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76話 滅びゆく世界



「はぁっ!!」
これで何発目になるか。
ザフキエルの伝承ソードがもはや荒れ地と化した一帯を吹き飛ばす。
だが煙が晴れたとき、七罪魔2体の姿は未だ泰然とそこにあった。
「……これで邪魔者は全て消えた……」
「な、に……?」
ザフキエルはそのグリモアの言葉に不可思議なものを感じつつも、いったん距離を置く。
残り2人の天使、シャルナーとハイナーも同様に。
だがザフキエル以外の2人はもはや限界だった。
ダルバックの攻撃がいったん止む。
「あぁん?なに言ってやがる。
 カス共はまだそこにぶんぶん飛んでるだろうが。」
「……神楽魔姫が消えた。
 刹那が死んだ。
 万一あれで生きていたとしても、戦力としては死んだ。」
「あん?」
ダルバックは意味わからねぇというような態度で悪態をつくがグリモアは無視する。
対する天使たちは刹那が誰かは分からなかったが、神楽魔姫という言葉には反応する。
「……つまりこの戦い。
 我らの勝利が確定した。」
目の前にはまだ天使たちがいるにもかかわらず。
グリモアは一方的に勝利宣言する。
その態度にザフキエルは口を挟む。
「……もう勝った気になっているとは。
 だが教えてやろう。
 このザフキエルの真価はまだまだこれからなのだと。」
確かに傍目にザフキエルがそれほどのダメージを受けているようには見えない。
だが確実に疲弊が重なっているのは誰の目にも明らかだった。
自身と部下2人の天使に対し、能力を行使し続け約10分。
それだけの間、ダルバックの攻撃を凌ぎ続けている。
だがグリモアはそんなザフキエルの言葉には一切反応せず。
「マス・モータルリフレッシュ。」
グリモアとダルバックを闇の光が囲む。
その闇は一瞬で僅かな肉体のダメージを修復していた。
「貴様……」
「……もはや予備の器は必要ない。
 魔法使いの都カデンツァの諸々よ。
 お前たちはよくやった。
 相応に役に立った。」
その言葉は如何なる御業かカデンツァ全域の人々に届いていた。
それを聞いた者たちはいきなり何事かと不思議に思うが。
「もう要らん。
 疾く"死ね"。」
言葉の意味を理解することもないまま、それを聞いた一部の人々が"自殺"した。


「……っっ!?
 議長!バーパイア議長!
 巨大な魔力、高まっていきます!
 これは……」
司令部となる宮殿にてオペレーターの一人が狼狽する。
「ただちに宮殿全域に防壁!
 防壁パターンは、魔!
 急ぎなさい!」
だがその命令を発する老婆の声にも動揺は隠せなかった。
神楽魔姫が消えた、と確かに奴はそう言った。
更には。
(……刹那が、死んだだと?)
俺たちを動揺させるための言葉とは思えない。
神楽魔姫はさておき、刹那については俺たち以外は知らないからだ。
いずれにせよその二人が消えたということは何を示すのか。
「グランドフレア。」
無詠唱ではない、通常詠唱版のグランドフレア。
画面が光る。
振動が走る。
なんということはない。
もう先のことを考えることなく、奴らは暴れられる。
ここからはダルバックだけでなく、グリモアも躊躇のない殲滅を開始する。
ただそれだけの話だった。


カデンツァ全域にその防壁は張られた。
だが防壁で防げるレベルの火力ではもはやない。
破壊の爪痕が都全域に注がれる。
「ぐ、ああぁぁぁぁああぁぁっっ!!」
「うわああああああぁぁぁぁっっ!!」
そして近くで戦っていた天使たちは当然のごとくグランドフレアに巻き込まれた。
彼等は先ほどまでダルバックの攻撃をぎりぎり逸らし続けていたが。
ただただ広がる破壊の魔法を逸らすことは出来ない。
3人別々の方角に吹き飛ぶ。
「……まだだ!
 この高位天使ザフキエルをこの程度で仕留められると思うな!」
ザフキエルのみが爆風と破壊に逆らい2体の七罪魔に超高速で接近する。
「伝承ソー……っっ!?」
すぐに攻撃を放とうとしたその刹那。
ダルバックの触手がまとめてザフキエルに放たれた。
すかさず伝承ソードで相殺、凌ぐことには成功するが。
下からの攻撃には対応できなかった。
「……こ、これは?」
その下からの攻撃は半径30センチほどの小さな漆黒の魔力球。
だがその魔力球はザフキエルに触れたと同時に一気に膨張し、そして。
ザフキエルを中心に巨大な爆発を起こした。
モータルダークネス。
地下に潜んでいたダルバックの身体の一部がその魔法を放ったのだった。
だがその爆発が収まる前に、今度は正面から。
「プロビデンスソドム。」
ザフキエルの周りにいつのまにか集まった魔力球の大群が一瞬でザフキエルに集まり。
更なる大爆発を引き起こした。
そしてその間に今度はダルバックの触手の大群が。
次のグリモアによるLv4相当の魔法が。
息をする間もなく、出鱈目な攻撃が放たれ続ける。
もはやザフキエルは単なる的でしかなかった。


「……各区画!
 被害状況は!?」
先ほどの魔法による衝撃が収まり、議長の喝が響き渡る。
だが司令部となるこの宮殿すらも、天井裏の一部が剥がれていた。
幸い人への直撃はなかったものの、他の区画がどうなったのかは想像に難くない。
(……どう、すればいい……)
神楽魔姫が消えた以上、奴らの枷は完全に外れた。
もちろん天使たちが戦ってる間、俺たちは黙って見ていたわけではない。
遠距離からの哀音による爆撃。
隙をついて奴らに撃ち続けていた。
だがグランドフレアでは掌握の悪魔の方にはダメージがなかった。
そして醜悪の悪魔に与え続けた攻撃も既に殆どが回復されている。(ように見える)
更には防波堤となる天使たちすら、もう。
「……聖二!」
そんななか、一人の男の声が響く。
金髪に白い翼。リオンだった。
今までどこに行っていたのか、そんなことを突っ込む気力すら俺にはなかった。
「……真那?」
だが降りて来たのはリオンだけでなく。
真那の姿の少女も一緒だった。
まさかとは、思うが。
「……ふん。
 とうとう奴らが本腰を入れてきたってわけか。
 調子に乗りやがって。」
……その口調や声色から真那じゃないことは即座に悟った。
だがそれなら何者なのか。
「状況は、最悪か。」
リオンが口を開く。
あちらの事情は気になるが、今はそれどころではない。
「……見ての、とおりだ。
 正直もう成す術がない。」
俺は正直な感想を言う。
諦めるわけにはいかない。
だが既に最強戦力である天使たちが戦闘不能だ。
対するあちらはモータルリフレッシュとかいうクソみたいな魔法でほぼ全快した。
あれで魔力をめちゃくちゃ食うとかならまだいいんだが、そんな淡い期待はできるのだろうか?
「一応アドバイザーとしては最高クラスの奴を連れてきた。
 まぁ戦力にはなってくれないだろうが。」
「当たり前だろ馬鹿か?
 遊ぶ者である僕が人間の世界なんかのために戦うわけないだろ。
 けどこのままじゃ僕の長年の苦労がゴミになる。
 もう少しはましな抵抗をしてみやがれ。」
「は?遊ぶ者?
 おいリオン、どういうことだ?」
どこに行ってたと思ったらこいつを探していたのか?
リオンは苦笑する。
「まぁいろいろあってな。
 この世界の真実とかを聞いていたところだが。
 細かい話をしている暇はなさそうだ。」
「……世界の真実ねぇ。
 真実の前に破滅が目の前に近づいて来てやがるぜ。」
「とりあえずこいつの言うことは今は信じていい。
 大事なことは、この世界が夢の世界ということ位か。」
「……夢の世界?
 あぁなんか真那が目指してる世界だっけか?
 一応覇帝の力を持ってたときに何度か接触したが。」
正直今となっては俺たちの世界とあまり差を感じない。
この世界で接して来た奴らが幻とかそんな訳でもないらしいし。
「それでどうだ?
 ここから私たちの逆転の一手は何かありそうか?」
リオンが遊ぶ者とやらに聞く。
正直もう遊ぶ者でもなんでもいいので、何か打開策があるなら教えて欲しかった。
遊ぶ者は少し考える素振りをして話し始めた。
「お前らが奴らに勝つ方法があるとしたら2つ。
 1つはお前ら人間の得意技。
 想いとか根性とか希望とかそんなものを強く掲げることだ。
 夢の世界はそういった現実じゃ何の役にも立たないものが、追加の力としてついて来る。
 分かりやすくいえば精神力が攻撃力に加算されるとかそんな感じか。」
「……成程な。
 今の俺にはなんとなく分かる気がするぜ。」
何度か俺が強くこいつらと一緒にいたい。
このままで終わりたくない。
そんなことを強く思ったときに世界が止まったり遅くなる感覚を感じた。
とはいえ狙って発動させる方法は分からないんだが。
「どうやって発動させるかなんて僕に聞くなよ。
 僕からすれば馬鹿みたいな話だ。
 まぁそれ込みでもこの状況から奴らに勝つのは絶望的だろうね。」
「先ほど2つと言ったな。
 もう一つは?」
「もう1つはグリモア限定の方法だが。
 奴がいま使ってる奴の身体。
 つまりはシャルディスからグリモアを切り離せ。
 そうすれば奴らの戦力はガタ落ちする。」
「切り離すって、そんなこと出来るのか?」
正直一度乗っ取られてしまったらもうどうしようもないと思っていた。
「普通は無理だね。
 対策厨のグリモアがそんなお約束の手段残すわけがない。
 真っ先に人間としての脳と心臓を潰してるはずだ。
 けどシャルディスはオリジンヴァンパイアの状態で乗っ取られたんだろ?」
今のシャルディスは魔導研究所のときの姿と酷似している。
ツインテールにしてる髪は異様に長くなっており、吸血鬼の羽もずっと生えたままだ。
けどそれだと何が変わるっていうんだ?
「オリジンヴァンパイアは基本的に太陽の光以外では殺せない。
 それはグリモアをもってしてもだ。
 脳も心臓も潰したところで再生する。
 それはイコール、グリモアが完全に乗っ取ることは出来ないということだ。」
確かにシャルディスの眼は片方しか変わっていなかった。
「だったら具体的に何をすればいい?」
「は?おまえら人間の得意技だろ?
 想いとかなんかでどうにかしろよ。
 奴らに近づければの話だけどね。」
滅茶苦茶なことを言ってきた。
は?想いでどうにかしろだって?
しかも奴らに近づく?
あんな危険な攻撃を連発してる奴らにどうやって?
「てかそんなこと言ってる間に終わるけど?」
「……え?」
遊ぶ者が画面を見るのと同時に俺も同じ方角を見た。
奴らが映っている画面からは6色の光が溢れていた。
「……終わり、ね。」
老齢の議長が諦めの言葉を呟く。
何故だ、完全に防げないのだとしても防壁を張るくらい。
「……カデンツァ全域への防壁は、一度に一つの属性しか、かけられないのよ。
 "あれ"は、どうしようもない……」
「……あれ、は?」

グリモアの周りに6つの魔法媒体が展開される。
その媒体の魔力がグリモアに集まる。
「シックス・センス。」
6色の光は炎、氷、雷、水、地、風。
6つの力が一切の矛盾を起こさずカデンツァ全域に広がる。
その光景を見た人々はこの世の終わりを感じたか、それともこの世の楽園を感じたか。
いずれにせよ……


……音すらたてず、カデンツァ内の全ての宮殿は砕け散った。
建物も、全てが全壊。
その効果は地下にまで及び、地下の空間も崩壊したことだろう。
「……まぁ、ここまでしなくても間もなく滅ぶのですが。」
グリモアが呟く。
神楽魔姫が既に消えたということは、この世界の核がなくなったということ。
それはイコール世界の終わりを意味する。
自分たちの勝利が確定したというのは言葉どおりの意味なのだ。
「………」
……だが、神楽魔姫が消えてからもう10分は経つ。
夢の核が消えたら3分もすれば世界が滅びると思っていたが。
思ったより時間がかかるものらしい。
「あちらの世界とは理屈が異なる。
 その領域は我らには理解し難い。」
「てかてめぇが全部壊してんじゃねぇよ!
 我は何をぶっ壊せばいいんだ!あぁ!?」
「イムヌスでも壊していなさい。」
覇帝や連盟のいないイムヌスなどなんの脅威にもならない。
後は世界が勝手に消えるのを待てばいい。
その間にダルバックのストレス解消でもさせておくかと思った矢先。
「……?」
……この魔力は、なんだ?
知っている魔力ではない。
だがその力は我々に匹敵する。

「……っんとにもう。
 あちこち地割れやら爆発やら起こして。
 少しも眠れやしない。」

その姿を見て誰なのかは理解した。
「……貴方もこの世界に来ていたのですか?
 フェイリィ。」
緑のポニーテールと苛立った顔つき。
それ自体は見慣れた姿だ。
だがなにか違和感がある。
「……この責任はどうとってくれるのかしら?
 グリモア。」
この女は、本当にフェイリィか?


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