SS TOPに戻る
前へ
次へ
71話 道化師の癇癪
「思えば最初からこの世界はおかしかった。」
天衣魔縫は武器を構えながら話し始める。
「どれだけやり直しても始められる地点は同じ。
聖二だけがカデンツァに限り自由に動け。
私も哀音も大きく動くことは基本は叶わなかった。
魔導研究所に時の呪縛を解ける機構が都合よく備わっていたのも不自然といえば不自然だ。
そうだ。
この世界は私たちに"都合が"良すぎるし、"都合が"悪すぎる。」
「あぁそうだね。
でもそれだけなら僕のことを遊ぶ者と考えるのが普通じゃないかな?」
その存在は小馬鹿にしたようにニヤニヤ笑いながら言う。
天衣魔縫は気にせず続ける。
「確かにな。
この世界は遊ぶ者が用意したゲームの世界。
そう考えるのがもっとも妥当だし、分かりやすい結論に思える。
だが私は知っている。
貴様らはそこまで"自由な存在ではない"と。」
自由な存在ではない、を強調する。
その言葉を発したときだけその存在の笑みが消える。
天衣魔縫はそんな僅かな反応を見逃すことなく話を続ける。
「そこで鍵になるのが神楽魔姫の存在だ。
この世界で唯一存在する連盟。
閣下、覇帝も他の連盟もこの世界には存在しなかったのに。
奴だけが異質といえるほど出鱈目な力を有し、人々に災厄をもたらしている。
更には貴様がシャルディス・ブラッドにした話。
刹那と神楽魔姫は特別だと。
それは単にその二人が大きな力を有していると言いたかっただけと思ったが。
そうではないんだろう?
特別とは言葉通りの意味なのだ。」
「勿体ぶるんじゃないよ。
時間がないとか言ってなかったか?」
話を急かす。
そんなつまらない話は聞きたくないと言わんばかりに。
「この世界はあの二人が始めた。
もしくは片方が始めて、片方が終わらせにかかってる、か?
いずせによ重要なことは奴等二人はこの世界の根本的なところに関わっている。
さすがに具体的な結論を出すのは難しいが、そんなところだろう。」
「それだけならまだ30点だね。
奴等が特別だということは僕が言ったんだから。
もっと根本的なところに触れることは出来ないのかな?」
笑みが戻る。
どうした、お前の掴んだ真実を話してみろと。
挑戦するように、もしくは期待するように。
「そもそもこの世界に来る前の私たちは何をしていたか。
時の狭間。あそこの扉を開いてから全ては始まった。
だがあの扉を開いたのは本質的には私たちの誰でもない。
開かせたのは刹那だ。
だがその刹那は誰の考えで動いていた?
そう、巡真那の知識をもとにして動いていた。
だったらこうなった元凶が誰かなど、考えるまでもないだろう。」
「奴が用意した計画を、遊ぶ者たる僕が邪魔している。
そう考える方が自然じゃないか?」
「先ほども言っただろう?
貴様らはそこまで自由な存在ではない。
決まったルールの中でしか貴様らは行動できない。
私たちを過去に戻した時渡の悪魔も同じ。
別に協力してる訳ではないだろうが物事は密接に関わっている。
さきほど巡真那が元凶とは言ったが、物事は都合のいい元凶一人で成り立ってはいない。
ではこの件における貴様の"役割"とは何か?」
役割という部分を強調する。
その言葉を発したときだけその存在の笑みが消える。
先ほどから天衣魔縫は明確に一部の言葉を強調して話していた。
「嫌味な奴め。
あぁそうだ。
僕は遊ぶ者でもあり、巡真那でもある。
そうじゃなきゃ神楽魔姫なんて自由に泳がせている。
そう言いたいんだろう?」
「そうだ。
貴様の行動は道化師というよりは、調停者じみている。
だが同時にこの状況を面白おかしく観察してるようにも見える。
だから私は混ざったナニカと言った。
貴様のような存在が誕生した経緯もまぁ推測出来ないことはない。」
既にその混ざった存在の笑みは消えていた。
「私たちが時の狭間を開くのに使った力。
それは遊ぶ者の意思を含んだ矛盾曲。
力そのものは時の狭間に溶けたとは思うが、まだ遊ぶ者の意思は残っていた。
そしてその意思は刹那が扉を開いたときに……」
「あぁもういいよ。
そんなことを説明されるのは虫唾が走る。
僕の誕生経緯なんて君だって興味はないんだろう?
重要なことはそんなことじゃない筈だ。」
「ほう、話されたくないか?
なら早くその重要なことを話してくれ。」
既に会話の主導権は天衣魔縫にあった。
その誰とも言えない存在は観念したように話し出す。
「混ざったナニカなどと表現されるのは不愉快だから一応名前は決めておこう。
確かに僕は遊ぶ者プレイ”だった”。
だがあの馬鹿女が開いた扉の力が混ざり、僕は僕じゃない何かと混ざった。
それはおそらく巡真那の意思の一部。
ゆえに今の僕は調停者プレイとでも名乗るべきなのかもしれないね。」
「さすがに巡真那の名前は名乗りたくはないんだな。」
天衣魔縫は苦笑する。
「……うるさいな、黙れよ。
だから今の僕の行動は巡真那の望みどおりということになる。
僕にとっても不愉快なことにね。
けれどそんな僕だからこそ分かることがある。
あの女はこの世界に刹那が来ることなんて、望んではいなかった。
しかもよりによって神楽魔姫と会ってしまうなんて。
あの時点で巡真那の計画は既に亀裂が入っていた。」
「神楽魔姫は、奴はなんだ?」
「君の想像とそれほどずれちゃいないんじゃないかな?
一言でいえば奴はこの世界の核だ。
夢の核、夢の器とでも表現するべきか。
もしかしたら永遠の器に近い部分があるかもしれないね。巡真那の目的を考えれば。
だからシャルディスに言ったとおり。
奴はこの世界にとって必須の存在。
必須ゆえにあのような勝手な行動が許されている。」
天衣魔縫は僅かに考えを巡らせる。
初代聖女・巡真理が話していた、巡真那の計画の一環。
それは夢の世界の完成度を上げ続けること。
神楽魔姫がそんな存在になっていることも、おそらくは。
「あぁそうだ。
夢の器なんて誰でもなれる訳じゃない。
天使や悪魔は夢なんて見ないのだから、当然その対象は人間に限られる。
それもとてつもなく巨大な力と精神を有する出鱈目な人間。
この時代において神楽魔姫はそれに該当した。
だからこの時代の夢の世界を生み出すにあたり、奴が夢の器として選定された。
つまりこれは夢の世界において、単なる自然現象なんだよ。
何か特別な意図があるわけじゃない。」
とはいえ、と。
「余計なことをしない奴の方が望ましいのに変わりはない。
この時代の連盟には奴には劣れど、大きな力を持つ奴はいた。
でもこの世界は夢の器に神楽魔姫を選んだ。
その理由はただ一つ。」
調停者プレイは皮肉のように言う。
「神楽魔姫は、この時代において何も”しなかった”からだ。
巡真那に言わせればそれはおとなしいとも表現できるのかもね。
奴がこの時代最強の魔法使いであることは事実だが、最強だから何かを成すとは限らない。
あの女は毎日を寝て過ごし、たまに散歩にでかけるくらいの人生しか送っていなかった。
月詠夜夜子とかと比べるまでもなく、奴は後の時代に何も残してないだろう?
夢の器はただこの世界を維持するための器であればいいのであり、そういう意味で奴はこれ以上なく相応しかった。
だが、けど、あぁ……」
口調が荒くなる。
ここからが実に不愉快と言わんばかりに。
「……奴は、”弾けた”。
あの馬鹿と、刹那と会ったことで。
一気にその行動が精力的になった。
ただそこにあるだけの絶対者は、世界を脅かす人災と化した。
ペットに矛盾曲を飼い始めたり。
この世界に七罪魔を呼ぼうとしたり、だ。」
「……っ!?
まさか、じゃあ七罪魔は……」
「そうだ。
ここは夢の世界。
本来、七罪魔なんて存在しなかった。
誰かが、それを望まない限りは。
だが夢の器の願望に世界は応えてしまった。
強大な七罪魔を呼ぶことで、刹那が戻って来るとでも考えたか?
結果的には七罪魔が本来の歴史で起こした事実までが再現し始めた。
まぁ実際はそれ以上なわけだが。
カデンツァだってあいつらに滅ぼされるわけじゃなかったからね。
巡真那が望んだ平穏な夢の世界は、現実以上の地獄の世界と化した。
もっともあの女に言わせればこれだって実験結果でしかないのかもしれないけどね。
……あぁ失敗した。
でもこの失敗を糧として次はもっと上手くやろう。
とか言って。」
つまり。
あぁ、つまり。
「こうなったのは刹那が悪い。
もちろん神楽魔姫も悪い。
僕も巡真那も悪くない。
そうだろう?」
とてつもない責任転嫁にさしもの天衣魔縫も口をあんぐり開けた。
巡真那を嫌悪してるくせに、巡真那を擁護している。
その矛盾にこの存在は気づいているのだろうか、と。
「僕は僕なりにこの世界を守ろうとしたんだ。
なのになんだあいつらは?
七罪魔を呼んでどうするんだ?
しかもよりによって現れたのはグリモアとダルバック。
あいつら呼んだら破壊と滅亡しか起こらないだろうが。
最悪、この世界自体が消えてなくなる。
そしたら僕は何を弄べばいいんだ?空っぽの宇宙でも弄べと?
この世界には覇帝も存在しない。
夢の世界は、大きすぎる力を再現することが出来ないんだよ。
だから基本的には外から呼ぶほかない。
つまり奴等を止められるのは外から来た刹那と、夢の器の神楽魔姫しかいないわけだが。」
愚痴と共に話は続く。
天衣魔縫が先を促さなくても勝手に話し続ける。
「外部から来た危機を外部の力で対応する。
そんなことを続ければ夢の世界そのものの機構を維持できなくなる。
夢の世界は、現実の世界の模倣から基本的には始まる。
そこから少しずつ、少しずつ、人間どもの夢や想いを取り込んで、世界が詳細化されていくわけだが。
それゆえにバグったイレギュラーなど許容できない。
刹那は邪魔でしかない。だから僕の力を削ることになろうとも強引に遠くに追い出した。
そして崩れ始めたこの世界を存続するために僕は考えた。
そこで思いついたのが。」
「……私たちと、シャルディス・ブラッド。
貴様の言うゲームの企画か。」
「そうだ。
この世界を存続させるにはもはや永遠の力しかない。
だがその力を利用するためには、ゲームを、物語を、紡がなくてはならない。
そのための役者としてお前たちを選んだ。
なんてことはない。
全てはこの世界存続のための茶番。
どっちが勝とうが僕にはどうでも良かった。
勝者と敗者さえ存在すれば。
けどもうそんな区分すらない。
理由なんて言うまでもないだろう?」
天衣魔縫は地上の様子を見る。
刹那と神楽魔姫が戦いを始めている。
目の前の調停者が追い出した存在たちが。
「結局、奴等は戻って来た。
正直この展開は予想できたんだよ。
その前にゲームを終わらせないといけなかった。
でもそうはならなかった。
所詮は急ごしらえのキャスティングだ。
僕の言っている意味、分かるだろう?」
天衣魔縫が回答する間もなく。
「この世界はもう終わりなんだよ。」
投げやり気味にその言葉は投げられた。
SS TOPに戻る
前へ
次へ