SS TOPに戻る
前へ
次へ
66話 絶死と絶命
「強大な魔力を魔導研究所内に感知!」
「魔力量SSSを超えています!
この魔力は……」
魔法使いの都カデンツァ。
この都は複数の区画に分かれている。
各々の区画に大きな宮殿が存在し、普段は各陣営の魔法使いが分かれて暮らしている。
だがこの瞬間はもうそうではなかった。
「測定限界値を超え、測定不能。
そして今も”上がり続けている”。
神楽魔姫。
奴に間違いはないでしょう。」
車椅子に座り、カデンツァ創始者バーパイア・カデンツァは神楽魔姫の出現を断定する。
その名を聞いた部下たちは恐怖を抱かずにはいられなかった。
「全ての宮殿に最高障壁を。
避難パターンはオメガ。
これより全体の指揮は私がとる。
異論があるものは?」
「……っっ!?
ありませんっ!」
「避難パターンオメガ、全区画に通達を!」
「障壁、急げ!」
バーパイアが指揮をとると聞いて部下たちは目に光が宿ったように動き始める。
ふぅと一息をつく彼女の近くには翼を持つ金髪の若い男が控えていた。
「お疲れ様です、バーパイア議長。」
「世辞はいいわ。
貴方の進言がなければここまで早くは動けなかった。
カデンツァの代表として感謝を。」
その控えた男の名はリオン。
だがバーパイアには天衣魔縫と名乗っていた。
「大した手腕だったわ。
さすがは未来の連盟、ね。」
「いえいえ。それほどのことでも。」
リオンの動きは早かった。
この世界に近づいて来る巨大な魔力。
天使の知覚も持つ彼は、いち早くそれに気づいた。
そして哀音がハイド等に認識された時、彼もいち早くそれに気づく。
一番最初にリオンの存在に気づいたのは、護衛対象の詩織だった。
そしていまはその詩織もこの場に避難している。
多少強引ではあったが、ここまでは上手く言ったと評価していいだろう。
(だがこれで七罪魔の出現を防げたりはしないだろうな。)
たしかに神楽魔姫は危険な存在だ。
だがリオンからすれば彼女はイレギュラー。
神楽魔姫と違い、七罪魔が出現することは今までの周回から見て確実である。
このタイミングでもし同時に奴等が現れでもしたら。
(正直、打てる手は、ない。
私たちやカデンツァ、天使たちの総戦力をもってしても……)
「よい、よい。
小動物の曲芸はいつ見ても微笑ましい。
でもこれでゲームとやらも終わりなのだ。」
神楽魔姫の出現からいち早く動いたのはメイクだった。
「そこのあんたら!
何してんですかぁ!?
さっさとこの場所から逃げろやボケ共ぉ!」
言ってる本人もあっという間にこの部屋から退散する。
他の面子もハッとしたように動き始める。
この場にいればどんどん魔力が奴に奪われる。
だがすぐには動けない者もこの場にはいる。
「……何よ、これは……?」
「お、姉ちゃん……」
アンヌ・ポルクスとその妹。
哀音はテレポートで無理やり身体を動かすかもしれない。
そしてもう一人、いいや、あと二人。
「…………」
「……く、あぅ……」
黄金から解放され寝転がっているアリンという吸血鬼。
そしてシャルディス。
だが二人の近くにはハイドが現れていた。
「捕まれ、貴様ら。
俺が連れていってやる。
そっちはどうにか出来るか?」
言ってる傍から哀音がアンヌと妹天使の近くにいた。
テレポートで移動したのだろう。
「……なんとか、いけそう。
外にマーキングは、出来ている。」
神楽魔姫の相手をすることは、誰にも出来ない。
今はカデンツァ全体が動いてることを期待してこの場を離れるほかなかった。
だが俺の脳裏には更に最悪の事態が描かれていた。
「……っ!?
ハイド、シャルディスに気をつけろ!
奴等に……っ!?」
「なに?」
ハイドが俺の言葉に反応する。
その瞬間、その身体が明後日の方向に吹き飛んだ。
……最悪の予感が的中した。
シャルディスの身体が起き上がる。
だがその魔力も、声質も既に彼女のものではなかった。
「……この時を、待っていた……
時渡を10回以上行った存在。
その力を、得るときを……」
機械のように温度のない、冷酷な声。
認めたくないが、認めるほかない。
シャルディスの身体は掌握の悪魔グリモアに乗っ取られた。
しかもその姿は先ほどのオリジンヴァンパイアのままだった。
「……適合率・84%。
期待どおり、魔物使いの娘を越えた。
できればあれも確保したい。
だが……」
シャルディス、否、掌握の悪魔グリモアが神楽魔姫の方を向く。
対する神楽魔姫は俺たちが逃げていくのを追ったりもせず、ずっとその場に佇んでいた。
だがようやく首を動かす。
「おや、なんと言ったかな?
七罪魔、とかいうらしい。
けれどお前は魔姫のフレンドにはなれないのだ。」
神楽魔姫に動揺はまるで見られない。
対する俺はこいつらの魔力に押しつぶされそうになる。
奴等は俺の方など見ていない。
押しつぶされている場合ではない。
今は一人でも早く、この場から離脱しなければならない。
既に哀音とアンヌ、その妹の姿はなかった。
テレポートによる転移を行ったのだろう。
だが残ったアリンという娘の方は……
「……心配は、要らん。
貴様も急げ……」
おそらくグリモアの攻撃をくらって吹き飛んだハイドは今はアリンの近くにいた。
彼女を抱え、離脱を試みようとする。
忘れがちだがこの研究所内では先ほどまで激しい戦闘が行われていた。
このままいけば今まで通り、この魔導研究所は倒壊するだろう。
俺もぐずぐずしている場合ではない。
けれど……
「……お前は、なんだ?
この世界の外にいたのでしょう?」
「お前こそなんだ?
魔姫はお前には興味ないのだ。
破壊しか能のない物品になど。」
それを聞いたグリモアが魔法らしきものを放つ。
炎のようなものが光ったと思うと、神楽魔姫の背後の壁が綺麗さっぱりなくなっていた。
肝心の神楽魔姫は微動だにしていない。
傍目にはダメージは見えないが、実際のところ俺には分からない。
「……今の攻撃で、無傷。
あぁなるほど、理解した。」
「うむ、それは良かった。
で、もう一度言うが魔姫はお前には興味はないのだ。
それとも理解できないのか?
コミュニケーションも碌に出来ないとは実に残念なのだ。」
とにもかくにも俺はこの部屋から離脱する。
ハイドとアリンの姿も既になかった。
急がなくては、だが。
(……どうする?
ここからどんな手がある?
逃げたところで、所詮は……)
醜悪の悪魔ダルバックが召喚される。
この状況で更に奴を呼ばれれば、終わりだ。
今までで召喚媒体にされていた、アリンという吸血鬼の娘はもういない。
だがそんなことで安心できる訳がなかった。
……何故なら奴は、アリンを背負ったハイドを追う素振りすらなかった。
(……84%とか、言ってたな。)
詩織のときは70いくつとかそんなことを言っていた。
だったらこうは考えられないか?
……もう召喚媒体すら必要ないと。
考えたくはなかったが、最悪の事態は想像しなければならない。
都合のいい希望を信じることは単なる逃げだ。
神楽魔姫が現れた以上、もう次の世界はないのかもしれないのだから。
(ないのかもしれない、じゃない。
”ない”んだ。
この世界で決着をつけなければ。)
俺たちには何も残らない。
けれど、だけど。
聖二がこの部屋から離れた直後。
その部屋は吹き飛んだ。
攻撃を放ったのはグリモア。
そしてその魔法は。
「グランドフレア。」
何の躊躇もなくその魔法は放たれた。
部屋だけでなく、研究所そのものが灰燼と化す。
「……ちく、しょう……っっ!?」
追って来る爆発から逃れられない。
……これで、俺も終わりか?
……いやだ。
……俺はまだ。
何も、終えていないんだからっ!!
ぴきり
その瞬間。
世界が、遅くなった感覚を確かに覚えた。
追って来る爆発の速度が弱まる。
今まで何度か起こった、俺が引き起こした現象。
だったら。
「今のうちに急げっ!!」
今まで通りなら長くは続かない。
なんとか俺はその魔法の爆発から逃げ切ることが出来た。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ぎりぎりのところで俺は生を拾った。
だがいうまでもなく何も事態は改善などされていない。
奴は今のような広範囲魔法を連発できる。
加えてまだ醜悪の悪魔すら現れていない。
(……どうすれば、いい。
どうすれば……)
見ればはるか空中には二つの人影があった。
いうまでもなく、その二つとは掌握の悪魔と神楽魔姫。
このまま奴等は潰しあってくれるのだろか?
否、仮にそうだとしても。
(……巻き込まれる。)
奴等の戦いに俺たち只人はついていけない。
そして潰しあう状況すらも、都合のいい希望に過ぎない。
「……本当に邪魔をする気はない、か。」
「さっきから言っているのだ。
魔姫は今から散歩に行くが。
お前のことなどどうでもいい。」
「………」
神楽魔姫の姿が地上に降りて来る。
グリモアはその姿を追わない。
……あぁ、やっぱりだ。
ここから奴等は別々の行動を始める。
都合よく潰しあってなんて、くれはしない。
(……終わり、なのか。
もう、なにもかも……)
七罪魔だけなら今までどおり。
神楽魔姫だけでも出来ることはあったかもしれない。
けど同時に出て来るとか、そんなのありかよ。
あまりに酷すぎる、この世界の理不尽。
でも。
それでも。
俺は、俺はまだ。
「諦めたくなんて、ないんだっ!!」
それが駄々に過ぎない決意であることなんて分かっている。
けど、だって。
まだ誰も死んでいない。
僅かではあるが、俺は希望を抱いていた。
(……シャルディスの眼は、片方しか変わっていなかった。)
一瞬だが、見た。
希望的推測なのは否定しない。
だが完全に乗っ取られていないのであれば、話は変わって来る。
それに気づけば、魔導研究所の周りの動きも今までとは違った。
人々が一点に向かって逃げている。
まだパニックにまでは陥っていない。
組織的な動き。つまりこの都の上層部が動いてるってことだ。
「まだ、あるはずだ。
俺たちに、出来ることなんていくらでも!」
俺は一つの魔力反応を感じ、そいつと合流すべく走っていた。
SS TOPに戻る
前へ
次へ