SS TOPに戻る 前へ 次へ


58話 次の展望に向けて



祭りが行われた次の日。
俺たちはカデンツァの上層部に呼び出された。
俺たちというのは無論、ラーク教師と共に祭りを開く切っ掛けとなった生徒たち。
更には矛盾曲と戦った面子。
表彰されるのか、それとも問題児扱いされるのか、それは判断できかねたが。
いずれにせよ俺たちはこのカデンツァでも一際大きい宮殿に招かれた。
「な、なんだか緊張するね……」
「お、おう。
 よくよく考えると、俺たち凄いことになってねぇか……?」
詩織とガライは気が気でないらしい。
しかし詩織は昨日は精神的に参ってたようにも見えたが大丈夫なのか?
「どうやら会ってくれるのはカデンツァ評議員議長のようだ。」
「うむ。」
「評議会……?」
キリングの話に反応する。
インファイトも頷くあたり、今から会う人間のことを貴族出身者は知っているようだが。
「おや、聖二君は知らなかったのかな?
 まぁ一言でいえばこのカデンツァの創始者だ。
 名をバーパイア・カデンツァ。
 私の尊敬する方の一人だ。」
「へぇ。」
要するにカデンツァのトップか。
俺たちはどうも事情聴取されるらしいが。
(この状況は、上手く使いたいな。)
カデンツァのトップが、このあと都を襲う悲劇のことを理解してくれれば。
今後の警備体制は大きく変化する。
哀音とリオンが動けることにも繋がるかもしれない。
(……ハイドの奴はどっか行っちまったからな。)
ミスターHとか名乗ったあの男は、矛盾曲戦が終わるや否や、いつの間にか姿を消していた。
一応祭りの大会に参加する気ではあったようだが。
予想外の状況となり、シャルディスと落ち合うのかもしれない。
だが。
(ハイドについては哀音に追ってもらっている。)
少なくともあいつの魔力を追跡できるよう、哀音に頼んでいる。
いずれにせよ、今あいつが拠点としてる場所が割れればそこにはシャルディスがいるかもしれない。
(……シャルディス・ブラッド。
 もう一度あの女と話して、なんとか協力することができればいいんだが。)
考え方が甘いのかもしれない。
だが遊ぶ者のゲームの範疇内で、この都や雫の悲劇をどうにか出来るとは俺には思えなかった。
そんなことを考えている間に……
「よしお前ら歩け。
 失礼のないようにしろよ。」
ラーク教師が先導し、俺たちはそれに続く。
少し歩いた先にあったのは大きな丸い部屋だった。
沢山の席が円状に存在するその場所で、一番後ろの席にその女はいた。
(……すげぇ魔力だ。)
一目で見て分かった。
この老齢の女こそがカデンツァのトップだと。
別席に座っているエルカサス学院長の魔力も相当だが、この女はそれ以上だ。
その女は口を開く。
「はじめまして、魔法学院のみなさん。
 私はバーパイア・カデンツァ。
 このカデンツァの創始者の一人よ。」
その名前を聞いて詩織が反応する。
「バ、バーパイア、さんって……
 ジャンさんのお知り合いの……?」
ジャンさん?
誰のことだ?
だがそれを聞いた老齢の女は話が分かっているらしく。
「えぇ、彼とは長い付き合いよ、詩織さん。
 貴方は彼の言ったとおりの人ね。
 こんな事態に巻き込んでしまったことは、トップとして正式に謝罪するわ。」
カデンツァのトップが単なる一生徒に頭を下げる。
それは異様な光景のように思えた。
「……え、そ、そんな……謝らないでくださいっ!」
詩織があたふたする。
……話の流れはよく分からないが、詩織をこの学院に推薦してくれたのがジャンさん?
まぁ突っ込むことじゃないか。
「それと貴方はあの村の……?」
続けて老齢の女の視線はナギサに向いていた。
ナギサも知り合いなのだろうか?
「はい、お久しぶりです。
 バーパイアさん……えっと、どうお呼びすれば宜しいでしょうか?」
「そのままでいいわ。
 変に気負う必要はない。」
どういう経緯かは分からないが、ナギサも知り合いらしい。
……そういえばナギサの過去についてはまだ聞いてなかったな。
祭りの準備が忙しすぎたせいだが、やはり俺としては聞いておきたい。
ただ今はそれよりも……
「それで、貴方が祭りの代表と聞いているけれど?」
「はい。封座聖二と申します。」
俺は失礼のないよう、出来る限りの最大限のお辞儀をする。
様になってるかは分からないが。
「……お、おい、どうした、聖二?」
「だ、大丈夫……聖二君……?」
そんなにおかしいかお前ら。
「そこまで畏まる必要はないわ。
 封座聖二、と言ったわね。
 一応確認だけれど、貴方は封座一族の人間かしら?」
封座一族。
……なるほど、さすがにカデンツァの創始者だけあってその辺りも詳しいのかもしれない。
だとしたら下手な嘘はすぐにばれると考えた方がいいだろう。
(……すべてを、明かすときが来たのかもしれない。)
信じてもらえるかは分からない。
だがハイドの時は、意外とあっさりと俺が未来から来たという話を信じてくれた。
それに俺は初代聖女から聞いた話も含め、相応の情報は持っている。
まったくの無視は出来ない筈だ。
「はい。俺は封座一族の人間です。
 ただし、この時代の、ではありませんが。」
「……この時代の、ね。
 だったら貴方はどこからやって来たのしら?
 詳しく話してくれると嬉しいわ。」
大した動揺が見られなかった。
真っ向から出鱈目と見なしてる素振りもない。
俺の周りの奴等は、え?へ?とか呆けた顔になってるが。
「はい。是非ともお話させてください。」
そして俺は自分が未来から来た人間であること。
最終的にこの都は七罪魔によって滅ぼされることを話した。
「………」
老齢の女はしばらく沈黙する。
代わりに学院長エルカサスが口を開いた。
「なら七罪魔の暴虐を防ぐために、
 貴方はこの学院に入学して来たのかしら?」
「そうです。」
厳密には最初はこの都の、ではないが意味合いは変わらない。
そして老齢の女も口を開いた。
「貴方はあの矛盾曲と呼ばれる存在について、知っているのかしら?」
「詳しくはないですが、ある程度は。」
こうしてしばらくは俺への情報収集が続いた。
ここまで聞いてくる以上、そこには明らかな関心があることは間違いない。
一通り話したあと、先日の矛盾曲のその後について聞かされた。
「いまは宮殿1つ丸ごと使って幽閉している状態よ。
 彼女は8年ほど前に行方不明になっていた少女ね。
 本名はイレイナ・ウィルトン。
 当時10歳だった彼女はイムヌスの学院の初等部において、
 類稀なる才媛として名を馳せていたわ。」
つまりはお嬢様だったってことか。
そんな人物が矛盾曲の呪いのせいであそこまで変貌した。
「あの女は魔姫様と、何者かをそう呼んでました。」
「聞いているわ。
 まぁ十中八九、連盟の神楽魔姫のことでしょう。」
神楽魔姫。
未だその全貌は謎に満ちている。
確実にこの都を滅ぼす七罪魔とは別に、そいつについてはどう動いて来るのか分からない。

「神楽魔姫が戻って来る。
 完全な状態で。」

シャルディスはそう言っていたが。
しかしあの女だって、神楽魔姫のことをどこまで理解しているのか。
聞いてる限りは全て遊ぶ者がもたらした情報らしいが。
(結局のところ、元凶は遊ぶ者なのか?)
定かではない。
いずれにせよ今日の出来事を皮切りに、この都の上層部も神楽魔姫や七罪魔について警戒を高めることだろう。
それは俺にとっては望ましい状況だった。
(あとは哀音とリオンが動きやすい形にしたいが。)
そのためには魔導研究所で時の呪縛を解かなければならない。
俺はこの周回についての詳細な情報をまだ伝えたわけではない。
決して情報を小出しにしたい訳ではないが。
(シャルディスとハイド。
 やっぱりこの二人が気にかかる。)
あいつらは今どこで何をしているのだろうか?


このカデンツァにおいてもっとも人が多い区画。
その人ごみの中にシャルディスはいた。
彼女は既に学院の騒ぎについて、ハイドを通じて知っていた。
(……矛盾曲。
 前までの周回とは違うことが起きて来るわね。)
その戦いで聖二たちも活躍したという。
……警備隊であるメイクも。
もしかしたらその功績でカデンツァの上層部にも一目置かれているかもしれない。
厄介なことになってきた。
(もうこれ以上時間をかけてはいられない。
 いつ七罪魔が現れるか分からない。
 でもあと一つ、手が足りないのよね。)
シャルディスは考える。
前の周までの情報をあてにすれば、入学式から七罪魔の出現までの最短記録は3週間。
そして今回の世界ではもう1ヶ月が経過している。
つまりはいつ七罪魔が現れてもおかしくないということ。
だが。
(私とハイドだけでは無理がある。
 せめてあと一人有用な協力者がいれば……)
そんなことを考えている折。
シャルディスの足が止まる。
そこで見かけた一人の女性の姿を見て。
全身真っ黒の女性。
その姿は。
(……アンヌ、先生?)
久々に見る姿だった。
何故こんなところにいるのか、と。
「なんにせよ、私の方にも運が回ってきたかもね。」
シャルディスはこの先の展望について頭を動かしていた。


SS TOPに戻る 前へ 次へ