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55話 矛盾曲急襲



矛盾曲とは何か?
それは長きに渡り、過去からの呪いを伝染させ続ける概念そのもの。
その呪いは代を重ねるごとに強くなり、その器に選ばれた人間は例外を除き、その精神を崩壊させていった。
だが矛盾曲は特段、とてつもなく高い力を有している訳ではない。
厳密には一般の人間からみれば十分に高い力を有してはいるが、その器の大半は一般人であり戦闘力という点では七罪魔ほどの脅威にはなり得ない。
まずそれが大前提。
例外はこの時代からみて過去に一人、未来に一人、存在はするがあくまで例外は例外。
そしてこの時代の矛盾曲、夏奴も例外にはあたらない。
少し前の周回において、彼女は中位天使2体を相手に実質的な敗北を喫した。
では矛盾曲は脅威的な存在ではないのか?
「……あ、あぁああぁぁああぁあっっ!!」
「ふ、あははははは。
 き、気持ちいいよぉ、何これぇぇ……」
「は、はぁはぁはぁはぁ……ふ、あはっははは、はははは……」
祭りに参加した人々が恍惚な声をあげて倒れ伏している。
倒れ伏すという現象だけみれば神楽魔姫と変わらないかもしれないが、彼らは苦しんでいるのではない。
寧ろ極度の興奮状態にあり、一人で性的行為に及ぶ輩すらもいた。
それを引き起こしたのは言うまでもなく。
「……あぁ。あぁぁ。ああぁぁああぁああぁああぁ!!」
全裸の少女が奇声を上げる。
彼女の近くにいた人間は、その”ほとんど”がこの異常な状態になってしまった。
先ほどまで祭りを楽しんでいた人々はいまでは性的興奮を抑えることが出来ない。
「みんな、分かってくれたんだね。
 こぉんなにも、愛おしそうにする人々を見てワタクシは、夏奴は幸せですぅ。
 見てくれましたか、魔姫様ぁああぁああぁぁあぁっっ!!」
矛盾曲は戦闘力という点において、七罪魔ほどの脅威にはなり得ない。
だがそれはあくまで戦闘力の話である。
その場に存在するだけで、その狂気が人々を脅かし狂わせていく。
それこそが矛盾曲の本質。
結局のところ、人々にとっては最悪の人災である。


ざわ、ざわ、ざわ……
「……なんだ?なにか騒がしいな。」
もちろん祭りなので騒がしくはあるのだが、先ほどまでとは様子が違う。
俺はひそひそ噂話をしてる男に話を聞いてみた。
「なぁ、何かあったのか?」
「あ、あぁ、なんか入口の方で何かあったらしく……」
「警備隊が駆け付けたらしいんだけど、なんか解決していないらしくて……」
「なんだっけ?全裸の不審者がなんとか……」
全裸の不審者?
聞いてる限りは七罪魔のことではないようだが。
(……だが何か嫌な予感がするな。)
今回の世界は今までとは違うことがいくつも起きている。
違う点はちゃんと確認した方がいいだろう。
(……おい哀音、哀音。
 聞こえるか?)
俺はテレパシー?とやらで哀音に連絡を試みる。
別に俺が使えるわけではなく、こう言えば哀音に通話が繋がるらしい。
哀音の方が通話できる状態にあることが前提だろうが。
(………)
息遣いが聞こえる。
繋がっていないわけではないようだが。
(おい。何が起きている?)
(……この安定しない魔力。
 たぶんだけど、この時代の矛盾曲。)
(矛盾曲?)
それってなんだっけ?なんか呪いの媒体とかなんか。
真那と関係があるとか聞いた気もするな。
概念的なことばかり言われた気がして正直よく分かっていない。
(とにかくそいつが暴れてるってことか?)
(……矛盾曲の魔力がどんどん広がっている。
 何かしてることは、間違いないけど……)
哀音も現場にいる訳ではないらしい。
いつものホーレンソウとかいう魔法のおかげか。
(……放っておくと神楽魔姫のときみたいになるかもしれない。
 このまま被害が広がれば七罪魔と戦うなんて夢のまた夢になる。)
だったら止める以外ないだろう。
とはいえどうすれば……
「聖二君?
 どうしたのそんな険しい顔して……」
「……ナギサ。」
ナギサが心配そうに俺の方を見る。
どう答えるべきか。
本当のことを言うわけにもいかな……
(……いや、違う。)
巻き込むのは嫌だ。
それは俺の本心だ。
だが俺がそう思ったところでこの都は奴等七罪魔によって滅ぼされる。
それはもう9回連続で起こっている確定事項。
「なんだなんだ?
 何かシリアスっぽい話をしてるのか?」
「……で、でも、なんか魔物たちも、怯えてる……」
ガライと詩織も寄って来た。
矛盾曲の存在を伝えるわけにもいかないが。
「……なんか変質者が暴れてるらしくてな。
 ちょっと様子を見て来る。」
結局、事実だけを伝えるに抑えた。
矛盾曲が暴れてるとか言っても話についてこれないだろう。
「だったら、私も行くよ。」
「しかし……」
ナギサの申し出に対し俺は言葉を詰まらせる。
なんとなくだけど、ついて来るとは思ってた。
だが後々のことを考えたら……
「どうしたおまえら。
 なんか妙に肌寒いな。」
「……ラーク教師。」
とうとう教師までやって来る。
いい加減、俺は腹をくくることにした。
「実は……」


「……なんなんですかぁ、こいつはぁ。」
私が警備隊の部下の子に言われてやってきた現場は阿鼻叫喚としかいえない有様だった。
どいつもこいつも危ない薬でもやってるのかと言わんばかりに色っぽい声を上げながらそこら辺で横たわっている。
なんともガキの教育に悪そうな場所だ。
「この都にガキがいるのかは知りませんけどねぇ。
 あーでも何か秘密の実験室があるとか聞いたかなぁ?」
私は剣を抜く。
とりあえず元凶はこれ以上ないほど分かりやすかった。
「はぁあぁぁぁぁぁ。
 あれ?
 なんで貴方はワタクシに立ち向かってるのかしらぁ?」
全裸のクソガキが私の方を見る。
少なからず苛立ってるように見えたがどうでもいい。
ただでさえ休日返上のメイクさんに余計な仕事を増やしてくれるとは。
「立ち向かう?
 なんですかぁそれは。
 貴方の方が格上扱いとか。」
私は剣に光を集中、そのまま解き放った。
「身の程を知れって……なぁっ!!」
聖爆剣。
ガキは私の一撃で遠くに吹き飛ばされる。
誰だか知りませんが、ただの脳味噌空っぽ莫迦女だったようですねぇ。
「……って、はぁ!?」
……と思っていたら。
吹き飛ばした筈の女が私の後ろから飛んできた。
なに、これ?なんかの、魔法?
「ふんっ!」
だが私は即座にバックステップ。
後ろの女を後ろ蹴りで吹き飛ばす。
「ひやあぁああぁぁああぁっっ!!」
「は、思い知った……っっ!?」
だがまた。
またがら空きになった私の背後から飛んでくる。
なんなんだ、なんなんだこいつはぁ!
さすがに2連続バックステップは身体がついて来れず、その女は私にしがみついた。
そしてその女は私の首後ろにキスをした。
「……こ、このアマぁ……」
「さぁ。
 どう?どぉ?どぉぉぉぉぉ?
 貴方もとても良いことする気分になったでしょぉ。
 快楽を、快感を、一緒に味わおうよぉぉぉ!!」
女の狂気めいた声を聞いて私は脳裏に何かを思い出しかける。

「……だん、ちょう?」
「どうしたメイク副団長。
 そんな顔をして、何かおかしいことでも?」
……それは、憧れた男の……
複数の女どもとまぐわう……

「……っ!?
 余計なこと、思い出させるんじゃねぇぇっ!!」
「ふごっ!?」
私は頭突きで変態ガキのおでこに殴打を与える。
さすがに今のは効いたのか、歯が2,3本折れていた。
「……歯、歯が……
 魔姫さまのものである、ワタクシの身体が……」
「はぁ?
 あんた頭沸いてるにもいい加減にしろって……」
色ぶったり、苛立ったり、まるで態度が一定しない。
こういう奴を一般的には狂人という。
とにかくまともじゃないどころの話じゃないことは明白だった。
「ゆ、ゆゆゆゆゆ、
 許せなああぁああぁああああああぁぁああいいいいいっっっ!!!」
「……いっ!?」
女が大声で叫んだと思ったら上空から何かが降って来る。
それは巨大な岩の大群。
何これ、地属性魔法にしたってこんな魔法、見たことも……
「フリーズ・サー!」
「フレイムウェーブ!」
「はぁぁぁっ!!真空斬っっ!!」
後ろから湧いて来た炎やら氷やら風やらが岩の大群に向かって飛ぶ。
それらは相殺とまではいかなくとも、確かにその威力は減衰した。
「やるじゃねぇかガキ共。
 だったら大人として負けてられねぇな。」
更には魔法球の大群が残った岩の大群と激突する。
この魔法には、見覚えがある。
その後ろにいたのは、魔法学院の生徒たちと教師ラーク・ハインヌだった。
「……まったく何やってんですかねぇ。
 こういうことは私たち警備達の仕事なんですけどねぇ。」
「そう言いなさんなメイクさん。
 もともとこの祭りを始めたのは俺たちだ。
 あんたに休日労働ばかりさせる訳にはいかねぇだろうさ。」
まぁ手伝ってくれるというのであれば、断る理由はない。
他の生徒どもも多少はやるようだ。
「……こいつが、この時代の矛盾曲か。
 まぁまともな奴は想像してなかったが……」
「……むじゅん、まが?
 まぁどこからどう見てもまともじゃないですねぇ。
 とはいえ。」
私は剣を構える。
その間に私の部下の子たちも集まり、変態女を包囲する。
学院の生徒たちも前に出れるやつは出てきたようだ。
「勝てない相手じゃないですねぇ。
 さぁ、反抗期のクソガキに目にもの見せてやりましょうかぁ!」


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