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80話 最後の光
「……上手く行ったのか?」
掌握の悪魔が一瞬、動きを止めたかと思いきやその姿が変化していく。
触手や悪魔の角らしきものが消え去り、コダマを抱えたと思うと再び動き出した。
ならば身体の主導権がシャルディスに移行したと見ていいだろう。
「だったらリオン。」
「あぁ。」
上空のリオンが動き出す。
もともと最後の締めはリオンが担当する予定だった。
あのザフキエルという天使が最後に意地を見せなければ。
「……ザフキエル。
お前の生き様は見届けた。」
リオンが武器を振りかざし、そして。
「虚空閃。」
その一閃は醜悪の悪魔が存在する空間のみを虚空に飲み込んだ。
コダマを切り札とした作戦は成功した。
だがこのままでは接近した連中は怒り狂った醜悪の悪魔に殺されてしまう。
それを少しでも防ぐため、リオンの出撃はぎりぎりまで温存した。
負傷した面々が虚空から離れていく。
もちろん全員ではない。
その場から身動きが出来ない者もいる。
けれど。
「……コダマ。
悪いけれどちょっとだけ寄り道するわ。」
「……はい。」
醜悪の悪魔が虚空に飲み込まれたのを確認すると、軌道を変更する。
幸か不幸かまだ吸血鬼の力は健在。
ならば。
「……メイク。」
内心の忸怩たる思いを振り切り、メイクの死体を回収し醜悪の悪魔から離れる。
もちろん動けないのはメイクだけではない。
けれど私には彼女一人を回収することしか出来ない。
私だけならまだしも、コダマまでいる以上これが限界だった。
「メイクさん……ごめ、うぅん、ありがとう、ございました……」
コダマの声はもう彼女には届かない。
「……ふぅ。
まぁ、なんとかやった方かね。」
ラーク・ハインヌは醜悪の悪魔の触手に貫かれたまま溜め息をつく。
周りには自身と同じく触手の餌食となった人々の姿があった。
その中には夜会の生徒の姿もある。
「……俺のようなセンコーはともかく、ガキがムキになることはないってのにな……」
目の前の虚空が消えていく。
あの怪物の姿が露わになっていく。
「……後は頼んだぜ、聖二生徒。
意地を、見せてみろや……」
凝縮した闇がラークや死した人々を飲み込む。
カオスエンド。
虚空閃によって発生した虚空を吹き飛ばし、巨大な闇が辺り一帯を吹き飛ばした。
その闇は更に更に広がっていく。
かつて矛盾曲・夏奴が最後に放った闇黒など比較にもならない規模で。
やがて闇そのものが巨大な姿を形作る。
無数の触手、触手から生えた目玉、人の顔、何十もの牙、6つもの巨大な腕。
言葉通りの混沌と化した怪物の一部に、僅かな紙切れが付着していた。
「……この、代償は、高くつく……
ダルバックに、私の魔力を、エンチャントした……
この世界ごと、無に、帰し……」
怪物の巨大な腕がぐしゃりと紙切れを握りつぶす。
そして産声を上げる。
「……あぁ、あぁ、ああぁぁあぁぁああああああぁぁぁっっ!!!
この我を馬鹿にしやがってカス共がぁぁぁ!!
覚悟はできてるんだろうなぁぁぁ!!」
ただただおぞましい咆哮が残った人々を吹き飛ばした。
醜悪の悪魔ダルバックは本体の存在すらなしにここに新生した。
「死ね死ね死ね死ね死ねれぇぇぇえざあぁあぁぁぁあぁぁぁあああ!!!!!」
巨大な口の一つから超高密度の破壊光が放たれた。
「避けろおおぉぉおおぉおぉおおっっ!!」
俺が叫ぶ間もなく、逃げる最中の奴らが吹き飛ばされる。
直撃などしなくてもその重圧だけで人体を破壊する。
あれの射程圏上にいた人々は骨すら残さず消え去った。
だが被害はそれだけに留まらない。
出鱈目に放たれた光は止まることなく俺たちの後方を焼き尽くす。
……避難した人々が、まだ治療中の奴らが。
「ちっくしょぉぉっっ!!」
俺は一瞬、戻ろうとする。
だが戻って何がどうなると言うのか。
俺は心を殺し、哀音に通達した。
「……もう、誰もいない。
遠慮は不要だ、撃ってくれ!!」
「……グランドフレア!!」
リオンとは別方向の上空に待機していた哀音が、複数の魔法陣から魔力を放出する。
哀音曰く、詠唱に数分かかる完全詠唱版のグランドフレア。
その破壊力は先ほど奴が放った光にも匹敵する密度で、醜悪の悪魔を中心に大爆発を起こした。
そして攻撃はそれだけに収まらない。
「雷刃・空斬!!」
コダマを別の場所に避難させたシャルディスにより、巨大な雷の剣の一撃が放たれる。
「伝承ソードぉぉっっ!!」
更に後ろから天使ラナーにより、放たれる一閃。
……だが。
「なぁぁぁぁんだってぇぇんだぁぁぁ?
そんなカスみてぇな攻撃で我を倒せるとかぁぁ。
思ってんじゃねぇぞカスが、カスが、ゴミカスがあぁぁぁぁあぁぁ!!!!」
三重の大爆発が過ぎ去った後でも、混沌の怪物は完膚なきまでに健在だった。
効いていない、のか?
いやさすがにそんなことはない、と思いたい。
いずれにせよまだまだあの程度では倒れないということ。
……だがしかし、どうすればいい。
掌握の悪魔をまともに相手せず、シャルディスから切り離すことで撃破することには成功した。
けどその時点でこちらの戦力の大半は削られている。
残り1体、奴だけになればどうにかなるって?
考えが甘すぎた。
「いい加減、消し飛べやカスがあぁぁぁぁっっ!!」
今度は巨大な魔力が奴から放出される。
「……グランド・フレア?
違う、それ以上……?」
哀音の怯えた声が俺たちに現実を嫌でも直視させた。
闇黒と大魔力が合わさった放出。
掌握の悪魔の魔力を得た、醜悪の悪魔が放つ大魔法。
グランド・カオス・フレア。
今度こそ、完膚なきまでに魔法使いの都は消し飛ぶ。
いやそれどころか、その外の世界すらも。
「……頼む。
止まれ、止まれ、止まってくれぇえぇぇぇっっ!!」
最後の希望。
俺は自身の力、世界を停止する世界を発動させる。
この力では一時的に止めることしか出来ない。
そんな僅かな時間で人々が逃げる時間を稼げるのか?
無理だ。不可能だ。だがそんな理屈はどうでもいい。
俺は無我夢中で力を発動する。
世界が止まる。
空気すらも停止する。
……だが、奴の魔法の拡大は止まらない。
少しの遅延すらも起こさなかった。
「そんな………」
圧倒的質量の差。
所詮は封座聖二一人の想いなど、桁外れの質量の前では無力。
当たり前と言われてしまえば当たり前の話だった。
その破壊は止まらない。
何もかもを、無慈悲に飲み込んでいく。
(……これが、こんなものが……)
……俺たちの結末なのか?
ここまで、みんなの力で、やっとここまで来たのに。
いとも容易くその奮闘は踏みにじられる。
「……いやだ。いやだいやだいやだいやだいやだいやだ。
こんな結末は、認められない!
認める訳がないだろうがぁぁっっ!!」
それは子供の駄々に過ぎない。
どれだけ叫んだところで意味はない。
だがここが夢の世界だというのであれば。
絶対に、心だけは折れてはならないんだ。
「………えーと。」
此処はどこ?
私はアリンちゃん!
「……うん、自分の名前は憶えてる。
で、ここはどこの何さん?
助けてー!」
私の周りには何もない。
ただただ暗闇だけが支配する世界だった。
おちゃらけて誤魔化していたが割とあっさり心は折れかかっていた。
「うー、酷いよー。
今までずっとなんか閉じ込められてたのに。
またこんな場所に。
これは悲劇のヒロインって言っても過言じゃないんじゃないかな?」
そんな冗談を言う元気は残ってる自分に呆れる。
せめて誰かー、誰かいないのー?
こんな場所に閉じ込められて私のメンタルは紙なんだよ、ブレイクなんだよ!
助けてー。誰か助けてー。
……なんて叫んでも来る人なんている訳が。
「おい。」
「わひゃあっ!?」
誰か来たっぽい。
え、誰?
とりあえず着物のポニテの女の人。
ちょっとかっこいい。
「私は刹那だ。」
刹那?
あれ、その名前どっかで聞いたような。
その人は疑問沢山の私のことなんて気にせず話を続ける。
「このままじゃみんな死ぬぞ。
がんばれアリン。」
「いや何をどうがんばるの!?」
意味が分からなかった。
「フェイリィを送ってみたけど、なんか寝てるらしい。
でもまだこの世界は壊れない。
壊れることが”できない”。」
「え、なに、何の話?」
フェイリィって、あー、なんか思い出しかかってるような。
「む、記憶喪失ってやつか?
よし、任せろ。」
「え、任せる?
よく分からないけどお願いします!」
ボコンボコン殴られた。
そして蹴られた。
酷いよー、私の扱い酷いー。もっと優しくー。
「治ったか?」
「なんか知らないけどさっきまでのことは思い出しました!」
私はぷんすかしながら整理する。
さっきまで私たちは魔法使いの都とかいう場所にいて。
フェイリィさんって人はなんか全体的に緑な人。
そして刹那って子はさっき見た……
「あれ、でもなんかさっきより大きくなってない?」
「うん。私は成長したからな。
ナイスバディーだ。」
確かに私より背は高いけど。
ナイスバディーっていうよりスレンダー美人さん?
いや今はそんな話をしている場合じゃない気がする。
「アリン達がいる場所は夢の世界だ。」
夢の世界?
「つまり、えーと。
がんばればどうにかなる場所。
だからがんばれアリン。」
「えー。
私そんな全方向に頑張れないから、
もうちょっと具体的に。
私になんか秘められた力とかあって解決!とかないの?」
「あるぞ。」
「へー、あるんだー。
ってえぇぇぇっっ!?」
私は大袈裟に驚いてみる。
刹那さんは私の反応は気にせず何かを服から取り出した。
ゴーイングマイペース!
「アリンのこともいろいろ調べたからな。
オリジンヴァンパイアっていう、つくよーことかいう奴が作った吸血鬼。
いい子の吸血鬼だ。」
「えー、私は悪い子の方の吸血鬼かもしれないよ?」
「でもつくよーこがアリンを吸血鬼にしたのは。
ガルクエルってやつの子供の子供の、ずっと子供だったから。
それで光属性のいい子の吸血鬼を作れるかもしれないって。
思ったっぽい。
そう真那が言ってた。」
「また知らない人の名前が沢山!
覚えきれない〜!」
「でも子供の子供のアリンには力は殆ど残ってなくて。
結局は失敗した。
大した力にはならなかった。
けれど。」
けれどここは。
夢の世界。
想いの世界。
真実、その力を信じることが出来れば。
「ここでなら実現できる。
この暗いのを突破できる。」
「………」
そんなことを言われても。
私はずっと閉じ込められていた。
自分は誰かに助けられるのをずっと待っていたのだろうか。
「いろんな奴がアリンを助けようとしてたぞ。
あっちの刹那もそうだ。」
「……そうなんだ。」
夢を。
夢を見ていた。
ずっと眠ってたから。
……ていうか夢の中で夢を見てたってどういう意味かな?
うーん、難しい。
難しいけど。
「それならちょっと、嬉しい、かな?」
「うん。」
悲劇のヒロインとか。
そういうのにもちょっとは憧れるけど。
やっぱりみんなで一致団結、ハッピーエンドな感じの方が愉しいよね。
「とにかく今の私には凄い力が眠ってるんだよね。
その力でみんなで光光ー。ハッピーライン。
そんな感じで頑張ってみようかな。」
「そうだ。がんばれ。
私はそろそろ限界の時間だ。」
刹那さんの身体が透けていく。
あぁ、なんか便利なアドバイザー的な人がー。
でもなんだか他人とは思えなかった。
「また、会えるかな?」
「たぶん無理。」
「がびーん。
そんなあっさりー。クールー。
でも。」
あっちにもこの人はいるんだっけ?
まだ全然話せてもいないし。
コダマちゃんって子とも話してみたい。
なんとなく、だけど。
「じゃあうん。
なんとかやれるだけ頑張ってみる。
またね、せっちゃん。」
「うん。」
私は何故かそんな愛称で彼女のことを呼んだ。
そして私一人だけになる。
で、どうやれば私の秘められた力は発動するの?
「……夢で見た人達のように頑張ってみればいいのかな?」
いろんな人たちが頭の中に思い浮かぶ。
理由はいろいろ、だったと思うけど。
確かに沢山の人が私のことを助けようとしてくれた。
そんなことをずっと、ずっと考えてたら。
「あ、なんか出た。」
私の身体が光る。
光の吸血鬼アリンちゃん!
「これで、どうにかなるのかな?」
分からないけど。
私はその光をなんかうまいぐあーいに纏めてみて。
「吸血鬼聖槍!
なんてね♪」
暗闇の中に放った。
いい感じに闇が光に!
パワーをメテオに!
「うわぁぁぁ!?
ほんとに隕石が降って来たー!?」
なんか上?の方から光の弾が沢山降って来た。
何が、何がどうなってるのー!?
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