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60話 陣営衝突
(……動いた。)
哀音の声が俺に届く。
矛盾曲の件から既に2週間ほどが経過した日だった。
俺たちは祭りの会場から去っていったハイドの魔力を追跡。
既にハイドの潜伏先を把握している。
天使連中に伝えればハイドを捕縛することは出来るかもしれない。
(けど敢えて泳がせることにした。
シャルディスが動くのを待つために。)
危険な賭けではあった。
シャルディスより先に七罪魔が動いてくる可能性があるからだ。
だが詩織に関してはリオンがずっと張っている。
学友たちにも詩織を一人にしないように伝えている。
当然魔導研究所に近寄ったらすぐに連絡するようにも。
そう簡単には狙えない筈だ。
(で、場所は?)
(……たぶんだけど、向かった先は魔導研究所、だと思う。)
まぁ予想の範疇だ。
あのアリンという吸血鬼を救出するためには魔導研究所に潜入するほかない。
どこかで必ず仕掛ける以外ないのだ。
「……はい。えぇ。
よろしくお願いします。」
俺は魔法電話で連絡する。
魔導研究所にハイド・サンドドルの姿があると。
これで天使連中が動く筈だ。
シャルディスの足の速度は知らないが。
「戦闘力なら天使たちの方が上のはずだ。
まともに激突すれば向こうに勝ちの目はない。」
そもそもシャルディスは哀音の情報収集魔法を知らない。
ここまで早く動かれることは予想できないはず。
「……え、見かけない、ですか?」
それから1時間後。
魔導研究所の周辺に不審な連中なんていないと連絡を受けた。
「も、申し訳ありません……」
かなり怒られた。
出鱈目を言いやがって、と。
(おい、どういうことだ?)
(……そ、そうは言われても……)
哀音の魔法は魔導研究所の周辺では効かなくなる。
だがハイドが動いたことは間違いない。
だったらシャルディスも動く筈だ。
戦力の逐次投入なんて愚行はしないだろう。
向こうにそんな余力がある訳もない。
(どこだ?いったいどこにいる?)
(……ハイドって人はまだ動いてる。
けどなんかいろんなところを移動してて、
どこを目指してるのか……)
……今日仕掛けるわけじゃないのか?
こうなったらハイド単独を狙った方がいいか?
だがあいつを止めるには俺一人が行ったところでどうにもならないぞ。
(いま怒られたばっかりだしな。
戦力くれーなんて言えそうもない。)
ある程度は都にも協力してもらうことになっている。
だがある程度だ。
最大の敵は七罪魔。
それの警戒が最優先だ。
「仕方ない。俺たちで行くか。」
俺はメンバーを考え、各人に通達した。
編成したメンバーは俺、キリング、ラーク教師の3人。
ハイドとは縁のある連中だ。
ハイドを見つけたと言ったらすぐに飛んで来てくれた。
「細かい追跡は俺に任せろ。聖二学生。」
ラーク教師の魔法ライトサーチ。
この魔法は本来追跡用の魔法らしい。
哀音一人では都全体を探ることが出来ても詳細が掴めなくなる。
「はい、助かります。」
そしてハイドを探し始めて約30分。
その場所はフラットの夜会のすぐ近く。
以前の周回でトーナメント戦を行った場所。
懐かしいメンバーの再会だ。
「よう。」
俺は爽やかに挨拶する。
ハイドは明らかに怪訝な顔つきをした。
「貴様が封座聖二か。
思ったよりちゃらい男だな。」
ハイドは初対面といわんばかりにそう言った。
あぁそういえば以前はミスターHとか名乗ってたっけ。
なかった事にして欲しいのかもしれない。
「お会いできて光栄です、ハイド先輩。」
「ったく、休学してたと思ったら。
こそこそ何やってんだ、お前は。」
キリングとラークも話しかける。
だがハイドは淡々と返すだけだった。
「ラークか。
貴様まで封座聖二の犬に成り下がるとは。」
「犬とはひでぇ言いざまだな。
俺は教師として、不良生徒の指導をしに来ただけだぜハイド。」
軽口を叩きつつも、俺たちはいつでも戦闘態勢に移行できように準備していた。
だがハイドと戦うことが目的ではない。
俺はさっさと本題に切り込むことにした。
「おまえ一人か?
シャルディスはどこに行ったんだ?」
「シャルディス?
何の話だ?」
とぼけるつもりのようだ。
とはいえこの男が会話が上手くないことは知っている。
「お前の目的は分かっている。
アリン・ペルシェっていう吸血鬼を魔導研究所から助けることだろ?」
「……成程。
貴様が周回者という話は本当のようだ。」
ハイドは観念したか戦闘態勢に移行する。
天使の翼も顕現している。
どうやら本気ってことらしい。
だが可能な限り説得は続ける。
「待ってくれ。
お前と争いたくはないんだ。
この都はアリン・ペルシェを解放する気でいる。」
「……本気で言っているのか?」
ハイドは怪訝な顔で言う。
嘘は言っていないが、バーパイア議長はそこまで確約したわけではない。
エルカサス学院長やシャルライト教師が猛反対したからだ。
結局は保留という形になっている。
「お前次第だと思っている。
その交渉に協力して欲しい。」
「貴様を信用する理由がどこにある?
俺が捕縛される可能性の方がよっぽど高いだろう。」
ハイドは戦闘態勢に入る。
さすがにこの世界ではハイドとの付き合いがなさすぎる。
信用されないのは当たり前だった。
「まぁいいじゃねぇか、聖二学生。
これが俺たち流の物事の決め方だ。」
「……聖二君を疑っていたわけではないが、
本当にハイド先輩が天使様だったとは。」
ラークとキリングも戦闘態勢に入る。
だが俺は疑問に思っていた。
どうしてこいつ一人がこんな場所にいるのか。
(シャルディスは俺とハイドのことは知っている。
まさかハイドの魔力を追跡されることも読んでいた?)
哀音の情報収集魔法のことは知らない筈だ。
だが哀音の存在自体は知っている。
前の周回で哀音は天使ラナーと戦闘したから、その存在は割れている。
予想ができない訳ではない。
そのことも踏まえると。
「……お前は、囮か?」
「さぁな。」
その回答が答えだった。
聖二がそう考えたのと同時刻。
シャルディスとアンヌは既に魔導研究所の最奥にいた。
そう、魔導研究所の周辺には一度も現れなかった。
現れる必要がなかった。
「助かったわ、アンヌ先生。」
「あらあら、私とコダマちゃんの仲じゃない♪」
聖二は一点見落としていた。
以前の周で学院長エルカサスがこの中に簡単に入ってきたことを。
それはすなわち魔導研究所の最奥に入る別口が存在するということである。
「見つけるのは大変だったけど、
前から目星はつけてたからね。
これでも元教師ですから。」
元々彼女はこの都で教師をする傍ら、内部調査を続けていた。
この都の内部についてはシャルディスよりも精通している。
シャルディスにとって理想的な協力者だった。
「じゃあ先生。
そっちの方は頼みます。」
「えぇ、もちろん。
私はそのために来たのだから。」
だが魔導研究所の最奥を手薄にするほど天使達も甘くはない。
前の周回ではハイドが最奥にいたように、天使が定期的に1体ずつ番についていた。
そしてこの時間に番をしているのは。
「……ふぇ?
お姉ちゃん……?」
「えぇ、そうよ、お姉ちゃんよ。
……で、いまは”どっち”なのかしら?」
中位天使ラナー。
だがその身体はアンヌの妹、ランラン・ポルクスのもの。
既に彼女は天使の翼を顕現していた。
「お前たち天使を地に落とすために。
私はこんなものまで準備して来た。
さぁ、妹の身体を返してもらうわ。」
先ほどまでの軽薄な口調は既にアンヌにはなかった。
その視線には確かな憎悪が宿っていた。
彼女は魔導書とは別に、異なるページの束を2枚取り出す。
(2枚で七罪魔の意思が出てきたことは過去の周回にはない。
アンヌ先生なら上手く使ってくれると思うけど。)
シャルディスは内心でそんなことを考えながら、彼女たち二人の戦いの場を離れていた。
その行き先は当然。
「久しぶりね。
もうこれで何度目になるのかしら?」
黄金の光に囲まれた。
アリン・ペルシェの元だった。
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