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74話 美しい空の舞踏会
大都市イムヌス。
たとえこの世界が夢の世界であったとしても。
この都市にはこの世界の人類の大半が住んでいることに変わりはない。
「お父さーん。
なんか凄い花火だよー。」
そこに住む一人の少女が空を指さす。
父親は花火なんてと思いながらも、娘に言われるがまま空を見る。
「……赤い花火と、白い花火?」
夜の空には目を奪われる光景が広がっていた。
赤と白を中心とした色とりどりの幻想的な空。
自分が生まれれてから一度も見たことのない、夢のような世界。
「……世界は、こんなにも美しいんだな……」
「お父さん?」
父親はそれを見て気づかず涙していた。
空を見た人々の多くが同じような感想を抱いた。
そんななか。
一人のツインテールの少女だけは違うことを考えていた。
「刹那さん……?」
まさか、そんな筈はないと思いながらも。
どこか懐かしいものを少女は感じていた。
「あ、いたいた。
こんなところで何してるんですかねぇ?」
そんな少女を一人の女性が迎えに来る。
だが少女は呆然と空を眺めたままだった。
女性も何事かとつられて空を見る。
「……あぁ。
どこかで見たような空ですねぇ。
雄大というか、おぞましいというか、まぁなんていうか……」
その女性だけが唯一、苦笑するようにそんな感想を抱いた。
人外の戦いは、超常の戦いは、日常を生きる人々にとって時には幻想的な世界を作り出す。
今宵の空は息を飲む美しさにあふれていた。
人々が空に見た赤い花火の正体は無論。
刹那が神楽魔姫に向けて放った、"この世に存在しない"炎。
加えて刹那自身がそれと同じ炎に包まれていた。
その状態のまま神楽魔姫に突撃を仕掛ける。
「白氷の舞。」
が、同時に神楽魔姫は舞踏を終えていた。
常人には視認不可能な速度の舞踏。
その終わりとともに発せられるのは雪のように白い炎。
神楽魔姫は白氷と称したが、それは雪のような儚げなものではなかった。
刹那の炎の力強さとはまた異なる、生命力に溢れた圧倒的な白い炎。
市井の人々が見れば、その光景に自分の子供の頃を幻想したかもしれない。
が、当の刹那にそんなものを感じる余力はなかった。
神楽魔姫に自らが突撃するのは避け、自身の身体から無数の炎を放つ。
が、それらは白い炎と混じり合い、色とりどりの炎と化した。
混じり合った炎は刹那を追ったり、その場で爆発したりと、動きに一定性はない。
この光景を見て感動する人々とは違い、その無数の炎に追いかけられる刹那はたまったものではなかった。
「………」
その炎の方を振り返る間もなく刹那は自身の炎の放出を止める。
代わりに放出したのは。
「吸血鬼聖槍。」
巨大な槍を模した白い弾丸。
その全長50メートルを超える槍は白い炎を粉砕しながら、出鱈目な軌道を描き神楽魔姫に放たれる。
神楽魔姫はその攻撃を避けることもなく、変わらず舞踏を嗜んでいた。
それは傍には自殺行為にも見えるが、無論そうではない。
巨大な槍が神楽魔姫を貫く。
だがそれでも舞踏は終わらない。
「星雲の舞。」
神楽魔姫は血まみれになりながらもその舞踏を終える。
その間にも追撃の炎が神楽魔姫を覆う。
何十もの爆炎が彼女を襲うが、それと同時に。
「……っ!?」
文字通り巨大な”天体”が刹那めがけて落下した。
その大きさはドラゴンメテオによって落ちる隕石など比較にも値しない。
回避する間もなく刹那は天体に押しつぶされ、そのまま天体ごと地上に落とされた。
……にもかかわらず、地に生きる人々は地震の一つも感じなかった。
ただ今も続く幻想の空をぼんやりと眺めているだけだった。
天体が落ちた地点には直径50キロ以上のクレーターが出来たが、幸いにもそこにいたのは悪魔の集団だけだった。
その悪魔たちは意味も分からず消し飛んだことだろう。
常識的に考えて刹那も塵一つ残らず消えて然りだが。
「ふむ、もちろん生きているだろう?
これで死んだのでは面白くないのだ。」
いまさら言わずもがな、彼女たちにそんな常識はない。
いつのまにか刹那は神楽魔姫に向かって再突撃していた。
が、その様態は酷いものであり、全身血まみれのうえ右足がちぎれていた。
しかし刹那の表情には微塵の陰りもない。
炎で右足を無理やり補填し、刹那は飛ぶ。
そんな彼女に対し、神楽魔姫は既に次の舞踏を終えていた。
「死業の舞。」
無数の黒い穴が神楽魔姫の周りを覆いつくす。
その穴からは大量の人型が飛び出して来た。
男の姿。女の姿。少年の姿。少女の姿。老人の姿。老婆の姿。
それらは例外なく身体の一部を欠き、幽鬼のような勢いで進軍する。
その進軍先は当然のごとく突撃する刹那に向けてのものだった。
「……どうして、私は死んだの……?」
「こんな、死に方、したくなかった……」
「いやだ、僕は、まだ生きたい……」
彼等の言葉から察するに。
それらは死者の行軍か。
更にいえば神楽魔姫に魔力や命を奪われ死した人々の姿なのだろうか?
恨みか、呪いか、望みか、彼等は刹那に向かって進軍する。
そんな人々に対し、刹那は。
「ていていていていていていてい。」
一切の容赦なく、両拳から大量に放った気弾で粉砕した。
瞬く間に人々の姿は消し飛んでいく。
断末魔すら上げる間もなく。
……死者に対して刹那が思うことは何もない。
……ただ無心で攻撃を放ち続ける。
……死は、ただの死。
……既に取り返せない煌めきだ。
その勢いのまま神楽魔姫に攻撃を仕掛ける。
「万象の舞。」
が、刹那が死者行軍を破壊している間に次の舞踏が終わる。
そのとき空はとてつもない速さで動いてた。
まるで1日が一瞬で通り過ぎるように。
昼と夜を無数に繰り返すように。
もはや空を眺める人々は、この光景の虜になっているのかもしれない。
重ねていうが、当の刹那にそんなものを愉しむ余力はまったくない。
とてつもない悪寒を感じ、刹那は神楽魔姫への突撃を止め、超高速で離れる。
……が、どれだけ離れても神楽魔姫の掌から逃れることが出来なかった。
「……おっきい。」
刹那が見たのは全長数百メートルの神楽魔姫の姿だった。
神楽魔姫はその巨体の、そのサイズ分の速度で舞う。
すなわち巨体のまま、いままでの百倍以上の速度の舞踏。
さしもの刹那も掌から逃げることすら敵わなかった。
必死に逃げ回るものの当たり前のように追いつかれる。
「お〜にさんま〜て♪
つ〜かまえちゃ〜うぞ♪」
唄いながら、踊りながら、神楽魔姫は愉し気に刹那を追う。
寧ろとうに抜かしたか、踏みつぶしたか。
ここまで大きくなってしまうと神楽魔姫にも分からなかった。
「おや?」
……だがそのとき。
神楽魔姫に匹敵する巨体がもう一つ現れる。
その姿は肌の濃い豊満な女性。
すなわち。
「便利に私を呼びすぎじゃないかしらぁ。
こんなサイズでどこの誰を愛しろって言うのかしら♪」
妖娼婦・隠脳魅彪。
さきほど消えた筈の彼女は巨大サイズで再び現れた。
「これはこれは。
またまた巨大な夢を生み出したのだ。」
「こんな奴、私の趣味じゃないんだけどねぇ。」
神楽魔姫の扇と、魅彪のマフラーがぶつかる。
ぶつかるだけでその衝撃波は周囲数キロから十数キロ先までを出鱈目に破壊していく。
いまや戦場は北方にまで移動しており、訳が分からないまま魔物たちが巻き込まれる。
「なぁによこの破壊活動は。
愛がなさすぎるわ。中止よ中止。」
「別に気にすることはないと思うが。
このままだとマイフレンドが出てこないのなら、この演目はここまでにするのだ。」
神楽魔姫が軽く扇を振るとその巨体が消える。
その数秒後、魅彪の姿も泡のように消えた。
残ったのは元のサイズの神楽魔姫と、刹那だけだった。
先ほどの衝撃波で出来たクレーターの地表にて、二人は再度対峙する。
「……はぁ、はぁ……」
「……さすがに疲れてきたな。
ここまで連続で踊ったのは初めてなのだ。」
両者とも疲弊が続いていたが、重症なのは刹那の方だった。
まともな人間ならこんな状態で戦いを続けない。
が、お互いの戦気はこの戦いを始めた時と同じ、未だ高まったままだった。
「では最後の舞踏会だ。
正真正銘、魔姫の全力を見せてやろう。」
今まで以上に常軌を逸した速度で踊りだす。
刹那はそれをただ見ているだけだった。
既に戦う力が残っていないのだろうか?
「おや、止めないと?
それとも魔姫の演舞を見届けてくれるか?
まさかもう疲れたから降参というオチではないだろう?
仮にそうだとしても止める気はないが。」
「………」
刹那は何も答えず、動かず、ただじっと神楽魔姫の演舞を注視していた。
そして実際のところ。
刹那はもう"戦う"力が残っていなかった。
無理やり千切れた右足を炎で補填してる状態で、既に立っているので精一杯。
「では終演。
御覧あれ。
終演なだけに。」
その舞踏が終わる。
「終焉の舞。」
その瞬間。
北方は、文字通り無と化した。
何もない黒。
何もない白。
それだけが先ほどまで北方と呼ばれた地方の姿だった。
その無の空間に浮かぶ人影は神楽魔姫ただ一人。
ただ一人残った彼女は常人の数十分の一の哀愁と共に呟いた。
「……そうか、最後まで見届けてくれたか。
本当に限界だったのだ。知らなかった。
さらばマイフレンド。
この想い出を胸に、魔姫は明日も元気に生きていこう。」
しかしそれも一瞬。
あっさりいつもの態度に戻り、元の世界に戻ろうとした。
その、刹那。
「……あぁ、これは。
少しばかり眩暈がする。
さすがに、魔姫も疲れたのか……?」
神楽魔姫の視界が白に染まる。
既にこの場所が白と黒しかない無なのだが、それでも神楽魔姫はその光景を白と感じた。
そしてその白い幻が解き放たれたその先は。
「……なんと。」
そこは沢山の”人間”が暮らす街だった。
神楽魔姫"から"見た沢山の人間。
それはすなわち。
「まさか、こんなにも沢山のフレンドが出来るとは。
素晴らしい。
ここが、楽園なのか?」
沢山の”刹那”が暮らす街である。
子供の刹那。
大人の刹那。
教師の刹那。
警察官の刹那。
巨人な刹那。
小人の刹那。
分裂する刹那。
合体する刹那。
刹那、刹那、刹那、刹那、刹那。
すべての住人が刹那。
それを見た神楽魔姫がいま考えていることは一つだった。
(……そうか。
生まれてはじめて魔姫は。
感動というものを味わっている。
そう、これこそが。)
そして一人の刹那が歩いて来る。
だが神楽魔姫は一目でその刹那が別物であることに気づいた。
「お前だけ、違うな。
魔姫は神楽魔姫。
以後宜しくなのだ。」
その刹那は口を開く。
刹那とは異なる口調で。
「はじめまして、神楽魔姫。
私は巡真那。
一度、君と話してみたかったよ。」
刹那しかいないその世界で。
時代を超えたもう一つの邂逅が実現した。
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