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78話 決死の最終戦
「刹那さんっっ!!!」
無我夢中で私は穴に向かって、うぅん。
落ちていく刹那さんに向かって飛び込んだ。
穴の底には何もない。
何も、見えなかった。
それは怖くて怖くて仕方なかったけど。
「カチンコチンッ!!」
私は空中を凍らせ、凍らせた氷に刹那さんを乗せた。
そのまま私は滑り落ちて彼女に掴まる。
そして身体を抱きしめた。
あの頃とは違う、大きくなった私の身体。
この人を抱きしめることが出来るくらいに。
「メイクさんっ!!」
「ほぉら、引き上げますよぉぉぉっっ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
なんとか、なんとか助かった。
ロープで地上に引き上げられた私は大の字で夜空を見上げていた。
つい先ほどまで赤と白が中心だった空は、何故か今度はエメラルドグリーンのように光っていた。
空ってこんなに変わっていいのかなぁ?
そんなのんびりしたことを考えて、私はおかしさのあまり笑い出してしまった。
「なぁに、笑ってるんですかぁ?
はぁぁ、なんか5年くらい寿命が縮まった気が、します、ねぇ……」
「あはははははははっ。」
のんびりしてる場合じゃないというのに。
私は5分ほどそうやって笑っていた。
「……この場所だとイムヌスよりカデンツァの方が近い、ですねぇ。
けど今のあそこに戻るのは……」
「でもお父さんも魔法が使えなくなっちゃったし、回復するには……」
「……コダマ?」
私とメイクさんが話してると刹那さんが目を覚ました。
とてもぼろぼろの身体だがなんか動こうとしてる。
「むー、動けない。」
「ちょ、ちょっと、安静にしてないと駄目ですっ!」
「そうですよぉ、刹那様。
貴方はコダマに助けられたんですから、
今回はおとなしくしててくださいねぇ。」
「……刹那が助けられた?」
ぽかんとする刹那さんに少し違和感を感じた。
昔と違ってこの人が小さく見えた。
実際、背はもう私の方が高いんだけど、でもそういう事じゃなくて。
(……眼の色?)
むかし会った時は両目の色が違ってたような気がする。
気のせいだろうか?
「なんでもいいからおとなしくしててくださぁい。
さすがに足の方は応急処置しますよぉ。」
「むぅ。」
メイクさんがしゅびびっと手慣れた様子で刹那さんの応急処置をした。
この人がいて本当に良かった。
「まぁ止血程度ですが、
あのままスプラッタに血を飛ばしながら飛行されても困るんでぇ。」
「むぅ。」
さっきから刹那さんは不満なのか、むぅむぅ鳴き声を上げながらされるがままになっている。
何も出来ない状態なのが嫌なのだろうか?
荷馬席に刹那さんを運んで私たちは前の席に……と思ったけど私も荷物席に座った。
勝手に出て行かれても困るし。
メイクさんが運転するなか私は刹那さんを膝枕していた。
「む、ひんやりして気持ちいいぞ。」
「そうですか?」
なんだか不思議な気分だった。
子供の頃に助けられた時の恩を返すことは出来ただろうか?
まぁメイクさんにはまた助けられちゃったけど。
「これで後はアリンとシャルディスだけだな。」
「……アリン?」
シャルさんの今の状況はメイクさんに聞いたけど。
「……はぁ、あの吸血鬼ならもう助けられましたよぉ。
刹那様が助けないとなんにも出来ない人たちばかりじゃないんですから。
まぁもともと私が、おっと……」
メイクさんが口をつぐむ。
よく分からないけど、今は他にも考えないといけないことがあった。
「……シャルさんを助けることは、もう出来ないんでしょうか?」
「ま、無理じゃないですかねぇ。
相手は七罪魔とかいう出鱈目な奴等らしいですし。
刹那様もこんな状態ですしねぇ。」
メイクさんが冷たく言う。
でも口でいうほど冷たい人でもないと思う。
「出来るぞ。」
「え?」
「……ちょっと刹那様。
そんなザマで今度は何する気ですか?
いい加減におとなしく……」
「刹那はばたんきゅーだから、他の奴がやればいい。
そういうものらしいからな。」
刹那さんは起き上がろうとする。
当然私は抑えつけた。
「むー……」
「おとなしく、しててくださ、い……(怒)」
この状態でも凄い力だがなんとか私でも抑えつけることが出来た。
手を握る形になってしまう。
「ん、それでいい。」
「え?」
突然、私の意識に何かが割り込んできた。
「コダマが持っていけ。」
そしていま私はカデンツァにいる。
刹那さんから受け取った力。
話はややこしかったけど、相手の夢に入る力、って刹那さんは言ってた。
私は運ばれていく刹那さんを見送りながら少しだけ身震いする。
「怖いですかぁ?
やらなくてもいいんですよぉ。
コダマ一人連れてここから逃げる位、今なら出来そうですが。」
「……それは、やだ。」
それだと刹那さんは巻き込まれちゃうし。
「……ま、たぶんあいつらイムヌスの方も襲う気でしょうし、ねぇ。
やるしかないですか。」
メイクさんが珍しく真剣な顔で言う。
逃げ場はない。
イムヌスにはお父さんもいる。
「あのー、えーと、コダマちゃん?」
「え?」
知らない女の人に話しかけられた。
なんか綺麗な人。
「あー、貴方は確かアリンとかいう人ですねぇ。
シャルディスの阿呆が探してましたよぉ。」
……アリン。
良く分からないけど、他人とは思えない人だった。
「うーん、さっきの刹那って子もそうだけど、
なんか他人とは思えないんだよね。
変な夢でも見てる気分……」
うーん、うーん、とその人は考え込む。
可愛い人だなとちょっと思った。
生意気かな?
でもちょっと気分が軽くなった。
「……作戦が決まった。
いま大丈夫か?」
男の人に呼ばれて私たちは集まる。
「……この責任はどうとってくれるのかしら?
グリモア。」
「………」
グリモアが沈黙する。
赤く濁った眼がフェイリィを射抜く。
そして。
……ズブリとフェイリィの身体を服の下から伸びた触手で貫いた。
「……謀ったな、フェイリィ。
この会話はこれで”何回目”だ?」
フェイリィの身体がぐちゃりと泥のように崩れ落ちる。
その瞬間、周りの崩壊した景色もぐちゃりと崩れ落ちた。
「あぁ、なんだこりゃぁ!?」
ダルバックの怒号が周囲に響く。
そこにあったのは、一部崩れながらも未だ健在な都の姿だった。
更には自分たちに向かって突撃して来る人間の集団。
(……まさか、これらと手を組んだとでも?
ダルバックより知性が落ちたか?)
フェイリィが表立って自分たちに反抗してきたことも驚きではあったが。
よりにもよって組んだ連中が死を目前にしたこの都の連中とは。
「滑稽。
どうやらあの連中はまだ勝つ気でいるらしい。」
「はぁぁぁ?
なに調子に乗ってやがるんだゴミカス共は!?
ぐちゃぐちゃのげしゃげしゃにしてやるぜカスがぁ!!」
ダルバックの触手が超高速で放たれる。
(どこに逃げた、フェイリィ?
まさか本気でこんなものでどうにか出来るとは思ってないでしょう。)
同時にグリモアはフェイリィの魔力を探り始めた。
利用されてる雑兵の相手などどうでもいい。
ダルバックが雑に蹴散らすだけで終わる。
そんなことよりフェイリィの目論見を看破することの方がいまは優先された。
……が、当のフェイリィは最高級ベッドに案内され早くも眠りについていた。
フェイリィを探ったところで既に意味はない。
そうやって不要なことに気を削がれている今こそが。
(好機だ!
奴に近づくには今しかない!)
さすがの奴も思ってはいまい。
まさかてめぇらに最後の決死の抵抗を仕掛けているのが。
俺たちだけなんてことは。
(……リスクしかない作戦だ。
そして最初に囮になった奴らは死ぬ以外ない。
けれど……)
俺には彼等を止めることなんてできなかった。
「さぁ行くぜ、化物ども!」
「好き勝手に暴れやがって!
地獄の底まで後悔させてやるぜ!」
戦士たちが奴らに向かって特攻を開始する。
魔法使いの都であるカデンツァに戦士の数は多くはない。
もちろん魔法使い達も後方から攻撃を仕掛けてはいる。
だが前衛なしでは一瞬で蜂の巣にされる。
ゆえにこれ以外に手はなかった。
「うぜぇんだよカスが。」
立ち向かう彼等に対し、冷めたように触手が一斉に放たれる。
当たり前のように粉砕されていく人々。
それと同時に放たれる遠方の魔法使い達の魔法。
「フレイムウェーブ!」
「ストームソング!」
「フリーズ・サー!」
そんな魔法使い達の必死の攻撃を、奴らは無防備で受けた。
当たり前のように奴等は何のダメージも受けない。
そんなことは魔法を撃った彼等とて承知のこと。
(……すまない。)
俺は心の中で人々に懺悔した。
「……”死ね”。」
即死の言霊。
範囲を目の前の人々のみに絞った以上、その強制力は絶対。
決死の意思すら覆し、人々は自らに向かって武器を振るう。
彼らが突撃し、そして死に誘われるまでたった数秒の出来事。
目の前の秒殺劇などグリモアは意に介さず、別のことを考えていた。
(……フェイリィらしき魔力を感じられない。
奴に魔力までも錯覚させる力があったのか?
……いいや、違う。
あれはフェイリィで"はない"。
否、完全に別物というわけでもないでしょうが。
おそらくあの刹那という娘とは別種のイレギュラー。
”奴”が我々とは別に送り込んだ?
……さすがにその可能性は除外していいか。
だがだったら何故?)
思考している間にも第二陣らしき人々が突撃する。
「なんなんだあのカス共は?
いい加減飽きて来たぜ。
おい、てめぇがさっさと飛ばしやがれ。」
「……待ちなさい。
イレギュラーの特定が先です。」
ダルバックに飽きが来ているが、そんなことはどうでもいい。
こうも連続で数を送り込める理由も分かり切っている。
「一応言っておきますが。
幻が混じっています。」
「あぁん?」
「……かんっぜんにそんなの分かってますって面ねぇ。
ほんと腹立たしいわ。」
アンヌは自身の全ての魔力を総動員して人々の幻を作っていた。
その人々のすべてが幻などではない。
あくまで水増ししてるだけだ。
何故なら幻であることは必ず看破される。
すべてを幻にしてしまえば、別方向からの警戒が強くなるだろう。
聖二と天衣魔縫という男の考えだと、片手間で振り払えるレベルでは隙を作ることは出来ない。
こちらの狙い通りに奴がフェイリィという女を探っていようが、まだまだ隙にはならない。
「……でもその隙を突けるレベルの存在となると、もう殆どいない。」
そのなかに妹が含められてしまうのは胸が痛い。
でも妹自身がやりたいと言ったのだ。
止めることは出来なかった。
「伝承そーどぉぉっ!!」
「……まだ天使が残っていたか。」
後ろからの突如の一閃に対してもグリモアは何も動じなかった。
前の雑兵の大群が囮であることなど分かり切っている。
後ろから攻撃を受けようが物理・究極防壁の前では大したダメージにもならない。
「ダルバック。」
「げひゃひゃひゃひゃひゃ。
てめぇら天使にはもう飽きたんだよ!」
後ろの天使ラナーに対しても、触手の大群が放たれる。
前の人々への攻撃は緩めないまま。
前からも後ろからも、近づくことなど到底できはしない。
(……近づく?
まさか。)
フェイリィが自分たちを攻撃するのに近づく必要なんてない。
探るべきはもっと遠くだ。この連中を陽動にしていることは明らか。
「あぁん、なんだぁ?
まだ天使がいたのかぁ?」
ダルバックが妙なことを言い出す。
先程まで戦っていた男と女の中位天使が左右から攻撃を仕掛けていた。
「吹き飛んでしまったので死亡までは確認できてませんが、
復帰できないレベルのダメージを与えた筈です。
あれらも幻でしょう。」
「あぁん、またかよ。
あぁうぜぇうぜぇうぜぇぇ。」
(……ダルバックの言葉ではないが煩わしい。
まとめて吹き飛ばしてもいいが。)
それが狙いではないのか?
Lv4魔法を撃てば僅かではあるが隙が出来る。
その隙を狙って。
(考えすぎか。
フェイリィがそんな細かいことを考えられる訳がない。
バックに何かいると思ったが。)
そこまで推測を巡らしても仕方ない。
もういいだろうとその魔法は一瞬で放たれた。
「グランドフレア。」
なんの前触れもなく周囲の全ては蒸発する。
大地は滅び、空気すらも焼き尽くされる。
極大魔法の前には誰も……
「それがどうしたぁ!!」
……残っていた。
人々も、天使も、その半分ほどが。
……たとえ取るに足らない突撃であったとしても。
いよいよ煩わしくなってくればグランドフレアを撃つ。
グリモアの攻撃パターンを人々は読んでいた。
予めかけられたマジックウォールに魔力の指輪。
雑に放たれた無詠唱のグランドフレアであれば一撃くらいは耐えられるかもしれない準備が全員に施された。
「それで?
"この"奇襲がお前たちの切り札か?」
ダルバックではなく、今度はグリモアから触手が放たれる。
右方面に向かって。
グリモアが幻と断じた天使に向かって。
「……フン、でしょうねぇ。
この程度なら対処してくるのは見切ってるんだよ。」
その幻の天使の正体はメイク・ザルツブルク。
天使の翼の模型を施しただけの擬態であった。
「そんな攻撃が、いまのメイクさんに通じるとでも思いましたかぁ!!」
メイクが剣を振り上げる。
……矛盾曲・夏奴との戦い。
……一蹴こそされたが中位天使ラナーとの戦い。
……そしてオリジンヴァンパイア、シャルディスとの戦い。
短期間にいくつもの格上との戦いを経てメイクの技量は覚醒を遂げていた。
「……なに?」
「こんっ、とんっ、ぎりいぃぃいぃっ!!」
ついにその技は完成した。
技量も覚悟も頂点に達してしまえばこの技を撃てない道理はない。
グリモアの触手は混沌殺しの刃によって押し返された。
「さぁ気張れよ雑魚共が!
メイクさんは今日、今が、最高に、
いい感じに最強な気分ですからねぇぇっ!!」
そしてこの世界は夢の世界。
自らが徹底して信じ込めばそれが力になる。
ゆえに今のメイクの技量はこの瞬間、天使達すらも上回っていた。
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