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68話 降臨
「リオンっ!」
「……聖二か。ようやく来たか。」
キリングに案内されて俺は司令部らしき場所に来た。
その場には避難して来たのであろう、ナギサや詩織もいた。
でも他の生徒たちの姿が見当たらない。
「あれ、インファイトやガライは?」
「たぶんだけど、市民区に避難してると思う。」
「避難?
え、いや、それじゃあなんでお前らは……」
「聖二。」
俺の疑問にリオンが口を挟む。
そしてこっちに来いとばかりに手招いていた。
内緒話ってことか。
(いま掌握の悪魔はおそらくあの詩織という娘を狙っている。
市民区に連れていく訳にはいかなかった。)
(……成程。でもこの場所だって……)
(ここには今カデンツァの最高戦力が揃っている。
確かにいずれは奴も此処に来るだろうが……)
リオンが映像の方を見る。
そこに映されていたのはシャルディスの姿……否、掌握の悪魔の姿だった。
交戦しているのは、ハイドに、シャルライト……天使シャルナーだったか。
確かにすぐ出せる戦力としては最強の組み合わせかもしれない。
(それでも醜悪の悪魔を呼ばれたら、数分持つかどうかじゃないか……?)
(だが現に呼んでいない。
おそらくだが神楽魔姫への警戒と、
あの詩織という娘を殺してしまうことを避けている。)
神楽魔姫はいまカデンツァ内を何故かうろついている。
だがいつ気まぐれで戻って来るかも分からない。
準備が出来るまでは醜悪の悪魔を呼ばないってことか?
(神楽魔姫と掌握の悪魔が同時に現れたのは確かに最悪だが。
そのおかげで掌握の悪魔は慎重になっている。
喜んでいいのかは、微妙なところだが。)
まったくだな。
だがいつまでもこの状況が続く訳がない。
あの場にリオンや哀音も駆けつけて一気に勝負をかけるか。
「そういえば哀音は?」
「安心しろ。
アンヌ・ポルクス、天使ラナーと共に既にこちらに搬送済みだ。
言っただろう。此処にはいま最高戦力が揃っていると。
彼女達も回復した後に一気に勝負をかける。
その結果、最悪の事態になる可能性は高いが、それ以外に勝つ術はない。」
最悪の事態。
当然、醜悪の悪魔ダルバックを呼ばれることだ。
それでもやらない訳にはいかない。
不安要素は山のようにあるが、もう最終決戦の火蓋は切られたのだから。
(……あれ?
詩織は分かるがどうしてナギサまで此処にいるんだ?)
(まぁ、念のためだ。
奴等は過去の周回で閣下の施設を何度も破壊しているから、
彼女にも何かあるのではと思ってな。)
……なるほど?
なんか腑に落ちないが。
「って、おい?
どこに行くんだ?」
リオンが議長から離れる。
そのまま施設の入り口の方に足を進めていた。
「奴等との決戦の前に、
私はやらなければいけないことがある。
それまでなんとか持ちこたえてくれ。」
「はぁ!?」
決戦の前も何も、既に決戦だろうが。
だがリオンは俺の制止を無視してさっさと施設から出て行ってしまった。
「さて、貴方が補佐を変わってくれると彼からは聞いていたけれど。」
この都の最高権力者、いまや司令官となったバーパイア議長が俺に尋ねる。
どうやらそういう事になっているらしい。
……俺が補佐って、やったことないぞそんなこと。
「何か私にも出来ることはある?
聖二君。」
困ってる俺にナギサが声をかけてくれる。
……リオン、まさかあいつ俺のために……?
なんとなく察したが今はそんなことを考えている場合ではなかった。
「……ある。
いま負傷してるアンヌ教師や、その妹。
彼女たちを復帰させることが最優先だ。
特に天使の方は大きな戦力になる。
ただあの天使は自己回復能力が低いらしく、おそらく復帰に時間がかかる。
既に回復魔法の使い手が行動を始めてるだろうが、それでも手は足りていないだろう。」
「分かった。
じゃあ私や詩織ちゃんと、他にも何人か目星をつけてるから。」
……すごいな。この状況でそんなことを。
だが詩織、か。
(……とはいえ、此処にいてもやれることはない。
区画が離れてる訳じゃないし。)
「あぁ、頼む。」
「うん。任せて。」
ナギサは詩織と何名かを連れて行ってしまった。
……大丈夫だ。まだ前線の天使が持ちこたえている。
ちょっと離れたくらいでいちいち不安に駆られていても仕方ない。
「あとは哀音です。
彼女も天使の回復に回してるかもしれませんが、彼女の魔法は大きな戦力になる。
出撃準備のため待機させる方が良いと思います。」
「分かったわ。
ただちに手配を。」
「はっ!」
俺の進言に対し、議長はすぐさま部下に指示した。
……いいのだろうか、この判断で。
俺は一抹の不安を隠しきれなかった。
(……なんだ?
俺は何を不安に思っているんだ?)
……何かが、おかしい。
神楽魔姫の気まぐれを気にしている?
それとも醜悪の悪魔が呼ばれることを?
いや、そんなことはもう承知のはずだ。
不安に思うのは当然だが、そこは割り切るしかない要素。
もっと、何か、具体的な……
(……あのエネルギー体の魔物。
あいつらは、いったいなんだ?)
なんでわざわざあんな奴等を召喚する必要がある?
殲滅がしたいだけなら奴が広範囲極大魔法を連発した方がどう考えても早い。
一緒に詩織も殲滅してしまうのが嫌なだけか?
いやそれにしたって……
「………あ。」
そのとき俺は心臓を握られたかのような悪寒を感じた。
「……ハァ、ハァ。
魔殺弓っっ!!」
通算5発目の魔殺弓が天使シャルナーから放たれる。
その矢はグリモアを貫通し、確かなダメージを与えていた。
「闘争、乱舞っっ!!」
シャルナーに追従する天使ハイナー。
近接戦闘を仕掛けた直後、ある程度の距離を取りながら相手の攻撃に備える。
だがその攻撃は。
「トルネードソング。」
高さ100メートルほどの3つほどの竜巻がグリモアを中心に放たれる。
天使たちは防御態勢をとるものの、防御した両腕はズタズタに引き裂かれる。
……だがその程度だ。
天使には自己再生能力がある。
この程度では致命打には遠い。
二人の天使は戸惑わざるを得なかった。
(……なんだ、これは?
おかしい。どう考えても……)
弱すぎる。
二人はいま同じことを考えていた。
魔法の威力は確かに強い。
強力なLv3魔法だ。
それしか撃って来ない。
”ありえない”。
(……どうしてLv4魔法を撃たない?
こっちは決死の覚悟で戦っているというのに。)
自分たちだけで掌握の悪魔を倒せるなどと彼らは思いあがってなどいなかった。
高位悪魔1体を中位天使が相手取るには最低3体。そのように彼らは上司の高位天使から教授されていた。
しかもそれは並の高位悪魔の話。
純粋な戦闘力は闘争や醜悪に劣るとは聞いているが、それでもいくらなんでも。
(しかもこいつはオプションに魔力媒体を出す。
それを1個も出して来ない。)
6つの魔力媒体を出されれば、絶命が確定する。
それを上司から聞いていた彼らは、シャルナーの弓で確実に魔力媒体を落とし、戦線を維持する戦法を考えていた。
だがそれすらしてこない。
「……ダメージは、入っている。」
少しずつではあったが、彼らの攻撃は効いていた。
その感触はあった。
それゆえに不気味だった。
(……このまま、勝ってしまうのか?
勝てるのか、わたしたち中位天使が七罪魔司令塔に……?)
七罪魔司令塔を中位天使2体ぽっちで倒す。
そんな偉業を達成すれば、間違いなく自分は高位天使になれる。
シャルナーは脳裏に自分の未来の栄光を描き、歓喜したくなるのを必死に振り払った。
……よく考えろ。
……どう考えても奴の行動はおかしいのだ。
偽物の可能性?
ない。奴から感じられる魔力量は桁外れだ。
天使長様はともかく、ウルイエル様やザフキエル様を凌駕する。
正直、今でも魔力だけで押しつぶされる圧迫感を感じる。
……だが、敵意を感じない。
……圧迫感はあくまで魔力によるものだ。
……それは、つまり。
(私たちは、”敵として”見られていない。)
それ以外のなにものでもなかった。
「……詩織ちゃん。大丈夫?」
「は、はい、ナギサさん……
私も、頑張らないと……」
詩織ちゃんを連れて私たちは治療室に向かっていた。
聖二君が言っていたアンヌ先生?やその妹さんを回復するために。
(……それくらいしか、私たちに出来ることはないかもだけど。)
それでいい。
私はシスターの後を継いで、苦しんでる人を少しでも手助けする。
その程度が私という人間だから。
「こっちだよ、詩織ちゃ……」
その角を曲がるとき。
……紫の何かが、垣間見えた……
「……っっ!?」
それが何なのか、私には分からなかった。
けど後ろの詩織ちゃんの足が止まったことは分かった。
その顔はとても、とても何かに怖がっている。
……その紫のものは声を発した。
「……シオリ。
グリモアサマ、ミツケマシタ……」
その言葉の意味を考える間もなく。
紫の何かは、人の姿になっていた。
知らない少女の姿。
……違う。
……さっきまで画面に映っていた怪物の姿。
「……あ、あぁ、あぁぁぁ……」
詩織ちゃんがペタリと座り込む。
その姿はとても痛ましいものだった。
だから私は……
「……消え、た?」
「馬鹿な、どうしてこのタイミングでっ!?」
同時刻、天使たちの前から掌握の悪魔の姿は消えていた。
空間転移を使えることは知っている。
だがどうしてそんなことを今する必要があるのか、天使たちには分からなかった。
「ちっくしょおっ!!」
……俺には、分かっていた。
奴の姿が画面から消えた瞬間、俺は走り出していた。
どこに?決まっている。
治療室に行ったナギサと詩織を追って。
……狙いが誰かなんて、分かっていたのに。
そんな手間をかけてくるなんて思わなったというのか、俺は?
(違う!
違うだろ、考え方が根本的に違う!)
奴はそもそも。
俺たちのことを、敵として認識していない。
眼中にないんだ。
奴が敵として認識してるのは、おそらくただ一人。
神楽魔姫。
このあと奴と戦うための戦力準備。
そのための予備電池。それが詩織。
ただそれだけでしかないんだ。奴にとっては。
「頼む、間に合って、間に合……」
……ってどうする?
俺が行って何ができる?
そもそも奴はナギサと詩織を1秒以下で殺せる。
いやというほど見た奴の触手。
「……マ、ウ、マ……
お、ねが、い……」
……過去の周回の、詩織の痛ましい姿。
しかも今度は詩織だけではない。
「……頼む、頼むよっ。
俺は、俺は……」
世界を、止めて……
……駄目だ、俺が認識できる場所にまだ奴がいない。
「……誰か、誰か、助けてくれ……お願いだっ……!」
失いたく、ない。
もう、次はない。
あったとしても、この最高の世界で得たものを、絶対に……っ!
……だから私は。
無我夢中で詩織ちゃんを体当たりの要領で退かしていた。
……その鋭い何かが、私の脇腹を切り裂く。
一瞬にも満たない、その刹那。
私は詩織ちゃんを守ることが出来た。
「……ナ、ナギサさん……
どうして……どうしてこんなっ……!」
「……にげ、て……」
だがナギサの決死の行動も無駄に終わる。
一瞬でその触手は戻って来る。
(……いやだ、せっかく大切なお友達が出来たのに……)
詩織の身体めがけて。
「お願い、誰か、誰か……
助けて、助けてくださいっ、森の神様……っっ!!」
彼らの、彼女らの懇願を、助けの声を。
誰も聞きはしない。
誰にも届きはしない。
聞いているのは目の前の悪魔だけであり。
意味のない雑音くらいにしか認識していない。
詩織を手に入れたグリモアは。
即座にダルバックを召喚し。
都の焼却を速やかに済ませ。
そのまま七罪魔vs神楽魔姫の戦いが始まる。
この都の、この世界の住人は。
天使も含め、その前段階の焚火でしかないのだから。
その精一杯の複数人の"助け"の言葉がなければ。
それ以外の未来はなかった。
「それはシャルディスの身体だな。
要するにお前はどろぼーか。」
その声は、彼女一人だけが聞き届ける。
「……な、に?」
「どろぼーは。」
その触手はいつの間にか燃やし尽くされ。
初めて動揺を見せたグリモアに対し。
「ボコンだ。」
滅炎の一撃が叩き込まれた。
グリモアの身体が明後日の方向に吹き飛ぶ。
天然の救済者。
刹那、降臨。
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