SS TOPに戻る 前へ 次へ


67話 開戦



「う、あぁぁぁぁああぁぁぁっっ!?」
「あ、いやぁぁああぁっっ!!」
逃げ遅れた人々が、神楽魔姫の散歩に巻き込まれる。
彼女はいつものように踊りながら移動していた。
「おや、今日は小動物の数が少ないのだ。
 いろいろとやっているのだなぁ。」
さして興味もなさそうに彼女は笑う。
神楽魔姫にとって、今までは小動物同士の縄張り争いだった。
だがここからは違う。
であるのならば先の展開など分かり切っている。
「あぁそういえば。」
ふと思いついたと言わんばかりに神楽魔姫は踊りを止める。
「夏奴はどうしたのだったかな?
 小動物の縄張り争いに負けたところまでは見ていたが。
 そのあとは見ていなかったのだ。」
自分のペットの名前を彼女は呼ぶ。
その瞬間、カデンツァのとある一区画の宮殿最下層にて。
障壁、牢獄に囲まれ、更には全身を拘束されていた女が声を上げた。
「………あぁ。あぁぁあぁぁぁあ。
 ああぁぁぁぁああああぁぁぁあああああぁぁぁっっ!!
 この声は、魔姫さまぁぁあぁあぁぁっっ!!」
倒れていた女、夏奴の身体が動き出す。
だが彼女がいる場所はいま彼女一人を拘束するための施設と化していた。
宮殿内すべてが障壁と牢獄の山。
さしもの矛盾曲といえど脱出は容易ではない。
「いま、お会いいたしますぅぅ。
 魔姫さまぁぁぁっっ!!」
それでも確実に障壁と牢獄を破りながら。
彼女は宮殿内を移動し始めた。


「……っ!?
 議長、矛盾曲に反応がありました!!」
「拘束状態をマックスにしなさい。
 それで少しは時間は稼げる。」
「承知しましたっ!」
バーパイアが指揮をとる司令部にて。
この場は慌ただしく人が出入りする空間と化していた。
「神楽魔姫は、どうしましょう?」
「……残念だけど、今は放っておくしかない。
 奴は自発的に私たちを攻撃している訳ではないみたいだわ。
 敵意がないならカデンツァを離れてくれることを期待するしかない。」
掌握の悪魔と神楽魔姫の両方を同時に相手する。
そんな対応は自殺行為でしかなかった。
神楽魔姫については刺激させないよう、ある程度の被害は飲み込む以外ない。
(……だが、問題は。)
掌握の悪魔は必ず、どこかのタイミングで醜悪の悪魔を呼び出す。
七罪魔が2体になる。
何故か奴は今回すぐには呼び出して来ないようだが。
そのことを懸念し、リオンはバーパイアに進言した。
「神楽魔姫と掌握の悪魔はいま別々の場所にいます。
 奴への攻撃を始めても、神楽魔姫の能力には巻き込まれない。
 打って出るなら今です。
 醜悪の悪魔が現れるまでに掌握の悪魔を討たなければなりません。」
自身で言いながら現実的にはリオンは不可能だと思っていた。
倒される状態になるまで掌握の悪魔が醜悪の悪魔を呼ばないわけがない。
そもそも倒されるなんて想定を奴はしていないかもしれない。
何故なら今回の奴の魔力量は、過去の周回全てを上回っていた。
単純に呼ぶほどの理由がない、ということかもしれない。
「……動かないのは、何故でしょう?」
「神楽魔姫を警戒しているのではないかしら?
 言いたくないけど私たちを脅威とみてるとは思えない。」
ありえる話だった。
だが。
「………」
シャルディス、というかコダマを吸血鬼化、悪魔化したような姿。
その片手が上がった。
上空に向かって何かを放つ。
「……あの燃料を持ってきなさい……」
手から放たれた大量のエネルギー。
それは上空から地上のあちこちに放たれ、形あるものと化して都内に現れた。
その形あるもの、グリモアエナジー、100体。
エネルギー体の魔物たちが地上を動き始める。
相手が魔物ならばと、カデンツァの魔法使いたちが交戦を開始する。
「行くぞ、フレイムウェーブ!」
「プラズマオール!」
「ストームソング!」
Lv2の広範囲魔法の数々がグリモアエナジー達に放たれる。
だがグリモアエナジー達はまったく意に介した様子もなく移動を続ける。
「な、なんだこいつらはっ!?」
「効いていない……?
 そんな訳があるかっ!」
魔法使い達が次々と魔法を放つが、進軍は止まらない。
「マス。」
「フロード。」
逆にグリモアエナジー達が魔法を詠唱する。
「うああぁぁぁぁぁぁっっ!!?」
魔法使い達は次から次へと倒れていく。
逆にグリモアエナジー達は殆ど損害がなかった。
「……此処に、向かっているのか?」
その状況を映像越しで見ていた通信士が恐れおののく。
敵の進軍先はこの司令部。
一気に頭を叩く腹づもりだろうか?
だがリオンだけは違うことを考えていた。
(……いや、おそらくあの娘狙いだ。)
この場に避難してきた人々の中から詩織の姿を見る。
過去の周回を考えればその想像は容易だった。
(とはいえ奴は既に肉体を手に入れている。)
万一にでも備えているのだろうか?
それに動くにしてもどうにも消極的だ。
醜悪の悪魔も未だに呼んでいない。
「いずれにせよ、このまま放っておく訳にはいかないわね。」
バーパイアが低く呟く。
そして何らかの魔法詠唱を始めた。
「……死ぬまでにまたこの魔法を使うことになるなんて。
 人生は、分からないものだわ。」
(……なんだ、この詠唱は?)
リオンをもってしてその詠唱が何の魔法のものか分からなかった。
その魔力はカデンツァ全域に浸透していく。
当然、グリモアもそれに気づいた。
「……ほう。」
僅かだが賞賛の声を呟く。
その魔法は。
極大空間変換(カデンツァ・フェルマータ)!!」
その詠唱を終えた瞬間。
カデンツァは多くの空間に切り分けられた。
当然グリモアのいる空間も。
グリモアエナジーの進軍する空間も切り分けられる。
そして。
「……これは?」
リオンは驚愕せざるを得なかった。
切り分けられた空間は遥か遠方に存在していた。
それぞれの空間と空間の間には数十キロ程度の距離がある。
つまりこれは。
「戦場の拡大。
 更に市民区はもっとも遠くに配置した。
 それ以外についてはランダム配置になってしまったけれど。」
とんでもない規模の魔法。
人類の範疇に収まる魔法ではないだろう。
「これは私の先輩たちが築き上げてきた魔法。
 私は当時の最後の一人として、この魔法を伝承されたに過ぎない。
 そんなことよりも。」
これで戦闘準備の時間が多少ではあるが出来た。
「まずはあのエネルギー体の魔物の対処が優先ね。」
「であるならば議長。
 これは私の推測ですが……」


俺は魔導研究所から逃げた連中を追って移動していた。
だがどこまで逃げたのか。
……そもそも俺はいまどこを走っているのか?
(……え、なんだこれ?)
こんな場所、この都にあったか?
仮にも俺は10周分、このカデンツァには滞在している。
だがいま俺が走ってる場所はひたすら周りに何もない大地。
訳が分からなかった。
「……っ!?
 あれは……」
紫っぽいエネルギー体の魔物が数体。
フレイム、とかに似てるがおそらく違うだろう。
魔力からしておそらくは掌握の悪魔が呼び出した魔物か?
「くそ、やるしかねぇっ!」
俺は剣を構える。
だが敵の魔物は炎、氷、雷といろんな属性のブレスを吐いて来た。
「ぐ、わぁぁぁあぁっ!!」
ちくしょう、俺一人では……
「はあぁぁぁああぁぁぁっっ!!!」
だがそのとき。
エネルギー体の魔物が怯んだ。
奴等を怯ませたものは。
「キリングっ!」
「無事か、聖二君!」
キリングの拳の一撃だった。
更にキリングに続いて図体大きめの男たちが殺到する。
その姿に俺はとても見覚えがあった。
「格闘大会の連中かっ!?」
肉体を駆使して戦う彼らはエネルギー体の魔物相手に拳を撃ちつける。
「うぉぉおぉぉお!八連打ぁぁぁぁっっ!!」
魔物たちは次から次へと霧散していく。
なんだこいつら、魔法より物理攻撃に弱いのか?
理屈は分からないが、効いているようだ。
「とにかく助かったぜ。」
「聖二君はこれからどうするつもりだ?」
まずは哀音やリオンと合流したい。
このままバラバラで戦っていては各個撃破がオチだろう。
「……リオン?
 それはいまバーパイア議長を補佐している、
 天衣魔縫という男のことか?」
「はいぃ?補佐だと?」
いつの間にそんなことになってやがる。
状況はよく分からないが、そこに行くしかなさそうだった。
「すまん、場所は分かるか?」
「うむ、私について来てくれ。」
俺はキリングに案内されるままに続いた。


「………」
グリモアは切り取られた空間に無言で佇んでいた。
グリモアエナジー100体を放った後の動きは未だない。
「……弱点に気づいたか。」
ならば、と。
再度、片手を上げる。
だがその瞬間。
グリモアの身体を光の矢が貫いた。
「………」
それは200メートルほど遠くから放たれた。
天使シャルナーによる魔殺弓だった。
そして。
「闘争乱舞っ!!」
更に追撃。
天使ハイナーによる無数の殴打がグリモアに放たれる。
僅かだが怯む。
「少しは効いたでしょう?
 さぁいつまで余裕面でいられるかしら。」
「………」
シャルナーの挑発に対し、グリモアは無言だった。
特に動じている様子もない。
シャルナーは挑発しながらも、すぐに次の一撃を放つ準備をしていた。
「予定と対象は変わったけれど、同じことだわ。
 七罪魔は私たちが討って見せましょう!」
……その声には虚勢が滲み出ていた。
たったの二人で七罪魔に挑む。
しかも増援に最強の七罪魔が呼ばれることはほぼ確定。
それが何を意味するのか、分からない馬鹿はいない。
にもかかわらず、私たちは。
俺たちは、何をしているのだろうか?
(分からないさ。
 そんなことは今も昔も。)
全ての力を駆使して。
今はこの場を死守する。
ただ、それだけだ。
我々、天使にだって。
退けない時はあるのだと。
貴様らに教えてくれよう。


SS TOPに戻る 前へ 次へ