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72話 意外な助っ人



魔法使いの都カデンツァ。
いまこの都の面積はとてつもなく広大になっている。
バーパイア・カデンツァの魔法によって各区画の間に別空間が出来たからだ。
物理的にありえないその魔法も、ここが現実の世界ではなく、夢の世界ならばこそ実現している。
それが現実の世界においてどの程度の規模の魔法だったかは定かではない。
その別空間の一つにて、掌握の悪魔グリモアが突如出現する。
刹那との戦いを退いてから約20分ほど後のことであった。
「………理解。」
ぼそりとグリモアが呟く。
(あの刹那という者。
 別世界からの来訪者であることに間違いはない。
 この世界が誕生した当初に来訪した存在。
 夢の器である神楽魔姫の力を受け付けていない。
 それはすなわち、この世界から拒絶されている。
 いずせにせよ、イレギュラー。)
そしてその刹那は神楽魔姫と戦っている。
いいや、逆か?
神楽魔姫が刹那と戦っている。
そう逆に解釈するとこの状況の見方が変わる。
「ダルバック。」
グリモアが自分以外誰もいない空間で呼びかける。
すると巨大な怪物が同じ空間にうぞうぞと現れた。
全長30メートル以上にも及ぶその怪物は聞き取り辛い怒声を発し始めた。
「てめぇ呼ぶのがおせぇんだよ!
 いつになったら我はカス共で遊べるんだ!?
 あぁ!?」
「……どうやら神楽魔姫は刹那とかいうイレギュラーに夢中のもよう。
 今のうちにこの魔法を破壊します。」
「あぁん?魔法だぁ?
 けっ、そういやさっきから誰もいねぇなぁ。」
巨大な怪物の口の一つから光が放たれる。
その光はあっという間に大きくなり。
「破壊って要するにこういうことだろうがぁ!
 つまらねぇ真似してんじゃねぇぞカス共がぁぁぁぁっっ!!」
光が一気に放出される。
その放出された光は何もない地点に大きな穴を開ける。
穴は次第に大きくなり、そして。
ぱりぃんという音と共にその世界は一変していた。
何もない空間から、崩れた建物が一覧できる空間に。
すなわち元の魔法使いの都カデンツァに戻っていた。
「……貴方の望みどおりにしてあげましょう。
 予備の器は欲しかったが、あまり当初の予定が崩れるのはいただけない。
 潮時です。」
「ぐげげげげげ、ぎゃははははははははははっっっ!!」
グリモアの言葉の意味をダルバックは彼なりに解釈した。
その答えはすなわち。
「一匹残らず我の栄養にしてやるぜぇっ!
 げはははははははははっっ!!」
巨体から無数の触手が四方八方に放たれる。
何度も過去の周回で都を滅ぼした怪物がついに動き出した。


「……っっ!?
 魔法が、解かれた……」
その世界の変化を俺も感じ取っていた。
広大と化していたカデンツァが元の状態に戻ったらしい。
先ほどまで何もない空間が映されていた大量の画面に、都の姿が映される。
そしてその一つに。
「……っっ!?
 ついに、出てきやがったか……」
醜悪の悪魔ダルバック。奴の姿があった。
その更に上空にはツインテールの少女の姿。
すなわちシャルディスを乗っ取った掌握の悪魔もいる。
ついに奴らが揃ってしまった。
となると。
「……時間、切れ。」
哀音が俺と同じ結論を呟く。
醜悪の悪魔が現れた以上、もう準備時間はない。
もはや最後の総力戦を仕掛ける以外なかった。
(勝ち目は、あるのか……?)
絶望的な予感を必死に振りほどく。
この都の主力部隊は既に準備が揃っている。リオンはいないが。
だが画面越しの奴の姿を見た部隊の顔色はひどく青ざめていた。
「……なんだよ、あれは?」
「あれが、七罪魔、醜悪の悪魔、ダルバック……?」
「あんなのと、俺たちは戦うってのか……?
 しかも……」
相手は1体ではない。
彼等からすれば半分眉唾の存在だった七罪魔。
それが1体どころか2体も存在する。
戦いになるか以前の問題として、立ち向かう気力のある者すら殆どいなかった。
「た、戦う前からそんな様子じゃ、勝てるものも勝てねぇ。
 俺たちは、諦めるわけにはいかないだろ?
 な!」
俺は軽い調子で元気づけようとするがそんなものが効果がある訳がない。
なにしろこうして怖気づいてるのは今日初めて奴等を目撃する人々だけでなく。
「……っ。」
「……あいつらが、2体、ですか。」
人々の前に立つ2人の天使。
天使シャルナーと天使ハイナー。
彼等ですら尻込みしているのだ。
だったら全体の士気がこうなるのも仕方ないことだろう。
(……文句は、言えない。
 掌握の悪魔との戦いの際、彼等には先陣を切ってもらった。
 それを今度は七罪魔2体に対し切り込めというのだ。
 選手交代が筋かもしれないが、こんな役割を引き受ける奴がいるわけもない。)
「……哀音。」
「え……?」
俺は決意とともに哀音に声をかける。
そしてみんなの方を見て言った。
「俺と哀音が先鋒を務める。
 その間にみんなはなんとか奴等に効果的な一撃を入れてくれ。」
ざわざわと声が上がる。
そんなことをすればどうなるかなんて一目瞭然。
「……何を考えている?
 無駄死だ。」
ハイドの奴が俺を非難する。
いや単に心配してくれてるだけかな?
「無駄死じゃないさ。
 二発か三発くらいなら意外といけるんじゃないかと思ってる。
 言い出しっぺ本人がそれを最初にやるのは当たり前だろ?」
俺は出来るだけ大したことない風を装い、余裕面を前面に出して言う。
哀音もこくりと頷き、俺の隣に並んだ。
俺はテレパシー経由で哀音と会話する。
(……まずお前が一発大きいのを撃ち込む。
 そしたら奴等はお前目掛けて攻撃をしてくるだろう。
 だがそこで俺が飛び出し、奴等の攻撃を遅延させる。
 その間に更にお前がもう一発。
 あとはそれの繰り返しだ。)
(……遅延って、何をどうやって?)
(一応、手はある。)
俺は過去何度か発動した自分の力を思い出していた。
世界を、平穏を望まない奴らを停止させる力。
どうして今の俺はこんな力を使えるのか?
なんとなくだけど、俺にはもう予想がついていた。
(……夢の力。想いの力。
 きっとこの世界ではそれが力になるんだ。)
だったら俺の想いを背負ってみんなが奴らに立ち向かってくれれば。
もしかしたら……いいや違う。
絶対に、奴らを撃ち破ってくれる。
俺は心からそう信じて戦場に出向く。
(……生身の身体。
 つまり今回死んだら、俺も終わりだ。
 でも構わないさ。)
それが俺が決めた生き方。
そして俺の死に方。
どれだけ恐怖しても、足がすくんでいてもその歩みだけは止めない。
哀音も俺に続いた。
「頼むぜ。みんな。」
戦場に赴く俺たちに誰も何も言うことが出来ず、俺たちを見送る形になる。
だが。

「見事だ。
 これこそ我らが見守る、正しき人々の姿。
 ならばこそ、そのような勇気ある者に、自殺行為などさせるわけにはいかない。」

知らない男の声が響いた。
荘厳な光と共にその男は上空から現れた。
他の奴らもざわざわとどよめく。
だが一番うろたえていたのは。
「あんた、は……?」
「……あ、ど、どうして、どうして、貴方様が此処に……?」
天使の二人だった。
となると、この男は、この存在は……?


醜悪の悪魔の触手が四方八方に放たれる。
その巨大な触手は無尽蔵ともいえる領域で伸びていき、通過した後には何も残らない。
建物も、生命も、何もかも。
一般市民はこの都の地下に避難しているが、地下に向かって触手を放たれたら終わりだろう。
「おやおや。
 悲しいことだ。小動物の住処が壊されていく。
 さすがに哀愁を感じるのだ。
 お前もそうは思わないか?」
その地上から遥かに離れた上空。
大気圏に近い場所で刹那と神楽魔姫は対峙していた。
「それならあいつをボコンする。
 どうしてお前は邪魔する?」
「邪魔?
 ふむ、言われてみればそういう事になるのか?
 まぁそうなるならそうなるで仕方ないのだ。
 こんな機会もう二度とないかもしれないのだから。」
「よく分からないが、邪魔だぞ。
 すごいすごい邪魔だ。」
「まぁマイフレンドが気にすることじゃないのだ。
 所詮此処は小動物の夢で出来た穴蔵。
 魔姫さえいればきっとまた生まれ変わる。
 そうに違いないのだ。」
「生まれ変わる?
 お前は馬鹿か?」
刹那は告げる。
その声はひどく冷たいものだった。
「人間は1回しか死ねない。
 生まれ変わりなんてない。
 常識だぞ。」
「たしかにそれは常識なのだ。
 人間である魔姫たちはそうかもしれない。
 だがあれらは小動物だ。
 いくらでも沸くだろう?
 いくらでも出て来るだろう?」
「話が出来ない奴だな。」
「マイフレンドが言うならそうなのかもしれない。
 なにしろ魔姫は人間とのコミュニケーションは初めてなのだ。
 足りないところは共に埋め合おう。
 それがきっとフレンド関係に違いないのだ。」
「人間でも、小動物でも、どっちでもいい。
 私は小動物でもちゃんと話すぞ。
 お前は全然しない。
 ただそれだけだ。」
「魔姫だって語り掛けているのだ。
 可愛いペットにたくさんたくさん話をしてあげた。
 これはもう愛情と言っても差し支えない。
 そうに違いないのだ。」
「お前は本当に駄目な奴だな。」
刹那は割と珍しく、自分から会話を打ち切った。
あくまで邪魔をするなら、やることは変わらない。
「花火。」
刹那が再度その力を発動する瞬間。
地上で大きな光が降臨した。
「む?」
「おや、ちょっと変化があったようだ。」
さして興味もなさそうに二人は反応した。


「あぁん?」
ダルバックの触手の1本が僅かに逸れる。
その僅かな差は司令部の宮殿への攻撃を逸らすことに繋がった。
何故そんなことになったのかダルバックには分からないものの、不快感を露わにした。
「また新しいゴミカスが出てきやがったなぁ。
 オラオラどこにいるんだカスが!」
触手が何もない空間に向かって放たれる。
だがその攻撃はまたも僅かに逸れた。
「あぁ?」
何が起こっているのか分からない。
元よりダルバックに深く考えるような知性はない。
だが知性はなくとも、獣性は存在する。
逸れたのであれば、もう一度攻撃すればいい。
そういう発想は獣であっても容易かった。
「……ぐっ!?
 フ、さすがにそう簡単にはいかないようだ。」
その男は一撃を受けながらも舞い降りる。
白い翼を持つ金髪の男。
だがその体躯は天衣魔縫よりも大きく、その美貌は美丈夫といった雰囲気を感じさせた。
両隣に天使シャルナーと天使ハイナーを従えてその男は宣言する。
「破壊しか能のない愚物ども。
 人々の清廉な輝きを詰もうとする悪鬼ども。
 お前たちのような邪悪をこの私。
 高位天使ザフキエルが見逃す理由はない。」
ザフキエルは剣を目の前の怪物たちに向ける。
「即刻、滅びるがいい。」
「……滑稽。」
機嫌が悪くなるダルバックとは対照的にグリモアの態度は冷めたものだった。


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