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51話 最後の世界
「……聖二君。」
俺はいま夢の中に沈んでいる。
悪夢かどうかは、分からない。
それでもいま彼女の姿はすぐ手の届く位置にある。
「……あ、あぁ。
どうしたんだ、雫?」
「……もう、またその名前?
そんなに似てるの?」
似てるもなにもない。
「私の名前はナギサだって。
雫って人が誰だか知らないけど、
他の女の子と間違えられるのはあんまりいい気しないなぁ。」
彼女は少し口元をお冠って感じで怒っていた。
本気で怒ってるわけではないだろうが、軽い文句。
そんな姿はあまり見たことないなぁと俺はぼんやり考えていた。
「……なにあいつら、むかつく。」
「大丈夫だレライン。
お前の方が可愛いからな。」
「……おかしいな、俺たちは魔法学院で名を上げるべく、入学してきた筈なのに。
なんでこんな甘々空間にいるんだ?」
「う、うん……」
なんか他の奴等から変な目で見られている。
なんだあいつら?変な勘違いをするんじゃない。
そんななか俺は身長190cm程の大柄な男の方を見る。
戦士として理想的な身体。
その姿をみるのは久々だ。
(……インファイト・ハートフェール。
アンヌ・ポルクスの件で共に協力してくれた男。)
入学試験日。
俺はあの男ともう一度話すことが出来た。
「おや、君は?」
「は、はじめまして。
俺は封座聖二と言う。
少し時間、いいか?」
「あぁ。どうせ妹の試験が終わるまで暇なのでね。
君はこのカデンツァの……?」
「いや、俺も入学志望だ。」
「あぁ、なるほど。
となるとレラインの同級生になるかもしれないということか。
兄としては複雑な気分だが、まぁそれも仕方ないだろうな。」
俺たちは軽い団欒をしながら適当なベンチに座った。
「……あんたを呼び止めたのはほかでもない。
あんたの妹のレラインのことだ。」
「ほほう?まさか本当に妹を狙っているつもりか?
だがそう簡単には……」
「あんたの妹は死ぬ。
いや、この学院の連中は全員。」
「……何を言ってるんだ?」
俺は周回の件はさすがに伏せたが、このあと起こる未来についてすべて話した。
他の連中はまだ時間をおいて仲を深めてからという手段もなくはない。
だがこの男がカデンツァに来るのは入学試験日だけだ。
今日真実を話し、信じてもらう以外に道はない。
(……もちろんこんな手段で引き留められる訳がない。
この周回”だけ”ならば。)
すべての話を聞き終わったインファイトはしばらくは顔を伏せていたが、真剣な表情で俺に向き直った。
「そんな顔をしないでくれ、封座聖二。
君が真剣であることだけは伝わって来た。」
「あ、あぁ……ありがとう。」
だが、と。
「さすがに今の話は荒唐無稽が過ぎるが、
でもレラインのことを心配してくれたのは素直に嬉しいよ。」
レラインのこと、か。
まぁあんな奴でも死なれるのは目覚めが悪い。
ましてやそれで悲しむ人間がいるとなれば。
「力になれる、とは言えないが。
分かった、私もこの学院に入学しよう。
幸いにもこの学院の試験は2回に渡って行われている。
まぁなんとかなるだろう。」
「あ、ありがとう……」
インファイトは俺の話を信じてくれた。
だが、何故、と。
「……分からない。
分からないが、君と会ったのは初めてじゃない気がしてね。
信用していい人間だと、そう思えたんだ。」
そう。
俺は心のどこかで”このこと”を期待していた。
"今までの世界同士は、どこかで繋がっている。"
まったくの無関係ではない。
だがその優位は。
(……七罪魔の連中にとっても同じだ。)
「おはよう聖二君。
今日も仲が良いようで何よりだよ。」
「あぁおはよう、キリング。
お前もあいかわらずモテてるようで羨ましいぜ。」
「な……っ!?
キ、キリング様が人気なのは当然のことです。」
「何を言っているんだ。
世辞だよ世辞。
聖二君は世辞が上手いからな。」
キリングとはあっさり仲良くなった。
彼とはハイド・サンドドルの件で共に暑苦しい夜会に出場した仲だ。
もちろん違う世界の別のキリングであることは分かっている。
それでも。
「……何故かは分からないが、
聖二君と会ったのは初めてじゃない気がしてね。
どうかな?共にこの夜会に出てみないか?」
「そうだな。
検討させてもらう。」
「……なんでこんな男にキリング様が……」
取り巻きの女と共にキリングは自分の席に戻っていった。
あっちは名前なんて言ったっけな?ミズカだっけか?
「聖二君って人気者だね。
なんだか意外……でもないかな?」
「そんなことはない。
みんないい奴ってだけだよ。」
本当に。
俺は心からそう思っていた。
「ったくなんだよ。
聖二は俺と同じ落ちこぼれ組だと思ってたのに。」
「いいや、お前の言うとおりだよガライ。
俺の力なんて微々たるもんだ。」
「そ、そんなこと、ないと思う……」
俺はいつもの友人たちと談笑しながらも別のことを考えていた。
(詩織……)
前の周。そしてその前の周。たしか連続で3周。
彼女は掌握の悪魔グリモアに身体を乗っ取られる。
その理由はなにか。
(……適合率。
奴は乗っ取った人の身体でそう呟いた。)
詩織と奴の身体の相性、的なものだろうか?
いずせにせよこの周でもおそらくは。
(……そう、連続で詩織だけが乗っ取られている。
それの意味するところは。)
”七罪魔は別の周回を知っている”。
そう考えるのが一番自然だ。
今まではその可能性を心のどこかで排除していた。
そんなことがあったらどうしようもないから。
けれど。
(インファイトやキリングが心か身体か、それとも魂っていうのか?
どこかで前の周回のことを感じているのだとすれば。
七罪魔の連中がそうでない可能性の方がない。)
そして奴等は人間より遥かに強大な存在。
どこかで感じている、レベルのものではないかもしれない。
奴等にとっては確信。
詩織と相性がいいことを既に知っている。
最初に詩織を乗っ取ったその次の周からは、多少状況が変わろうとも詩織は奴に殺され、身体を乗っ取られていた。
それが何よりもの答え。
(……まぁだからこそ、俺もインファイトを信じて話すことが出来たんだけどな。
ほんと皮肉な話だ。)
いずせにせよ。
彼女を守ることは奴等との戦いにおいても極めて有用だ。
「……な、なんか私、見られてる……?」
「ちょっと聖二君。
女の子の顔をじろじろ見てたら失礼だよ。」
「……く、こいつまさかモテ男か。
実はモテ男だったのか?」
……そんな見てるつもりはなかったのだが。
(そしてもう一つ。)
俺はこの学院でもう一つ起こった明確な差異について考えていた。
一つの席を見る。
それは前の周におけるコダマの席。
だがこの世界においては。
「コダマ・オラトリオは入学して来なかった。」
俺はいつもの寮”ではない”、適当な宮殿の裏で哀音、リオンに情報を共有していた。
そう。
コダマ・オラトリオすなわちシャルディス・ブラッド。
彼女は今回この学院に入学して来なかった。
その代わりといわんばかりに雫……じゃなくてナギサ・オラトリオが入学した。
「……ナギサ・オラトリオ。
また、オラトリオ?」
「あぁ。この世界にオラトリオって場所は存在していたか?」
俺はリオンに確認する。
半ばその答えは分かっていたが。
「……いいや、私の確認したところ、存在しなかった。
つまりオラトリオという性はおそらく。」
偽名。
もしくは。
「……遊ぶ者。奴の仕込みってことか?」
「その可能性は十分考えられるな。」
奴なら物事の因果すら捻じ曲げることが出来る。
だがどうしてそんな手間をかけているのか、その理由は見えて来ない。
単に俺の反応を見て愉しんでいるだけか?
「……気にはなるが。
まぁある意味好都合かもしれないな。」
「……それは、どうして?」
哀音が聞いてくる。
どうしてって、そんなの決まってる。
「この都で勝利すれば、俺の勝ちだからだ。
実にシンプルだろ?」
「そ、そう……?」
「フッ、そうだな。」
哀音はともかくリオンは同意してくれたようだ。
確かに雫、じゃなくてナギサのことは面くらった。
でもよくよく考えてみればこれは俺にとっては好都合。
守りたい人間は全員この都にいる。
だからこそ、そのために。
「方針の再確認だ。
リオン、頼む。」
「あぁ。」
基本的な方針は今までと変わらない。
奴等、掌握の悪魔と醜悪の悪魔の降臨を阻止する。
だが、それは失敗するだろう。
掌握の悪魔はおそらく復活手段を無数に備えている。
更には遊ぶ者が背後にいると分かった以上、絶対に阻止できない。
だが協力者を集めることを考えると、阻止するの無理だから倒すことだけを目的にしましょうとは言えない。
「阻止そのものは試みる。
だがそれだけじゃ駄目だ。」
準備を整えなければならない。
今まではこの都は奴等によって成すすべなく滅ぼされていた。
だがそれはあくまで、この都の人々が奴等に対してなんの準備もしていなかったから。
そうでなくても都の中から奴等は現れるのだ。
そんなことを予期しろと言われても無理だろう。
だが事前に知ってさえいれば。
「まったく対抗できない、ということは多分ない。
何故なら奴等も万全ではないからだ。」
リオンの知っている話を聞くに。
醜悪の悪魔ダルバックの本体はこの都に転移してるわけではない。
本体の力は更に強大だという。
つまり転移して来てるのはあくまで奴の分体に過ぎない。
それでも肉塊のレベルを遥かに超えた、他の七罪魔になら十分匹敵、もしくはそれ以上の力を持つという。
「奴等にとってこの都の人々はあくまで餌だ。
おそらく戦闘行為とすら思っていない。
だがそれが逆に隙にもなる。」
不意打ちで七罪魔が現れる。
だが前提が逆になれば。
勝てるかは別としても、だいぶ話は変わってくる。
「そのための協力者を徹底的に集める。
だが聖二一人だけでそんなことを成すのは不可能だ。
けれど私と哀音は時の呪縛によりこの世界に認識されない。
しかし1回だけその呪縛が解けたときがあった。」
「あぁ、魔導研究所の時だな。」
ハイドが哀音とリオンの時の呪縛を解いてくれた。
その理屈は不明だが、あの施設には時の呪縛を解く機構が備わっている。
そしてもちろんハイドはそのことを知っている。
「最優先で探すのはハイド・サンドドル。
あの男だ。」
もう長い間会っていないあの男。
あの男さえいれば魔導研究所に入ることが出来る。
だがずっと会うことが出来なかった。
周回者がハイドを排除したと、そう考えていたこともあったが。
「シャルディスにハイドを排除できるほどの力はない。
だがもう一つ可能性がある。」
……そう。
その鍵となるのはあの研究所に捕まっていた吸血鬼。
アリン・ペルシェ。
(……あいつは、その娘を気にかけていた。
つまりシャルディスとハイドは……)
手を組んでいる。
おそらくあの周回の後からずっと。
「ハイドさえ見つけて説得できれば、状況は一変する。
哀音とリオンは自由になり、
他の天使連中とだって話すことが出来る。
更には学院長にまで話が届く。」
理想的だ。
ハイド・サンドドル。あの男こそがこの状況打開の鍵だ。
(必ず、見つけてみせる。)
決して不可能なプランではない。
俺は決意を新たにした。
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