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59話 聖二とナギサ



俺たちは久々に寮に集まっていた。
俺、哀音、リオンによる時の放浪者の集まりである。
何故久々かといえば、リオンがカデンツァの外の調査にしばらく出ていたからだ。
「……まさか矛盾曲が現れていたとはな。
 だが結果としてはこの都の者たちの結束に繋がったか。」
「あぁ。まぁ不幸中の幸いってやつだな。
 死人は出なかったみたいだし、いい方向には進んでいると思う。
 ただやっぱり気になるのは時間だな。」
リオンと哀音も頷く。
そう、時間。
入学式から既に1ヶ月が経過した。
既に七罪魔が出現する最短記録は超えている。
つまりいつ奴等が現れてもおかしくないということだ。
「詩織には魔導研究所には近づかないようそれとなく言っている。
 とはいえ詩織の魔物たちが操られたら、彼女がどんな行動をとるか分からない。
 哀音には見張って貰っているけど……」
今でも詩織の居場所は把握してもらっている。
それでも哀音を詩織から離すべきではないだろう。
今までの傾向からみて魔導研究所にさえ近づかなければ大丈夫とは思うが。
「哀音をずっとその娘につけているのは勿体ないな。
 次からは私がつこう。」
「あぁ、頼む。」
哀音の使える魔法はとても多い。
それはイコール出来ることが多いということだ。
だが純粋な戦闘力、状況判断力という点を考えればリオンの方が良い。
詩織の護衛につくならリオンの方が適切と言えた。
「奴等が今回も詩織を狙っているなら、これでだいぶ防止できる筈だ。
 けど今までの傾向からしてあと1ヶ月以内には奴等は動く。」
「そうだな。
 では次は私の方から報告させてもらう。」
リオンが話し始める。
その調査内容はイムヌスについてだった。
「結論から言わせてもらう。
 相変わらず閣下、覇帝はこの世界にはおられないようだ。
 だがよくよく調べたところ、いないのはあの方だけでなかった。」
「……どういうことだ?」
「連盟”全員”がこの世界に存在していない。
 それはイコールこの世界を守護する戦力がすべていないのに他ならない。
 正直そんなことは考え難い。」
リオン曰く連盟は覇帝にべったり付き従うためにいる訳ではない。
覇帝不在時にこの世界を守るために連盟がいる。
まぁ俺の感覚だと連盟が世界を守るとかいうのに違和感があるんだが。
「……いや待てよ。
 連盟全員ってあの神楽魔姫ってやつもか?」
「そうだ。神楽魔姫の存在も確認できなかった。
 厳密には連盟の存在そのものは人々の中で周知の事実。
 彼らにとっては”存在している”が、実際には”存在していない”。」
……は?どういう意味だ?
俺が疑問に思ってると。
「……記憶の改ざんってこと?」
哀音が俺の疑問を代弁するように聞く。
リオンは迷ったように回答した。
「間違え、とはいえないな。
 どこかでこの世界の人々の認識がずらされていることは間違いない。
 閣下も連盟もいることにはなっている。
 ただ実際にはこの世界のどこにもいない。」
……分かるような、分からないような。
「でも俺たちは神楽魔姫ってやつに会ったぞ。」
「あぁ、問題はそこだ。
 だがシャルディスという女は、
 神楽魔姫はこの世界の外にいると言っていたのだろう?」
シャルディスが言ってたというより、遊ぶ者が言ってたみたいだけどな。
だがそうなると。
「……だったらあの人は、いったい何なの?」
謎は深まる。
よりによってあんな危険な存在が野放しになっている。
「おそらくはこの状況も遊ぶ者の仕業だろう。
 だがそもそもこの世界は……」
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
誰かが訪ねてきたらしい。
「……どうする?帰した方がいいか?」
「いいや、この先はまだ推測の段階だ。
 今日は解散としよう。」
リオンに言われてドアを開ける。
そこにいたのはナギサだった。
「こんばんは、聖二君。」
「あぁ。どうしたんだ?
 こんな時間に。」
「えっとね……ちょっと散歩しない?」
俺は二人の方を向いて確認をとる。
哀音は無反応だったがリオンは首を縦に振った。
「彼女についてもお前は気がかりだろう?
 この際だからちゃんと話しておくべきだ。」
そうだな。いろいろ機会もなかったしな。
「あぁ。いいぜ。」
そして俺はナギサと夕方の散歩に行くことにした。
……もしかしてこれはデートってやつになるのか?
どことなく浮かれている自分がいた。
この状況で我ながら現金なもんだ。


アンヌ先生の漆黒の服はこのカデンツァでも目立つ。
ただここはもっとも人が多い区画。
荒っぽい人間も多く、多少の変な恰好はスルーされる。
潜伏場所には最適と言えた。
周りに人ごみがいる状態のまま、先生は話し始めた。
「それで、どうして貴方がこんな場所にいるのかしら?
 コダマちゃん。」
アンヌ先生とはコダマとしてしか接したことがない。
だから私もそのまま返す。
「先生と同じ理由かしら。」
「もう先生じゃないけどね。」
確かにアンヌ・ポルクスは生死不明、行方不明の扱いになっている。
けれど。
「退職届は出されたんですか?」
「殉職届が出されてるんじゃないの?」
「教師にそんなものはないと思いますけど。」
「それはまぁ、そうね。」
くすくす、と大人の笑みで返す。
この人の印象は昔から変わらない。
アンヌ先生は昔、妹と一緒に世界中を放浪してた時期があるという。
その際に北のオラトリオの地にも来訪した。
要するに彼女は本物のコダマと会ったことがある。
コダマと彼女の付き合いは今でも続いている。
……ただ、今は中身が違うわけだけど。
「それで私からあれを奪ったのはコダマちゃんなのかしら?」
先生は直球で聞いてきた。
あれって何ですか?と話を誤魔化し続けることは出来るが。
それをするなら私は彼女と接触していない。
「はい。」
「やっぱりね。
 ほんと油断ならない子に育っちゃって。」
あれとは当然、七罪魔の一部と思われしページの束。
今も”持っている”。
「コダマちゃん。
 貴方の目的が何か知らないけれど、
 私も行き詰ってるのよ。」
「そうですね。
 私も正直、先行きに困っていたところです。」
ならば、と。
特に示し合わせをした訳でもなく。
私たちは無言で同盟を決めた。
だから彼女の目的だけを確認する。
「アンヌ先生。
 貴方の目的は、妹さんを呪いから解放することですよね?」
「……っ!?」
さすがのこの人も、その詰問には動揺した。
「私も、救いたい人がいるんです。
 さぁ、行きましょう。」
私は握手をする訳でもなく、歩き出した。
先生も溜め息を一つだけ吐いて、私について来てくれる。
必要以上の馴れ合いはせず、いつも飄々と。
それが私たちの関係だ。


「あっという間に終わっちゃったね。」
散歩してる間、ナギサが話しかけてくる。
終わったとは、祭りのことだろう。
「そうだな。
 まぁ、悪くはなかったかな。」
「もう、素直じゃないなー。」
俺たちは何故か数年来の友人のように話していた。
何が俺をそうさせるかは分からない。
「ナギサは、どうしてこの学院に来たんだ?」
だから自然とその質問は俺の口から出てきた。
「うーん。
 やっぱり学べるうちに学びたいってのがあったのと、
 あとは此処に来ればもしかしたら会えるかもって思ったんだよね。」
「会える?」
誰か知り合いでもカデンツァにいたのだろうか?
「……私ね。
 昔はオラトリオっていう民族の村に住んでいたんだ。
 そこからいまいる場所に引っ越してきたんだけど。」
彼女の本名はナギサ・オラトリオ。
だったら彼女が元々はそこの出身であったことは想像が出来たけど。
「私がまだ小さい頃だったかな。
 オラトリオにいた頃、村が魔物の集団に襲われたんだ。
 でもたまたま村を訪れてた3人の旅人さんが助けてくれたんだよ。」
……3人の旅人?
いや、まさかな……
「その一人があの警備隊長のメイクさん。
 まぁあの人は私のことなんて覚えてなかったみたいだけど。」
シャルディスが話していた0周目の話。
ということは彼女を助けたのは……
「あとは着物の女の子と、紫のドレスの人。
 名前は刹那さんとシャルディスさん、だったと思う。」
……マジかよ。
まさか刹那がナギサと会っていたとは。
運命的なめぐり合わせにも程があるだろう。
「いろいろ変わった人たちだったけど、
 でも私にとっては恩人だからね。
 また会えないかと思ってここまで来たんだ。」
……そう、だったのか。
本来の歴史で彼女を助けたのが誰なのかは分からない。
だがこの世界においては、彼女を助けたのは刹那たちだったらしい。
「……でも、結局はその村もなくなっちゃったんだけどね。
 なんか怖い人が来ちゃったらしくて。」
……怖い人。
嫌な予感がするな。
「……俺がその二人と知り合いだって言ったら、
 驚くか?」
「あはは。聖二君ならありえる気がするね。」
ナギサは笑って言った。
冗談と聞こえたのか真実と聞こえたのかは分からない。
だが俺は真顔で答えた。
「……俺は、そのシャルディスを追っている。
 取り返しのつかない過ちを、回避するために。」
「え?」
これが運命の悪戯なのか。
それは俺には分からない。
もしかしたらこれも遊ぶ者のゲームの範疇なのかもしれない。
けれど。
「一緒に、行かないか?
 俺たちの、未来のために。」
それが俺の。
嘘偽らざる気持ちだった。
もう二度とこんな時間を過ごせないと思っていた。
でもまた、俺は生きた時間を過ごすことが出来た。
みんなのおかげだ。
「……ほんと聖二君は不思議な人だなぁ。」
ナギサは俺の手を取る。
人の血が通った温かい手。
……あぁ、本当に懐かしくて涙が出る。
でも、今はまだその涙は流さない。
「よろしくね、聖二君。」
「あぁ。よろしくな、ナギサ。」
俺は初めて彼女を雫ではなく。
ナギサという一人の人間として、名前を呼んだ。


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