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48話 超人邂逅
……あぁ、何故。
どうして、こんなことに?
私は今日、両親とともにこの湖に来た。
私の両親は私のことをよく分かっている、とても良い両親だった。
……その両親はいま私と同じように横たわっている。
まるで血の通っていない、死体のように。
死んでいるのかもしれなかったけど、死んだ人間を見たことがないのでよく分からなかった。
そして私も、このままでは死ぬ。
何かが、私の中からどんどんなくなっていく。奪われていく。
「……いや、だ……私はまだ、死にたくない……」
私はずるずると身体を引きずってその場を離れようとする。
何から離れるか?決まっている。
どうしてこんなことになったのかはまだ子供の私にはまったく分からなかったけど。
その元凶が何なのかは明らかだった。
「魔姫は今日とてもとても感激してるのだ。
ベストフレンドに会えた今日この日。
この日を魔姫念日と呼びたい。
さぁ、フレンドになろう!」
「よく分からないが、別に要らないぞ。」
あいつらだ。
この状況で何事もなく馬鹿みたいな話をしているあいつら。
倒れてる私たちのことなんて歯牙にもかけない、あのいかれた奴ら。
理不尽。
私はそれを生まれて初めて知った。
今日この日まで選ばれた人間は私だと思っていたのに。
生成魔法。一部の限られた人間だけの魔法。
それを生まれながらに使えた私は選ばれた人間。
ずっと、そう思っていたのに。
もう、そんなことを私が思うことは二度とないのだろう。
ここまで、別物で頭のおかしい奴らを見てしまったら。
「……あぁ、私は……」
とても、可哀想な、女の子だ……
それがその日。
周りと同じように死に絶えながらも、それでも運よく生き延びてこの場を離脱した少女。
まだ苗字がハートフェールでない、レラインの意識だった。
そして周りの人間も遠からず彼女と同じことを考えていたのかもしれない。
だが。
「さてまずはお近づきの印なのだ。
いろいろと恋バナでもするのがセオリーなのかもしれないが。
如何せん魔姫が会ったことがある人間はニューフレンドが初めてなのだ。
お手本を見せて欲しい。」
「ニューフレンドってなんだ?」
立っている二人にはまるで関係がない。
刹那はいまだに全員いきなり調子が悪くなったという認識しかしていなかった。
目の前の存在がその状況を引き起こしてると考えることも出来なかった。
何故ならば。
「ふむ、まさかお前もフレンドがいないのか?
ならばお互い初めてというわけなのだ。
うむうむ、そういうのも悪くない。」
悪意も。
敵意も。
害意も。
嘘も。
"何も"感じない。
そして目の前の存在は誰にも攻撃を"加えていない"。
だから刹那には分からなかった。
「要するに友達ってやつか。
む、そういえば友達ってのはどうやればなれるんだ?
古都やアリンは友達だったのか?
シャルディスやメイクも?
むむむ?」
友達の意味はあまり分からなかったのかもしれないが。
さすがに周りがまずい状況にあることだけは理解した、かもしれない。
「ん、もしかしてみんなとっても調子が悪いのか?
ちゃんとぐっすり眠るんだぞ。」
ただ見ようによっては周りが横たわってる状況は。
自分も昔はよく水たまりで眠っていたことがあったので。
気持ちよくぐっすり眠ってるので起こすのはよくないという認識が続いていた。
ついでに刹那は目を開けながら眠れるので、そこにも疑問は覚えなかった。
しかしよくよく考えると。
「……うぅ、あぁ……」
「たす、けて……だれ、か……死にたく、ない……」
「……寝てるときは喋らない気がするぞ。
あと助けて欲しいのか?
何から助ければ、いい?」
助けて欲しいのは分かったが、何をどうすればいいのか分からない。
刹那に神楽魔姫の能力が”効いていない”のは明白であり、だがそれゆえに何から助ければいいのかが分からない。
それは単純に彼女に魔力がないからか、それとも。
「おいお前。
こいつらは助けて欲しいらしい。
どう助ければいいのか分かるか?」
「ふむ?
ふむ……」
刹那に言われて神楽魔姫は今になって周りの惨状に気づいた。
……あぁそういえば小動物が沢山転がっているな。
それは彼女にとってはいつものことなので完全に認識から漏れていた、のかもしれない。
「これは自然の摂理というものではないか?
食物連鎖、というやつなのだ。
人間は動物を食らって生きている。
仕方ないことなのだ。」
「む、なるほど。
確かに私も魔物で料理をよく作ってたぞ。
ん、動物?なんの話だ?」
未だに会話がまるでかみ合っていない。
このままではずれた会話をしてる間に周りの人間は死に絶える。
だから。
「せつ、な……」
シャルディスは声を振り絞り……
「この状況を、作ってるのは、目の、前の……」
「目の前?
お前も本当に大丈夫か?
休んでなかったのか?」
「ち、ちが……そうじゃ、なく……」
だがなかなか伝わらない。
ここまで感じてる世界が違うものか、と。
シャルディスは思わずにはいられなかった。
その間にも意識は落ちそうになっている。
刹那の近くにいたため、必然目の前で話してる神楽魔姫との距離も近い。
言葉を一つ一つ紡ぐのも苦行であり、このままでは……
「目の前のぉぉぉぉぉ!!
神楽魔姫とかいう奴のせいでぇぇぇぇ!!
私たちは、死にそうなんですぅぅぅぅぅっっ!!
早く、そいつを、なんとかしろおおぉぉぉおおぉおっっ!!!!」
少し離れた位置にいたメイクが。
息絶え絶えで大声で叫んだ。
だがそれが限界。
無理をしたメイクも意識が完全に落ちた。
けれども。
「……そいつのせい?
もしかしてお前がこいつらに何かしてるのか?」
ようやく刹那に状況が伝わった。
神楽魔姫は刹那が”質問した”ので、その質問に回答する。
「うむ。
魔姫がいるとどうやら小動物が気絶してしまうらしい。
なかなか難儀なものなのだ。」
「よく分からないが、止めろ。」
「いいや、それは出来ない。
何故なら、これが魔姫なのだ。
自分を偽ったフレンド関係など偽物だと思っている。
ゆえにいつでも本音の、ありのままの魔姫でいたいのだ。
分かってくれると嬉しい。」
「む、ちょっと分かる気がするぞ。
でも止めろ。」
「……ふぅむ、マイフレンドがそこまで言うなら、
考えないこともない、が。」
魔姫は少しだけ考える素振りをしたが。
「止めることを考えたことがないから、いまいち止め方が分からないのだ。
マイフレンドも一緒に考えて欲しい。」
「そんなことを言われても分からないぞ。
だったら。」
刹那が動く。
その瞬間、神楽魔姫の身体が遥か空中に飛ばされていた。
「……飛んだ?」
神楽魔姫とかいう女を刹那が攻撃した?ように見えた。
如何せん人間に近くなってしまった今の私では速すぎてついていけない。
だがおかげでようやく、身体が少しばかり自由になった。
刹那の姿も見えなくなっている。
あの女を追ったのかもしれない。
「……とにかく、今のうちに……」
この場の人々を避難させなければ。
どれだけ、まだ生きてるのかは、分からないけれど。
優先すべきはメイクを起こすことか。
(……それにしても、あれはいったい何者?
どうして刹那には……?)
奴がいる間。
確かに私は魔力を奪われていた。
だが本当に魔力”だけ”だったのかはいまいち分からない。
それだけなら意識まで奪われたりはしないように思えた。
「……え?」
そんなことを考えてる間に。
「空、が……?」
空の様子がおかしい。
急に赤くなったり、黒くなったり、と。
そう思ったらヒビらしきものまで入っている?
「いったい、何が起きているの……?」
シャルディスが認識したとおり、刹那は神楽魔姫を蹴り飛ばしていた。
「……なんと。フレンドと喧嘩か?
これももちろん初めてなのだ。
なんと刺激的な一日か。」
「よく分からないが、これでいいのか?」
刹那は自分が飛ばした神楽魔姫に追いついていた。
とりあえず目の前の奴がよくないらしいので、蹴った。
蹴ったから、追いついてみた。
それだけかもしれないが。
「さぁ、初めてのフレンドとの喧嘩だ。
おもいっきり楽しむのだ。」
「喧嘩はよくないぞ。」
話はまるでかみ合わないまま、その戦いは始まった。
神楽魔姫は空中で踊り始める。
すると。
「む?」
巨大な隕石群が地上に落下を始めた。
そう、踊り。
神楽魔姫は踊りで魔法を詠唱する。
いま初めて彼女は自発的に魔法を使用した。
普段勝手に発動してる簒奪能力は彼女にとっては常態に過ぎない。
だから魔法を使ってるという意識すら彼女にはなかった。
「さぁ、踊ろうマイフレンド。
いまここで舞踏会を始めよう。」
「踊りなんて知らないぞ。
でも楽しそうだな。」
刹那は空中で飛びながら回転を始める。
踊りのつもりなのかもしれないし、ただの攻撃準備なのかもしれない。
刹那から炎のようなものが無数に放たれる。
その炎は神楽魔姫を包みこんだ。
「お、ぉおぉおおぉおぉおっ。
こ、これがマイフレンドダンス。
熱い、熱いのだ。」
「必殺、花火の舞だぞ。」
もちろん刹那が回転しようが特に意味はない。
「ふむ、負けてはいられないな。
ならば魔姫も全力を出そう。」
神楽魔姫の踊りの速度が加速する。
その加速と共に、空の流れまでが加速する。
だがその動きに空が耐えることが出来ない。
突如、空は明滅を繰り返し、その色すらも激しく変わる。
とどのつまり、何が起きてるのかまったく分からない。
「む?」
「おや?」
だが一つだけ周りの人間にも分かったこと。
それは。
「いったい、何が起きているの……?」
空中でおそらく戦ってると思われる刹那と神楽魔姫。
明滅したりヒビが入ったりと、異常が起こっている空。
いいや。むしろ異常が起こっているのは。
「この、世界……?」
……それは飛躍した考え方だ。
世界はそんなに脆くなんてない。
世界は……
「いいえ、シャルディス。
こんな世界は本当はとてもとても脆いのよ。
ガラス細工のようにね。」
ぞくり
……過去の夜子様の言葉を思い出す。
もしかしていま世界は滅びようとしているのではないか?
そんな悪寒すらも感じていた。
「……え?」
そして空は。
世界は。
完全な闇に染まった。
何も見えず。
何も聞こえず。
あらゆるものを認識できず。
世界中の誰もがその現象を理解すらしないまま。
気が付けば世界は”元の状態”に戻っていた。
……誰もいない。
刹那も。
メイクも。
神楽魔姫も。
倒れていた人々も。
いるのは、私だけだった。
「これ、は……?」
何がどうなったのか、まるで理解できない。
いったいみんな、どこに行ってしまったのだろう。
「まったく、面倒なことになったもんだ。」
知らない声。
空中に飛んでいる知らない少女。
……今度はいったい何だというのか。
「やぁ、はじめまして。
本来、化物となっていただけの端役よ。」
その少女は地上に降り立つ。
少しばかり刹那や神楽魔姫に見た目が似てる気がしないでもない。
そうは言っても髪の色くらいだろうか?
いや顔だちは刹那に似てるような。
「僕は遊ぶ者。
さて君はどんな望みを抱えているのかな?
その望み、親切な僕が叶えてあげよう。」
その少女はニヤニヤ笑いながら、私を見下した。
見下すという、まだ人間らしい仕草に少しばかり安心してる自分がいた。
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