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77話 集結
時は少し前に遡る。
司令部となる宮殿内の救護室には沢山の人々が集まっていた。
そのなかには横になっているナギサと詩織の姿もある。
グリモアによる襲撃と刹那の出現後、彼女たちはここに搬送された。
「……ナギサさん。」
ナギサさんと私が救護室に運ばれてどれくらい経ったのかな?
時間的には大して経っていないのかもしれない。
でも私にとってはとても長い時間だった。
(……早く、早く終わってくれないかな。)
さっきまでは無我夢中で回復魔法をナギサさんにかけていたけれど。
もう恐怖が限界に来ていた。
もともと怖がりな、性格だし。
私はブルブルと手を合わせて祈る。
(……森の神様。
私たちを、ナギサさんをお守りください。)
都合のいい時だけ森の神様に祈るのはどうなのだろうか?
そうは思っても私にはこうして祈ることしか出来ない。
「……キウイ。」
マウマウが心配そうに私の顔を覗き込む。
いつもなら大丈夫だよ、とでも言うのだけど今はそんな余裕すらもなかった。
「……っっ!?」
「キウイ!?」
……突如、足元がおぼつかないほど揺れだす。
なにか、なにかまた怖いことが起こっている。
いつになったら、この戦いは終わるのだろか?
……ふと窓を見たら。
……不気味な沢山の光が空を焼いているのが見えた。
……それはこの世の終わりを感じてしまうような、そんな……
「ひっ……!?」
私は尻もちをつく。
なんとなくだけど、私には分かってしまった。
……このまま、みんな死んでしまうんだって。
……私の中の感性がその事実を叫んでいた。
(……お願いします、お願いします、お願いします。)
私は心の中で必死に森の神様に祈る。
どれだけ祈っても意味がないことなんて分かっているけど。
もうそんな理屈はどうでも良かった。
「……さっきからうるさい。
何だってのよ。」
「……え?」
必死に祈っていた私を誰かが見下ろすように言う。
その姿は忘れもしない。
私が子供の頃に会った森の神様だった。
「あんたね。
私の力を持っていった人間は。
うるさいから静かにならないかしら?
眠れやしない。」
神様は欠伸をしながら、静かにしろとそれだけを言った。
確かにずっと都合のいいときだけ祈っていたのはよくなかったと思う。
「ご、ごめんなさいっ!」
私は地べたに尻もちをついた態勢のまま、土下座みたいに謝った。
けど神様は私の方を見ておらず、窓の外の方を見ていた。
「……あぁ、うるさいのはそういうことか。
"余計なもの"が私の中に入ったのね。
しかもあれはグリモアの魔法か。
だったら人間ごときに静かにさせろとか無理か。
はーめんどくさい。」
同じように窓を見ると、先ほどの光が止まっていた。
いったい、何が起きているのだろう?
「ちょっとそこのおまえ。」
「は、はいっ!?」
急に威圧されたように感じて私はびくりと縮こまった。
「人間の強い奴ら、ここにいるんでしょう?
連れてきなさい。
ほら早く。」
……たぶんだけどあの司令室ってところに行けばいいのかな?
私は言われるままに森の神様に従おうとした。
「………」
……森の神様は違う誰かを見ていた。
その先には一人の女性(女の子かな?)が寝転がっていた。
背中には小さい黒い翼っぽいのがある。
「……ガルクエル?
いやそんな訳ないか。」
森の神様の下から蔦のようなものが生えてその人の顔をぺしんぺしんした。
(……痛そう。)
「……え、なに?
おはようのサイン?」
その人は寝ぼけたように起きる。
なんだかとっても可愛い人だった。
……あ、こんなこと言ったら生意気かも。
「あんたは誰よ。」
「……え?誰ですか?
私はアリンちゃんだけど。」
「……そう。
まぁいいわ。
あんたもついて来なさい。」
「え、なに?
話の展開についていけない〜〜。」
よく分からないけど、そのアリンって人もついて来ることになった。
「ちょっとそこの人間ども。
早くあのうるさいのをどうにかしなさい。」
……急に訳の分からない女が出てきて、訳の分からないことを言い出した。
遊ぶ者といい、なんなんだ次から次へと。
「ご、ごめんなさい、聖二君。
で、でも森の神様の言うことだから……」
「……森の神様?」
そういえば詩織はたまにそんなことを言ってたような。
あんまり触れない方がいい気がしてスルーしてたが。
「なんで君がいるんだよ。
そんなキャスティング僕はしてないぞ。」
「はぁ?
なによあんたは?
真那みたいな面して。」
その当の遊ぶ者と女が睨み合いを始める。
睨み合いで済めばいいんだが。
「あのー、フェイリィさん、でしたっけ?
今はもっと大事なことがあるような、うやむや……」
「あんたは……」
背中に小さい黒い羽。
ずっとあの黄金の光に閉じ込められていたアリン・ペルシェという吸血鬼。
こうして動いてるのを見るのは初めてだが。
……ていうかそうか。救護室にいたのか。
いやハイドが運んでいったから当然なんだが。
「……ちょ、ちょっと待ってくれ。
正直話についていけない。
済まないが、あんたは……」
「あ、あの、聖二君。
あんたとか、森の神様に、失礼な、気が、えっと……」
「……お、おい。」
詩織が珍しく強気でいる気がする。
……よく分からないが、あの女との会話は些細な言葉一つで厄介なことになる気がする。
詩織の言うとおり言葉遣いには気をつけた方がいいかもしれない。
「あら、そこの人間は殊勝ね。
詩織とか言ったっけ?
面倒だからあんたが話をしておきなさい。
私は寝るわ。
ベッドはどこにあるの?」
……にしてもこれは横暴すぎやしないか?
だがその様子を見ていた議長は。
「用意しなさい。
一番最高のものを。」
「は、はいっ!」
バーパイア議長に命じられ、部下たちが欠伸する女を案内する。
この状況でベッドの手配をするってどういうことなんだよ。
まぁあっちよりも詩織と話した方が、それと……
「……あんたはアリン・ペルシェってことでいいんだよな?」
「うん、そうだよ。
私はアリンちゃん!
よろしくねー。」
……なんか思ったよりも軽い奴だな。
ずっと閉じ込められていたのに。
「シャルディスとはまた違う感じだな。」
「シャルディス?
うーん、どこかで聞いた名前のような。」
アリンは考え込む。
でも本気で思い出す気はないように見えた。
「で、詩織。
状況がまったく分からん。
説明してくれ。」
「え、えと、森の神様に言われたことで良ければ……」
「あぁ、それでいい。」
俺が詩織と話してる間に残ったメンバーも集まってきた。
外には未だにあの6色の光が広がっている。
……そう、ずっと広がっている。
だがその景色は。
「……偽物、だと?」
「う、うん。
森の神様はそう、言ってた。
発動したように”見せかけた”って。」
見せかけた?
いったい誰に?
いやまさかとは思うが……
「馬鹿な!?
フェイリィの能力で、あのグリモアとダルバックを謀ったのか?
し、信じられない……」
遊ぶ者がなんか驚いている。
どうもあの女はフェイリィと言うらしい。
……ん、どっかで聞いた名前のような。
まぁ今はどうでもいいか。
「え、と。
だから後はなんとかしろ、って。
うるさくて眠れないから、って言ってた。」
「……めちゃくちゃ言ってくるな、あの女。」
うるさくて眠れないって今までどこにいたんだ?
とりあえずこれ以上協力する気はないらしい。
それでも全滅の危機を一度は脱したことは確かだ。
しかもこの状況は。
「奴等の不意をつくチャンスだ。」
「う、うん……」
リオンと哀音が提案する。
確かにチャンスは今しかない。
あの六色の光。撃たせたら終わりな気がする。
「……て言ってもどうするんだ?
全員で一斉突撃なんてしたら速攻で気づかれるだろ。」
「私は先ほどの遊ぶ者の案を提案する。
1回で終わらせるにはそれ以外の手はない。」
「シャルディスと掌握の悪魔を引き離すって話か。
でも具体的にどうやればいいんだ?」
俺たちは遊ぶ者の方を見る。
「……なに期待してるんだモブ共。
お前ら人間の得意技でどうにかしろって言っただろ。
やり方なんて僕が知るか。」
さっきと同じ答えが返って来た。
あのフェイリィって女といい、どいつもこいつも。
「……察するにこの世界が夢の世界であるなら。
精神世界的なもので連れ出すのではないか?
その、説得とかそんな感じで。」
「せ、説得。
あ、愛する人とかいたら、すごい効きそう……」
詩織がなんか言ってるが、シャルディスの愛する人って誰だよ。
例の月詠夜夜子とかいう女か?
……何故かは分からないが寒気がした。
「そんなの決まってるじゃないですかぁ。」
聞き覚えのある声がした。
「メ、メイク警備隊長!?」
メイクの部下らしき女が驚く。
そういえば魔導研究所の後から音沙汰がなかったが。
だがそんなことよりも俺の目に入ったのは。
「……シャルディス?」
メイクの隣にツインテールの少女。
勿論シャルディスの筈がない。
だったら、この少女は、もしかして……
「え、えっと。
はじめましてっ。
私はコダマ・オラトリオって言います!」
少女は恭しくお辞儀をした。
……そうか、この娘が本物の。
そして更にもう一つ。
メイクが背負っている娘は……
「刹那!?」
「………」
気絶してるのか眠っているのか分からないが、確かにその姿は刹那だった。
だがその姿はかなり重症……いやそんなレベルではなかった。
「とりあえず彼女を救護室に運んでくださぁい。
……いいですか、絶対に死なせるな。」
「は、はいっ!
きゅ、救助班急げ!」
人々が刹那を担架で運ぶ。
……いったい、これは何がどうなってるんだ?
「で、なんの話をしてたんですかぁ?」
……そうだ。
今はコダマや刹那の話をしている場合じゃない。
「……掌握の悪魔って言って分かるか?
奴をシャルディスと切り離し無力化させる。
そのための手段を考えていたところだ。」
「……成程ねぇ。
さすがは刹那様。
先見の明がある。
将来有望、なんてレベルじゃないですねぇもう。」
メイクが感心する。
……何を言ってるんだ?
こいつらは一体?
「……どうですか?
やれそうですかねぇ、コダマ。」
「が、頑張ります。」
コダマが両拳を握って気合を入れる。(たぶんだが)
愛らしい仕草とか言うべきなのかもしれないが、正直話が分からない。
「……方法があるのね。メイクさん。」
「えぇ、議長。
私のような醜い大人には無理でしょうがぁ。
純粋無垢な子供ならあの馬鹿にも通じるかもしれません。」
……コダマに、何か手段があるっていうのか?
シャルディスと掌握の悪魔を切り離す何かが。
「ぐだぐだ言ってる暇ないんじゃないですかぁ?
……さっさとコダマをあの場所に送り届けるための策を考えろ。
そんなに揃って死にたいのか?」
メイクの声色が急激に低くなる。
……成程、要はそういう話になるらしい。
「……博打、どころの話じゃないな。
けど見込みがあるって言うなら。」
俺は周りを見渡す。
「リオン。どうだ?」
「……いくつか手は考えた。
聖二、お前の考えも聞きたい。」
今更覚悟の有無も何もない。
さぁ、やろう。
これが正真正銘、最後の戦いだ。
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