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53話 二度目のお祭り



魔法使いの都カデンツァ。
聖二の視点では魔法学院のことばかりが語られるが。
あくまで学院はこの都の施設の一つでしかない。
この都には他にもいくつもの宮殿があり、各々が異なる意図で存在している。
そのうちの一つに彼女はいた。
「あいかわらず人が多い場所ね。」
ツインテールの小柄な少女。
前の周回の世界で呼ばれていたその名は、コダマ・オラトリオ。
だがいまは。
「あ、いた。」
少女は人を探していたらしく、その人物の傍に駆け寄る。
その仕草は普通の少女と大差なかった。
「あなたいつもこんな人ごみの中にいるのかしら?
 庶民生活が板についてるの?」
「……貴様がそれを言うか?」
少女が駆け寄った男はお世辞にも清潔とはいえない髪がぼさぼさの男。
だがその視線と身なりは一般人のものではなかった。
そう、かつてハイド・サンドドルと呼ばれた男である。
「此処はこの都の魔法使いのなかでもレベルの低い者が集まっている。
 だがそういう者たちこそを守るのがこの都の連中の使命。
 ゆえにこの場所には強力なジャミングがかかっている。
 だから他の天使の介入を防ぐ意味でも、学院に情報が渡りにくい意味でもこの場所が最適。
 そう言ったのは貴様だろう。」
「わざわざ整理してくれてありがとう。
 貴方、基本的にいい奴よね。」
そう。
シャルディス・ブラッドと中位天使ハイナーはいまこの区画内にいた。
身なりまで庶民のものに変え、潜伏していた。
「ふふっ。ぼろぼろの服。
 吸血鬼時代は一度も着たことなかった気がするわ、こういう服。
 いいわね、こういうの。」
「確かにいつでも捨てられるところは悪くないがな。」
そしてこの二人はその手のものを着ることに抵抗もないようだ。
もちろん服の感想を言うために彼女はハイナーに会いにきたわけではない。
「それで、学院の方は何か変化があったのか?」
「えぇ、なんかでっかいお祭りをやるらしいわよ。」
「……お祭り、か。」
ハイナーは目を細める。
彼の脳裏に浮かぶのは、去年まで自身が参加していたフラットの夜会。
だがすぐにその思考を振り切り。
「なんのためにだ?
 主催者は誰だ?」
「名目上はラーク先生ね。
 なにせそのお祭り、闘技大会が開かれるらしいし。」
「あの男らしいな。
 しかしなんで学院名義でそんなことを……」
「決まっているでしょ。」
少女はにやにやと笑う。
ハイナーの方を向きながら。
「貴方のためのお祭り。
 それ以外の何があるというのかしら?」


「……そ、それでね。
 私の住んでた村の人はみんな殺されちゃったんだけど、
 森の神様に会って、いまは魔物さんたちと一緒に暮らして……
 ……あれ?」
詩織の話に集まった面々が渋い顔をしていた。
そんなヘビーな境遇の話をされても返す言葉に困る。
たぶんみんなそんなことを考えてるのではないだろうか。
確かにこの世界では天涯孤独はそれほど珍しい話ではないのかもしれない。
だが割と貴族が多いこの面々にとって、詩織の話は効いたようだった。
「……俺、兄貴ともう一度ちゃんと話してみるよ。」
「私も1ヶ月に1回はイムヌスに帰ることにする。」
「うむ。私も妹と毎日もう1時間長く接することにする。」
「お前はもういいだろ。」
俺がインファイトの言葉に突っ込みを入れてるなか雫……ナギサだけは違う反応だった。
いい加減に慣れろよな、俺。
「……そっか。
 詩織ちゃんはいまはとっても幸せなんだね。」
「……え?
 う、うんっ。
 いまはとっても愉しいよ!」
「……え?」
男連中がしどろもどろするなかナギサだけが笑顔で詩織にそう返した。
詩織もそれに同調し、笑顔になる。
(……そうか。)
詩織が欲しかったのは同情なんかじゃない。
詩織がいま一緒に暮らしてるっていう魔物たちと同じ、人間の友達。
彼女はそんな友達を作るためにこの学院に来た。
ナギサだけがそれを理解した。
(……これが、雫の元となった少女。
 ナギサ・オラトリオ。)
だったら彼女は。
何を思っていまこの学院にいるのだろうか?
「じゃあ最後は私だね。
 私は……」
「おーう、何してんだおまえら。」
ナギサが話そうとしたところで、厳つい男の声が割って入った。
赤毛の筋肉質の男、ラーク教師だ。
正直いいところでと思ったが。
「どうも、先生。
 せっかく入学した者どうし、親交を深めていたところです。」
「ほう、キリングまで集まって親交とは。
 なんていうか意外だったな。
 だったらセンコーの出る幕じゃねぇな。」
ラークが席を外そうとする。
だが俺は話を続ける。
「すいません、ラーク先生。
 俺たち、ハイド先輩を探しているんです。
 ご存じありませんか?」
「……ハイドを?」
ハイド・サンドドルが前年度まで参加していたフラットの夜会。
その夜会を開催していたのはこのラーク教師だ。
だったら知っていることだってあるかもしれない。
「……ハイドは実家の都合で休学中だ。
 それ以上は家庭の事情になるからな。
 俺から言えることはそれだけだ。」
「そう、ですか……」
教師としては当然の返答だろう。
仮に知っていたとしても、生徒の俺たちの話せる道理はない。
「で、この集まりはそれと何か関係あんのか?」
「……それは。」
ない、こともないが。
キリング以外は勝手に集まっただけの面々だ。
ないとはっきり言ってしまえば良かったんだが、何故か俺は返答に窮していた。
「あります。」
そこで俺の代わりに返答した人間。
それはナギサだった。
ナギサは席を立ち、俺の隣に立つ。
「聖二君はなにか、やらないといけない事があるらしくて。
 私たちはそんな友達のためにちょっと協力してます。」
「ナギサ……」
……まだはっきりと俺が何かを言ったわけじゃない。
当然、なにかの協力を募ったわけでもなかった。
それは段階的に。そう考えていたが。
「なるほどな。
 焼けるねぇ、聖二生徒。」
「……別に、そういうわけでは。」
「で、そのやらないといけない事と、
 ハイドが何か関係してるってことか?」
「……はい。」
俺はその言葉だけを強く伝えた。
ナギサが後押ししてくれたんだ。
今は、ただ。
決意だけを周りに伝える。
それがいま示せる最大の誠意だと俺には思えた。
「まぁ、なんだ。
 俺がハイドの奴の事情に対して、何か言うことは出来ねぇが。」
ラークは少し罰が悪そうに話す。
「ただ奴は、あんな面してお祭り好きだ。
 何しろほぼ毎回、俺の夜会に参加してるような奴だぜ。」
「……お祭り、好き。」
……いや、まさか。
そんな馬鹿な話を、まさか。
「奴の休学理由は知らねぇが。
 イムヌスに帰ったという話も聞かねぇ。
 どこで何やってんだって話だが、だったら向こうから来たくなるようにするのはどうだ?」
ラークがニヤリと笑う。
……いや、さすがにそんなこと。
あるわけがないだろう。
俺はそう反論しようとしたが……
「なるほど!
 さすがはラーク先生。
 私たちの手で大きな祭りを開けと!
 ありがたい助言!」
「……え、いやいや?」
キリングの発言を皮切りになんか妙な盛り上がりが始まった。
「……お、お祭り、お祭りかぁ。
 そういえばジャンさんがね。
 森の神様を祀るためのお祭りを私に教えてくれて……」
「うむ、なかなか楽しそうな話だな。
 それにフラットの夜会とは、そんなお祭りめいたものなのか?」
「うーん。
 だったら私の故郷の火炎祭りとかどうかな?
 えっとね、私が昔住んでた村では火の神様を……」
やんや、やんや。
……なにか方向性がおかしい。
こいつらもうハイドのことなんて忘れてるだろ。
「はは、やる気だなおまえら。
 だったらどうだ?
 俺が一時顧問になってやるからいっそ派手にやってみるか?」
「は?」
ラーク教師まで訳の分からないことを言い出した。
……いや妙な話になったのはこの男が発端なのだが。
(……これが、最後の周。
 最後の周なんだ。
 あれ、でも……)
心の中では。
俺はこんな日々を過ごしたかったんだって。
喜んでいる自分がいる。
いるけど、いるけどさぁ。
(……でもそんなこと、してる場合じゃ。)
けどどのみち。
もう俺には止めることは出来なかった。
「よし、じゃあ生徒代表は聖二でいいな?」
「意義はない。 
 なにせ私たちをこうして集めた、私たちのリーダーだからな。」
「おいこら待てキリング。
 1年のリーダーはお前みたいなもんだろうが。」
「ん、そうだったのか?
 私など此処ではただの一生徒だ。
 貴族の肩書きなんて関係ない。」
俺は貴族ですらないんだが。
「リーダー!リーダー!」
「……お、おめでとう聖二君……」
「おいおまえら!
 ノリで俺を担ぐんじゃ……」
……などと俺の反対など無視され。
1年生徒が主催するハイコーの夜会(どこが夜会だ)がここに成立した。
そして生徒代表は俺になった。
(……哀音やリオンになんて話せばいいんだ?)
とりあえず開幕一番で哀音の嫌味は確定だろう。


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