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69話 無双



刹那は最初、この世界に戻って来る気はなかった。
それ以前に忘れていた。
神楽魔姫と戦ったあと刹那が訪れた世界は。
「む、シャーックだ。」
砂漠の世界だった。(蛇さんがたくさん)
もちろん1分程度で調伏した。
ついでにピラミッドのデザート(美味しそうな名前だぞ)なんとかをお星さまにした。
そしてスネイクダンスを2週間ほど習った。

その後は世良の仲間が沢山の世界に来た。
3分程度で人魚たちにもてなされた。
世良の仲間をいじめる青いトカゲさんをボコンした。
そしてマーメイドダンスを1ヶ月ほど習った。

続いて本が沢山ある世界に来た。
本をたくさん読みながら、キウイなネズミさんたちを従えた。
ちょっと賢くなった。これも本のおかげだな。
そしてキウイダンスを2ヶ月ほど習った。

更に氷の世界に来た。
悪いサンタをていして、ぺーぺーたちからたいちょーと呼ばれることになった。
あと以前コダマたちをいじめていた、白いトカゲさんをボコンした。
けどまた逃げられてしまった。むぅ。
そしてペーペーダンスを3ヶ月ほど習った。

誰もいない寂れた村を見て刹那は思った。
「コダマはいないのか?」
ちょっと前にいたやつらを思い出す。
そしてもう一つ。
その頃の刹那には少し悩みがあった。
「……たいちょーのダンスは、下手だぺー。」
刹那のなかにがーんという効果音が鳴った。かもしれない。
いろんなダンスを習ったのに。
刹那は上手くならなかった。
そのことがショックだった。かもしれない。
従えた動物たちは口には出さなかったが、内心では同じことを思っていた。
……下手だ、と。
3秒ほど打ちひしがれた(かもしれない)が、でも刹那は決意した。
「ダンスは、諦める。
 あとコダマとかアリンとかを探しに戻る。
 まだ助けてないからな。」
こうして刹那は思い出した世界に戻ろうとした。
でも帰る方法が分からなかった。
「いいや、あんたなら帰れるさ。」
ぺーぺーの1匹が刹那に教えてくれた。
「だってこんなにたくさんの世界をあんたは渡って来た。
 オイラ達のリーダーが旅してきた世界を、気の赴くままに。
 それがきっとあんたの力なんだ。」
そいつは他のぺーぺー達よりちょっと頭の良いぺーぺーだった。
古都みたいにいろんなことを知っていた。
なのでいろいろ教えてもらった。
ちょっと賢くなった。
「脳裏に思い描けば、きっと戻れる。
 そして頼む。」
そのぺーぺーは刹那にお願いした。
「……あの100年前の世界も。
 オラトリオと、カデンツァも救ってくれ。
 オイラの仲間たちが、あそこにはいるんだ。」
「助けて欲しいのか。
 任せろ。」
でも結局すぐには帰れなかった。
白いコダマや白いアリンをふわふわ考えたのに。(白ければいいんだぞ)
何故か白いトカゲさんのところに出てきたりした。
とりあえずボコンした。


けどいま。
「それはシャルディスの身体だな。
 要するにお前はどろぼーか。」
時間はかかってしまったけれど、確かに聞こえた気がした。
「どろぼーは。」
助けての声が沢山聞こえたので、ジャンプした。
そうしたら、此処に辿り着いた。
「ボコンだ。」
シャルディスがいたが、それとは別に悪い奴がいた。
どろぼーは悪いことだからな。
しかも何かいじめているらしい。
悪いことかける悪いことだ。
ボコンボコンしてごめんなさいだな。


「……え?」
詩織には何が起こってるのかまったく分からなかった。
ナギサさんも私もここで殺されてしまうと、恐怖に怯えていた。
でも今はその恐怖は和らいでいた。
だって、そう。
「……これが、この娘がラピスティアからの報告にあった……」
急に現れた着物姿の女の子が。
悪い怪物を追い詰めている。
少なくとも、私にはそう見えた。
「……想定を、遥かに超える。
 何者だ、おまえは?」
「私は刹那だ。
 おまえは悪いこと沢山してるからな。
 ごめんなさいしろ。」
「……理解、不能。」
怪物は消えていった。
私たちは、助かった?
「………」
その女の子はその場から動かなかった。
……よく分からなかったけど、なんか近寄りがたかった。
でも、ちゃんとこういうときは。
「……あ、あの。
 ありがとう、ございますっ!」
彼女は、謎のお助け妖精さん?
それとも座敷童の神様?
森の神様と、お知り合いだったりしないかな?
そんなことをちょっとわくわく考えてみた。
でも。

「あぁ、待っていた。
 マイフレンドは必ず戻ってくると。」

「……あ……あぁ……」
……一番会いたくない人が今度は現れた。
黒と水色の女の人。
どこからともなく、着物の女の子と同じくいきなり。
幼少の頃のトラウマが思い出される。
でも着物の子も水色?
よく分からなかった。
私はいま何を見ているのだろう、と。
「またお前か。
 ダンスはもういいぞ。」
「何故そんな悲しいことを言う。
 マイフレンドは今日もお茶目心に満ちているのだ。」
あの人が動き出す。
気持ち悪い、意味の分からない、動き。
そうとしか、私には表現できなかった。
見ていたくないし、見るだけで吐きそうになる。
「お前には用はない。」
「つれないな。
 寂しいのだ。
 喧嘩であっても魔姫は構わないのだ。」
「喧嘩はよくないぞ。」
詩織の認識可能な領域から、彼女たちは逸脱した。
超人同士の戦いは始まった。


以前のように神楽魔姫を空中に蹴り上げた刹那は、そのまま追い込みをかける。
今度はダンスの真似事はしなかった。
一直線に無駄なく滅炎を叩きこむ。
神楽魔姫は踊り始める。
その踊りが何か魔法みたいなものだと、刹那は直感した。
見ていたい気もしたが、今はよくないと思った。
「もっと違うところでやれ。」
ここにはたくさん人がいる。
少しは場所を考えろ。
そんなことを言いながら、刹那は全身を炎のようなもので包む。
「どかーん花火だ。」
以前の戦いと同様。
神楽魔姫は超高密度の炎に包まれた。
「そうか。残念だ。
 共に舞踏会を踊れると思っていたのに。
 マイフレンドは諦めてしまったのだ。
 あぁ、あぁ、何かそれはらしくない、と。
 そう思うのは魔姫の筋違いだろうか?」
「下手らしいからな。
 ダンスは難しかった。」
「それは見る者に目がないだけなのだ。
 魔姫もお前も人間だ。
 だがマイフレンドを下手と言ったのは小動物たちではないのか?
 だとしたらそんなことは気にする必要はない。」
「何故だ?」
「小動物はあくまで小動物だ。
 人間の芸術など理解できるわけがない。
 小動物のために、人間は諦めてはならない。」
「分かった。」
刹那は一つだけ分かったことがあった。
「お前は割と駄目だ。」
ゆえにここから追い出す。
それが今は必要だと刹那は思った。
刹那は再度攻勢に出ようとするが……

「魔姫さまぁぁぁあぁぁぁあぁっっ!!」
「む?」
何かが刹那の下、地上から現れる。
矛盾曲・夏奴。
宮殿から脱出を終えた彼女は主人の元に参上していた。
「おや。
 まだ生きていたのだ。」
「勿論です魔姫さまぁぁ!
 夏奴はいつでも貴方さまの奴隷ですからあぁぁ!」
「なんかお前どこかで見たことがあるな。」
どこだったか。
刹那はむぅむぅと唸りだす。
「さぁ、敵ですねぇ。
 敵なのですねぇ魔姫さまぁ。
 この夏奴にお任せをぉ。」
「違うが?」
神楽魔姫の制止も聞かず、夏奴は動き出す。
……実のところ彼女はあせっていた。
自分は先の祭りの戦いに敗北し、今の今まで投獄されていた。
そのことで主人が失望したのではないかと。
ゆえにこの機会を挽回のチャンスと思い、刹那に正面から襲い掛かる。
刹那は反射的に蹴り上げた。
だが即座に刹那の背後に現れ、再び襲い掛かり。
それも反射的に後ろ蹴りした。
だったら今度は上から、と。
やっぱり反射的に空中ジャンプして頭突きした。
「あぐあぁっ!?」
「むぅ、むぅ。
 …………あ、そうだ、思い出した。」
「こぉぉぉのおぉおぉおおぉっっっ!!
 負の悪夢の狂躁(ナイトメア・グローリー)!!!」
夏奴から悍ましい闇が放たれる。
悪夢。絶望。憎悪。あらゆる負の感情の波が刹那を襲う。
……しかし。
「お前は矛盾曲ってやつだな。
 真那の玩具の1個だ。」
刹那は一切の表情を変えず(いつも同じだが)平然と話しかける。
悪夢も、絶望も、憎悪も、刹那にとってはなんの共感にも値しない。
そして。
「ぐ!?ぎ!?あ!?げ!?いああぁあぁっ!?」
どどどどどどどと大砲でも撃ち込まれたような音と共に、夏奴の全身がへこむ。
合計8発。
似たような技は過去にも受けたが破壊力はその比ではない。
夏奴は血反吐を吐きながら地上に落下する。
「……あぁ……あぁぁぁぁ……」
……そんな、まさか。
まったく、相手にならない?
夏奴は絶望と共に自分の主人を見た。
「ふむ、困ったペットなのだ。
 だがマイフレンドとの触れ合いの時間を邪魔するとは。
 ……もういいか。」
ぞわりと。
その言葉に、夏奴は全てに見放されたような顔をする。
(……用、済み?)
……いやだ。
見捨てないで、お願い。
お願いします。絶対の存在で塗りつぶさなければワタクシは、あの頃のワタクシに……

夏奴は敗北し、投獄された状態から、そのままここに馳せ参じた。
祭りの戦いの時に比べれば、その力は大きく減衰している。
だが神楽魔姫も、夏奴も、そんなことは考えになかった。
そもそもからして。
「同じペットを飼い続けるのは。
 人間としての鮮度に関わるのだ。
 また次のペットを探そう。」
神楽魔姫は祭りの戦いの敗北など咎めたりはしていない。
ただ単に刹那との遊戯を邪魔されて、少し気が変わっただけに過ぎない。
絶対者は、負の感情に塗れた落伍者など歯牙にもかけない。
ただそれだけの話だった。
「いやあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっっ!?」
落下する。
自身の中の呪いに自分は飲まれる。
いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。
「………んー。」
……その夏奴の悲痛な叫びを聞きながら。
刹那は少しばかりの溜め息と共に口にした。

「だったら仕方ない。
 私が、私たちが、君を救ってあげよう。」

その刹那の顔を見て。
夏奴は魂を抜かれたように絶句する。
その間に幾重の闇がどこからともなく噴出し、やがて人の姿をとる。
……自分と同じ?
そう、見えたし、そう、感じたが。
その姿は自分同様ほぼ全裸ではあったが。
まったく知りもしない女の姿だった。

「……まったく、ねぇ。
 愛を知らない子はいつの時代も悲しいものだわ。」

「……は?」
肌の濃い豊満な女性。
その女の名は。
「ならば私が与えてあげましょう。
 愛による幸福を。」
妖娼婦・隠脳魅彪(いのうみあや)
未来の連盟である彼女は、いまこの世界に現出した。


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