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52話 友たちと共に
「ほう、聖二君はあのハイド先輩に興味があるのかね?」
「あぁ。なんとか会う方法はないか?」
いつかの周回のやり取り。
俺はキリングにハイドについての話を聞いていた。
……あぁでもあのときはキリングの方が割って入って来たんだっけ?
(……あれは、いつの話だったかな。
あぁそうだ、4周目だ。)
つい懐かしさを覚えてしまうが、その情景を振り切る。
当のキリングは考え込んでいた。
「……以前ならばラーク先生の夜会に一緒に出れば会えると言えたのだが。
どうもハイド先輩は休学みたいでね。
その理由は、まったくの不明なんだが。」
「……あぁ、そうか。
まぁ、そうだよな。」
「……え?」
「あ、あぁ。なんでもない。」
ハイド・サンドドルは今年から休学中。
それも過去の周回で何度も聞いた話だ。
キリングに今更聞くまでもないこと。
問題はここからどう動くか……
「……まさかと思うが、聖二君もハイド先輩と過去に会った事があるのか?」
「い、いや。
別にそういうわけじゃ……
ん、俺、も……?」
その言い方だと。
「あぁ、去年この学院の見学に来たときにね。
先輩の強さ……というのもまぁあるにはあるのだが。
あの夜会での戦いに、まぁなんていうか胸が熱くなるものがあってね。」
キリングにしては少しはっきりしない物言い。
考えてみればこの男は貴族だ。
もともと格闘大会みたいなものに出てたってわけではないだろう。
「……貴族ってのはやっぱり大変なのか?
ガライからは少し聞いたことがあるけど。」
キリングに過去の周回でイムヌスの話を聞いたことはなかったが。
つい聞いてしまった。
「……まぁ、大変といえば大変かな。
ただ気を使わせてもらったのであれば悪いが。
私は別に貴族の生活を嫌っているわけではない。
父の期待に応え、一族の一員として貢献することに迷いはない。
ただ……」
少しだけ憂いの表情で。
「……せっかく今は一学生としての立場になったんだ。
やはりあの先輩と一度は戦ってみたかったよ。
まぁ、それを言っても仕方ないことなんだが……」
「……そうか。
だったら、さ。」
それは自然と出た言葉だったと思う。
「探してみないか?
その、ハイド・サンドドル先輩を。
まぁ、時間があれば、でいいんだが。」
「……聖二君。」
キリングは少し考える素振りをして。
「……分かった。
一度だけの学院生活だ。
悔いはないように、していきたいしね。」
……一度だけの、学院生活か。
(俺にとっては、これが10度目の学院生活。
だけど。)
1回の学院生活は2か月以内で終わる。
10回合わせても2年にも満たない。
本来ならこの学院には3年間通える筈だった。
もちろん奴等がこんな早く現れなかったとしても、実際に3年も通えたかは疑わしい。
でも。
(……この周回が最後となれば。
どちらに転んでも、この生活は終わりなんだな。)
一抹の寂しいものを感じずにはいられない。
俺はその感情をもう否定したりはしなかった。
「とはいえ、だ。」
いったいぜんたいどう探したものか。
そもそもハイドがこの学院にいる保証すらない。
リオンの奴が念のためイムヌスの方をあたってくれてはいるのだが。
(……さすがにあっちに行ってるってことはないと思うんだよな。
アリン・ペルシェっていう吸血鬼の件で、
ハイドがシャルディスに協力してると考えれば。)
だったらリオンはなんのために今更イムヌスに行ったんだ?
そんなことを考えていると。
「せいーじ君♪」
「うわっ。」
誰かが顔を覗き込んできた。
もはや聞きなれた声。
雫……じゃなくてナギサだった。
「あ、また雫って言おうとしてたでしょ。」
「い、いや、そんなことはない。」
正直何回言われても直る気がしない。
……いやそんな話じゃなくて。
「……いま、夕方だぞ。
なんでこんなところにいるんだ?」
ちなみに教室である。
「なんでって、聖二君とキリング君が面白そうな話をしてたから。」
「面白そうって……」
雫はこんな積極的に人の話に割り込むような性格だっただろうか?
……だから雫じゃない。
いちいち比較しても仕方ないと分かってはいるんだが。
「それに聞いてたのは私だけじゃないよ。」
「え?」
ドアの隙間から何人かの人影がちらりちらりと俺の方を見ていた。
一人は隠れてもいなかったが。
「ガライに詩織に……インファイトまで。」
「何を言っているんだ。
私をこの学院に誘ったのは君じゃないか?
なのに早くもエースに浮気とは。」
「ま、まぁお前に関しては確かにそうだな。
で、おまえらは何なんだ?」
残りの二人の方を見る。
別に文句があるわけではないが。
「いやいやなんか3年の先輩を探すって話だろ。
面白そうじゃねーか。」
「わ、私たちも、協力するよ……」
おまえら暇なだけだろ。
でも、まぁ。
「……そうか。
じゃあ、よろしく頼む。」
「お?
素直じゃねーかよ聖二。
まぁ入学のときからお前はそんな感じだったよな。」
「……入学のとき、か。」
1度目の入学のとき。
俺はそんな素直にこいつらと接していたのだろうか?
(いい奴等だ。本当に。)
俺は心からそう思っていた。
けど、だからこそ。
(……話す気でいるのか?
俺は。本当のことを。)
既に決意したこと。
リオン達とも話して決めた結論。
それでも何度だろうと俺は揺らぐ。
それが俺という、封座聖二という人間だ。
もうそれを否定する気はない。
(……でもその前に。)
俺たちのことばかりだけでなく。
「考えてみればこうして集まったのもなんかの縁だ。
いろいろ、お互いのことを話してみないか?」
そう。
こいつらのことだって、俺は知りたい。
今までは巻き込みたくないから。
ただそれだけの思いで学友たちについて詳しく知ろうとはしなかった。
……だって、そう。
何度も、何度も。
この都は滅ぼされてしまう。
そう考えるとずっと踏ん切りがつかなかったんだ。
「面白いことを言うね。
私は賛成だが他の者たちはどうかな?」
インファイトが便乗してくれる。
気を利かせてくれたのかもしれない。
「……なんか、改めてそう言われると気恥ずかしいな。」
「う、うん……」
「だったら一番手は私が行こう。」
キリングが名乗り出る。
まぁなんとなく一番最初に話してくれると思っていた。
(……言い出しっぺが一番最初に話すべきな気がするが。」
とはいえ止める理由はない。
「私はキリング・アスレイ。
イムヌスのアスレイ家出身だ。
この学院へは魔法使いとしての才を高めに……来たということにして。
実をいうとフラットの夜会にずっと出たくて出たくて。
あのハイド先輩とも一度戦ってみたかったんだ。
そのために父の反対を押し切ってまでこの学院に入学した!」
「キ、キリング様……」
「……マジで?
学院長にまで気に入られていたのに?」
ガライがぽかーんと口を開ける。
まぁ俺は過去の周回からなんとなく察していたが。
「だからといって貴族の本分を忘れたわけではない。
この学院で優秀な成績を収め、カデンツァの役員の籍を入れることも検討のうちだ。
まぁまだまだ未熟なものだが、精進あるのみ。
よろしく、聖二君!」
「おう。よろしくな。」
「……聖二だけ?」
「私たちは……?」
とにもかくにも1番バッターが出たことで次から次へと自己紹介を始める。
インファイトは妹自慢の話が。
ガライは兄の話をしてくれた。
「じゃあそろそろ聖二の番か?」
「そうだな。せっかくだし俺も兄の話をさせてもらおうかな。」
兄。
封座聖一。
今では、戒かもしれないが。
まぁそこまで細かいことはいいだろう。
「俺も、まぁガライと同じようなもんかな。
俺には兄がいた。
……そうだな。今はもう遠い手の届かないところに行ってしまったが。
兄のすべてが俺にとっての理想だった。
その真似事をしていた時期もある。
けれど、違ったんだ。」
あぁそうだ。
俺はずっとこんな話を友人たちとしたかったんだ。
こんな、他愛のない話を。
なんの忌憚も、益もない話を。
「……兄も、同じだった。
理想が、忌むべき思想が、違うだけだった。
今だからこそ、それがよく分かる。」
俺と兄はたった一度。
僅かな時間だが戦った。
戦ったといえるようなものではなかったかもしれない。
でも、その想いは、意思は、確かに俺の中にある。
「だから、俺は、俺としていま生きていける。
兄ではなく、封座聖二として。」
「……そっか。」
ナギサが静かに頷いてくれる。
彼女だけではない。
みんなが俺の話を真剣に聞いてくれた。
……あぁ、そうだ。
俺はずっと、こんな時間を求めていたんだ……
……そう。
俺が"心の底"からそう思えたとき。
……窓から見えた景色が、”止まった”気がした。
「……やはり、そういうことだったのか。」
カデンツァから北。
人類最大の都市イムヌス。
その都市の上空にリオンこと天衣魔縫は浮かんでいた。
「この時代の連盟筆頭、連剣鬼。
彼がいれば神楽魔姫の横暴だって少なからず抑えられている筈なのに。」
いまこの世界に存在しないのは閣下、覇帝だけではない。
もちろんその存在は人々の心に残っている。
あれほど圧倒的な英雄を忘れられる筈がない。
外からの脅威に対していまは目を向けているのも理解は出来る。
だが。
……連盟筆頭までいないとはどういう了見か。
それどころか。
「……この世界の連盟は。
神楽魔姫”しか”存在しない。」
そんなことはありえない。
人々の中にこの時代の連盟は確かに存在していた。
……だがそれは人々の、”心の中”だけの存在だった。
「……この世界は。
いったい何なんだ?
私たちはいったい何処にやって来たんだ……?」
聖二から聞いたシャルディスの話。
明らかに過剰な力を持つ神楽魔姫。
そしてこの世界に来訪した刹那の存在。
その、すべては。
「……つながって、いるのか?
だとしたらその意図は?」
未だその全貌に彼らは至っていない。
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