SS TOPに戻る
前へ
次へ
54話 人々の輪の中で
俺の名は封座聖二。
100年後の未来から、この世界の悲劇を救うためにやってきた。
何度も何度も同じ時を繰り返し、俺は仲間たちと共にその悲劇に立ち向かう。
だがそのチャンスも残り僅か1回。
追い詰められた俺は……
「どうして屋台をやってるんだああぁぁぁあぁっっ!!」
ついに馬鹿になったの?とは俺の姿をみた哀音の第1声である。
「ちょっと聖二君。
そんな大声出したらお客さんが逃げちゃうでしょ。
あ、どうぞ〜。こっちは焼き鳥屋ですー!」
「ほう、やるなそこの少年。
これほど早くアンノウンフィッシュを捕獲するとは。
将来は大物だな。」
「……うぅ、見える、見えるよ、亡くなった私のお父さん、お母さんが……」
「……俺も忙しすぎて兄貴の幻影が見えてきたぜ……
悪いな、兄貴……不甲斐ない弟で……」
多忙のあまり幻覚を見だした奴もいるが、俺たちはこの1週間やら2週間やら、このお祭りのために全力で走り回った。
本当に忙しい、忙しない毎日だったと記憶している。
だがそれでも俺たちは頼れる仲間たちと共に、この本番の日を迎えて……
「って、だから違うわぁああぁっ!!
こんなことでハイド・サンドドルが来るわけないだろうがっ!
何やってんだ俺はあぁぁあぁっっ!!」
「あ、聖二君。
そっちのお客さんよろしく。」
「おう、了解。
はいいらっしゃいませ。
こちらの焼き鳥は30Gになります♪」
……なに俺は♪なんてつけてるんだ。
きもいわ。
そしてこの状況にすっかり順応してる自分自身に呆れざるを得なかった。
(……まぁ良くも悪くも俺たちの評判だけは知れ渡ったけどな。)
それが良い評判か悪い評判かはさておき。
この都において有名グループになれたことだけは間違いない。
この名声?を糧にゆくゆくは俺も、この都の一流の魔法使いの道を……
「だから目指してどうすんだよ!
七罪魔の話はどこ行ったあぁあぁぁぁあぁ!!」
「……おい聖二。
そこまで突っ込んでると息切れで倒れるぜ……」
同じく息絶え絶えのガライに突っ込まれながら、俺は店番をこなしていた。
更には。
「キウイ、キウイ。」
「よし戻って来たなマウマウ。
次はあっちだ。
あちらからもカモの匂いがする。」
「キウイ!」
俺は顔のでかいネズミの魔物、マウマウに指示を与える。
さぁ行け、次の客を連れてくるんだ!
なんかこうしてると言葉が通じてるような錯覚を覚えるな!
ははははは!
「……魔法使いの次は、魔物使いか。
この世界じゃ職業すらねぇ……」
そんなこんなで本日の午前は過ぎていった。
で、まぁいろいろあって。
2週間ほど前のラーク教師の提案。
でっかいお祭りやれば祭り好きのハイドは来るんじゃね?
とかいう阿呆の極みみたいな発想から何故かどんどん話が大きくなっていき。
なんか月末に1年全員とその他大勢(詩織の魔物たち)が総出で、夜会より少し大きめの規模のお祭りが開催された。
祭りの名目は、なんだっけ?休学中のあの人に俺たちの青春を届ける、だっけ?
まぁ部活みたいなものだ。
そもそも部活がなんなのかよく知らないが。
が、なんだかんだ評判にはなったらしく。
このお祭りに来る客は多い。
まぁここで得たお金は全額寄付だけどな。
(……で、そのお祭りの目玉が。)
午後に行われる闘技大会。
魔法使いの都のNO.1、ついに決定!とかいういつぞやの夜会の拡大版みたいな催し。
一応目的はハイドを呼ぶことのはずだが多分俺以外はそんなことは忘れている。
ていうか俺も忘れかかっていた。そもそも来るわけないだろ。
(こんなことで来るんだったら、前の周回でもっと奴を探すべきで……)
と思っていた矢先。
「はい、ご参加ありがとうございます。
お名前はなんですか?」
「ミスターHだ。」
「はい、ミスターHさんですね。
ありがとうございま……」
……ん?
いまの声はどこかで?
(……いや気のせいだろ。
さすがに、ありえん。)
俺は幻聴を振り払う。
さて受付もそろそろ締め切りだな。
ちなみに大会には俺も参加することになっている。
当然のようにキリングも参加だ。あとはインファイトの奴も参加だったかな?
まぁ今回は反則(哀音)を使う理由もない。
そう考えるとある意味気楽なものだ。
「……気楽になってどうすんだ、俺は。」
自己嫌悪で死にたくなる。
「まぁた貴方打ちひしがれてますねぇ。
貴方たちのはじめたお祭りのせいで私は休日出勤させられてるんですよぉ。」
警備達隊長メイク・ザルツブルクが俺に話しかけてくる。
騒ぎが大きくなってきたので、今回のお祭りの警備を務めているらしい。
ぶっちゃけそのあたりを手配したのはラーク教師とかだと思うのでよくは知らん。
「……あぁ、はい。
まぁ、お疲れ様です。」
「なんですかその投げやりはぁ。
まったく、社会人の忙しさが貴方には分から……」
「たいちょう〜〜!
なんかあっちに裸の不審者がいると〜〜!」
「……ちっ。
はいはい、いま行きますよぉ〜〜!」
部下に呼ばれてメイクが去っていく。
その後ろ姿を見て俺はもっと考えるべきことがある気がしてきた。
(……あ、そうだ思い出した。
メイクって確かシャルディスが言ってた……)
……いかん、ここ最近忙しすぎて手段と目的があべこべになっている。
これは哀音に馬鹿呼ばわりされるのも無理はないな……
一方そのころ。
祭りの屋台の間に挟まって、一人の小柄な魔法使いの少女、哀音がそこにいた。
明らかに不審者扱いされるだろう場所にいるが、誰にも認識されないので問題はない。
「……はぁ、こういう場所って落ち着く。」
ってそうじゃなくて。
聖二はいったい何を考えているの?
一応、天使ハイナーが来るかもしれないから魔力探知をお願いって言われてはいるけど。
天使と聞くといつぞやの泣きながら剣を何度も振り回してきた少女が頭に浮かぶ。
うぅ、あの人怖い……
「ふぇぇぇ。
なんかすっごい大きいお祭り……
あ、あの金魚とか美味しそぉ……?」
びくっ!!
……言ってるそばからあのときの天使が目の前を通り過ぎた。
……な、なんでいるの……?
あぁいや、あの天使も表の姿は学生。いるのは別におかしくないんだけど。
(……やっぱり目の前にいても、天使らしき魔力をほとんど感じない。
とてもじゃないけど、他の天使なんて探せそうにない……)
そもそも魔力探知の精度自体が例の時の呪縛のせいで低い。
聖二ばっかり自由に行動できて羨ましいなぁ。
「……って、あれ?」
……なんかすごい覚えのある魔力が探知にかかった。
邪悪な、魔力、これって……?
(……七、罪魔?
うぅん、さすがに七罪魔なら探知じゃなくても気づく……)
……だったら、誰?
どこか覚えがある。
たしかこれは真那様が……
「あ………」
……おもい、だした。
どばりと汗が流れる。
「この、魔力は……っ!!」
今日のお祭りのため、少なくないカデンツァの民が学院の敷地内に入っていた。
普段は学院とは縁がない人々も、沢山。
だがそんななか、明らかに目立つ存在がいた。
「………」
短髪の桃色髪の少女。
服装に関しては何も語れることがない。
何故ならば。
「……え、なにあの子?」
「け、警備兵に連絡した方がいい……?」
その少女は裸であった。
言葉通り。上も下も何も履いていない。
「……あぁ。
あの方がいない世界は、本当に何もないのね。」
少女がぼそりと呟く。
その声を聴いた者はこの場にはいなかった。
だがその声は徐々に大きくなり……
「……暗い、闇い。
この世界の光は、闇の光。
あぁダメだ、駄目、こんな世界はダメ。
この世界に私の、私たちの居場所なんてない。」
徐々にその声のトーンは大きくなり、狂的にすら聞こえた。
そう判断した周りの人々はその少女から離れようと……
「……え?」
一人の男が前から倒れそうになる。
何が起こったのか?
少なくとも見た目に外傷があるわけではない。
だが男の内面は違った。
「……う、あぁ。
滾る、なんだよこれ……」
男は、勃起していた。
男としてのアレが大きくなっていた。
そしてその様はその男だけではなかった。
「……う、あぁあああぁぁあぁっっ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ、な、何よ、なんなのよこれぇぇっ……あはっ……♪」
周りの人々が蕩けた顔で恍惚な声を上げ始める。
その中心で立っているのは裸の少女だった。
「……あぁそうよ、これよ、これ!
みんなに教えてあげる。
あの方の世界こそが、ワタクシたちの理想郷なのだと!!」
少女は興奮した声で、自らも絶頂した。
無論、言葉どおりの意味である。
「うむうむ。
良い、愛しい、お祭りなのだ。
小動物たちが愉しそうに、笑っている姿が魔姫にも見える。
良きかな、良きかな。」
世界から離れた地点。
神楽魔姫は踊りながらその言葉を囁く。
誰に向かって、でもなく。
強いていうのであればそれはきっと。
「こんな愉しい催し。
魔姫のペットにも参加させてあげなければ、不公平というもの。
うむうむ、仲間外れはよくないのだ。
人間の言葉でそれは悪と言う。
そうに違いないのだ。」
神楽魔姫はこの場からいまはまだ動かない。
何故なら、彼女自身がそう決めたから。
自分を囲む壁が次から次へと勝手に壊れていくことなどどうでもいい。
ただそれはあくまで、神楽魔姫に限った話である。
「愉しんでくるといいのだ。
夏奴。
お前は可愛い魔姫のペット。小動物。
たまには小動物同士、戯れて来るといい。」
主人である神楽魔姫から放たれた今代矛盾曲、夏奴。
その狂気の快楽が、伝染する。
SS TOPに戻る
前へ
次へ