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50話 役者集結
「……あとはアリンを探す過程でカデンツァに来たわけだけど。
その辺りの詳細をあれこれ説明する気はないわ。
貴方への助力になってしまうし。」
「……そうか。
いやここまで話してくれたのには感謝する。」
長いシャルディスの話が終わった。
やはり驚きが大きいのは刹那がこの世界に来ていたことだろうか。
ただよく分からないのは強制認知の札も持たずに当たり前のようにこの世界の連中と接していたこと。
しかも戦うことも普通に出来ていたようだ。
話を聞くかぎり戦闘力の減衰すら起こっていない。
その理由はまったく分からないが、でも刹那だからなぁ。
あんまり俺たちの参考にはならないような気もする。
だが。
「けどそのアリンって吸血鬼。
メイクってやつが捕まえたって聞いたぞ。」
「それなのよねぇ。
この世界のメイクは0周目の彼女じゃない。
奇妙な偶然もあったものだわ。」
シャルディスはなんともいえない顔で溜め息を吐く。
偶然、なのだろうか。
ハイドのこと、はおそらく話してくれないだろう。
俺が明らかに有利になる内容だ。
けどもう一つ。
「どうしてコダマってやつの名前を使ったんだ?
言いたくもないだろうが、その娘は……」
「……そう思うなら分かるでしょう。
それを話す気はない。」
俺に情報が渡るのが嫌というよりも。
単純に話したくないように見えた。
おそらく、話を聞けるのはここまでだろう。
「私は神楽魔姫のことについて知って欲しかった。
あいつは私にとっても貴方にとっても最悪の存在。
今はこの世界にはいないって遊ぶ者は言ってたけど。
でも1回は出てきてたみたいだし、実のところ残り1周分すらあるのかどうか。
貴方は私と戦ってる場合じゃないって言ったけど、それは私も同じ。」
シャルディスは一息おいて。
「私に勝ちを譲ってくれないかしら?
悪いようには決してしない。
私が夜子様の時代に戻ってからもう一度200年。
必ずこの世界の状況を改善して見せる。」
「………」
月詠夜夜子。
その女が生きていた時代に戻り、この状況を改善する。
それはおそらく神楽魔姫。あの女が生まれる可能性を潰すために。
だが。
(……月詠夜夜子という女は、信用できない。)
俺は初代聖女、巡真理から少しだがその女についても話を聞いている。
なんでも矛盾曲の仕様を変えたとか。
矛盾曲の呪いを止めてくれたってことなら信じても良かったかもしれない。
だが俺には信用できる人間とは思えなかった。
「……あんたはそんな悪い人間じゃないと思ってる。
だが俺は月詠夜夜子については信用できない。
それが答えだ。」
「……そう。
まぁそれも仕方ないわね。
先の時代における、あの方への評判は悪いものばかりでしょうし。」
交渉は、決裂。
どうやら俺たちは協力しあうことは出来ないようだ。
元々、俺の目的は雫の元となった少女を救うこと。
更にここから200年前、俺たちから見て300年前の世界に飛ぶのは、遠回りが過ぎる。
それに醜悪の悪魔や神楽魔姫だけでも既にうんざりしてるのに、その時代だと月詠夜夜子や闘争の悪魔までいる。
俺たちが行ってどうにかなる時代とは思えなかった。
「……残念だ。」
「そうね。でも話せたのは悪くなかった。」
「……あんたは俺に聞かないのか?
刹那についても。
別に話したところで俺に害はないが。」
「聞きたい気持ちもなくはないけど、別にいいわ。
刹那と再会してから本人に聞くことにする。
モチベーションにもなるしね。
ていとかボコンとかばっかり言ってそうだけど。」
俺は苦笑する。
敵同士とは思えないやり取り。
だがそれもここまでだ。
もちろんまだ不可解な点はある。
何故アリンという吸血鬼を助けるために、七罪魔の復活が必要なのか。
この周回のなかで狙っていたことは何なのか。
知りたいが当然そんなことを教えてくれるわけがない。
「じゃあね。」
シャルディスの周囲の空気が歪む。
これは、まさか。
「……次の世界に、飛ぶのか?」
俺たちの飛び方とは少し違う気がする。
シャルディスを次の世界に飛ばしてる存在は遊ぶ者だろう。
無駄かもしれないが、俺は気が付いたら叫んでいた。
「遊ぶ者は信用できない!
俺たちの願いも、あんたの願いも叶えちゃくれない!
単に俺たち同士をぶつけて、弄んでいるだけだ!
絶対に、この戦いを続けたらお互い不幸になる!
だから……」
「………」
だから。
協力すべきだと。
本当に正しいことなんて分かっているはずなのに。
「………ありがとう。」
そしてシャルディスの姿は消えた。
俺はなんともし難いものを感じつつも、すぐに思考を切り替える。
のんびりしていれば先手を取られる。
(……哀音、リオン。すぐ来てくれ。
俺たちも次の世界に飛ぶ。
いや、おそらくは……)
そう。
次が最後のチャンス。
いわば最終周。
神楽魔姫が戻ってきたらどうなるのか。
おそらく前に会った奴がその一部だったというのであれば?
(……七罪魔と潰しあってくれる?
は、なんだその期待は?)
そんな都合のいいことは起こり得ない。
なんとなく分かるのだ。
この悲劇の数々は”俺たち”がどうにかしない限り、決して終わらないと。
(そうだ。
今までのやり方では、勝てない。)
シャルディスに、ではない。
神楽魔姫でもない。
脇道に逸れるな。
俺たちの相手はあくまで奴等七罪魔。
奴等は必ずこの都を滅ぼし、雫たちも殺す。
だったらそれを導いているのは。
(……遊ぶ者。
おそらくは奴がすべての元凶だ。)
新しいゲームやら物語やらを紡ぐために。
この過去の世界においても暗躍している。
だったらどれだけ奴等の出現を阻止しようとしたところで。
(阻止は、できない。
必ず、失敗する。
何故なら巨悪が降臨せずに終わることは王道の物語じゃないから。)
巨悪が何も出てこないで終わる物語。
そんな物語は見る側にとって何も面白くない。
だから絶対に"出来ない"ようになっている。
では何をしたら悲劇を防ぐことが出来るのか。
(奴等を、倒す。
すべては、そのために。)
この都で出会った奴等。
いいやこの世界に存在する人々。
気のいい学友たち。
教師たち。
天使たち。
ガライ。
詩織。
キリング。
インファイト。
アンヌ・ポルクス。
ハイド・サンドドル。
学院長エルカサス。
そしてシャルディスすらも。
(ここまで出会った連中。
敵も、味方も、すべて含めて。
全員の力をもってして、奴等に勝つ。)
そうだ。
たとえその結果、誰かが失われたのだとしても。
それは、きっと……
「俺たちがいたから、俺たちのせい、とかじゃないんだ。
それが人が生きて、戦ったってことなんだ。」
……あぁ、いやだ。
誰も死なない平和な世界。
そんなものは、存在しないと分かっている。
この世界で培ったものを、すべて拾うことは決してできない。
奴等と戦って、もし勝てたとしても、犠牲ゼロなど不可能だ。
でも。
それでも。
「……俺たちは戦いを辞めない。
それしか、この悲劇を食い止める方法がないのであれば。」
さぁ行こう。
俺たち全員の戦いを、始めよう。
「悪くねー面だ。ふぇふぇふぇ。」
巨大な怪鳥の姿をした時渡の悪魔ルドーワ。
こいつの世話になるのもこれが最後かもしれない。
「お前にもいろいろ世話になったな。」
「は?
急にどーしたのよオマエ。」
「いんや別に。
言っておきたかったからだ。
次が、最後みたいだからな。」
「……ふーん。
どうやらそのことに気づいたみたいだがぁ。」
やはりこの悪魔も承知の上だったらしい。
考えてみれば何度も同じ世界の同じ時間に飛ばしてくれるなんて、親切心が過ぎた。
悪魔は悪魔の都合で動いている。
だったら、あの世界で起こってることもきっと。
「ただ勘違いするなよオマエラ。
僕ちんは七罪魔の味方なんてする気はねぇ。
遊ぶ者の味方をする気もねぇ。
神楽魔姫とやらも関係ねぇ。
単に上司命令で動くだけさ。」
「あぁ、分かっている。」
ただ、と。
「賭けろっていうならオマエラだ。
破壊と殺戮しか出来ないヤツラに賭けても面白くなんかねぇ。
だからと言って何も出来はしねぇけどなぁ。
ふぇふぇふぇ。」
目の前の悪魔は笑う。
それほど嫌な笑みではなかった。
「さぁ行ってこいよ奴隷ども。
これが最後の世界だ。
次の世界こそが、"現実"に”確定”される。」
「……確定?」
それは、どういう?
そのことを聞く間もなく、俺たちは空間の歪みに引き込まれる。
背後の都合なんて気にしても仕方がないが。
残ったルドーワは独り呟いていた。
「なにも時渡の悪魔って存在は。
時間や世界を超えることだけが能じゃないんだぜ。
まぁその世界が現実か夢かなんて、僕ちんには関係ないんだけどさ。
ふぇふぇふぇ。」
そして俺たちは。
最後の世界にたどり着く。
その日は魔法学院の入学試験。
もはや何度目の試験か。(10度目だ)
「……けどその前に。」
やらなければいけない事がある。
この入学試験の日でないと会うことが出来ない人間に会うために。
おそらくはこの時間なら……
「……あの。」
「……え?」
その日、俺に声をかけてきた人物。
それは。
「……しず、く……?」
「え?
しずく?」
金髪のポニーテールの少女。
帽子こそなかったが彼女を見間違えるわけがない。
「……どうして?」
「……えと、貴方はこの都の方だと思ったんですけど。
ごめんなさい、なにか間違いだったなら……」
いままで一度もなかった。
彼女がこの都に来ることなんて。
(……シャルディス?
いやまさか雫のことは知らないだろう。)
だったらどうして。
理由は、今の俺にはまったく分からなかったが。
「……いや、すまない。
俺は聖二と言う。封座聖二だ。
俺もこの学院の試験を受けにきたんだ。」
「あ、そうなんだ。
じゃあクラスメイトになるかもしれないね。
私は……」
そして彼女は名を名乗る。
雫ではない、この時代の彼女の名を。
「私はナギサって言います。
ナギサ・オラトリオ。
よろしくね、聖二君。」
その声の響きはひどく、懐かしいものだった。
もう何十年も遥か昔に聞いたような、そんな錯覚を覚えた。
「うふふふふふふ。
これで”全員”が踊れるのだ。
”片方”だけが踊れないなんて不公平だろう?」
その素足のドレスの女は笑う。
その笑みは彼女なりの慈愛か、情か、単なる気まぐれか。
「ただ、あと一人足りない。
マイフレンドが戻ってきてくれないと張り合いがないのだ。
でも魔姫は信じている。
必ず此処に戻ってくると。」
それはそれとして、と。
「そろそろ”この障壁もすべて消える”のだが。
ショーはまだ続くのかな?
続かないなら魔姫も外に出るのだ。」
障壁。
神楽魔姫の周りには無数の壁が広がっていた。
その壁は何重にも、何重にも、積み重なって彼女を囲んでいた。
まるで彼女を閉じ込めるように。
だがその壁も一つ一つぼろぼろと崩れていく。
(……やはり、もう限界か。)
神楽魔姫をこの場所に飛ばしてから9周。
100万枚の魔法の壁を彼女の周りに張った。
だが1周で約10万枚が彼女の力で、無造作に崩れていく。
つまり次で最後ということだ。
「その前に決着をつけるがいい。
僕の役者たち。
すべてを無に帰される前に。」
それがどれだけ愚かな願いであったとしても。
どれだけの力の差があったとしても。
それを成すのが人間の強さというものなのだろう?
「それとも弱さ、なのかな?
まぁどちらでもいいさ。」
最後の物語を、ゲームを始めよう。
これは英雄の物語ではない。
魔女の物語でもない。
超人の物語でもない。
これはあくまで。
「本来なら主役になどなれない平凡な者たち。
取るに足りない者たちの物語なのだから。
その最後を自らの意思で飾るがいい。」
最後の世界が始まる。
さぁ、NonStoryを始めよう。
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