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73話 予想不可能な結末へ



ザフキエル率いる天使たちが七罪魔の前に現れて5分ほどが経過していた。
結論からいうと天使たちはまだ1体も落とされてはいなかった。
その最たる理由はザフキエルの戦い方にあった。
ダルバックの触手がシャルナーに放たれる。
だがその一撃は僅かに逸れ致命傷を避ける。
「あぁ!?
 またかよくそがぁ!」
ダルバックは苛立ち気味に叫ぶ。
先ほどからこの繰り返しだ。
触手は純粋なスピードだけなら闘争の悪魔すらも超える。
それはつまりこの場の誰だろうと回避不可能。
当然ザフキエル含む天使たちも例外ではない。
だが。
(空間ずらし。
 ザフキエルの能力の応用か。)
グリモアはなんの感慨も動揺もなく、その実情を分析していた。
(ザフキエルは純粋な戦闘力でいえばこの世界の高位天使4体中最弱。
 ダルバックが殺したガルクエルの半分以下でしょう。
 が、高位天使ならではの能力は持っている。
 その能力は。)
ザフキエルが高速で飛ぶ。
見た目にはただそれだけでしかない。
だが気が付けばザフキエルはダルバックの背後にいた。
「伝承ソード!」
「あぁ、うざぇんだよカスがっ!」
自身の背後に向かってダルバックの触手が3本ほど伸びる。
その1本がザフキエルに直撃する。
だがその一撃は幻覚でも貫いたかのようにザフキエルを素通りした。
「ちぃっ!?」
ダルバックが舌打ちすると共にザフキエルはダルバックの遥か前方にいた。
その間にシャルナーの魔殺弓がダルバックに直撃する。
その一撃は貫通こそしなかったがダルバックの一部を破損させた。
(その能力は、”どんな”世界であっても"飛び続ける"ことが出来る。
 如何なる劣悪な世界であっても。
 玻璃の世界ですら例外ではない。
 一見地味な能力だが、常に世界を超えることを続ければ、攻撃を回避することにも繋がる。
 平たくいえば違う空間を転移し続ける。
 さすがに転移先の位置情報が同じ場所にしか飛べないらしいが。
 だがそれだけなら他の天使に攻撃があたらない理由にはならない。)
先ほどから攻撃が僅かに逸れているのはザフキエルだけではない。
他2体の天使に対しても同じ現象が続いている。
(これは推測だが、自身の能力を分けることが出来る?
 もしくはザフキエルが毎回能力を使っている?
 後者はさすがに厳しいか。
 いずせにせよ自身の能力を上手く応用しているのでしょう。)
天使に対して賞賛など送る気はグリモアにはないが、一定の評価はしていた。
少なくとも遅延行為をさせられているのは事実。
(攻撃のたびに何故か空間ごと超越するガラハドなら仕留めるのは容易いが。
 ダルバックの触手1本1本にそこまでのことは出来ない。
 なるほど、この場に他の高位天使がいればかなり厄介ではあった。
 が、実際にはいない。)
遅延行為はさせられている。
が、とどのつまりそれだけだ。
ダルバックの攻撃から致命傷を避け続けているのはいいが、向こうも攻撃が出来ていない。
この5分の間に向こうがダルバックに攻撃できたのは僅か4回。
逆にダルバックは数百回は攻撃している。
そして避けているのはあくまで致命傷であり、ダメージは確実に与えている。
(上澄みとはいえ所詮は中位天使。
 ザフキエルの能力に部下がついていけていない。
 元々格下に使うための能力ではないのでしょう。
 一番格上のザフキエルがサポート能力を使ってる時点で話にならない。
 そもそも中位天使2体はまだ私との戦いの時から完全回復できていない。)
とどのつまり、単純な火力不足。
加えてダルバックは多少のダメージならすぐに自己回復する。
そして天使側の回復能力は。
「……はぁ、はぁ……」
「く、どんどん回復能力が落ちて来たわね……」
ダルバックの触手に含まれる毒によってその回復能力は阻害される。
あと5分もてばいい方か、とグリモアは結論する。
更にいえばこの戦い、グリモアは自身とダルバックに物理防壁だけを張って静観していた。
結局のところ自分も攻撃に参加すればいいだけの話。
が、今はそれをしたくない理由がある。
(ザフキエルと手負いの中位天使2体にダルバックが負けることは万一もないが。
 ……が、刹那と神楽魔姫。奴らは別だ。
 もし奴らが此処にきてザフキエルの能力を使われたらどうなるか。)
グリモアの懸念はそこだけにあった。
ゆえにそちらの戦場については常に把握し、空間を分ける真似までしている。
が、それとて万全とは限らない。
ならばそちらの方に気を配ることの方が今は優先された。


そして当の張本人たちは……
「ピピピ。
 は、早い。
 人類の過去の最高記録を更新している。」
「お前も早かったぞ。」
「………」
「ん、お前は疲れたのか?」
「……魔姫は魔法使い。
 肉体労働は本職じゃないのだ……」
機械都市カンタータで機械達と徒競走をしていた。
何故そんなことになったのか。
戦いの最中に刹那がこの機械都市に落下した。
機械達が集まって来た。
侵入者を殺せーと。
しかし当然のように刹那には敵わなかった。
勘弁してください。機械達は降伏した。
いつまで経っても戻ってこないので神楽魔姫も此処に来た。
あとは適当にこうなった。
「しかし変わっているのだ。
 此処の機械たちは小動物のように倒れたりしない。
 少しだが、新鮮な気分だ。」
「此処でなら散歩してもいいぞ。」
何故かは分からないが此処の機械達に神楽魔姫の能力は通らなかった。
だったらここにいる限り被害は出ない。
「同じ場所だけでは飽きるのだ。
 マイフレンドだっていろんな場所を旅して来たのではないか?」
「ん、それもそうだな。
 難しい問題だ。」
二人は機械から貰ったジュースをちゅーちゅー飲みながら話していた。
「お前は小動物の被害を気にしろというが。
 それは結局のところ自分を押し込めろという意味だろう?
 お前は押し込めて来たのか?
 そうは見えないのだ。」
「むぅ。言われてみればそんな気がするぞ。」
刹那は言い返せなかった。
「それならこいつらとまずは話してみろ。
 こいつらはなんか倒れないからな。」
「ピピピ。
 あまり長居しないでくれると有難い。
 ここは我らだけの楽園。」
「そうか。駄目か。」
刹那はんーんーんーと考え始める。
飽きたのか神楽魔姫は歩き始めた。
「こんなことをしても意味はない。
 きっともう少ししたらこの世界は消えるのだ。
 そのあとまた世界は生まれる。
 何度も何度もそれを繰り返して来た。」
「何を言ってるのかよく分からん。」
刹那の疑問に対し、神楽魔姫は意外そうに答える。
「おや、これは少し意外だ。
 マイフレンドなら分かってると思っていたが。
 この世界とやらは魔姫から生まれ、魔姫で終わる。
 そういうものだと言っているのだ。
 もっともお前やあの破壊魔どもは違うっぽいが。」
「はかいま?
 シャルディスをどろぼーしてた奴らか?」
神楽魔姫は頷く。
「だったら大したものじゃないだろう?
 自分から生まれるものに価値があるか?
 いちいち気に掛ける必要は?
 どうせすぐにまた生まれてくるのに?
 いくらでも沸いて出て来る。
 言い換えれば微生物と変わらない。
 小動物と言い換えてるだけでも破格の待遇なのだ。」
「自分から生まれると意味がないのか?
 それはお前自身に意味がないと言ってるのと同じだぞ。」
「いやいや、そんな悲観的なことは言っていないのだ。
 魔姫は魔姫が好きだし、自愛していると言ってもいい。
 けれど勝手に沸いて来るものに意味はないだろう?
 自分が成さなければ、何も成した気にはなれない。
 人間とはそういうものだろう?」
「なんか話が難しいな。
 要するにお前はなんでもいいから、自分で何かやりたいんだな。」
刹那は立ち上がる。
色が違う二つの瞳には先ほどとは違う決意があった。
「だったら私が叶えてあげよう。
 君の望みを。」
「有難いと言いたいが、それは認められないのだ。
 魔姫の望みは魔姫が叶える。
 人間とはそういうものなのだ。」
刹那の身体から炎らしきものが舞い上がる。
神楽魔姫は踊り始める。
戯れは、もう、終わり。
「ピピピ。
 他のところでやって欲しい。」
「む、そうだった。
 ごめんなさい。」


「……この世界はもう終わり、か。」
天衣魔縫は目の前の調停者に対し、憐れむように言った。
「……なんだ、その顔は?
 まさか僕を憐れんでいるんじゃないだろうな?
 ふざけるなよ。」
「別にふざけてるつもりはないが、少しばかり皮肉を感じてな。」
今度は苦笑と共に言葉を返す。
「世界を弄んでいた存在が、
 今度は形はどうあれ世界を守ろうとしている。
 まぁ弄んでいることに変わりはないのだろうが、なんともおかしくてな。」
「……守ろうとしている、だって?
 は、お前は何も分かっちゃいない。」
調停者プレイは嘲笑する。
誰が好んで調停者なんてやるのかと。
「僕は世界を、人間どもを、弄びたいだけだ。
 だが弄ぶものがなくなったら僕はどうなる?
 どうすればいい?
 何もやることがないじゃないか。
 僕を生み出した遊ぶ者の元に還れとでも?
 冗談じゃない。
 巡真那の意思が混じったからって、奴に縋れとでも?
 奴に土下座するくらいなら消滅した方がましだ。
 だったら残ったことはこれしかないだろうが。」
世界なんて守る気はない。
だが守らないと自分には何も残らないというのであれば。
「僕はこのゲームを完遂する。
 ゲームクリアを目指す。
 それこそが僕という在方だ。」
「だったらやる事は分かってるだろう?」
天衣魔縫は背を向ける。
「お前の言うゲームの役者とやらを連れて来ないとな。
 なにしろ今は掌握の悪魔に乗っ取られている。
 その状態じゃゲームにならないだろう?」
「……は!
 そんな理屈で僕に協力させるつもりか?
 お笑い種にも程がある!」
だが文句を言いながらも天衣魔縫は自分の後ろに気配が続くことを感じた。
あぁそうだ。
この存在は自分が決めたルールを守る。
だからこうする以外にない。
「さて、あのザフキエルまで戦場に出てきたんだ。
 案外どうにかなる気がしてきたよ。」
「……僕はそうは思わないが。」
世界を弄び、守ろうとした傍観者は。
ついに地上に降り立つ。
もはや誰にもこの世界の結末は予想できない。


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