話 凸凹な奴ら
「でぇ、あなたはどこの誰さんなんですかぁ?
私は死ぬような目に合ったんですから、誠心誠意謝罪がいると思いませんかぁ?」
「そうなのか?
む、謝るべき??
むむむ?」
私が正気になってから数分後。
私は正座で謝る恰好になっていた。
「ごめんなさい。」
「はぁ?
そんなもんで足りるわけないでしょぉ。
もっと頭の角度が……」
「よし。
お前はちゃんとごめんなさいしたからな。
次からは私が守ってやるぞ。」
「そ、そう……ありがとう……」
よく分からないが、目の前の少女的にはこれでいいらしい。
もう一人の女は「ち」とか言ってるけど。
「それでお前は誰だ?
まだ名前も聞いてないぞ。」
「わ、私はシャルディス。
シャルディス・ブラッド……」
「シャルディスか。
よし、覚えたぞ。」
そんな挨拶をしながら、私は態勢を戻す。
私が狂気に堕ちてから200年。
まさかまた正気に戻ってこれるなんて思っていなかった。
「そ、それで、貴方は私に何をしたの?
助けてくれたのは、本当になんとお礼を言っていいか、なんだけど……」
「なんかガラハドみたいなのがいたから、
てい、しただけだぞ。」
「そ、そう……」
どうやらまともな回答は返って来な……
……と思ったら、ガラハド?
「あなたは、奴のことを知っているの?」
「うん。2個くらい前の場所で戦ったな。
とっても困った奴だ。
此処にもあいつはいるのか?」
「そ、それは、えっと……」
如何せんずっと狂気のまま暴れていたから。
今の世界の情勢なんて私にはまったく分からない。
そしてこの少女もまったく分かってない気がした。
「……ガラハドって、もしかして伝説の悪魔のことですかぁ?
たしかえらい王様が退治したとかそんな話を聞きましたよぉ。」
「えらい、王様……」
それは、おそらく、覇帝?
夜子様は覇帝がいる限り、吸血鬼の天下はないってそう仰ってたけど……
「……て、あれ?
それ以外は、なんだっけ?」
「それ以外?」
……まるで、思い出せない。
過去のことが、過去の仲間たちの顔すらも、全然……
「……でも、もう誰も生きていないよね……?」
「生きてない?」
「……いいえ、なんでもない。
助けてくれて本当にありがとう。」
「うん。」
私は改めてちゃんとお礼をすることにした。
彼女がいなければ、私はあのまま化物として討たれていただろう。
たとえば、そう。魔物シャルブラッドみたいな?
まんま過ぎるか。
「……あのさぁ。
もっとお礼を言うべき存在が此処にいませんかぁ?」
「……え、えっと、貴方は?」
襲ってしまったのは悪いと思ってるけど。
ずっとそのことでネタにされそうな気がした。
「貴方なんかに名乗る名前はないんですよぉ。
私はこれでもとても高貴な身で……」
「名乗らないのか。
それじゃあなんて呼べばいいんだ?
ナノラ?」
「……メイク。
メイク・ザルツブルク。
ザルツブルク国の騎士副団長とかやってましたねぇ。
偉かったんですよぉ。」
「……ザルツ、ブルク?」
「覚えにくいな。メイクでいいか?」
「……はぁ、まぁ知ってるわけないかぁ。
もう滅んだ国の名前ですよ。
今更どうだっていい。」
どうだっていいと言いながら、少しばかりその顔には陰りが見えた。
あまり触れない方がいい話題かもしれない。
まぁそんな感じで。
私たちはいつのまにか話し込んでいた。
「と、ところで、此処はどの辺り、なの?」
「むー?」
刹那の方はまったく分かっていないらしい。
となると頼りになるのは。
「……此処はイムヌスと北方の間。
あなたたち一体どんな田舎生活送ってたんですかぁ?」
メイクがなんだかんだで教えてくれた。
そこまで悪い人でもない?のかもしれない。
(……これから、どうしよう。)
夜子様の時代から200年。
もうあの方も、仲間の吸血鬼も存在しない。
正気に戻れたのはいいけど、私にはもう帰る場所がない。
「じゃあ私はもう行くぞ。」
そんな私の葛藤を余所に、刹那はスタスタ行ってしまった。
「え、ど、どこに?」
私はなんとなく呼び止める。
……何故かは、自分にも分からない。
「ん、アリンを探しに行く。
助けてーって言われた気がするからな。」
「……え?」
……アリン。
「……アリン・ペルシェ?」
「うん。確かそんな名前だ。
そういえばお前もアリンの仲間か?
微妙に同じような、違うような感じだぞ。」
その名前を聞いて、私はその部分だけを思い出していた。
アリン・ペルシェは私と同じオリジンヴァンパイアの一人。
……では、あるけれど。
「……彼女は、私たちに協力しなかった。
だから……」
「だから?」
刹那が私の方を覗き込んでくる。
その瞳を見て、私は何故か怖気づくかのように。
「……う……」
彼女の紅い右目にそんなことを感じるのだろうか?
……まるでアリン・ペルシェ本人に咎められているかのように。
「……いったい何の話なのか分からないんですけどぉ。
どこの誰さんですかぁ、そのアリンとかいう人?」
「アリンはアリンだぞ。」
「いや、そういう事じゃなくて……」
メイクは少しうーんと考えて。
「あ、わかった。
そのアリンとかいう人、もしかして人間じゃないとかぁ?」
「人間じゃなかったと思うぞ。
たしか吸血鬼って言ってたぞ。」
「……彼女は、私の元仲間、だった。
オリジンヴァンパイアの一人。」
「オリジン?」
「……え?
オリジンヴァンパイアってもう絶滅したとか聞きましたけどぉ。
ていうか貴方もその一人?」
「……今は、分からない。」
私に吸血鬼の特性は残っているのか。
正直、ほぼ残っていないように思えた。
自分のことだから、感覚的になんとなく分かる、気がする。
「……仲間。
本当か?」
「え?」
彼女は、刹那はまた私の瞳を覗き込んでくる。
……まるで、私の迷いを見抜くように。
「……仲間、仲間だったのに、私は、私たちは……」
……そう。
私たちは彼女を冷遇した。
人間と戦い、吸血鬼の世界を作ることに反対したから。
だから”あれ”は妥当な措置だったって。
あの頃はそれが当然だと思っていたはずなのに。
どうして、今頃になって……
「よく分からないが、お前はアリンに会いに行くのか?
私も探してるところだぞ。
一緒に行くか?」
「……え?」
……私ははっと顔を上げる。
一緒に、行く?
あぁ、そうか。
私には、この世界には誰も知り合いがいないのだった。
改めてそれを強く感じる。
……でも。
(……彼女は、アリンは私たちとは違う場所にいた。
だから、もしかしたら……)
生きてる可能性はあった。
だったら、そのことを。彼女を探すことを。
「……そうね。
一緒に、行ってもいいかしら?」
「問題ないぞ。」
私の新しい人生の始まりにしても、いいのではないだろうか?
そう、思えたから。
私は、彼女の、刹那の手を取った。
「だったら宜しくね、刹那。」
そうして私の、私たちの新たな旅は始まる。
「私のこと忘れてませんかぁ?」
「ん?」
「……あ、忘れてた。」
メイクははぁと溜め息を一つ吐いて。
「……オリジン、ヴァンパイアですかぁ。
面白そうじゃないですか。
貴方たちは何故か場所もろくに分かってなかったですしぃ。
このメイクさんが案内役をしてあげてもいいんですよぉ。」
「そうなのか、よろしくお願いします。」
「ははっ、刹那さんは素直で良いですねぇ。
で、そこの私に命の危機を与えた貴方は?」
私はこのネタで一生こすられ続けるのではないだろうか?
まぁ、それも仕方ないか。
「そうね、お願いしても良いかしら?」
「……なぁんか上から目線ですねぇ。
まぁいっか。
少しばかりこのメイクさんが麗しき肌を脱ごうじゃないですかぁ♪」
「脱ぐのか。魅彪みたいだな。」
「……あー、本気を出すって意味ですよぉ。」
「そうだったのか。
よし、覚えたぞ。」
そんな感じで、私は、私たちは。
この何も分からない200年後の世界で、ちょっとのあいだ3人旅を続けることになった。
(……まぁ、でも。)
きっと私は愉しかったのだろう。
人間の社会と戦う。覇帝と戦う。吸血鬼の世界を作る。
そんな使命感や義務感から解放され。
自由気ままに世界を謳歌することは。
その時は、”まだ”。
そう、思えていたのかもしれない。
SS TOPに戻る
前へ
次へ