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47話 悲劇の巻き戻し



「くっそがっ!」
白竜は巨大な爪で刹那を引き裂こうとする。
だが刹那はあっという間に見えなくなり白竜の上空にいた。
かと思えばいつの間にか白竜に打撃?らしき攻撃を加えている。
(……あの攻撃。
 たぶん、爆斬。
 でもあれを、素手で打つなんて。)
体内爆に近いスキル。
敵の外部ではなく、内部にダメージを与える技だ。
確かにあれなら硬い竜の皮膚であろうと、意味がない。
「てい。」
白竜の攻撃を寸でのところでかわしながら、次から次へと攻撃を加えていく刹那。
強い。彼女はいったい何者?
「なにボサっとしてんですかぁ!」
「……っ!?」
メイクの怒声に私は我に返る。
気づけばドラゴンリザードの大群が村に向かって進軍していた。
「敵は白竜だけじゃないんですよぉ!
 ちゃんとやるべきことをやってくださぁい!」
「え、えぇ。ごめん。」
私たちはドラゴンリザードの討伐に戻る。
四色ドラゴンの相手を刹那一人に任せるのは気が引けるけど。
でも今はやるべきことをやらなければ。

そして数十分後。
私たちはドラゴンリザードの軍勢をなんとか撃退。
そして白竜の姿もいつのまにかなかった。
「むぅ、逃げてしまった。
 まだごめんなさいさせてないのに。」
「いえいえ、追い返しただけでも大したものですよぉ。
 いやしかし凄いですねぇ。
 その歳であれほどの強さ。
 これは将来大物ですねぇ。」
メイクが前とは打って変わって刹那におべっかを使い始めた。
調子のいい奴。
とはいえ、まぁ。
「助かったわ。」
「ま、それはお互い様ってことですねぇ。」
メイクとハイタッチをする。
それを見た刹那がむむ?と私たちの手に視線を向けていた。
じゃあ刹那にもタッチ、と。
「よし。」
満足したらしい。
「皆さんには、なんとお礼を言っていいやら。」
そして私たちは村の総出で表彰されることとなった。
その後も何日か奴らがもう一度来ないかと見張っていたが、その気配はないようだった。
「しかし妙だな。
 あの白トカゲはなんでこの村を襲ったんだ?」
マルシスが疑問を口にする。
確かに言われてみれば組織的な動きだった。
あのドラゴンリザードたちは白竜の尖兵だったように思う。
「つ、つよぉい!
 私も大きくなったら、皆さんみたいに強くなります!」
「えぇ、貴方ならできるわコダマ。」
本心からそう思った。
この歳であそこまで魔法が使えるのだ。
将来は有望だろう。
「では皆さん。
 旅の無事をお祈りしてます。」
「お前らも気をつけるんだぞ。」
「わーってるって。
 じゃあな。」
そうして私たちはオラトリオを後にした。
愉しかった日々に少しばかり未練を残して。
そして。

……二度と彼らと会うことはなかった。



「えい、フリーズ!」
一行が村を去ってから1週間。
コダマは魔法の練習をしていた。
あの時の旅人たちのように強くなるために。
「……あれ?」
……雪が、溶けていく?
コダマはこの村に住んでいて雪がなくなるところを見たことがなかった。
だからその現象が何なのか、分からなかった。
否。
コダマ以外の誰であってもその現象を理解することなど出来なかった。
何故ならば。
「逃げ、ろ……」
「お父さん?」
父マルシスが蒼白で遠くにいた。
その足取りは非常におぼつかない。
「逃げるんだぁぁぁぁっ!!
 コダマぁぁぁっっ!」
「……っっ!?」
その大声にコダマはびびり走り去っていく。
雪だけでなく、村の人々は誰もが倒れていた。
村人だけではない。
雪も、民家も、大地すらも。
何もかもが、腐り落ちていく。

「やれやれ。
 少しばかり出遅れたのだ。
 でもちょっと前までいたのは間違いない。」

その最悪の人災は。
口元をわずかに緩めながら。
村をただ歩く。
それだけですべては。
……本来、白竜ラピスティアによって滅ぼされる火の村オラトリオ。
……その書き換えられた筈の悲劇は、その悲劇を巻き戻すかのように。
……より最悪な悲劇へと、書き換えられる。

「だが、まだ追いつく。
 うふふふふふ。楽しみ、愉しみ♪」



それから何週間、何か月か後。
私たちは北方の雪の大地を超え、南方の近くに足を踏み入れていた。
その間も少しばかり変わった出来事はあったけど。
まぁその辺りは割愛で。
「いやぁさすが強いですねぇ刹那様。
 惚れ惚れしちゃいますよぉ。」
「そうか。」
メイクはすっかり刹那のごまをすっている。
刹那にそんなことしても意味ないような気がするのだけど。
まぁいいか、別に。
「此処は人が多いわね。」
「おっきい水たまりがあるぞ。」
「湖ですよぉ刹那様。
 南方方面ではまぁまぁ有名な場所ですからねぇ。」
メイクの言ったとおり、此処は有名な観光地?的な場所らしい。
別に観光地として使ってる団体がいるわけではないみたいだけど。
見渡せば家族連れの人々なども見える。
大丈夫だろうかと思ってたが、ちゃんと近くには戦士の人もいる。
いくら人が沢山いると言っても此処は人の集落でもなんでもない。
どんな魔物が出るかも分からない。
「とはいってもイムヌスに近いですからねぇ。
 比較的安全な場所だとは思いますよぉ。」
「そうね。ついイムヌスは避けて来ちゃったからあれだけど。」
私たちはこの3人で旅に出てから未だにイムヌスには行っていない。
吸血鬼だったころの私にとって、あの国の人間は敵だったのだ。
まだ踏ん切りがつかなかった、のかもしれない。
「あー、まぁ私もあんまり行く気なかったのでぇ。
 でもいま思い返せばなんでですかねぇ?」
「そういえばメイクって小国出身だったのよね?
 どんな国だったの?」
「……うーん、どんな国かと言われれば、
 戦士の国って感じですかねぇ。
 武道会とかもやってましたしぃ……」
メイクともこういう過去の話をするようになってきた。
私は過去のことを話したくても、私自身が覚えていない。
でも、なんだろう。
(……もう思い出さなくても、いいのかもしれない。)
過去の仲間たちのことを忘れたままでいるのは不義理なことかもしれない。
でもどれだけ願っても、過去はもう戻ってこない。
だったら。
(私は吸血鬼ではなく、人間として生きる道を考えるべきなのかもしれない。)
今はそう思える。
この仲間たちと一緒ならばきっと。
この時代でも楽しくやっていける。
そう、思い始めたときだった。
「……え?」
周りの様子がおかしい。
家族連れの親子が突如、倒れだす。
私は大丈夫ですかと声をかけようとしたが。
「……っ!?
 これ、は……?」
隣のメイクも違和感を感じたらしい。
さっきの親子だけじゃない。この場にいる人全員。
突如、膝をつき、そのまま倒れるもの。
なんとか膝をついた姿勢で踏ん張るもの。
そして人だけでなく。
「……草が、湖が……」
すべてが、”枯れて”いく。
理解不能な、怪現象。
その現象を見て私は一つの存在を思い至った。
「……まさか、七罪魔……!?」
その脳裏に浮かぶのは、あの雷の悪魔。
闘争の悪魔ガラハド。
……だがなんだろうか。
とてつもなく強大な気配、とはまた違う。
もっと得体の知れない不気味な何か。そんな感じが……
「む?どうしたおまえら。
 調子でも悪いのか?深呼吸しろ。」
だが刹那は特に膝をつくでもなく、周りの様子に疑問を覚えているようだった。
私もメイクも、周りの人々もすでに立っているのもしんどいというのに。
彼女だけはいつも通り、立っていた。

「やはり魔姫の思ったとおり。
 おまえだ。
 初めて同じ人間に会えた。」
「ん?」

そしてその女はやってくる。
素足で、場違いな青と黒のドレスに、水色の髪の女。
……あの髪は、非常に魔力を帯びているように見えた。
だがそれよりも、目を引くのが。
(……踊って、る?)
何故かその女は踊りながらこちらに近づいてくる。
そして奴が近づけば近づくほど私たちは立っていられなくなっていた。
そう。
この女こそがこの状況を生み出した元凶。
直感でそれは理解できたが。
「誰だおまえ?
 私は刹那だぞ。」
刹那だけが目の前の女の視線に対峙する。
その視線は吐き気を覚えるほど理解のし難いものだった。
自分が何と向き合ってるのか、それすらもよく分からない。
顔が怖いとかそういう類のものでもない。
”理解ができない。けれど恐怖する”。
その感覚は、七罪魔にも近いものかもしれなかったが。
「なるほど、なるほど。
 これはご丁寧に恐縮なのだ。
 魔姫は、神楽魔姫。
 同じ人間としてまずは挨拶から。
 うんうん、人間同士の当たり前の文化。
 とてもとても、新鮮な感覚なのだ。」
「そうか?」
それは私たちのことはろくに見ておらず。
刹那とだけ話を始めた。
……まるで近くで倒れてる人々は、草木か動物にしか見えていないように。
「こうして初めて相まみえた同じ人間。
 これは是非ともフレンドになるべきだ。
 お前もそう思うだろう?」
「???」
刹那が疑問顔のなか、その女は話し続ける。
それだけで私たちは立つのも限界どころか、意識を保てているのかすら危うかった。
「魔姫は今日とてもとても感激してるのだ。
 ベストフレンドに会えた今日この日。
 この日を魔姫念日と呼びたい。
 さぁ、フレンドになろう!」
「よく分からないが、別に要らないぞ。」

この異常な状況において。
彼女たちだけが何事もなかったように立って話をしている。(話が通じてるようには見えないが)
そう。
彼女たちだけが特別。
運命に選ばれた、否、この世界の主役たちなのだとするならば。
私たちはそんな世界でどう息をしていけばいいのだろう?
今も昔も、そんなことは分からない。
私たちは何者かが流す劇のなかで、生きていくしかないのだから。


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