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75話 絶対者の平穏



「こらお前ら、あんまり遠くに行くんじゃないぞ。」
「むー。」
「ていてい。」
「ボコンだー。」
大人刹那が子供刹那3人に注意を呼び掛ける。
子供刹那3人がマラソンごっことちゃんばらごっこに興じる。
「ぴぴー。
 そこの刹那。
 どろぼーはいけないことだ。」
「どろぼーじゃないぞ。
 これは刹那だぞ。」
警官刹那が、人形刹那を抱えた勇者刹那に職質する。
職質といっても笛を鳴らしているだけだが。
「がおー。」
「これ以上わるいことは駄目だぞ。
 かかって来い。」
「むー。」
「わー。」
「いけー。」
「ボコンだー。」
怪獣刹那にヒーロー刹那が立ち向かう。
それをわーわーボコンだーいいながら応援するモブ刹那たち。
そんな光景をスライムジュースと呼ばれる特産品を飲みながら、神楽魔姫は眺めていた。
「なんと微笑ましい光景なのだ。
 うむうむ、無謬の平穏とはこういうものに違いない。
 それはさておき。」
喫茶店の机を挟んだ刹那に向き直る。
否、巡真那と名乗った刹那の姿をした何者か。
「巡真那とお前は言ったな。
 先ほどまで魔姫と興じていたのはお前だろう?」
「それは厳密ではないけどね。
 刹那が致死レベルのダメージを負ったから、
 私が親切にも代わりを務めたんだ。」
「ふむふむ、なるほど。
 それでお前は魔姫と話してみたいと言った。
 魔姫ももちろんお前に興味はある。
 何しろマイフレンド以来の人間とのコミュニケーションだ。
 少しばかり緊張しているのだ。」
「ごはんの時間だぞ。」
メイド刹那によって魔物料理が運ばれてくる。
話を一時中断し、まずは食事に集中する二人。
「うむ、マイフレンドは料理にも精通しているのだ。
 これこそ美味。
 きっとそうに違いないのだ。」
「こんなもの魔法で作ってしまえばいいと思うんだけどねぇ。
 地味なことするなぁここの刹那は。」
とりあえず料理は一通り完食した。
口元を拭き、話を再開する。
「……考えてみればこんな風に食事をしたことなど一度もなかった。」
まるで感動したという風に神楽魔姫は言う。
普段なら彼女の周りの建物も人々も倒れ伏し、朽ちていく。
だがここではそんな現象はまったく起こらない。
何故なら此処にいるのは全て能力が通らない刹那たちだけであり、建物も全て刹那と同じ特性で出来ているからだ。
その特性とはすなわち。
「世界からの拒絶。
 因果からの遮断。
 ゆえに君の簒奪能力も効果がない。
 何故なら君のその能力は。」
「うむ。
 ”この”世界が魔姫にもたらした力、といったところか。
 魔姫は小動物の世界と呼んでいるのだ。」
「夢の世界ね。
 君はこの世界の夢の器として選定された。
 どんな能力が発動するかは器によって変わるのだけど。
 基本的にはその人の本質に近い能力が発動すると私は見ている。」
「なるほど、なるほど。
 つまり魔姫は小動物を可愛がる愛らしさに満ち溢れていると。」
「そうそう、よく分かってるじゃないか。
 可愛い小さい者たちは愛でたくなる。
 分かるよ。
 けどね。」
雑談のように話していた真那が、会話を一旦区切る。
本題に入ったと言わんばかりに真剣な顔で。
「マイフレンドの顔でそんな風にされても、違和感が凄いのだ。
 姿を変えてくれると嬉しいな。」
「悪いね。
 もともとこういう顔なんだ。
 で、何の話だっけ?」
「魔姫が愛らしいという話なのだ。」
「そうそう、愛らしい者たちを愛でたくなる。
 私たちはそう思っているけど。
 どうやら彼等はそう感じてくれないみたいでね。」
彼等とは言わずもがな神楽魔姫によって死した者たちのことであろう。
「小動物にとって人間は恐怖の対象ということか。」
「そうだね。
 彼等は恐怖とかいうものを感じるらしい。
 如何せん私にも君にも分からない感覚だけど。」
「いやいや、魔姫にも恐怖は理解できる。
 毎月発行されているもんだずんが読めなくなること。
 それは恐怖以外のなにものでもない。」
「もんだずん?
 ……あー、もしかして君のなのだ口調ってその創作のキャラから作ったの?」
「うむ、魔姫は結構気に入っているのだ。」
「で、何の話をしてたんだっけ?」
「世界が繰り返してばかりしてるせいで、
 もんだずんの新刊が読めない恐怖について話していたのだ。」
「あぁそうそう、ループの話だね。
 この世界はいつまで経っても未来がやって来ない。
 その最たる原因は君なら分かっているだろう?」
「うむ、もんだずんの新刊が出ないせいなのだ。」
「七罪魔が何度も世界を破壊する。
 厳密にはグリモアとダルバックだけどね。
 誰が呼んだのかなんて分かり切ってる話をする気はないけど。」
「そういえば何かいたのだ。
 破壊と殺戮が好きなのだろう?
 なんて野蛮な連中なのだ。
 常識を疑う。」
「そんな常識的な私たちは、
 ちゃんと弁えて過ごすべきだよね。」
弁えて過ごす。
先ほどまで小動物(人々)は自分たちの前では平静ではいられないという話をした。
だったらどうすればいいのか。
「神楽魔姫。
 君は君らしく生きられればそれでいいんだろう?
 それ以外の何一つ君は求めちゃいない筈だ。
 何故なら君は……」
「うむ。
 魔姫は控えめな女なのだ。
 毎日もんだずんの新刊が読める平穏な日々。
 そのまま骨をうずめる人生。
 それで何が不満があるというのか?」
「だったらどう?
 この世界は?」
刹那しかいない世界を指して真那は言う。
この世界なら神楽魔姫は誰にも迷惑をかけずに生きていける。
「刹那と戦うことも出来るしね。」
「うむ、確かにあれは素晴らしかった。
 魔姫の演舞を最後まで見てくれたのはマイフレンドだけだ。
 全霊で向き合ってくれた。
 これがきっと感動に違いない。
 ……だからまぁ、それはもういいのだ。
 あの1回を最初で最後としよう。
 魔姫は十分に満足した。」
神楽魔姫は席を立つ。
「お前の"望み"どおり。
 魔姫はこの世界で骨をうずめるとしよう。
 私は”お前と違って”欲深くはない。」
「………」
真那はその言葉に対しては無言だった。
だが最後に一言だけ返す。
「やはり君は私の思ったとおりの人だったようだ。
 おとなしいし、欲が浅い。
 刹那との戦い(あんなもの)刹那の世界(こんなもの)で満足できるなんて。」
「うむ、お前は実に欲が深い。
 一体どこまで行けば満足できる?
 どこまで進めばやり遂げたと思える?
 魔姫には分からないが、たぶん"こう"なのではないか?」
それが神楽魔姫が真那に送る最後の言葉だった。
「お前は、さっきから本心からの言葉は"一つも"話してないな。
 だからいつまで経っても同じことを続けることになるのだ。
 当然そんな状態で放たれる言霊など出鱈目になる。
 毎日を正直に生きている魔姫やマイフレンドとは真逆。
 たとえば、そう。
 諦めなければ夢は必ず叶う、とか。
 まったく思ってないのにそんなことを嘯いていそうなのだ。」
「………」
その言葉を最後にして、神楽魔姫は刹那の店から出て行った。
二度とこの二人が言葉を交わすことはない。
これから神楽魔姫が生きて死ぬまで言葉を交わすのは、この世界にいる無数の刹那のみ。
「……真摯な忠告、感謝しよう。
 話せて良かったよ神楽魔姫。
 それだけでも今回の世界が生まれて良かったと思える。」
そしてこの世界は消えていく。
聖二たちがいま奮闘してる世界から切り離される。
神楽魔姫と共に。
夢の器が消えることがこの世界にとって何を指すかは明白だが。
「でもさ、刹那。
 君は一緒に行く気なんてないんだろう?」
刹那の身体が真那の意思を無視して動き出す。
「確かに私は正直者ではないし。
 君は正直者かもしれない。
 しかし欲の深さはお互い様だ。
 諦める気なんてない。
 私と同じでね。
 ただ違う点があるとしたらそれは……」
真那の言葉は途切れる。
元よりこの身体は刹那のものだ。
巡真那の意思は完全に切り離される。
世界と共に。
だが。
「……まだ。」
元いた刹那だけはその世界から切り離される。
「誰も、助けてない。」
その意思は、止まらない。




5秒ほど気絶した刹那がいたのは北方の入り口だった。
その先には神楽魔姫によって引き起こされた無の空間しか存在しない。
北方の世界は既になくなっている。
刹那は立てずにいた。
右足が千切れ飛んでいるのでずるずると前進する以外に手はない。
いまは炎で右足を作る力も残っていなかった。
「むー、むむむむ……」
さすがに前進する速度はとてつもなく遅い。
"常人が走る"速度しか出ない。
それでも前へ前へと進む刹那の上空から。

ただ泰然とその魔法はある(オリジナル・エンテレケイア)。」

掌握の悪魔グリモアのノイズ音と共にその魔法は発動した。
空中から連鎖"し続ける"爆発。
その連続爆発が刹那に向かって進軍する。
「……っ!?」
地べたで前進する刹那に避ける手段はない。
それ以前にこの爆発は"避けられない"。
連鎖爆発によって周辺の地面も崩れ落ちる。
もはや飛ぶことが出来ない刹那に成す術はなく。
そのまま奈落の底に落ちていった。

「……これで邪魔者は全て消えた……」

グリモアのノイズ音が消える。
後には何も残らない。
刹那と神楽魔姫の戦いの決着はついた。
いずれも、この場には残らなかった。
ただ、最後に。

「……………刹那さんっっ!!!」

……その穴に向かって飛び降りた。
……一人の少女以外は。


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