SS TOPに戻る
前へ
次へ
70話 浄化
「ならば私が与えてあげましょう。
愛による幸福を。」
……はぁ?
さっきからこいつらは何なんだ?
魔姫様とワタクシの間に急に割って入って訳の分からないことばかり。
こんな奴等のせいで何もかも失ってしまった。
「……うっ。
あぁぁぁあぁぁ!
うああぁぁぁあぁぁぁぁっっ!!?」
頭がイタイ。
苦しい。苦しい。苦シイ。痛い。痛い。痛イ。
早く消えろよオマエラ。早くしないとワタクシはこの悪夢にノまれてしまう。
「アァァアァァァオアァァッッ!!」
隕石群を目の前の女に放つ。
ワタクシが持っている悪夢の、絶望の、怨嗟の100分の1でも。
コイツラにぶつけてやらなければ、気が済まない。
「駄目よ。そんなカッカしちゃあ。」
放たれた隕石群は、奴の放った隕石群によって容易く相殺される。
「そんな……っっ!?」
気づけばワタクシはその女に組み敷かれていた。
身体が、動かない!?
ちくしょう、ちくしょう、いやだ、イヤダ、イヤダ、イヤ……
「私には分かるわ。
貴方は本当はとてもいい子だった。
こんな殺伐とした世界なんてまったく似合わない、ね。
でもだからこそ分からないのね。
この世界には貴方のことなんて奴隷とすら思っていない輩が存在する。
私も似たような奴を知ってるからよく分かるわ。」
うるさい、うるさい、うるさいっっ!!
「だからあんな輩たちのことなんて。
忘れてしないなさい。
かつて雨宮彩奈がそうしたように。
幸福な夢に、溺れなさい。」
……意識が。
……消えて。
……いいや。
この、世界は……?
「おはようございます。
お母さま。」
「おはよう、イレイナ。
今日もばっちり決まっているわね。」
「はい。
わたくしはウィルトン家の才媛ですからねっ!」
どやとわたくしは自慢する。
「もう、この子ったら。」
「えへへ。」
……懐かしい日々。
……過ぎ去った幸福。
「皆さん、ごきげんよう。」
「はい、ごきげんよう。イレイナさん。
タイが曲がっていてよ?」
「もう〜、やめてくださいよ飛鳥先輩〜。」
「あらあら。
貴方の方から始めたのでしょう?」
わたくしは憧れの先輩に可愛がってもらう。
「あ、イレイナ先輩、おはようございます。」
「えぇ、おはようございます。」
「あ、あのっ。
わたし、イレイナ先輩のことが……」
「……えぇ?
わたくしはこれでもノーマルなのだけど。」
「なんちゃって。
やってみただけですっ。」
「もう、こいつめっ。」
わたくしは可愛い後輩と戯れる。
……あれ、こんな世界は。
……わたくしにはあっただろうか?
……ここは、知らない、未来の世界?
……●●様を、●●を、わたくしが、知ることなく……?
「ったく、あいかわらずお前は肝心なところでさ。」
「な、なんなのですか!あなたはっ!
いつもいつもわたくしのことを馬鹿にしてっ!」
「べ、別に馬鹿にしてるわけじゃねぇよ。
ただ、俺は、お前のことが、えっと……」
「……えぇ?
何を言っているの?
聞こえませんわ。」
……そんな、甘い。
……甘い、日々が。
……もしかしたら、わたくしにもあったのだろうか?
……知らない。知らない。こんな世界は、知らない。
……でも。
「えぇそうよ。
ここは夢。
幸福な夢の世界。
でもそれの何がいけないの?
本当は、誰しもが、こんな平穏な毎日を望んでいる。
一部の馬鹿を除いてね。
でも考えてもごらんなさい。
世界に適応できない馬鹿が何だというのかしら?
本当に孤独な奴等はどっちかしら?
貴方は、貴方の世界に還っていい。
そして、幸せになるのよ。」
……でも、そんなの。
……そんな、こと。
……いまさら、出来るわけが。
「出来る出来ないの問題じゃない。
貴方が何を望んでいるか、それだけの話。
今はまだ難しいなら委ねてしまってもいい。
ゆっくり考えましょう。
貴方にとっての幸福な世界を。」
……分からない。
……分からなかった。
だってわたくしにはこの終わらない悪夢が。
終わらない怨嗟が。
いつまでも、いつまでも、付きまとって、わたくしの中に。
「それは、私が、あの馬鹿が適当に壊してくれる。
貴方が気にすることはない。
さぁ。
貴方の望みはなに?」
……望み。
……わたくしの望みは。
……ただ。
それはどこにでもあるあり触れた願い。
けどそのあり触れたものを得ることが出来ない子たちはたくさんいる。
私は知っているわ。
一部のどうしようもない馬鹿共のせいで。
そんな願いが失われてしまうことを。
私は悲しく思う。
ゆえに私は存在する。
哀れで、不幸で、奪われてしまった子たちに。
愛による幸福を与えるために。
……そうしてその少女は。
この世界から旅立った。
たったいま現出した隠脳魅彪と共に。
「……あとは、まぁ。
馬鹿と馬鹿が残るだけ。」
だったら、私の知ったことではない。
いまの私にはこの子一人連れていくのが限界でしょう。
そしてそれだけで十分だ。
「まっとうな幸福を得る気なんてない輩に。
私たちが付き合う必要は何もないのだから。」
地上からは二人の人間が消え。
その上空に着物の少女とドレスの女だけが残る。
「おやおや。
なにやら目まぐるしいことになっているのだ。
今の女はマイフレンドの知り合いか?
いずれにせよお前は飽きない。
やはり魔姫の目に狂いはなかった。」
「くるい?
よく分からないけどお前が割と駄目な奴ってことは分かった。」
「ふむ、駄目とは?
分からないな。
夏奴は何やら消えたらしいが。
魔姫とて平穏な毎日を望んでいるだけなのだ。
ただ小動物よりは、さすがに欲張りかもしれない。」
その女は踊り始める。
何事もなかったように。
刹那はその舞踏会には一切付き合わず。
「私はたぼーだからな。
いつまでもお前と遊んでるわけにはいかないぞ。」
超人の戦いは続く。
「せ、聖二君っ!
ナ、ナギサさんが……
ナギサさんがぁっ!?」
「……っっ!?
お、おまえら、無事で……?」
……無事、とはいえなかったかもしれない。
俺が駆けつけたときナギサは負傷して倒れており。
詩織はそんなナギサに必死に回復魔法をかけ続けていた。
「だ、大丈夫だよ、詩織ちゃん……
詩織ちゃんのおかげで、助かったから……」
「ち、違う、ちが……違うもんっ!
ナギサさんがいなかったら、私は死んでたもんっ!」
詩織はわんわん言いながらナギサに泣きつく。
「おまえら……ったく。」
ナギサと詩織を救護班が連れていく。
危ないところだったのは確かなようだが。
それでも生きていてくれて良かった。
今はそれだけで十分だ。
「……けどのんびりは、していられないのでしょう?」
俺とは逆方向から一人の女が現れる。
「アンヌ・ポルクス……」
「あら生徒のくせに呼び捨てかしら?
一応コダマちゃんから話は聞いているわ。
はじめまして聖二君。」
「あ、あぁ……」
なんとも妙な気分だ。
考えてみればこの女とは2周目で戦ったきりだったからな。
友好的な関係になるのはなかなか難しいが。
「もう大丈夫なのか?」
「えぇ、なんとか。
さすがはカデンツァ一の回復魔法の使い手。
とはいえ、そっちの子がいなければまだ復帰は難しかったでしょうね。」
その言葉と共に哀音がやってくる。
「……おまえ、魔力の方は大丈夫なのか?」
「問題ない、この程度。
今は一刻も早く準備を整えないといけない、んじゃないの?」
「……あぁ。」
掌握の悪魔は一時消えたようだが。
すぐに戻って来るだろう。
おそらく今度は醜悪の悪魔も連れて。
この僅かな猶予を無駄にする訳にはいかない。
「ところで、リオンは?」
「あ、そうだ、あいつはどこ行きやがったんだ?」
なんかやらなければいけない事があるとか言ってたが。
まぁでもあいつのことだ。何か考えがあるんだろ。
「とにかく司令部に戻ろう。
天使ラナーの方も復帰したのか?」
「傷は、たぶん。
ただ心の方が、問題なのかも……?」
復帰は難しいってことか。
ハイドによると中位天使って奴等のなかでも近接戦闘力は最強らしい。
戦力としては惜しいが無理強いしても意味はないだろう。
「そこは私にまかせて頂戴。
仮にも姉だったのだからね。」
アンヌ・ポルクスが胸をたたく。
……いつまでも呼び捨てはよくないか。
「じゃあ頼みますよ、アンヌ先生。」
俺たちは司令部へと急ぎ……
「……っっ!?」
……なんだ?
いま何かに見られていたような?
「……気のせい、か?」
警戒しすぎてしまっているのかもしれない。
まぁナギサと詩織があんな目にあったばかりだからな……
「ちょっと、早く急いで。」
「わ、分かってる。」
哀音はいつも通りだし、やっぱり俺の気のせいだろう。
……ジジジ……
消えた夏奴から離れ、はるか空中に集まった”それら”は人々を見ていた。
……前矛盾曲は、次の矛盾曲を見定める前に消えた……
さきほど夏奴が消えた場所を見る。
……だが前矛盾曲を倒した存在も、また消えた……
刹那と神楽魔姫の戦いを見る。
……いろいろ混じった存在に、”別の”器……
……次の矛盾曲としては不適格……
より遠くを見る。
……オリジンヴァンパイア……
……識別名:シャルディス、掌握の悪魔に憑依されており、不適格……
……識別名:アリン、永遠の命を遊ぶ者に与えられており、不適格……
ならばと、次に見るのは。
……この世界の存在でない者たちは、不適格……
……急がなければならない、次の矛盾曲を早急に選べ……
更に遠くを見る。
……醜悪の悪魔が、急速に接近中……
……あれに近寄れば、こちらが飲み込まれる……
……次の矛盾曲の選定を、急げ……
「これはなかなか見ものだね。
さて次の矛盾曲は誰になるのか?」
その少女らしき姿はニヤニヤ笑いながら地上の様子を見ていた。
「もしかしたらあの娘が選ばれるかもしれないな。
それはそれでなかなか笑えることになって……」
「趣味が悪いな。
あいも変わらず。」
その存在にかかる声。
翼を持つ金髪の男が武器を構え、その空間に現れた。
「……君は、天衣魔縫。
少し油断したな。
まさかこの場所を探し当てるとは。
さすがは連盟の一角といったところか?」
「そうだな。
リオンと呼ばれるのも嫌いじゃなかったが。
やはりお前には呼ばれたくはない。」
リオン、いいや元連盟、天衣魔縫は武器を構える。
「無駄な時間はない。
語ってもらおうか。
この世界の本当の真実を。
遊ぶ者。」
遊ぶ者は笑う。
小ばかにしたような笑みで。
「……ではないんだろう?
お前は。」
その笑みが停止した。
それを見た天衣魔縫は確信と共に言った。
「巡真那。
それとも混じった"ナニカ"か?
いずれにせよこの世界は奴が用意した舞台。
その見解に間違いはないと私は確信しているが?」
「……一度は周回者をミスったくせによく言う。」
その存在は真正面から天衣魔縫を見据える。
視線には憐憫と愉悦が含まれていた。
SS TOPに戻る
前へ
次へ