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65話 かつての戦友たち
0周目の世界。
封座聖二に聞かせた、本来の私が生きていた世界。
刹那やメイクと別れたあと、私はアリン・ペルシェを探し続けた。
その世界は厳密にはもう0周目の世界ではなく。
私たち3人の旅がなかったことになった世界。
その旅の軌跡は全て神楽魔姫によって破壊され。
私はただ一人、周回者としてアリンを助けることをゴール地点として目指していた。
そのすべては崩れ去った悲劇をなかったことにするため。
夜子様のお力があればそれくらいのこと、容易に……
……でも、本当にそうなのか?
200年。
短い年月ではない筈だ。
仮に夜子様と仲間の吸血鬼が闘争の悪魔との戦いに勝利したとしよう。
でもそのあとはどうなるのか?
世界は吸血鬼のものになるのか?
そのあとの人間の世界は?
そしてその世界で私たちは、私は。
「……同じ、未来を過ごせるの……?」
彼女たちに再び巡り合える事が出来るの?
……分からなかった。
「戦闘中に……」
その僅かな迷いが。
「余所見をするなぁぁっ!!」
目の前のメイクの攻撃を受ける隙となる。
その攻撃は聖爆剣。
何度もかつての世界で見た、メイク最大の攻撃。
「く、あぁぁっっ!?」
……だが、ここまで。
ここまでのものだったのか?
彼女の攻撃は。
「……な、んだって言うのよっ……!?」
身体が沸騰するように熱い。
どうしてこんなにダメージを食らっている?
私の身体能力は吸血鬼の頃のそれに戻っている筈だ。
時間経過で弱体化が進んでいるとしても、メイク程度の攻撃でこれほどまでに……
「はっ!?」
……失念していた。
聖爆剣は、吸血鬼に対して特攻の一撃。
いまの私の身体は一時的に吸血鬼の特性になっている。
それが逆に弱点になっていた。
「……だからと言って。」
私はメイクに飛び掛かる。
だが彼女は私の攻撃に対し、的確に剣で捌いていた。
決定打を与えることが出来ない。
身体能力は私の方が圧倒的に上。
一撃でもメイクの懐に攻撃が入れば、私の勝利は確実だ。
けどその一撃がやたら遠い。
「……このっ!このっ!
どうして、どうして……っ!?」
「はぁん!?
その程度ですかぁぁっっ!?」
私の攻撃の隙を突き、メイクの聖爆剣がまたもや私に入る。
先ほどからの攻撃は着実に私にダメージを与えていた。
吸血鬼の再生能力をメイクの攻撃が上回っている。
ありえない事態だった。
(……なんで?どうしてよ。)
分からなかった。
シャルディスがあせってるのと同様、メイクも煽り口調ほどの余裕はなかった。
彼女は今の戦況を正確に認識していた。
身体能力はシャルディスが圧倒的に上。
その見立てはメイクも同じだった。
だが相手はあせってるのか、自分に接近戦ばかりを仕掛けて来る。
真正面から、小細工なしで。
どれだけ圧倒的なパワーがあるといっても、それでは猪の突撃と変わらなかった。
メイクは攻撃を受け流す技術を当然のように有していた。
それは優秀な戦士なら誰かれ少なからず持っている単なる技術の一つで、メイクが特別なわけではない。
簡潔に言ってしまえば、メイクが戦士として磨いて来た近接戦闘経験の差がこの戦況を生み出していた。
単なる一人の人間でしかない彼女は、格上の怪物に対して戦う術を持っている。
これだって彼女が特殊なわけではない。
現に先程は中位天使ラナーに対し、あっさりと敗北を喫した。
だがシャルディスはラナーと違い、近接戦闘にまるで慣れていない。
正確には、久しぶり過ぎる、のだろか?
なんとなくだが、メイクは戦いぶりからそう予想していた。
だがそれでも、シャルディスの攻撃にメイクが対応できているのは。
(……知っている。
私は、この女を?)
ぼんやりと。
メイクはそんなことを考えていた。
……隣で、一緒に戦っていたではないか。
……あの圧倒的な強さを持つ少女の傍らで。
だが今はそんなありえない幻想は払拭する。
(一撃、まともに入れば私は負ける。
下手したら、死ぬ。)
先ほどの女から受けた一撃は軽くない。
状況を有利にし続けないといけないのである。
ゆえに挑発を続け、接近戦を挑ませ続ける。
遠距離攻撃に切り替えられたら勝ち目は完全になくなる。
勝負をあせらず、確実に追い込む。
(……なぁんて、都合よくはいかないってね。)
相手がバチバチと光る剣らしきものを顕現する。
魔力か何かで生み出してる類だろうか?
それは3メートルはある巨大な剣だった。
あれが主武装ということだろうか?
一つ分かってることは。
(あんなの食らったら、確実に死ぬ。)
それだけだった。
「……なんかやばそうなのを出して来たな。」
俺はひれ伏しながらも二人の戦いを横目で観察していた。
シャルディスはいま冷静なのだろうか?
正直そうは思えない。
メイクについて親しいわけではないが、見殺しにする訳にもいかないだろう。
(おい哀音。哀音。
テレパシーとかで連絡できるのか?
応答しろ。)
気絶でもしていなければ、応答できると思うが。
(……な、なんとか……)
一応気絶はしてなかったらしい。
(メイクの方を補佐できるか?
いまシャルディスは背中が無防備だ。
冷静でなければ、の話だが。)
だが俺が接近戦を挑みにいったら即座に反応されて潰されるだろう。
近接戦闘力に差があり過ぎる。
(シャルディスが動いたら、
なんか魔法を撃ってくれ。
その間になんとかする。)
(……なんか、って……指示が、てきとう……)
のんびり考えてる時間がないんだから仕方ないだろ。
……冷静に考えると俺が反応できない相手に、哀音に反応したら撃てという指示は難しいか。
(もう撃っちまえ。)
(……えー……)
哀音は文句を言いながらもなんとか座る姿勢になる。
まぁ座りながらでも魔法は撃てるかもしれないが……
「……っっ!?
まずい、動いた!?」
どう動いたのかは分からなかったが、動いたのは確かだ。
「……フロード・スイングっ!!」
哀音の魔法が発動する。
……いや、それ広範囲魔法じゃね?
一瞬にして部屋中が水の中に覆われた。
水位が上がって動きにくいなんてレベルではない。
大洪水でも流れてきた、そんなレベルである。
当然、この場の全員が自由に身動きできなくなる。
「ぶはっ!?
な、何よこれはっ!?」
「……ふぇ?」
気絶していたのか寝ていたのかは知らないが、アンヌ姉妹も目を覚ます。
そしてシャルディスは?
「………」
水中で問題なく動いていた。
速度は遅くなった。目で追える程度には。
けど吸血鬼なのになんで水の中で平然と動いてやがる?
対するメイクは。
「………っ!?」
水中でまともに身動きできる訳がない。
そう思っていたら彼女は壁を蹴り上げ、真っすぐシャルディスに突撃していった。
(……いや、そんなもんで攻撃って。)
水中ってことは身体が重いのだ。
相当なエネルギーがなければ身体なんて飛ばないだろう。
実際メイクのスピードはシャルディスの比にならないレベルで遅い。
勝負は見えていた。
「……せい・ばく・けんっ……」
剣を振り上げる。
技を放つ。
無理だ。あの体制からあんな攻撃まともに当たらな……
「クロスっ!!」
もう一発の聖爆剣?
いずれにせよ同じことだ。
(……いや、違う。)
1発目は聖爆剣ではなかった。
その刃は真空の刃。
一瞬、そう一瞬だがその刃が通ったあとの水が切れていたように見えた。
その隙間を拭って。
「……なっ!?」
聖爆剣がシャルディスに命中する。
……なんだよ、その芸当。
人間技じゃねぇだろ。
剣の技術の極みを俺は見た。
あの状態で攻撃を食らうと思っていなかったのか、シャルディスが吹っ飛ぶ。
その瞬間、洪水のような水は一気に引いた。
魔法の効果が途切れたようだ。
メイクは油断せずシャルディスを追従していた。
シャルディスも吹っ飛んでいた態勢を立て直し、メイクに対峙する。
そして最後の一合。
これで決着がつく。そう思った瞬間。
「……雷刃・空斬……!!」
その絶大な威力の稲妻の一撃は放たれた。
俺の視界は圧倒的な光によって遮られ。
気づいたときにはメイクの身体は真っ二つに……
「……え?」
……なっていなかった。
吹き飛ばされたのはシャルディスの方だった。
メイクの最後の聖爆剣がシャルディスに直撃していた。
(……馬鹿な、今の一撃を押しのけたのか……?)
俄かに信じられない。
今のを打ち破れたらもう人間じゃないだろう。
「……ちっ。
最後の最後で、そっちを狙うとか。」
メイクが舌打ちする。
そっちを狙う?
メイクは、無傷だった。
シャルディスは、メイクに対して今の一撃を放ったんじゃない?
だったらさっきの一撃は……
「あ……」
びき……ぴき……びき……
……その一撃は。
あのアリンという吸血鬼の娘を囲っていた黄金。
そちらに向かって放たれていた。
ばきぃんという音と共に吸血鬼の娘が落下する。
「……あぁ。
今の私に、これが撃てるとは、思わなかったけど……」
シャルディスは頭から血を流しながら、呟いていた。
それこそがシャルディスの目的。
メイクに敗北しようが、目的は果たした。
だったらこの戦いは、彼女の勝ちなのかもしれない。
「……じゃあ、ここまでだな。」
あの娘を助けることが、シャルディスにとっての勝利条件だとするならば。
これでその条件を満たしたことになるのかもしれない。
だったら周回者同士の戦い。このゲームも終わりということだ。
……まぁ俺はひれ伏してただけだが。
俺はシャルディスの元に駆け寄る。
俺たちの諍いもこれで終わりにしよう。
だから……
「ぶらぼ〜〜〜〜〜〜!!」
……その歓声に、強烈な悪寒を覚えた。
拍手の音と共にその女はなんの脈絡も気配もなく現れる。
俺が、哀音が、シャルディスが、ハイドが、メイクが、アンヌが、その妹が、それを見て愕然とする。
そうするしかなかった。
「……神楽、魔姫……っ!?」
黒と水色のドレスの女。
その女は面白いものを見せてもらったという顔で。
「よい、よい。
小動物の曲芸はいつ見ても微笑ましい。
でもこれでゲームとやらも終わりなのだ。」
全てを簒奪する規格外の魔法使いは笑う。
俺の心底嫌いな、絶対者の笑みだった。
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