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81話 雌雄決する時
「う……」
どこだ、此処は?
俺は、今まで何を?
「……なんて寝ぼけてる場合じゃないよな。」
奴の放った超極大魔法に巻き込まれたところまでは覚えている。
俺の周りにはただただ黒い闇しかない。
矛盾曲のときの比ではない。完全な闇だ。
音も、光も、何も通さない漆黒。
上下左右の認識すら出来ない。
「まさか奴に飲み込まれたんじゃないだろうな?」
ないとは言い切れないが。
まずはこの状況からどう脱するか。
「とりあえず歩いてみるか。
誰か、会えるかもしれない。」
だがどれだけ歩いても人っ子一人いない。
そもそもちゃんと歩けてるのかすら定かではなかった。
そしてどれだけ経ったのかも。
(……数時間?数日?数か月?
俺は此処に来てどれだけの時間を過ごしたんだ?)
分からなくなっていた。
思考すらも曖昧になって来る。
このままだと俺自身どうなってしまうのか分からない。
「……寝ぼけたこと、
言ってんじゃねぇよっっ!!」
俺は叫びながら自らに炎の魔法を放った。
……と思ったが魔法すら出ない。
だったら殴る……ことも考えたが痛覚の感覚がない。
いよいよまずくなってきた前兆な気がする。
「……いいや、まだだ。
諦めて、たまるかっ!!」
どれだけ絶望的でも。
どれだけ理不尽でも。
どれだけ無力でも。
もう、立ち止まることは、辞めたんだ。
たとえ俺の心がズタズタになろうとも、彼女を助ける。
……そうして、どれだけの年月が過ぎたのだろうか。
分からない。
そしてそんなことはどうでも良かった。
「……?」
……いる。
何かを、感じる。
感じることが出来る。
「……いるんだろっ!?
返事を、返事をしてくれっ!!」
「……せい、じ、くん……」
姿は、見えない。
でも彼女の気配を感じた。
だったら大丈夫だ。
愚直に俺は話し続けることにした。
「此処は、たぶんあの醜悪の悪魔の中だ。
もしくは、奴の放った悪夢か何か。
多分だが祭りの時の女、矛盾曲ってやつに近い。
だからたぶん、弱点も同じだ。」
「……く、て……ん……?」
「……人の清廉な祈りに、弱い。
祭りの時にナギサがやったように。
もちろん一人じゃ届かないかもしれない。
俺の能力も一人じゃ奴には通じなかった。
でもここにはきっと、俺やお前だけじゃなくて、みんないると思うんだ。
たぶんこの都の全員、もしかしたら世界中が奴に飲み込まれた。」
それがどういうことを指すか。
おそらく奴自身は分かっていない。
「……みんなで、やろう。
俺たちの世界を取り戻すって強く。
まずは俺とお前だけでもいい。
必ずみんなにも伝わるって、俺は信じる。
だから……」
「……分かった。
そうだよね、私は……」
そして彼女の姿が露わになる。
「これでもシスターの端くれだもんね。
悪夢なんかに、負けてはいられないもん。」
「あぁ、ありがとう。」
俺たちは祈り始める。
それは小さな光だ。
いくら此処が夢の世界だと言っても一人二人の想いではあまりに小さい。
だが。
(……なんとなくだけど、感じる。
少しずつ、広がっていく。)
俺たち同様、同じことを願う人々の祈り。
いや祈りなんて大層なものじゃなくてもいい。
単に死にたくない。この先を生きたい。
ただそれだけでもいい。
それだって貴賤なき想いじゃないか。
……だがどれだけ沢山の想いがあっても。
それらを束ねることが出来なければ一つ一つは僅かな灯火に過ぎない。
それを可能とするのは巡心ただ一人。
だがこの世界から彼女にそれは届かない。
その代わりに……
「うあぁぁ。なんかどんどん沢山降ってくるよ〜(泣)」
アリンの元に光の束となって落下していった。
それは彼女に巡心と同じ力があるからか?
無論そんなわけはない。
そんな力の持ち主が簡単に生まれるのであれば。
巡真那は手間をかけて巡心の覚醒を促す計画など立てなかっただろう。
だったらこの現象はいったい何か?
「にゃああああああ!?」
一発の光がアリンに命中する。
「み、みんな、ごめん……
私の辞世の句を、みんな、聞いて……
………あれ?」
大袈裟に倒れようと思ったアリンは無傷だった。
「あれ、なんかの攻撃じゃなかったの?
なんか元気が出る気がする。
私の荒んだ心がなんか洗われる気分になる〜〜。」
尚も光の束はアリンに振って来る。
だが今度はアリンは自分から光の束に向かっていった。
「おぉぉぉぉぉお。
おおおぉおおぉおおぉおおぉおおっ!!
こ、これ凄いよ〜!
なんかどんどん自分のちっぽけな悩みが消えていく気がする〜。
もしかして光の吸血鬼アリンちゃん伝説がほんとに爆誕しちゃうの!?」
伝説は知らないが。
アリンに集まった光はどんどん輝きを増す。
もうアリン自身は光しか見えない程の。
「あ、あの?
これ何も見えないんですけど。
ねぇそこのナレーターさん?」
なんだよ。
「外が見える方法なんかないの?」
その光はお前が操れるだろ。
少しは試せよ。
「あ、ほんとだ。
なんか後ろの方に消えたみたい。
前がよく見える〜!」
沢山の光を溜めこみ、アリンはいま覚醒を遂げる。
この世界だからこそ起こりえるその力。
今こそアリン・ペルシェは人々の光を一点に集中し……
「あの〜?」
なんだよ。早くなんかやれよ。それっぽいこと。
「貴方、ぶっちゃけ誰?」
あぁ、僕?
そうだなぁ。お前に永遠の命を与えた存在。
それだけ言っておこう。
「……え、それって私の敵じゃん。
悪者だ〜。
悪者覚悟〜〜!!」
おいこら待てちょ。
「……だからさっきから言ってる、だろうが。
それだけの力があれば、僕の与えた永遠だって、
光で上書きできるって……」
「お〜、なんか知らないけどぱりーん的な音が聞こえたよ〜。
これで私の長年の悩みが解決〜〜♪」
「あぁそうかよ良かったな。
お前の先祖に感謝しとけ。」
「先祖?
あーそういえばせっちゃんが何か言ってたような?」
「……高位天使ガルクエルは、大昔にダルバックの奴に飲み込まれた。
その光の欠片がまだ僅かに奴の体内に残っていたんだろう。
それがお前に何をもたらしたのかは、僕には分からないが。」
「あ〜、さっきのせっちゃんとかそういうことなのかな〜?
まぁいいや、細かいことは。」
今度こそアリンは人々から受け取った光を一つにする。
いい加減茶々入れるんじゃないぞ。
「よし、さっきより全然大きい吸血鬼聖槍!
これで闇も黒いのも貫く!
私、超かっこいい!
いま人生で一番輝いてる!」
うっせ、早くやれ。
「いっけえええええぇぇぇえぇえぇぇぇぇぇぇっっ!!
ばびゅーーーーーーーーーーん!!」
ぴき
「………あァ?」
醜悪の悪魔ダルバック。
カデンツァどころか南方丸ごと飲み込んだその巨体に亀裂が走る。
「な、ななななななな、あぁぁぁあああぁぁぁぁ!?」
亀裂はどんどん広がり。
広がった亀裂からは光の束が次から次へと。
「なんんんんんだだだあああこれはあぁぁぁぁっっ!?」
そしてついに。
巨大な光の束は人型となり降臨した。
「光導き吸血鬼少女!!!!!」
「ぐぎゃああああああああぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!???」
その巨体が真っ二つに割れる。
割れた欠片からは飲み込まれた人々が光となって放出された。
否、人だけでなく、大地そのものが。
世界に復元されていく。元の形を取り戻していく。
「……上手く行った、みたいだな。」
「うん……」
俺とナギサだけじゃない。
学院のみんな、天使たち、魔法使いの都の者たち、そのすべてが。
光となって奴から放出され、そして元の姿を取り戻していく。
「……ふぅ。なんとか奴から脱出できたようだな。」
「こ、怖かった……」
リオンと哀音も無事戻って来れたようだ。
「終わったのか……?」
そう思った瞬間。
「まだだああぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁっっ!!
この我を馬鹿にしやがってぇぇぇえ!!
殺す、殺す、絶対に全部殺すぅぅぅぅうっっっ!!」
真っ二つに割れた奴の身体が無数の肉塊となり進軍を始める。
そして都の人々全てに襲い掛かった。
「さっきの光の女は!?」
アリンのことである。
「あー、ごめんなさい。
変身ヒーローは1発撃ったらエネルギー切れみたいです。」
てへと舌を出してそんなことを言った。
思わずずっこけるところだったが、そんなコントをしている場合ではない。
「どうやらもうひと踏ん張りしないといけないみたいだぜ。」
「あぁ。」
俺たちは武器を構え、大量の肉塊たちに対峙する。
あまりに途方もない数の肉塊たち。
だが不思議ともう負ける気はしなかった。
先程の光がまだ俺たちの中に残っている。
「聖爆剣!」
「フィニッシュスピアー!」
「フロードスイング!」
「ホーリーブライト!」
俺の、リオンの、ナギサの、哀音の攻撃が肉塊たちを消し飛ばす。
集まって来た他の連中も俺たちと同様、肉塊たちへと立ち向かっていく。
「すげぇ、力が溢れてるぜ、マスドロップ!」
「わ、私も、トルネードソング!」
ガライと詩織も本来の自分の力量より高い威力の魔法をもって撃退していた。
無論、学院の生徒に限った話ではない。
この都にいる人間、人間外問わず全ての人々が万事そんな様子だ。
「伝承ソードぉぉっ!」
「八連打ぁっ!」
「スターライトアロー!」
さすがに天使勢の火力は頼りになる。
次々に奴らの数が減っていく。
「カチンコチン!」
「ブリザード・サー!」
二人のコダマによる氷漬け+氷魔法の連携が火を吹く。
しかしシャルディスの吸血鬼化が解けたせいで殆ど見分けがつかん。
身長が少し違うから、そこで見分ければいいのだろうか?
「Zzzzz……」
「Zzzzz……」
……刹那とあのフェイリィって女はなんか寝てるんだが。
刹那は仕方ないがあの女はいったい何しに出て来たんだ?
まさかと思うが全てが闇に飲まれた時も寝てたんじゃないだろうな?
とにもかくにも1時間ほどが経過し、都の肉塊はあっという間に掃除された。
「……今度こそ終わったな。」
戦いの終結。
歓声を上げる人々。
この都にどれだけの被害が出たのかは分からない。
建物は殆どが崩壊しており、亡くなった人々も多いだろう。
手放しで喜べる状況ではないことは分かっている。
それでも。
それでも、なお。
「"みんな"は、勝ったんだな……」
それでもこの戦いに勝利した。
雌雄は、決した。
10周にも渡り敗北と全滅を繰り返し、ようやく得た、たった1度の勝利。
苦労して得たから、意味があるなんて悪趣味なことを言うつもりはない。
それでもみんなは日常を守ることが出来たから。
「聖二君?」
今は、これでいい。
それが俺という人間の程度だから。
涙を流さずには、いられなかったんだ。
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