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49話 そして始まる物語



世界はやり直しがきく。
もしそんな事を言われたのであれば、貴方は世界をやり直すだろうか?


遊ぶ者。
その名を聞いて思い出したことがある。
彼女は、いいや彼なのだろうか?
遊ぶ者と呼ばれていた彼。彼は確か夜子様の協力者の一人だった。
「夜子、か。
 懐かしいと思う感情は僕にはないが。
 だがまぁその世界に戻ることも不可能ではないんだけどね。」
「……どういうことかしら?」
それはもう終わった過去だ。
戻るだのなんだのわけのわからないことを言わないで欲しい。
「さてどうかな。
 君がその世界を望むのであれば、不可能ではない。
 ただし永遠が与える奇跡において、願いの叶え方は一つしかない。」
「……?」
「永遠の観客たちの望みどおり。
 物語に、ゲームに勝利すること。
 ゲームクリアを果たすことでね。」
「……そういえば貴方は夜子様のときも、
 そんなことを言っていた。」
ゲームだの、なんだの。
そんな言葉が好きな子供だった記憶がある。
遊ぶ者という単語を聞いて連鎖的に思い出したが。
「そんなことより知ってるなら教えて。
 みんなはどうなったの?」
もちろん消えた刹那たちのことである。
遊ぶ者はそれを聞いてつまらなそうに説明を始めた。
「あいつらならもういないよ。
 世界は新たに再構成されたからね。
 先ほどの世界を0周目とするなら、
 この世界は言ってしまえば1周目といったところか。」
「……0周目?1周目?」
「いわばループ。
 世界のやり直しといったところか。
 ただ一人だけ、いいや二人だけかな。
 特例がいる。」
……特例。
遊ぶ者の言っている意味はまだ私にはよく分かっていなかったが。
二人の特例と聞いて思い浮かぶ人物は予想がついた。
「そう、刹那と神楽魔姫。
 この二人だ。
 特例の意味合いは各々違うが、奴らはこの世界において特殊なんだよ。
 だから再構成されたこの世界には存在しない。
 ただ神楽魔姫についてはいずれこの世界に戻ってくるだろう。」
「……戻ってくる?」
よりによって神楽魔姫の方だけが?
「この世界にとって奴は”必須”だ。
 とはいえ少々奴はやり過ぎたのでね。
 まぁお灸をすえてるみたいなものかな。
 その間に君は目的を果たすがいい。」
目的。
世界をやり直すだのなんだの。
何故そんなことを私に聞くのか?
「何故、君に聞くのか?
 そんな顔だね。
 君が今回選ばれた理由は二つある。
 一つは君が本来、この世界に存在しなかった人間だから。
 厳密には魔物シャルブラッドとしては存在していたのだが。
 そんなものは単なる一ダンジョンのボスモンスターに過ぎない。
 けれどその流れは書き換えられた。
 他ならぬ刹那によってね。」
確かに私は刹那に会わなければ今も狂った怪物のままこの世を徘徊していただろう。
この理性だって消えてなくなっていたことは想像に難くなく。
「そしてもう一つ。
 君には願望があるからさ。
 叶えたい願望が。望まない悲劇をやり直そうとする目的が。
 君の中には存在する。
 今回はそういう者たち同士の戦い。
 そういうスタンスというか名目かな?
 それで売り込もうと思ってるんだからそこのところよろしく。」
「……売り込むって。」
私たちのことを見てる輩でもいるのだろか?
聞いてる限りこいつもその一人なのかもしれないが。
「馬鹿馬鹿しい。
 私は刹那たちを探すわ。
 貴方の言うことを真に受ける気はない。」
私は遊ぶ者に背を向けて歩き出した。
そんな訳の分からない戯言に付き合ってはいられない。
私はこの世界で会うことが出来た仲間たちともう一度、旅をする。
そして彼女たちと共にアリン・ペルシェを見つけて、かつて冷遇した謝罪をしたい。
それだけだった。
「だったら君の今までの道のりを逆に辿ってみるんだね。
 それでも何も感じなかったのであれば、まぁそれはそれで仕方ない。
 この企画は没だ。」


別に遊ぶ者の言うことに従ったわけではない。
ただいろいろとこの状況を理解するには、今までの道をもう一度辿るのは悪くない考えだと思った。
けれど……
「……なに、これ……?」
自分たちが辿って来た道が、大地が、村が。
何もかも荒れ果て、なくなっていた。
「……オラトリオも。
 これは、いったいどういうこと?」
考えたくなかったが、答えは一つしかなかった。
神楽魔姫。
奴がこの場所を、私たちが辿って来た道を通ったのだ。
たったそれだけで、何もかもが滅んでいく。
こんな、こんな馬鹿なことが……
「馬鹿なこと。
 そう思うかい?
 でも世界を滅ぼす存在は決して奴だけじゃない。」
「……っっ!?」
遊ぶ者の声が私の後ろから聞こえる。
しかしどうしてこの手の奴らは、人の背後ばかりとるのが好きなのだろうか?
「君も知っているだろう?
 七罪魔。
 奴らだって同じだ。
 奴らも世界を滅ぼす。
 そういう存在だ。
 放っておけばね。」
「……何が言いたいの?」
「さっきも言ったはずだ。
 この状況を打破するために、君が何をするか?
 いいやそれは少々義務的が過ぎるかな?
 君は何をしたいのか?どうしたいのか?
 君の歩んできた工程はもう此処にはない。」
「……さっき貴方はやり直しの世界って言った。
 でも既に滅んでいるじゃない。
 神楽魔姫は存在しないんじゃなかったの?」
「へぇ、ちゃんと理解してるじゃないか。」
遊ぶ者は感心したように言った。
やり直した世界のはずなのに、村が、大地が、すでに滅んでいる。
それを滅ぼしたのが神楽魔姫だと考えたら、何をやり直したのか分からない。
「まだ”きちんと”やり直しの世界が創造されていないのさ。
 なんの理由も対価もなく世界のやり直しなんて効くものか。
 だから君の今後の対応次第。そう言っている。」
「………」
この存在。
遊ぶ者。
彼は私にこんな話をもちかけて何がしたいのか。
それは正直わからない。
ただ、私にとっての利害は一致してるように見えた。
それに遊ぶ者と呼ばれた存在は、ルールに則った結果は守ると夜子様から伺ったことがある。
もちろんそれがこの存在を信じる理由にはならないが。
「……何をすればいいの?」
「そう来なくっちゃ♪」
遊ぶ者はその言葉を待っていたとばかりにニヤリと笑った。
嫌な笑みだ。
「やることは簡単だ。
 君の"元々"の目的を果たせばいい。」
「……元々?
 それって?」
「あるだろう?
 あったんだろう?
 元々の君の目的が。
 まったく知らないものを目的設定にしたって誰もやる気を出さないからね。
 だからそこを基準にすることにしてるんだ。」
……目的。
私たちはアリン・ペルシェを探していた。
彼女に会って、そして……
「謝罪する、だっけ?
 でもそんなの君の自己満足じゃないのかな?
 いまさら何がどうなるわけでもない。」
「……でも、それでも。」
「けど今は何がどうなることも出来る権利を君は持っている。
 本来不可能なことでも叶う。
 だとしたら君は何を望む?」
「……それは。そんなこと。」
誘導尋問されてる感があるのが若干腹が立ったが。
でも私の内心の望みを偽ることなど出来なかった。
「……かつての、仲間にも。
 いまの、仲間にも。
 私はもう一度、会いたい。
 できれば、どちらにも……」
「なるほど、だったらそれを君のトゥルーエンドとしよう。
 君が目的を果たしたらあの女の、月詠夜夜子の時代に返してやる。」
……本当に。
そんなことが出来るのだろか?
私は話半分に遊ぶ者の話を聞いていた。
「信じてないね。
 まぁいいさ。
 それもまた醍醐味というやつだ。
 でもこうは思わないかい。
 あの女、月詠夜夜子さえいればこの最悪の状況だって覆せると。
 神楽魔姫が誕生する因子を完全に取り除くことだって出来るだろうよ。」
……それは、否定できないけど。
「そしてそのころの時代であれば。
 君は、君たちは吸血鬼だ。
 この時代に戻ってくることは可能だろう?」
私たちが寿命なき吸血鬼であれば。
200年後のこの世界に、私たちは戻ってくることが出来る。
あの方と共にあれば、こんな悲劇なんて。
「そう、覆せる。
 だからあくまで今回のゲームはその前までだ。
 君の望む人物を見つけ、救い出せ。
 それが君に与えられた命題だ。」
ただ、と。
「このゲームに参加するのが君だけとは思わないことだ。
 君と同じように世界を繰り返し、望む未来のために暗躍する者がいる。
 それは覚えておくといい。」
その時点ではまだすべての話を飲み込めたわけではない。
けどこのままでは私は何も成すことができない。
であるならば。
「いいわ。乗ってあげる。
 貴方の望みどおりに。」
「いい返事だ♪」
別にこいつの言う事を信じたわけではない。
ただいずれにせよ私はアリン・ペルシェを探す。
それがもともとの私の、私たちの目的だったから。
だったらその過程で、刹那やメイクにも再会できるかもしれない。
今はこいつの話に乗っておくことに異論はなかった。
「今はそれでいいさ。
 いずれ君にも分かる。
 さてまずはプロローグの準備と行こうか。」
それだけ言って遊ぶ者は私の前から消えた。
プロローグの準備?
いちいち変な例えをするのは気に入らないけれど。
とにもかくにも、ここから始まる。
私の、新たな戦いが。
終わらない、繰り返しの戦いが。


「すべては永遠が、あの方が紡ぐゲームや物語。
 僕たちはそれを役者たちに伝え、そして宣伝する、ただそれだけの存在に過ぎない。
 さぁ、奮闘してくれよ、本来主役になれない端役たちよ。
 そのあがきが、泥臭い踏ん張りが、今回のゲームの醍醐味だと知れ。
 取るに足らない者たちが、巨悪に勝つゲームを見せてくれ。」
けれど。
「それでも、超人は存在する。
 主人公の器は、どこの世界にも存在する。
 だから奴らが戻って来るその前に。
 このゲームをゲームクリアに導くんだ。
 それこそが、僕の、いいや。」
その顔に感情はなく。
「巡真那の意思だ。」


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