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64話 オリジンヴァンパイア
かつての仲間の吸血鬼たちの顔を思い出すことは難しい。
記憶に靄でもかかったように、具体的なところが何も出てこないのだ。
ただアリンに関してはその名前を聞いてから連鎖的に思い出した。
私たちオリジンヴァンパイアの中でも一際弱く、暗くて、どんくさい子。
それが彼女の印象。
「貴方はこんなことも出来ないの?」
「う、うぅ、だって……」
とある場面。
細かい詳細は思い出せないが、私たちは人間の戦士団と戦っていた。
数は20前後か。
いずれせによ私たちの敵じゃない。
「こ、この化物どもが……」
「そうね。
貴方達から見たらそうなんじゃない?
脆弱種が。」
私は恨み言を残す最後の戦士の首を潰した。
弱い。
弱すぎる。
こんな脆い相手すらも。
「貴方は殺せないのね。」
彼女は、アリンは殺せなかった。
仲間の吸血鬼たちがこの場を去っていくなか、彼女だけがまだその場に佇んでいる。
オリジンヴァンパイアの落ちこぼれ。
それがアリン・ペルシェ。
「……?」
彼女はその場から動かない。
いったい何をしているのか。
人間の戦士団ごときに勝てないのであれば、せめて簡単な命令くらい遂行して……
「……ごめんなさい。
私にはみんなを止めることが出来ませんでした。
ごめんなさい……」
死体となった人間たちに対し、彼女は謝罪していた。
意味が分からない。
私たちは絶対種として生まれ変わったのに。
未だに下等種である人間ごときに囚われて。
「哀れな子。」
私は彼女を見下しながら、仲間の元に戻っていった。
(懐かしい記憶だ。)
人間も、アリンも、かつては見下していた。
にもかかわらず、今は助けようとしている。
……何故だろうか?
疑問に思うべきなのに、今まで何も感じなかった。
昔の私も、今の私も、同じなはずなのに。
この過去の場面もまるで他人事のように私には見えていた。
「それは貴方の心が吸血鬼から離れてしまったからよ。」
心地いい声が私の脳内に響く。
この声は、夜子様?
今の時代にあの方は存在しない。
でも。
「もう一度吸血鬼に戻れば、
いつでもこの頃の境地に帰ることが出来るわ。
私の歯車だった頃の貴方にね。」
それは、どういう意味だろうか?
少しだけ疑問を覚えた気もしたが、また靄でもかかったようにその疑問も忘却した。
何度も、何度も、こんなことがあった気がする。
それも、たぶん気のせいなのだろう。
気のせいにしてしまうのだろう。
「また会ったわね。」
ツインテールの髪の少女、コダマ・オラトリオがいつもの調子で話す。
「……あぁ。」
だが少女はコダマではない。
シャルディス・ブラッド。俺と同じ周回者。
前の世界と同じ場所で。
俺たち周回者は再び対峙した。
遠目にはアンヌ・ポルクスとその妹の天使が抱き合っている。
動いていないが、気を失っているのだろうか?
「いったい何をしたんだ?」
「私は何もしてないわよ。
まだ。
あっちの天使の子が暴走?でもしたのかしら。」
「暴走、ね。
お前が七罪魔の一部でも使ったんじゃないのか?」
「さぁね。」
惚けたように彼女は俺の後ろにいるハイドの方を見た。
「それで、貴方は裏切るのかしら?」
「いいや。義理は果たす。
だがあの連中との約束も無碍には出来ない。
だから俺は見定めることにした。」
ハイドは俺とシャルディスの方を交互に向く。
「世界を何度も繰り返しているという貴様らが。
どんな決着を迎えるのかをな。」
「そう。」
シャルディスは短くそう返した。
つまりハイドは俺の助太刀はしない。
その代わりシャルディスのことも助けない。
勝った方に従う、とでもいうのだろうか?
いずせにせよ今はハイドのことを気にかけてる場合ではない。
俺はシャルディスに対面する。
「さぁどうする気だ?
もう残ってるのはあんただけだぜ。」
「ほんと、どうしようかしらね。」
シャルディスはちらりと上のアリンを見て溜め息する。
そして決意を込めるように。
「一か八か、やるしかないわね。」
シャルディスはスカートの中から何かを取り出した。
それは何度か見たあの歪な本のページ。
まさか、それは。
「……っ!?
おい、それはまさか、奴らの!?」
「そのまさかよ。
この好機を逃すことは出来ない。」
シャルディスの持つページが黒く光る。
俺がそう認識した瞬間、衝撃波が部屋中に放たれた。
「ぐっ!?」
なんとか両腕で防御する。
黒い煙が部屋中に充満する。
そしてその煙が消えた後には。
「……なんだ、その姿は?」
シャルディスの姿は一変していた。
ツインテールの長さは足元まで届くほどに長くなり、その色も雷のように光っていた。
バチバチと雷音が鳴る。
まさか、その姿こそが。
「……オリジンヴァンパイアとしての姿、ってことか?」
「……えぇ、そう。
七罪魔の力で、一時的に当時の力を、取り戻した。
でも、まぁ、長く使えるものじゃないで、しょう。」
言ってる傍から言動が途切れ途切れになっている。
「馬鹿が、そんなものを使えば!」
「言いたい、ことは、分かっているわ。」
今までの世界において、多くの奴等が掌握の悪魔に身体を乗っ取られた。
しかも今回は奴等の力を自発的に使用している。
となればその結末は分かり切っているだろう。
「そうなる前に、終わらせるだけよ!」
シャルディスの姿が消える。
……と認識した瞬間、俺は宙を舞っていた。
「……え?」
俺は攻撃を受けたのだと認識する暇もなく、二発目の攻撃が俺に入る。
だが次の攻撃は、認識できた。
1発目はあまりの速さと威力に認識すら出来なかった。
実際痛みすらなかった。
いうまでもなく危険な兆候である。
「……そう、か。」
俺の身体には障壁が張られていた。
そう、この場には哀音もいるのだ。
「……究極・物理防壁。
使う前に一撃入れられたっぽい。」
哀音が竜巻を放つ。
だがシャルディスはその竜巻を軽々と飛び越え。
「遅すぎる。」
次の瞬間、哀音が宙を舞っていた。
同じ時の放浪者だから認識できているのか、それとも気配でも感じたのか。
がしゃぁんという音と共に哀音は遠くに飛ばされていた。
起き上がって来る気配はない。
(……嘘だろ。強すぎる。)
下手したら刹那より強いんじゃないか?
圧倒的なパワーとスピード。
どうあがいても俺が勝てる相手ではない。
ちらりと俺はハイドの方を横目で見るが。
「手は貸さん。
そう言った筈だ。」
だよな。
だったらどうする?
「……はぁ、はぁ……」
シャルディスは呼吸激しく、疲弊しているように見える。
成程、さすがにあの強さを長時間維持できないとみた。
徐々に弱体化するのか、それとも突然ダウンするのか。
ただ多少弱体化しようが、あと一撃まともに食らえば俺も気を失うだろう。
「……これで分かったでしょ。
さっさとこの場から消えるのね。」
「悪いがそうはいかないな。」
シャルディスがさっさと退いて欲しいと思ってるのは明確だ。
向こうも余裕がない。
だったらなんとか粘るしかない。
(いつぞやの大会のことでも思い出すか。)
奴にスライドとかが効くとは思えないが。
シャルディスの姿が消える。
その動きは到底俺には追うことが出来ない。
だったら一か八か。
「カチンコチンっっ!!」
周囲をすべて凍らせる手に出る。
これならどれだけ速くても意味はない。
そうは言っても所詮は俺の魔法。
この広い部屋全体を凍らせるには遠く及ばず、俺の半径数メートルかそこらを凍らせるに留まった。
だがそれでも。
「……くっ!?」
シャルディスの両足を凍らせることは出来た。
どうやら魔法の効果範囲にぎりぎり入ったらしい。
魔法ならどれだけ速い相手であっても関係ない。
この調子なら、どうにか。
「……なる訳ないか。」
奴の掌から魔法球みたいなものが放たれる。
シャルディスも当然魔法を使えるのだ。
「電磁ボール!!」
4発ものエネルギー弾みたいなものが俺に向かって放たれる。
視認もろくに出来ないのに俺にそんな攻撃が回避できる筈もなく。
俺は吹っ飛び……
「へやっ!!」
カキィンという音と共に何かが高速で飛ぶ。
続けてカキィン、カキィンと。
飛んでいるのは先ほど放たれた魔法球のようだった。
だが最後の一発が”その”女性に届く。
「ぐ、はあぁぁっ!
あぁ、ちくしょう、痛いったら、ないですねぇ!」
3発を目の前の女は剣で弾き飛ばした。
俺の目でなんとか分かったのはそのくらいだ。
「……邪魔しないでくれないかしら?
メイク。」
シャルディスの言葉に対し、その青緑の鎧の女は。
「……1度だけでなく、2度までも。
私に襲い掛かって、その罪、贖えると思ってるんですかぁ!?」
「え?」
シャルディスは驚いた顔で女を見る。
女が剣をシャルディスに向ける。
「今度は土下座してどれだけ謝っても許してあげませぇん、ってね!」
周回者と周回者の戦い。
遊ぶ者のゲームの終盤展開。
そのすべてを無視し、ただの脇役メイク・ザルツブルクは一人対峙する。
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