SS TOPに戻る
前へ
次へ
63話 姉たちの矜持
「な、なんだ、今の爆発は!?」
俺たちが魔導研究所に近づいたとき。
突然建物の一部が爆発した。
……まさかもう七罪魔の奴等が現れたのか?
「……いいや、違うな。
この感じは。」
俺の考えをハイドが否定する。
だがその顔を見る限り愉快な展開は期待できそうもない。
「……これは、堕天した天使の力だ。
おそらくはラナーだな。」
「堕天?」
いつぞやの1000年前の英雄の兄を思い出してしまった。
「文字通り天使が堕天、闇堕ちすることだ。
まぁまだ堕ちかけの段階に感じるが。
いずれによ放っておくと碌なことにならん。」
「……分かった。」
とはいえそんな相手に俺が行ってどうにかなるのだろうか?
「……少し、だけ。」
「え?」
「……?」
俺の後ろにいつの間にかいた哀音が声をかけてきた。
ハイドも怪訝な顔で哀音の方を見ている。
……もしかして、認識されかけている?
「力が、使えるようになってきた。
前はここまで近づけなかったのに。」
「そういや以前の周回でもそうだったな……」
ハイドが研究所内のなんらかの装置を作動させたら、哀音とリオンが動けるようになった。
それと似たようなことがいつの間にか起きているのかもしれない。
「なんにせよ、急ごう。」
おそらくあの場にはシャルディスもいる筈だ。
とはいえあの女がこの状況を予想できてたのかは怪しいものだが。
……まぁ、なんか予想外の展開になって来たんだけど。
とりあえずあの力なら黄金の檻を壊してくれそう。
そういえば天使の力は試したことがなかった。
ほら同じ天使同士の力で中和、とか?ないかな?
「ああぁあぁぁぁぁあぁっっ!!」
(あ、会話とか出来ませんよね、はい。)
とりあえず逃げ回ることにする。
よく見れば翼が片方黒く染まっている。
吸血鬼の仲間入り?いやそんなわけないけど。
目の前の天使は小柄な体躯とは真逆の巨大な剣を振り上げる。
その剣は漆黒に染まっていた。
剣まで闇堕ち?
振り上げた剣からなんか黒い粒みたいなものが飛んでくる。
「うわっ!?」
とりあえずやばそうなので回避行動をとる。
だがいかんせんその黒い粒は多すぎた。
1回振り上げるごとに周囲に何百発も飛んでくる。
……いやこんなの避け続けるのとか無理。助けて刹那。
そんな戯言を心で呟いてたら、入口のドアが開いた。
誰かが入って来た?
「ちょっとぉ!
何事ですかぁ、これはぁぁっ!!」
「……メイク?」
あの青緑の鎧と微妙に美人でない顔つきはメイクだ。
当然、私のことになど気づく訳もなく(記憶がないと思うし私はコダマの姿だ)目の前の明らかな脅威に対峙した。
「うぅ、あぁぁぁっ!!」
「……え、えぇと。
貴方は話す知能はお持ちです、かぁ?」
メイクは混乱しているのか、とりあえず話そうとする。
当然その努力は無駄に終わった。
天使は一瞬でメイクに接近し、その巨大な剣を放つ。
「う、わぁぁっ!?」
メイクは一瞬だけ剣で凌ぐが。
やはり地力が違いすぎるのか、あっという間に弾き飛ばされ壁に激突した。
「ぎゃあぁぁぁぁっっ!?
こ、この無茶苦茶な感じ、前も、どこかで……?」
ガクリと気絶したっぽい。
……えぇ、せっかく出てきたのに退場はやっ!?
などと現実逃避している場合ではない。
「あぁぁぁぁ、ああぁああぁぁっっ!!」
完全に狂った獣みたいになっている。
……この200年間の私と同じように。
こうして実際に直面すると哀れみを感じざるを得なかった。
「……”同じこと”をやるしかないのかしらね。」
私は残った3枚のページを手に取る。
最終手段ではあったがこうなったらやむを得ない。
ここで逃げてしまってはここまでの周回が無駄になってしまう。
「……まだ、よ……」
……と思っていたら。
アンヌ先生が復帰してきた。
とはいってもその身体は既にボロボロ。
戦力に数えるのは難しそうだった。
「無茶しなくてもいいですよ、先生。
私は一応まだ手札がありますから。」
「……馬鹿言わないで、よ。コダマちゃん。
私がここで踏ん張らなかったら、
私の今日までの人生は、無意味になってしまう、わ……」
……無意味、か。
その感傷には強く共感できた。
アンヌ先生の手持ちは残り1ページ。
そのページの力で目の前の天使の心に干渉する。そういう話は事前に聞いてはいたが。
あの様子を見ると失敗したのだろう。
「……いいえ、失敗じゃないわ。
私が本当の意味であの子を見なかっただけ、よ。」
「本当の、意味?」
先生が天使の前に立つ。
彼女は死ぬ気かもしれない。
「……人間が、天使が、どうとか……
そんなことに囚われたばかり、にね……」
「………」
彼女の言いたいことはなんとなく分かる気がした。
……その瞬間。
何かが急速に接近してくる気配を感じた。
人の気配ではない。
けどその気配が何か分かる前に先生は走っていた。
目の前の泣き喚く少女に向かって。
(自殺行為だ。)
「う、あぁぁぁあああああああぁぁぁっっっ!!!」
当然、相手は巨大な剣を振り上げる。
あんなものをまともに食らえば先生の身体は真っ二つになるだろう。
もはや死に際を看取るしかない、とそう考えていたけれど。
ギュアアァアァアアアアアァァッッ
接近していた気配。
それは超高速で放たれた光の矢。
私には視認できなかったが、その矢はアンヌ先生を貫き。
(……え?)
貫いたと思ったらすり抜けて。
天使の黒い翼を貫いた。
「あぁぁぁああああああああああぁっっ!!!」
天使少女の叫声が部屋中に響き渡る。
何が起きたのか分からない。
だが彼女の黒い翼からは何かが漏れているように見えた。
「……私たちは中位天使。
神の、高位天使様のお言葉を地上の者たちに伝える。
そのための尖兵。」
魔導研究所から2kmほど離れた地点。
豪奢な金髪の女性天使シャルナーは一人呟く。
「……だからといって。
他の天使を見捨てる理由にはならないのよ。」
魔導研究所まで飛んできた矢は彼女が放ったものだった。
魔殺弓。
彼女曰くあらゆる魔を、呪いを、貫く矢。
それはすなわち。
「堕天するには、まだ早い。
まったく手のかかる妹だわ。」
その記憶がいつのものか。
その想い出が自分のものなのか。
それは私には分からなかった。
全てが、怖い。
意味もなく、恐れを感じる。
自身がどこにいるのかすら、よく分からなくなることがある。
……あぁ、でも。
「……お姉ちゃん……」
その温もりは懐かしくも、常に私の近くにあったものだった。
この人はいつも無茶ばかりするのだから。
「ごめんなさい……」
過去のことは、よく覚えていない。
これからも、きっと我を忘れたり、周りが見えなくなるのかもしれない。
それでも、私には近くにいてくれる人がいたのだと。
今更ながらに感じて、私は泣いていた。
本当の意味で泣いたのが、いつからだったのか。
もう、覚えていない。
「……戻った?」
今の矢の、影響だろうか?
過去の周回の全てを私が見てきたわけではない。
私の知らない天使たちの一面だってあったのだろう。
アンヌ先生も、また同様に。
「おめでとう、ございます。」
私はその言葉だけを残して抱き合う姉妹に背を向けた。
そして上空を見る。
アリンを囲む黄金の檻は先ほどよりも亀裂が深まっている。
あと少しで崩壊する。
見た目のうえではそう見える。
だが今の私の力ではその崩壊を進めることは出来ないだろう。
であるのならば。
……と考えてみたらまた足音。
ドタバタと、まぁ誰が来たのかは予想がつくけれど。
「ってうわっ!?
なんだこりゃ!!」
やはり入って来たのは封座聖二。彼だった。
もはやあちこち亀裂だらけの部屋を見て驚いている。
「また会ったわね。」
今は会いたくなかったのだけど。
「……あぁ。」
前の世界と同じ場所で。
私たち周回者は再び対峙した。
SS TOPに戻る
前へ
次へ