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46話 聖地オラトリオ
「刹那だって?」
「えぇ、知ってるの?」
俺たちは場所をカデンツァの外に移し、シャルディスの話を聞いていた。
ちなみに哀音とリオンは近くにはいない。
同じ時の放浪者なら、認識されるかもしれないからと。
そしたら何も話してくれなくなるかもと、少し離れたところで待機してもらっている。
だがまぁ、その話の中でまさか刹那の名前が出るとは。
「まぁ、知ってるといえば、知ってるな。
正直、この世界にいるとは思ってなかったが……」
考えてみればあいつも時の放浪者、ってことになるのか?
だったらいること自体は別に不思議ではないのかもしれない。
なんか当たり前のようにこの世界の奴らに認識されてる気がするが。
「ふぅん。
でもその反応からして貴方達と刹那が何か組んでるってことはなさそうね。」
「ま、まぁ、そうだな……」
「彼女はそういうタイプじゃないでしょうし。」
そういうタイプじゃない。
要するに策を立てて計算高く動くタイプじゃないって意味だろう。
それはまぁ、その通りかもしれない。
まぁ、そんなわけで。
私たちはいろんなところを旅した。
まぁいろいろ、あったわね。
細かい旅の内容はさすがに割愛するけれど。
ただまぁ、コダマの件くらいは軽く話しておこうかしら。
「はぁぁ。なんでこんな寒いところに来たんですかぁ?」
当時の私たちは北方を旅していた。
理由は、なんだったかな?
「アリンは白いからな。
きっとこっちの方にいるんだぞ。」
「そうね。白いわね。」
「……こいつら、馬鹿なんじゃないですかぁ。」
メイクに突っ込まれながら、私たちは白いアリンを探していた。
正直旅をしてる間に、目的も宙ぶらりんになってて適当な動機で向かったのは否定できないが。
「む、村があるぞ。
こういうのは集落って言うんだぞ。」
「いや知ってますけどねぇ。」
そんななか私たちが辿り着いた村。
そこは。
「……炎?」
その村にはいたるところに松明が置かれていた。
ただこんな雪と氷の世界だ。
普通の炎では松明の火なんて簡単に消えてしまうものと思ったが。
「たくさん火がついてるな。
ちょっと強いぼーぼーだぞ。」
「……どういう意味ですかぁ?」
「確かに普通の火なら消えてしまいそうなもんだけど……」
私たちは村の中を歩く。
いまどれくらい寒いのか数字上では分からなかったが。
「む、人だ。
聞き込みは基本だぞ。」
「どこから覚えたんですかねぇ。
まぁ否定はしませんがぁ。」
一番最初に出会った子供。
刹那が普通に話しかけて出会ったその少女は。
「……え、そ、外の人?」
「外の人じゃなくて刹那だぞ。」
「いや外の人ですからねぇ。
その自己紹介はどうなんですかぁ?」
とはいえその少女は私たちのことを怖がるわけでもなく。
「わ、私はコダマって言います。
寒いところを、よくお越しくださいました。」
「と、とても丁寧にありがとう。
村の大人の人に会わせて貰ってもいいかしら?」
「は、はいっ。」
そこで私たちは彼女に、コダマに初めて出会った。
「お父さーん。」
「あぁ?どうしたコダマ?」
父親のマルシスって男を通して、村の村長に私たちは会うことになった。
その短い間に私たちは村の住民の殆どにすでに知られていた。
小さい村だし、そういうものかもしれないけれど。
「これはこれは、旅の方。
旅の方がこのオラトリオに来られるのは数年ぶりでございます。
ほほほ。」
「うん、よろしくお願いします。」
「……オラトリオ。
その名前、どこかで聞いたようなぁ……」
メイクが考える素振りをする。
言われてみれば私も昔、聞いたようなそうでもないような。
「???」
刹那はまったく聞いたことがないらしい。
「おや、まだ私たちのことが外に知られているとは。
もうとうに忘れられているかと思っておりました。」
「いやよくは知らないんですけどねぇ。」
「私たちはオラトリオの民。
火の神ボルケウス様に仕える、炎の民でございます。
この炎も火の神から授かったもの。
ゆえにこの雪の世界であっても、この炎は消えたりしません。」
「火の神……」
「む、すごいんだな。」
「えぇ、それはもちろん。
ところで皆さまは此処に何をしに……?」
私たちはアリンという子を探しに此処に来たと説明した。
まぁ目撃情報の一つもないんだけど。
吸血鬼ということはさすがに伏せたとは思う。
「……ふむ、残念ですが。
この辺りに旅人が来たのは皆さんで数年ぶりでございます。」
「そ、そうですか。
それはまぁ、そうかもしれないわね。」
「当たり前なんですよねぇ……」
「むぅ、アリンは白くなかったのか。」
何はともあれ。
私たちはその村にしばらく滞在することになった。
理由は、まぁなんとなく、だった気がする。
「せっかく来て頂いたのです。
今は村祭りの時期。
どうかご多忙でなければご参加ください。」
「うん。いまはたぼーじゃないからな。」
たぶん刹那がすぐに返事をしたから滞在することになった気もする。
それでまぁ、結局住むことになったのが。
「わわ、皆さん、うちに泊まってくれるんですか?」
「村長さんよ。
うちは貧乏家なんだぜ。
なんでうちなんだ?」
コダマとマルシスの家だった。
母親らしき人物は見かけない。
そこはまぁ、私たちも触れないようにしていた。
刹那は母親の概念を分かってなかっただけな気もするけど。
「す、すごい話……
ほ、他にはどんな話があるんですか?」
「古都はお金お金うるさかったからな。
お金は大事にしないといけないんだぞ。」
「意味分かってるんですかねぇ……」
如何せん私は昔のことを覚えていなかったので。
刹那がコダマにいろんな話を聞かせていた。
メイクは逆に村人にいろんな話を聞いていたみたいだったけど。
「……刹那の話ってどこまで本当なのかしら。」
人魚を助けただとか。
矛盾曲をボコンしただとか。
退廃やら闘争やらと戦ったのだとか。
確かに刹那は強いけど、あまりに突飛めいた冒険譚すぎてどこまで真実なのかは判断が難しかった。
まぁ、全部本当のことなのかもしれないけど。
刹那のことだし、変に解釈してないかなぁっていう気もしていた。
「全部本当だぞ。
私は真那と違って嘘なんてつかないからな。」
「いや、真那って誰?」
まぁそんなわけで。
私たちはそれなりに平和な日々を過ごしていた。
「……んー、えいっ。」
コダマの掌から氷の粒が放たれる。
もちろんまだLv1の魔法のレベルですらなかったけど。
「……すごいわね。その歳で魔法が使えるの?」
それでも年齢を考えれば結構な才能の持ち主だったんじゃないかしら。
「うーん、でもまだ上手く行かないんです……
狙ったところに魔法が届かないよぉ……」
「なるほど。それはね……」
私は暇さえあれば(だいたい暇だったけど)コダマに魔法を教えていた。
逆に私も氷属性魔法は得意じゃなかったので、コダマに教えてもらったりもした。
「シャルさんはどんな魔法が使えるんですか?」
「私の魔法はこれね。」
あ、ちなみにそのことについては教えません。
手の内を晒す気はないわ。
「はー、いろんな魔法が使えるんだ。
いいなぁ……」
「コダマだって凄い才能だわ。
極めていけば将来は相当な魔法使いになるんじゃないかしら?」
「……魔法使い。
昔会った魔法使いのお婆さんもそんなことを言ってくれました。
私、すごい魔法使いになれるのかなぁ。」
「そ、そう?」
その話も割愛するけれど。
気づいたら数週間か1ヶ月くらいは、私たちは滞在していたかもしれない。
……けれど、ある日。
「う、うわあぁぁあぁあぁっっ!?」
「グギャアアアァァアオオオ!!」
「こ、こいつら、まさか……」
緑色の小型のトカゲのような魔物。
あれは、まさか。
「ドラゴンリザード……っ!?」
昔、見たことがある。
身体は小さいけれど、その牙には石化の力があるという。
そんなドラゴンリザードの大群がオラトリオを襲った。
「く……っ。メイク、刹那は!?」
「コ、コダマと遊びに行っちゃいましたよぉ!
肝心な時にぃ!」
私とメイク、村の男たちはドラゴンリザードの集団相手に戦った。
「あぁ鬱陶しいっ。
聖爆剣っっ!!」
メイクの剣技は見事だった。
そういえばメイクってどこかの国の騎士副団長って言ってたし。
「凍りなさい、フリーズ・サーっ!」
私はコダマから覚えた氷属性魔法も駆使して戦っていた。
もちろん他の魔法も使ってたけど、まぁそこは割愛で。
けれど多勢に無勢。戦況は劣勢だった。
(……吸血鬼のころの力さえ、あれば。)
自身の力のなさに歯ぎしりする。
いまや私の力は人間に近いものでしかない。
化物となって暴れていたころにほとんどの力を使い果たしてしまったのかもしれない。
だがそんな弱音を吐いてはいられない。
「……それでも守る。
守って見せるわ!」
「……なんだよおまえら。
余計な手間かけさせるなよなぁ。」
野太い声。
その声が聞こえたと同時に、私たちは一気に空気が凍り付いたのを感じた。
「……っ!?
……これ、は……?」
「……氷の、ブレス……?
いや、そんなもんじゃ、ないですねぇ……」
そこに現れたのは。
小型のドラゴンたちとは比べ物にならないほど巨大な白い竜。
「なんだよおまえら、余所者か?
はぁ、まぁどうでもいいか。」
先ほどの野太い声はこの竜が原因だったらしい。
しかもこの相手は。
「……ま、まさか……っ!?
こいつは、伝説の四色ドラゴン……っ!?」
メイクも同じことを考えていたようだ。
私が過去、四色ドラゴンに会ったのかは覚えていないが。
だが一つだけ言えることは。
「はぁ、だから何だっていうんだよ。
余所の旅人なんかに用はないんだけど、まぁ見られてしまったなら仕方ない。」
その竜は緩慢に動いたと思ったら。
「さっさと死ね。」
「……っ!?」
私たちは反射的に後方に飛びのいた。
白い竜の鋭い爪が、私たちが先ほどまでいた空間を切り裂く。
その鋭い音だけで背筋が凍る。
「……はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
「はは、これは死ぬ覚悟、した方がいいかも、ですねぇ……」
隣のメイクも顔面蒼白で死の覚悟を口にしていた。
……この村は、滅びる。
……私たちも、ここで、死ぬ。
それを直感した。
それが、"定められた未来"だと。
「……ぐ、ぎゃああああああああっっっっ!!!」
「……っっ!?」
だが次の瞬間。
その巨大な白い竜は燃え上がった。
竜に炎はたいして効果がない。
だが目の前の竜は確かに苦しんでいた。
(……これは、本当に炎……?)
私がそんなことを疑問に思っていた僅かな間隙。
その一瞬の間にその青い閃光は私の前に現れ、白い竜に殴打の一撃を与えていた。
「ぐ、なんだ?
なんなんだお前はぁぁああぁぁあぁっっ!?」
私たちはまだ知らなかった。
彼女が、どれほど出鱈目な存在なのか。
「私はお前じゃなくて刹那だぞ。」
この村の滅び。
定められた未来。
それはいま、覆る。
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