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61話 馬鹿どもの理論
俺は地上から10メートルほど離れた位置で見下ろしていた。
何故か俺に挑んできた人間たちは当然のようにひれ伏している。
だが数秒後、また足をつけ立ち上がり、戦闘態勢に入る。
(……いったい何をしたいんだ?
こいつらは。)
それが天使ハイナーの本音だった。
俺がシャルディスとアンヌを魔導研究所の内部に入れるため、囮を引き受けたことはもう分かっただろう。
さっさと俺を振り切って魔導研究所に向かうのが筋。
にもかかわらず雁首揃えて何故か俺に立ち向かってくる。
……しかもいつの間にか数が増えていないか?
「……くそぉっ!
やっぱつえぇっ!!」
「じゃあ次は俺だあぁっ!!」
いつかの夜会で見た人間たち。
何度も俺に敗北した奴等だ。
「行くぜぇっ!ハイド!」
学院の3年の男、ルンヌ・レイホウが俺の場所まで跳ぶ。
とうぜん俺は正面から迎え撃つ。
「八連打!!」
「ぐわあぁぁああっ!!」
一瞬で八発の拳を浴びたルンヌは当然のように地上に落下した。
落ちた衝撃で地面に穴まで出来ている。
……少しやり過ぎたか?
だが奴は穴の中からすぐに出てきて地団駄を踏んでいた。
「あぁちくしょう!
空中はずるいだろ空中は!
リングで戦えっ!」
……だから何がしたいんだ、こいつらは?
ハイドとの戦いは緊張感の欠片もなかった。
最初は俺とキリングがハイドに挑んだ。
当然のようにあっさり一蹴された。
その間にハイドの姿を確認したいつぞやの夜会の連中が集まって来た。
以降は順番にハイドに挑み、あっさり撃退される。
その繰り返しだった。
「……おい、封座聖二。」
またも一人撃退したハイドが若干苛立ちげに聞いてくる。
「どうした?」
「こいつらは何をしている?」
「さぁな。
俺にもよく分からん。」
俺は両手をやれやれのポーズにしてジェスチャーした。
「ふざけているのか?」
「いんや、これだって戦術だぜ。
いくらお前だって沢山戦えば疲れるだろうからな。
みんなが戦ったあとに俺がフィニッシュを決める。」
「出来もしないことを言うな。」
「……悲しくなること言うなよ。
もしかしたらって可能性もあるかもしれないだろ?」
俺はニヤリと笑う。
ハイドは溜め息をついて呆れたように言った。
「貴様はただの馬鹿だったようだな。」
「かもな。
でもその馬鹿共にお前は付き合ってるじゃないか。」
「……なに?」
再度、一人の男がハイドに挑む。
奴は向かって来る男に対し、正面から撃退する。
そう、正面から。
「魔法とかで一気に殲滅するとか、
そういうことも出来るはずだろ?」
「あまり得意じゃないだけだ。」
「そう照れるなよ。」
「……話にならんな。」
ハイドはついにその場を飛び立とうとする。
だがそこで野太い男の声が上がった。
「おいおいここまでやったんだ。
最後の一人、見事抜いて見せろよ。」
その声はラーク教師のものだった。
筋肉質の赤毛の男は上着を脱ぎ、構える。
脱いだらますます筋肉が凄かった。
……なんでこの人、魔法学院にいるの?
「冗談にしても笑えんな。」
「オイオイ調子に乗ってんのかハイドよぉ。
確かにお前が参加した夜会は全てお前が優勝をかっさらった。
だが俺に勝った事はないだろ?」
ニヤリとラークは笑う。
ハイドはそれを挑発と受け取ったか、戦闘態勢に入る。
「いいだろう。
だがこれがいい加減最後だ。」
「おうお前はなんだかんだ分かってるねぇ。
せっかくだから賭けでもするか?」
「どんな賭けだ?」
「俺が勝ったら、お前は聖二に従う。
お前が勝ったら、こいつら全員お前に従う。
もちろん俺も含めてな。」
「……は?」
ちょっと待て。それは俺も含めて……
「……本気で言っているのか?」
「男と男の戦いに二言はねぇよ。」
いや俺は二言も三言もある。
だがそんな俺の文句を余所にラークとハイドは既に戦闘態勢で向き合っていた。
「いいだろう。
忘れるなよ、その約束。」
「……嘘だろ?」
こんな馬鹿騒ぎで俺の命運は決まるのか?
俺の今までの60話以上の戦いが?
そんなことで呆然としてる間に奴等の戦いは始まっていた。
あぁくそ。こうなったら意地でも勝ちやがれセンコーが。
ラークが俺の地点まで跳ぶ。
だが跳ぶという行為自体がそもそも隙だらけなのだ。
所詮教師といえどこの程度か。
俺は容赦なく八連打を放ち……
「……なに?」
……とうとしたが空振りした。
確かに奴は跳んだ。
だがその飛距離は俺より更に上空。
「上から来るか?
いいだろう。」
上空からの巨漢の男の攻撃。
やることは変わりはしない。
「八連打!」
さぁ受けきれるか?
「お前が受けきれるのかぁ!?
ハイドよぉっ!!」
「なにっ!?」
その攻撃は。
「八連蹴!!」
上空からの落下エネルギーを味方にした八発の蹴り。
いや実際には八発以上。
魔法使いの蹴りの威力とは思えなかった。
「だが黙ってくらってなど……」
そう。
俺は天使。
このまま地上に落下などするわけがない。
奴より空中に跳んで遥か高い位置から攻撃をすれば。
目の前の男などなんの問題もなく撃退できるだろう。
できる、のだが……
「真正面から、叩き潰す!」
「そう来なくっちゃなぁ!!」
何故か俺は正面からの効率の悪い激突をしていた。
互いに跳び、頻繁に上下の有利が変わり、激突を続ける。
天使の翼をまったく使わない戦い方。
何故、俺はこんな無駄なことをやっているのか?
「分からねぇのか、ハイド。」
「……分からん。
何故だ?」
「それはなぁ……
まだ今年はいつものバトル大会を開いていないからだぁっ!!」
「なにっ!?」
「……いやお前はどこに動揺したんだ?」
封座聖二が突っ込みを入れているが、そんなことはどうでもいい。
確かにあの夜会には同僚の天使のせいで溜まったストレス発散のため、参加を始めた。
愉しかった。ストレス解消の日々は。
痛快だった。馬鹿面どもをぶちのめすのは。
だがそれもこれも、結局は。
「正面からやらないと、踏ん切りが収まらんっ!」
「そうだ!それが男の戦いってやつだ!」
「ただの筋肉理論じゃねぇか。」
ラークとハイドの戦いは20分以上続いていた。
戦い自体はハイドがずっと優勢だった。(と思う)
優勢だった筈なのに、何故か、いつのまにか。
「……はぁ、はぁ、まさか、体力切れだと……?」
「おうそうだ。
それがお前の弱点だ、ハイド。」
いやあんたが元気すぎるだけだろう。
ハイドは息が上がっていた。
どうなってるんだこのおっさん、天使の体力を上回るなんて。
「普段からそんな便利な羽あったら、そりゃ体力もつかねぇわな。」
「……く、そうか。
そういう、ことだったのか。」
ハイドはまだ戦う余力はあったように見えたが、地上に降りてきた。
そして膝をつき。
「……俺の、負けだ。」
敗北を認めた。
……ということでいいんだろう、たぶん。
うぉおぉおおぉおおぉおぉおっっと男どもの雄たけびが上がった。
まるでいつぞやの決勝戦が終わったような、そんな騒ぎだった。
「……そうか。
これが俺が求めていたものだったんだな。
彼女がいなくなった時から求めていた、俺の……」
「お前それが結論でいいの?」
さすがに心配になってきた。
いつまでも馬鹿なことをやっている場合ではないのだが。
「で、お前は本当に俺に従うのか?」
ハイドが約束を破るとは思えなかったが、一応聞いてみた。
「貴様が彼女を殺すとか言わなければな。」
「あぁ、アリン・ペルシェとかいう吸血鬼のことだろ。
ないない。
てかそんなことして俺になんの得があるんだよ。」
シャルディスと協力していたのもやはりそれが理由だったようだ。
だったらハイドはどっちに協力しても良かったのかもしれない。
たまたま俺より先にシャルディスが声をかけただけだ。
「で、あいつは魔導研究所にいるんだな?」
「間違いない。
そしてあの檻を破壊するために動くだろう。」
檻。
確かにあの吸血鬼は黄金の光みたいなものに閉じ込められていたが。
もしかしてあれを壊すのがシャルディスの目的なのか?
(いずれにせよ、急ぐか。
シャルディスがあの中に入ってるのはまぁいいんだが。)
……なにか、嫌な予感がする。
魔導研究所に人が集まる。
そのあとは決まって七罪魔が復活していたのだから。
(……詩織にはリオンがついている。
心配し過ぎても仕方ないか?)
俺は魔導研究所へ急いだ。
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